第618話 補助魔法使い、チヨリの容態を確かめる

 「ありゃ~、本当に倒れたみたいだねぇ~」

 「そんなのんきな事を言っている場合じゃないですよ! チヨリさん、大丈夫ですか?」


 魔鼠さんから報告を受けた僕とリコさんは急いでチヨリさんのお家へと向かうと、そこには布団に横になっているチヨリさんの姿がありました。


 「うむー。ちょっとくらっと来ただけだから問題ないぞー」

 「あっ、起き上がっちゃダメですよ! ほら、そのまま寝ててください」

 「うむー」


 とりあえず、会話は出来るみたいですが、普段と比べて明らかに青白い顔をしていて、体調が悪いというのが一目でわかりました。


 「でも、よくそんな状態で布団を引けたね~」

 「魔鼠達がやってくれたからなー」

 「さすが、優秀だね~」

 「うむ~。いつも助かってるなー」


 どうやら倒れてから部屋に運んだのも魔鼠さん達みたいです……ってそんな話はどうでもいいです!


 「もぉ! 二人とものんきな話をしている場合じゃないですよ!」

 「そうは言っても、元気そうだしね~」

 「うむー。ちょっと倒れたくらいで大袈裟だなー」

 「大袈裟ではありませんよ!」


 チヨリさんが倒れるのは僕が知っている限り初めてですし、トレンティアであんな話を聞いたばかりですので、心配するのは当然です。

 むしろ、あの話を聞いた後なのですから、心配するなというのが無理な話です。

 きっと、チヨリさんが自分の事を抜け殻と例えた事が間違いなく影響しているのですからね。


 「それで、容態はどうなんだい?」

 「問題ないぞー」

 「なら安心だね~」


 ですが、僕の心配を他所に二人は相変わらず呑気に会話を繰り広げています。


 「だから、勝手に二人で納得しないでくださいよ!」

 「けど、本人が大丈夫っ言ってるしね~?」

 「うむー。大丈夫だからなー」


 なんで今まで気づかなかったのでしょうか?

 リコさんとチヨリさんがこうして会話をしているのを意識して聞いてみると似た者同士、まさに親子って感じが伝わってきます。


 「とりあえず、僕が診察しますので、チヨリさんは大人しく横になっていてください」

 「うむー。だけど、本当に大丈夫だけどなー」

 「それを判断するのはお医者さんの役目ですよ」

 「ユアンちゃんはお医者さんだったんだね~」

 「初耳だなー」

 「いいから静かにしてください!」


 この二人が揃うとこんなにペースを崩されるとは思いもしませんでしたが、そのペースに流される訳にはいきません。

 ちなみに僕はお医者さんではありませんよ?

 それに近い事はやっていたりしますけどね。

 なので、それなりに病気などの知識はあったりします。

 まぁ、教えてくれたのはチヨリさんなのですけどね。

 という事で、僕はチヨリさんの診察を始めます。


 「特に熱がある感じではありませんね」


 まずはチヨリさんのおでこに掌をあて、熱を測ります。


 「うむー。風邪ではないからなー」

 「そうみたいですね。むしろ、冷たく感じるくらいですね。では、口を大きく開いてください」

 「うむぁー」


 返事をしながらチヨリさんが口を開けてくれたので、光魔法で照らしながら喉の様子も確認します。

 

 「喉も腫れていないですね」

 「うむー。健康だからなー」

 「健康だったら倒れないと思うけどね~」

 「僕もそう思います」


 初めてリコさんと意見が合いましたね。

 何だかんだ軽口を叩きながらも、内心は心配しているみたいですね。

 

 「とりあえず、病気ではないみたいですね」

 「ならもう動いていいかー?」

 「ダメですよ! 病気ではないですが、他に原因があると思いますからね」

 「でも、寝ててもやる事ないしなー……」

 「寝る事がやる事ですよ」

 

 それにまだ調べる事がありますからね。

 起き上がろうとするチヨリさんを横に寝かしつつ、僕は次の作業に移ります。


 「では、次は魔力回路の測定に入りますね」

 「な、なんでだー?」

 「他に異常があるとしたらそっちの可能性が高いからですよ」

 「べ、別に大丈夫だと思うぞー?」

 「なら、どうしてそんない焦っているのですか?」

 「キノセイダゾー」

 

 うん。露骨に視線を逸らしましたね。


 「気のせいなら構わないですよね?」

 「う、うむー……痛いよなー?」

 「何もなければ痛くありませんよ?」

 

 何もなければですけどね。

 ですが、ここまであからさまに反応している訳ですし、何もないわけがありませんよね?

 その証拠に……。


 「うー……」

 「どうですか?」

 「な、何ともないぞー」

 「本当ですか? もっと強く流しますよ?」

 「むりー……いたいぞー」

 「やっぱりですか」


 チヨリさんが首を左右に振ったので、僕は魔力を流すのをやめます。


 「何があったんだい?」

 「魔力回路がボロボロだったのですよ」


 まさかここまで酷いとは思いもしませんでした。

 チヨリさんの手を握り、ゆっくりと魔力を流し、その流れを追っていると、所々で途切れたり、急に流れが悪くなるのがわかりました。

 しかも、それは体の中心……魔力の器があるところに向かうにつれて酷くなっていたのです。


 「ん~? それが原因なのかい?」

 「そうだと思いますよ」

 「でもさ~、魔力回路がボロボロになっただけで倒れたりするもんなのかね?」

 「普通になりますよ。むしろ、ここまで酷いのにこれで済んでいるのがおかしいくらいです」


 僕も闇魔法を使った影響で魔力回路がボロボロになった経験がありますが、爪は割れて血は吐いてと大変でしたからね。

 こればかりはなった事がないとわからない辛さだと思いますけどね。


 「そんなに酷かったんだね~」

 「はい。かなり酷いですね」

 「そんな状態で大丈夫なのかい?」

 「寝ている分には問題ないなー。立ち上がるとふらふらするけどなー」

 「普通なら寝ているだけで辛いと思うのですがね」

 

 その辺りはまた僕と違うのでしょうか?

 その差を確かめたい所ですが、それは後ほどですね。


 「それで、どうしてそんな状態になったのですか?」

 「酷使しすぎたんだろうなー」

 「いつですか?」

 「ずっと」

 「ずっと?」

 「うむー。わっちはユアンが思っているほど魔力の器は大きくないし、魔法の腕も高くないからなー」

 「そんな事ないと思いますよ?」


 チヨリさんの凄さは何度も目の当たりにしていますからね。


 「それは光の龍神様の力があったからだなー」


 しかも、力は光の龍神様の力を使えても、他の部分……魔力回路なんかはチヨリさんのものなので、力を使えば使うほど魔力回路はボロボロに痛んでいったみたいです。

 そして、どうして今になってその代償を受けているかというと。


 「私が全ての力を受け継いでしまったからなんだね」

 

 普通なら動けないくらい酷い状態にも関わらず、チヨリさんがやってこれたのは光の龍神様の力があったからこそみたいです。

 

 「あの力があるうちは痛みは感じなかったからなー」

 

 なのでいつもの調子で今日もポーションを造ろうとしたら、こうなってしまったみたいですね。


 「とりあえずは命に別状はない感じなのかな?」

 「そうですね。無理さえしなければ、問題はないですよ」

 「ちなみに、治るのかい?」

 「時間をかければ治ると思いますよ」


 僕も経験からすると魔力回路は修復します。

 しかし、それには条件があって、一つは時間をかける方法。

 そして、もう一つは回復魔法で無理やり治す方法です。

 ですが、その方法は正直お勧めしません。

 何せ、回復魔法を使うという事は、魔力が魔力回路に触れる事を意味しますからね。

 その時に起きる激痛はかなりのものです。

 しかも厄介な事に魔力回路は普通の傷と違って直ぐには治りませんので、その激痛をずっと耐える事になります。

 ちなみにですけど、僕はその激痛に耐えきりながら魔力回路を治しました。

 ですが、それは自分で調整できるので我慢できるのであって、普通に他人から治されたら我慢できる痛みではないと思います。


 「という事で、チヨリさんにはゆっくりと治す事をお勧めします、というよりも、絶対に休んでください」

 「でもなー、その間はポーションを造れなくなるからなー」

 「そこは僕とサンドラちゃんがどうにかしますよ」

 「なんなら私も手伝うよ~」

 「うむー……」


 納得いっていない様子でチヨリさんは布団を口元まで被ってしまいました。

 ですが、こればかりは命にも関わるので許可する訳にはいきません。

 結局、この日はチヨリさんの看病をする為にリコさんと一緒にチヨリさんのお家に泊まりました。

 

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