第620話 補助魔法使い、孤児院で勝負する

 「お姉ちゃん頑張れー!」

 「ありがとうございます!」

 「兄ちゃん頑張れー」

 「お姉ちゃんですよ。はい、頑張ります」


 僕は今、子供達からの声援をうけ、困難に立ち向かおうとしています。


 「長も頑張ってー」

 「任せる」

 

 そんな僕を迎え撃つのは、僕のお嫁さんであるシアさん。

 シアさんはシアさんで、影狼族の子供達からの応援を受け、やる気に満ち溢れているみたいですね。


 「シアさん、負けませんよ!」

 「私も負けない」

 「なー! 私も忘れるなー!」

 「わかっていますよ。サンドラちゃんはこっち側でいいのですよね?」

 「構わない。それがルールだから」


 流石にシアさん側が二人だったら成り立ちませんからね。

 

 「では、始めましょうか。シアさんはそっちの木で待っていてください」

 「わかった。準備が出来たら言う」

 「わかりました」


 シアさんが僕に背中を向けて離れて行き、僕とサンドラちゃんも指定の位置まで歩いていきます。

 

 「ここですね」

 「頑張ろうなー」

 「はい、相手がシアさんとはいえ、手加減は出来ませんからね」

 「そうだなー。子供達の期待は裏切れないからなー」


 僕とサンドラちゃんは子供達からキラキラとした目で見られています。

 そんな目で見られたら頑張らざるおえませんよね。


 「ユアン、準備できた?」

 「はい、いつでも構いませんよ!」

 「わかった。なら、始める」


 シアさんの方も準備が整ったみたいですね。

 シアさんは再び僕たちに背を向け、右腕で目隠しをし、木に寄りかかるような体勢になりました。

 いよいよ始まりみたいですね。


 「それじゃ、サンドラちゃん行きますよ!」

 「なー! いくぞー!」


 サンドラちゃんも気合十分ですね。

 という事で、シアさん対僕とサンドラちゃんの勝負が幕をあけました。


 「だーるーまーさんがー……」


 ルールは簡単です。

 シアさんがとある言葉を言っている間に僕たちがこっそりと忍び寄り、シアさんが振り向いた時に動いてるのを見られたら負けという簡単なルールです。

 ですが、これはやってみると意外と奥深かったりもします。


 「転んだ」


 シアさんが振り向き、ジーっと僕たちの事を見てきます。

 この間に動いたら僕たちの負けです。


 「だるまさんがーー……」


 そして、僕たちの勝ちの条件はこれを繰り返して僕たちがシアさんに近づいてタッチすれば勝ちです。

 なので、再びシアさんが僕たちから目を逸らしたら近づくのですが……。


 「こーーろーーんーーーーだ……サンドラ、動いた」

 「なー……まだ大丈夫だと思ったのにー……」


 サンドラちゃんは焦ったみたいですね。

 僕はだるまさんが、の時点で止まりましたが、サンドラちゃんはギリギリまで攻めた結果、急に振り向いたシアさんに対応出来ず、ちょうど足を踏み出した所を見られてしまったみたいです。


 「後はユアンだけ」

 「負けませんよ!」

 「口が動いた」

 「そ、それはなしです!」

 「わかった」


 思わず喋ってしまいましたが、本当ならあれは駄目でしたね。

 今回は見逃してくれましたが、次からは気をつけないと……。

 ですが、これで半分ほど来れたので後は同じように二回進めれば、僕が勝てそうです!

 しかし、シアさんはこれだけ近づかれているにも関わらず、凄く落ち着いていますね。

 それだけ余裕があるという事ですかね?

 そうなるとまだまだ油断は出来ません。


 「だるまさんが転んだ」


 なるほど。

 色んなパターンで揺さぶる作戦ですね。

 ですが、それくらい僕も想定済みです!

 僕はいつでも安全を考えてだるまさんの時点で止まりますからね!

 

 「だるまさんがー……」


 そんな攻防を繰り返し、ついに僕はシアさんの直ぐ近くまでやってこれました。

 この距離ならば次で決められる。

 そんな場所まで来たのです。

 こうなってしまえば、僕の勝ちは決まったも同然です!

 しかし、シアさんはそれでもまだ焦ったようすはありません。

 まぁ、もともと焦ったり驚いたりする事がほぼないので当然と言えば当然なのですが、それでも落ち着きすぎにも見えます。

 もしかして、まだ奥の手でも隠しているのでしょうか?

 そんな事を考えていると……。


 「ユアン」

 「…………」


 シアさんが話しかけてきました。

 ですが、その手には乗りませんよ?

 僕は返事をしそうになるのを堪え、ジッと耐えます。


 「ユアン、今日も可愛い。凄く、可愛い」

 

 む……。

 それはずるいです!

 そんな事を言われたら嬉しくて喜んでしまいそうになりますよね。

 ですが、これは勝負です。そんな事くらいで、僕は動揺したりなんか……。


 「あー、お姉ちゃん尻尾が動いたー!」

 「兄ちゃんの負けー!」

 「ふぇっ! え、動いてましたか?」

 「うん。凄く動いてた」

 「そんなー……」


 不覚です。

 まさかこんな方法で負けるとは思いもしませんでした。


 「私の勝ち」

 「むー……僕の負けですね」

 「うん。ユアンはいつも詰めが甘い」

 「そうですね。ですが、シアさんも大人げないと思いますよ?」


 だって、普通にこれは遊びですからね。

 それなのに、心理戦みたいなものを持ち込んでくるのはずるいと思います。


 「そもそもこの遊びがそういう遊び」

 「確かにそうでしたね」


 といっても、今のは子供達に遊びの説明をするための実演なのでそこまで本気にならなくてもいいと思いますけどね。

 まぁ、僕も勝つために頑張っていましたので人の事は言えないですけど。

 まぁ、結果的には負けてしまいましたけど、楽しめたからいいとしましょうか。


 「という感じですが、ルールはわかりましたか?」

 「「「はーーい」」」

 「では、今度は僕が鬼になりますので、みんなも一緒にやってみましょうか」

 「「「はーい!」」」


 孤児院の子供達も影狼族の子供達も仲良く元気に返事をしてくれました。

 こうやって種族関係なく仲良く遊んでいるのはいい事ですね。


 「それでは、始めますよー! みんな位置についてください!」

 「はーい! みんな、ユアン兄ちゃんをやっつけるぞー!」

 「「「おー!」」」

 「えっと、僕をやっつける遊びではないので気をつけてくださいね?」


 何やら不穏な発言が聞こえましたけど、大丈夫ですよね?

 

 「それでは、始めますよー! だるまさんがーー……」


 その後、僕たちは日が落ちるまで子供達と一緒に遊びました。

 最終的には誰かが僕の尻尾を掴んだので、それを叱るために追いかけたらそのまま追いかけっこが始まってしまい、結果的には違う遊びになってしまいましたけどね。

 それでも、みんな楽しそうな笑顔を振りまいてくれましたし、僕たちも子供と触れ合えてよかったと思います。

 しかし、まだ今日という日は終わっていません。

 楽しいばかりでは何事も終われませんからね。

 みんなが寝静まった後、僕とシアさんはマナとオルフェさんと話し合いをする事になっているのですから。

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