第622話 補助魔法使い、マナとの戦いを振り返る

 「いてて……」

 「大丈夫?」

 「大丈夫ですよ、これくらいなら」


 孤児院を後にした僕たちは、そのままお家へと帰ってきました。

 

 「それにしても酷くやられたね」

 「凄く痛そうに見えるの」

 「そこまでですよ。それにやられたのは僕だけではありませんからね」


 僕の体のあちこちに出来た打撲痕や擦り傷などを見て、スノーさんとキアラちゃんが心配をしてくれます。

 

 「それで結局どっちが勝ったんだー?」

 「んー、流石に僕の勝ちとは言えませんね」

 「マナってそんなに強いの? ユアンが簡単に負けるとは思えないんだけど」

 「シアさんとスノーさんと比べたら劣るとは思いますけど、僕よりは少なくとも強いと思いますよ」


 僕の有様をみて、スノーさんはマナの強さが気になったみたいですね。

 ですが、実際にスノーさんとも模擬戦をしたのでわかりますが、タイプが違うとはいえ、マナとスノーさんが戦ったら八割方スノーさんが勝つと僕は思っています。

 かといって、マナが弱い訳ではありません。

 現段階の僕の腕前ではマナには勝てないと思ってしまうほどの実力はあります。

 もちろん、何でもありの勝負であったら負けませんけどね!

 それでも、マナは槍を主に扱うみたいですが、その槍捌きは見事と呼べるものでした。

 上手く説明出来ませんが、槍がまるで生物みたいな動きをするのです。

 棒なのにそれがしなったり、まるで蛇のように絡みつくようにみえたり……もちろん目の錯覚ですけどね。それでもそんな動きをしているように思えるほどの槍捌きを僕に披露したのです。


 「ところで、何でユアンさんは傷を魔法で癒さないの?」

 「それはですね……」


 僕も傷ついたように、僕の攻撃もマナに何度も当たり、マナも同じように打撲傷や擦り傷が出来たのを僕は知っています。

 なので、模擬戦が終わった後に回復魔法で治してあげようと思ったのですが、その時に。


 『この傷は自分の弱さが原因。この痛みが成長へと繋がるのだから、回復魔法は要らない』


 と言われてしまったのです。

 確かにマナの言う通りだと思いました。

 もし、僕が強かったら、マナからの攻撃を受けずに済んだはずです。

 僕が弱いからこうやって痛い思いをしているのです。

 

 「なので、僕もこの痛みを我慢しようと思ったのです」


 ようは戒めってやつですね。


 「そういう事だったのですね。だけど……」


 傷を癒さない理由をキアラちゃんに説明するとキアラちゃんが複雑そうな顔をしました。


 「どうしたのですか?」

 「えっと凄く言いにくいのですが……魔鼠からの報告によると、ユアンさんが孤児院を出た直後にマナさんはポーションで傷を癒したみたいですよ?」

 「え? それは、本当ですか?」

 「うん。間違いないと思うの。だから、ユアンさんは……」

 「騙された?」

 「という事になると思うの」

 「そ、そんなぁ……」


 や、やられました! 

 まさか僕がこんなに痛いのを我慢している裏で、マナが傷を癒しているとは思いもしませんでした!

 だってですよ?

 僕と模擬戦を終えた後にマナはとてもいい顔をしていました。

 なんか、僕とのわだかまりが無くなったような、清々しい表情をしていたように思えたのです!

 ですが、あの表情の裏にはそんな企みがあったとは……。


 「リカバリー!」

 「あ、治した」

 「そりゃ治しますよ。僕だけ痛い思いをするのはバカバカしいですからね!」


 それよりも騙されて悔しい思いの方が強いですけどね!

 

 「いや~、今日も楽しそうだねぇ」

 「笑い事ではないですよ」

 「そうだけど、ユアンちゃんが元気なのはいい事だと思うからさ。最近はお母さんの事で悩んで、ずっと暗かったからね~」

 「暗いつもりはなかったですけどね」


 ですが、チヨリさんの事が心配だったのは事実ですね。

 ですが、ここ数日、チヨリさんはちゃんとお家で大人しくしてくれているのでようやく安心できたという感じです。

 それでも少しでも魔法を使ったりすると直ぐに倒れてしまうのでまだまだ観察は必要ではありますけどね。


 「っと、忘れていたよ。そういえば、お客さんが見えてるよ」

 「こんな時間にですか?」


 時計を確認するともうすぐ八時ですね。

 こんな時間にお客さんが来るのは凄く珍しいですね。


 「うんうん。なんでもユアンちゃんに相談があるみたいなんだよね、後リンシアちゃんにも」

 「私にも?」

 「そうそう。どうやら影狼族の子の事で相談があるみたいだね~」

 「影狼族の事ですか」


 んー、影狼族の事と言われてもいまいちピンときませんね。

 影狼族の子達が誰かに迷惑をかけたとかそういった話も上がってきませんし……。


 「相手は誰?」

 「カバイさんだよ~」

 「えっ、カバイさんですか?」


 リコさんから上がった名前は予想外の相手でした。

 

 「カバイさんと影狼族って何か接点ありましたっけ?」

 「ある」

 「そうなのですね」


 シアさんは思い当たる節があるみたいですね。


 「とりあえずあまりお待たせするのも悪いですし、まずは話だけでも聞いてみましょうか」

 「ほいほい~。それじゃ、別館の食堂にいるからよろしくね~」


 街で会えば挨拶程度を交わしたりはしますが、こうやって時間をとって話すのはという意味になりますが、カバイさんとお話するのは久しぶりかもしれませんね。

 それにしても、何があったのでしょうか?

 カバイさんと影狼族の関係を思い返すも特に接点が思い浮かばないままカバイさんの待つ食堂へといくと、そこには予想外の光景が広がっていました。

 なんと、酒瓶を片手に机に突っ伏しているカバイさんの姿があったのです。

 そして、扉の開く音に気付いたのか、カバイさんは顔をあげて僕たちを見つけると開口一番にこんな事を言いました。


 「ナグサが……ナグサがまた、奪われちまった……」

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