第619話 補助魔法使い、チヨリの容態を報告する。
「という訳で、暫くの間は僕がチヨリさんの代わりに働く予定です」
チヨリさんのお家へと泊った翌日、僕はチヨリさんの事を相談する為に領主の館へと足を運びました。
「暫くねぇ……治る見込みはあるの?」
「今の所は見通しは立っていないですね」
「ダメじゃん」
そうは言われても、チヨリさんの代わりに仕事のできる人は限られていますからね。
ナナシキでいえば、僕とサンドラちゃん、他に宛があるとしたらローラちゃんくらいしか代用が効かないのです。
「それかポーションの販売を一旦やめてみたら?」
「そうすると、ナナシキの収入が落ちたりしませんかね?」
「多少の痛手にはなるだろうけど、収入はそれだけではないし大丈夫だよ」
「チヨリさんのお店がおやすみするだけで財政破綻するのならとっくにナナシキは潰れていると思うの」
「それもそうですね」
かといって、ナナシキの資金が低下する事には変わりありませんので、ずっと休む訳にはいきませんし、ローゼさん達にも迷惑をかけてしまうので、休むにしても長期間は無理ですね。
「それなら影狼族を使うといい」
「影狼族をですか?」
「うん。単純作業に向いている人が何人かいる」
「あの方たちですね」
「うん。指示を与える人が居てくれれば、上手くこなすと思う」
「それも有りかもしれませんね」
ただ、影狼族の方達……まぁ、この場合は虚ろ人だった人達の事を言っているのですが、その人達に協力して貰う事には問題が少しあります。
一つはシアさんも言ったように、指示を出す人が居ないといけないという事です。
というのも、指示を与えないと自分の意志で休憩もとりませんし、一つの作業をお願いしたらその作業を永延と繰り替えしてしまうのです。
ですが、それは大した問題ではありません。
何せ、指示を出すだけなら人の言葉を話せる魔鼠さんでも大丈夫ですからね。
ただ、他の問題として……。
「魔力の方が足りなくなりそうですよね」
「魔力必要なの?」
「必要ですよ。そこまで沢山必要ではありませんけどね」
その代わり、かなり細かな魔力操作を必要とする場面があります。
ですが、その魔力操作に関しては心配はしていなかったりします。
その辺りは流石としか言えませんが、虚ろ人だった人達の手先や魔力操作は凄く丁寧で、それに加えてとても器用なのです。
なので、心配があるとしたら魔力不足に陥らないかという事です。
「パッと見て気づけばいいですが、魔力枯渇の状態は一見わかりにくいですからね」
普通の人だったら苦しかったりすれば顔に出ますが、あの方たちに関しては表情に出てこないので、いきなり魔力枯渇が原因で倒れたりする事も十分に予想できます。
「それは問題」
「でも、チヨリさんがちゃんと見てくれるならいいんじゃない?」
「そうかもしれないですが、今はゆっくりと休んで欲しいのですよね」
本人は大丈夫と言い張っていて、実際に見た目は問題ないのですが、問題は中身で筋肉や魔力回路などがボロボロになっていて、歩くのも辛い筈です。
全身重度の筋肉痛といえば想像はつきやすいですかね?
「けど、ポーションづくりくらいだし、口出しするくらいなら大丈夫じゃないの?」
「大丈夫じゃないですよ」
「結構大変なんだぞー?」
「そうなの?」
「そうですよ」
使用する薬草は煎じなければいけませんし、魔力水だって組んできた物をそのまま使える訳ではないですし、ボトルに移す際にはゴミが入らないようにしなければいけませんし……。
肉体的というよりは精神的に凄く気を使うのですよね。
何せ、傷にかけるだけではなくて、実際に口に含めて飲んだりもしますからね。
「それは大変。品質に気を配るのはチヨリがやるしかない」
「そうだね。全体を見なければいけないだろうし、結構な負担になりそうだね」
「なので、影狼族の人達が手伝ってくれるとしても、暫くは無理ですね」
かといって、僕やサンドラちゃんが教える訳にはいきませんからね。
僕たちはチヨリさんに比べたらまだまだ未熟ですし、そもそも数を用意するのであれば僕たちがポーションをどんどん作らなければいけないので、教えている暇なんてないと思います。
「という事は、ユアン達に任せるのが現段階ではベストかな」
「そうですね。それならチヨリさんも安心して任せられると思うの」
それでも大人しくしてくれる保証はないので不安は残りますけどね。
「とりあえず、それはわかったよ。それで、シアはどうしたの?」
チヨリさんの報告を終えると、今度はシアさんの話に移りました。
そういえば僕もシアさんがこの場に居る事が気になっていたのですよね。
普段のシアさんなら用事がない限りは領主の館に来たりなんかしません。
暇だから僕についてきたという理由ならあり得ますが、今日に限っては僕よりも先にシアさんは領主の館に居ましたからね。
「私はユアンに用があった」
「僕にですか?」
「うん」
何でしょうか?
今更、わざわざここで話すような事はないと思いますけど。
そう思いつつも、僕はシアさんの用件を聞きました。
「遊び相手ですか?」
「うん。影狼族の子達と触れ合って欲しい」
そして、その用件は意外なものでした。
「それは構いませんけど、いきなりどうしたのですか?」
「どうもしない。ただ、ユアンは私の主で、私は長。もっと影狼族との繋がりを強くした方がいい。特に子供はユアンの事をあまり知らない」
確かにあまり関りがありませんね。
「それは私も良い考えだと思いますよ」
「オルフェさんもそう思うのですか?」
「えぇ。子供達もユアンと遊びたがっていますから」
そういえば、孤児院にもあまり顔を出せていませんでしたね。
ただ、それには実は理由があるのですよね……。
「平気。マナの相手は私がしとく」
「そういう事なら構いませんけど」
「うん。だけど、出来るならマナとも仲良くやって欲しい」
「僕としては仲良くはしたいと思っていますよ」
ただ、何を話していいのかわからないのですよね。
それに僕に対してツンツンしていますし。
「まぁ、近々孤児院にも顔を出してみようと思います」
「うん。お願いする」
シアさんのお願いですからね。断る理由がありません。
「後はあれかな……」
その後もナナシキの現状について暫くみんなで話し合いが続きました。
みんなが揃ってもお家ではこういった話をしないので、たまには集まって話合うのは大事かもしれませんね。
意外にも僕も知らない話がポンポンと出て来たりしますからね。
いつの間にかミレディさんの工房が完成していたりだとか。
そして、翌日、僕はサンドラちゃんとシアさんと一緒に孤児院へと足を運びました。
そこにいけば影狼族の子供達とも触れ合えますからね。
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