第621話 補助魔法使い、マナと話し合いをする

 「それで、話って何ですか?」

 「子供達の事だけど?」


 子供達が寝静まった頃、僕とシアさん、マナとオルフェさんで話し合いが始まりました。


 「子供達がどうしたのですか?」

 「見てわからない?」

 「わからないから聞いているのですけど?」


 しかし、話し合いが始まった途端にこれです。

 マナに質問するも冷たく返されてしまいました。


 「ユアン、落ち着く」

 「え、僕が悪いのですか?」

 「両方。そんなんじゃ、話合いにならない。マナも普通に接する」

 「私は普通だけど? むしろユアン様が普通ではないんじゃない?」

 「僕も普通ですよ」


 はい。

 僕は普通です。

 落ち着いていますし、マナからの話を聞く準備も整っています。

 何せ、孤児院に関わる事ですからね。例えマナとはあまり仲が良くないとしても、子供達が関わってくるのであれば、ちゃんと聞くべきだと理解しています。


 「オルフェ」

 「そうですね……マナ、からかうのはやめて頂けますか? ユアンは慣れていませんので」

 「別にからかっているつもりはないですけど」

 「なら、意地を張るのもやめる。認めてるならそれなりの態度がある」

 「はいはい。わかったよ」

 

 マナの雰囲気が少しだけ柔らかくなった気がします。

 ですが、目つきは相変わらずですね、鋭いというか、きついというか……そんな感じで僕を見ているのがわかります。


 「ユアンもいい加減にしなさい」

 「え、僕もですか? 普通のつもりですけど……」

 「普通ではありません。自分の尻尾を見てみなさい」

 「あっ……」

 「それが証拠です。もっと自分の感情を制御できるようになりましょうね」

 「はい。気をつけます」

 「今度はシュンってなった」


 言われなければ気付けないのはまだまだですね。

 オルフェさんに指摘され、尻尾を見ると、ぶわーって尻尾の毛が広がっていました。

 あれは僕が心の何処かで怒っていたり、警戒していた証拠ですね。

 その後にシュンとなったのは落ち込んだ証拠です。

 シアさんも僕が怒ったりすると、シュンとなりますし、撫でてあげると尻尾が左右に振られたりするので、シアさんもまだまだですが、僕はそれ以上に未熟みたいです。

 その証拠に、マナは全くと言っていいほどに、尻尾や耳に変化はありませんでしたから。


 「それで、改めて聞きますけど、子供達がどうしたのですか?」

 「人手が足りないのよ。流石に私一人では子供達を見切れないの、この数はね」


 子供達の人数は四十人を越えています。

 僕が育った孤児院の子供達、影狼族の子供達、そして今回リアビラから連れてきた親をなくした子供達を合わせるとそれだけ増えてしまったみたいです。


 「それは申し訳なかったです」

 「謝る必要はないわよ。むしろ子供達を見捨てなかった事は人として当たり前の事だから」

 「だけど、マナ、さんが大変になった事には変わりありませんよね」

 「大変になったから相談しているだけ。別に責めたりはしてない。それと、別に私にさんをつける必要はないから好きに呼んで」


 今思えば、オルフェさんのお手伝いがあるとはいえ、マナ一人でほとんどやっていたのですね。

 

 「わかりました。それで、先ほどの件になるのですが、近いうちにどうにかなると思いますよ」

 「そうなの?」

 「はい。前から計画していた孤児院がそろそろ完成するみたいで、それに伴って職員さんも募集をする事が決まっています」


 僕たちだってずっと街の事を放置していた訳ではありませんからね。

 ちゃんと必要な施設は優先的に立てていました。

 まぁ、その計画立てて実行しているのはスノーさん達なのですけどね。

 

 「そうなんだ。これでやっと居候も卒業できるのね」

 「そうなりますね」


 マナと子供達はアリア様の離れという別邸をお借りして今日まで過ごしてきました。

 お庭も広いので、今日みたく遊ぶには申し分ないほどの大きさもあったので、暮らすには全く問題ないのですが、流石にアリア様達の所有物となると色々と気を使ったみたいです。

 特に子供達は聞き分けがいいとはいえまだまだ子供です。

 何をやらかすのかわからないので、マナは気が気ではなかったみたいです。

 

 「だけど、職員はどうする?」

 「どちらかというと問題はそっちですね」


 孤児院で子供達の面倒をみるのは大変ですし、子供の面倒を見る事が好きでないと到底やっていけないと思います。

 僕も孤児院で生活してきたのでよくわかるのですが、弟や妹ともいえる子達の面倒をみるのはかなり大変でしたからね。


 「ユアン様がやったらどうなの?」

 「僕ですか? 僕は僕でやる事があるので無理ですね」


 これからポーションを造るのは主に僕とサンドラちゃんになりますからね。

 とてもではありませんが、日頃から子供達の面倒をみる時間はありません。


 「それならチヨリは?」

 「チヨリさんはまだ無理ですね」


 普通に動く分には問題はないと思いますが、少し激しい運動は絶対にダメですし、魔力を使うのは命にも関わります。

 チヨリさんの事ですから無理はしないとは思いますが、僕が大事にしているもの、それこそ孤児院の子供達になにかあった時には躊躇わず魔法を使って守るような気がします。


 「そもそもチヨリさんは子供の面倒には向いていないと思いますしね」


 ぱっと見どっちが子供かわかりませんからね。

 最年長の男の子や女の子よりも背は小さいくらいですし。


 「そもそもそのチヨリ様って貴族なんでしょ? そんな方と一緒に過ごすのは嫌だからね?」

 「それを言ったら僕やシアさんだって一緒ですよ?」

 「貴方たちはまた別でしょ? ともかく、職員を探してくれるのは助かるけど、貴族の人とかは辞めてね」


 その気持ちはわかりますけど、ここで暮らしている以上、アリア様達とも接点があると思うので今更だと思いますけどね。


 「わかりました。といっても、直ぐに見つかる訳ではないので、そこは我慢してください」

 「わかってる。気長に待つから気にしないで」


 できれば直ぐに見つけてあげたいですが、適任といえる人は今の所は居ませんからね。

 最有力候補をあげるとしたら、リアビラから避難してきた人でしょうか?

 今の所は仕事はないみたいですし。

 んー……でも、アーレン教会の人達にお願いすると、子供達もそれを信仰してしまいそうなのでそれはそれでって感じがするのですよね。

 もちろん悪い訳ではありませんが、子供達にはこの先の事を自分たちで決めて欲しいと思っているので、信仰する神様も自由であって欲しいと思うのです。


 「では話は以上でいいですか?」

 「もう一ついい?」

 「まだあるのですか?」

 「うん。ま、これは個人的な事だけどね……折角だし、私と戦ってくれない? ユアン様の本当の実力、知りたいなって」

 

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