第617話 補助魔法使い、巫女メイドと話す

 「うんうん、確かに私はユアンちゃんの叔母にあたるね~」

 「そうだったのですね」

 「あっ、だからといって今更気を使ったりなんかしないでおくれよ? 私は今の生活が楽しいからね~」


 トレンティアから戻った翌日、チヨリさんから聞いた話をリコさんに確認してみると、やはりリコさんがチヨリさんの娘でお父さんの姉妹である事は本当だという事がわかりました。

 もちろんチヨリさんの事を疑っていた訳ではありませんよ?

 ただ、本当かどうかをリコさんの口からも聞きたかったのです。

 それと……。


 「リコさんがそう言ってくれるのなら気を使わないように努力しますね。それよりも、二人とも体に異変とかはありませんか?」

 「今の所は大丈夫かな。まぁ、私の心配はいらないよ、問題があるとしたらジーアだからね」

 「そうですか。無理はさせないでくださいね?」

 「わかってるよ~。その辺りは私が見張っておくからね」


 それと、二人の体調とかも聞いておきたかったのです。

 リコさんはともかく、ジーアさんに関してはいきなり闇の龍神様を受け入れた状態ですからね。

 その結果、何が起こるかというのは想像がつきません。

 魔力酔いくらいで済めばいいですが、闇の龍神様に精神を支配される可能性だって十分にあり得ますからね。

 リコさんはその心配はないと言っていましたけどね。


 「でも、ごめんね~?」

 「何がですか?」

 「まだジーアがユアンちゃん達に加護を与えられる状態じゃなくてさ」

 「その事は気にしなくていいですよ。まだ時間には余裕がありますからね。むしろ、ジーアさんに申し訳ないくらいですからね」

 「そう言って貰えると助かるよ。ジーアがその事を気にしているからね~」


 ジーアさんらしい悩みですね。

 ジーアさんは僕たちが旅をする理由を知っていて、その理由が自分の中にいる龍神様という事で悩んでいるみたいですね。

 僕たちは気にしなくていいと言っているのですが、どうしても気になってしまうみたいで顔を合わせるたびに頭を下げてきます。


 「その辺りのケアもしっかりしないとですね」

 「そうして貰えると助かるよ~。私の方からも声はかけるけど、ユアンちゃん達から言って貰えた方が効果はあると思うからね~」

 「そうですね。何かいい方法を考えておきます」

 「うんうん。お願いするよ~」


 といっても、一つの方法を考えてあるので後は行動に移すだけですけどね。


 「ちなみにですけど、リコさんはどうなのですか?」

 「私かい? 私の方はバッチリだよ?」

 「そうなのですね……という事は、加護を貰えたりはするのですか?」


 ちょっと図々しいですかね?

 ですが、この先の事を考えると、何処かで加護を頂く事は必要になってくると思います。


 「加護かい? 加護ならもうユアンちゃんには渡してあるよ~?」

 「えっ、そうなのですか?」


 いつのまに……。

 ですが、ここ最近の事を思い出してもそんな場面はなかったと思うのですけど……むむむ?


 「覚えていないみたいだね~」

 「はい。申し訳ないですけど、思い当たる節が全くないです」

 「まぁ、結構前だからね~。覚えていないかな? 結婚式の時を」

 「結婚式……あっ! 僕とシアさんがリコさんの前で結婚の誓いをした時ですかね?」

 「当たりだよ~」


 そういえば、あの時も時間が止まったようになって、リコさんから祝福を頂けました。

 あれがどうやら加護だったみたいですね。

 ですが、正直な所あれが加護だとしたら微妙な気もします。

 いえ、もちろんこれ以上望むのは贅沢でわがままだとはわかっていますよ?

 ですが、僕から見るとキアラちゃんもスノーさんも龍神様から加護を頂いて、大幅に成長したように思えるのです。

 成長したのは主にみぞれさんとルーくんですけど、その影響は二人にも大きく影響していました。

 それに比べるとリコさんから受けた祝福は僕の身体能力が多少上がったくらいで、目に見える成長というのはないように思えます。


 「なんか残念そうだね~?」

 「あっ、そういう訳ではありませんよ?」

 「うんうん。気持ちはわかるよ。実際の所、ユアンちゃんに加護を授けてもあまり変化はなかったからね~」

 「そうなのですか?」

 「そうなんだよね~。簡単にいえば、もう完成されているような状態で、これ以上の伸びしろはあんまりないって感じかな?」

 

 という事は、僕はこれ以上成長できないという事でしょうか?

 

 「そういう訳ではないけどね。ただ、他人の手を借りて成長するのは厳しいってだけだよ?」

 「つまりは努力すればその分は成長できるという事ですか?」

 「勿論さ! ユアンちゃんの才能で一番大きいのはそこだと思うしね~」


 そうなのですかね?

 正直、僕はここまで大きな苦労をしてきたような気はしません。

 まぁ、色々と大変な事はありましたけどね。


 「そんな事ないと思うよ? 常日頃から魔法を使ってきただろうし、魔法理論だって考えていただろうし、何よりも剣だって頑張っているじゃないか」

 「それは必要だったからですよ」

 「それも努力の一つだと私は思うけどね~。私だって毎日お仕事をしているけど、ユアンちゃん達は頑張ってくれてると思ってくれているんだよね?」

 「はい。リコさん達が居なかったら僕たちの生活は成り立っていないと思います」

 「そういう事だよ。別に私達は頑張っているとは思っていない、ただお仕事として必要だからやってるだけ。それってユアンちゃんと一緒じゃないかな?」

 「そうかもしれませんね」

 「うんうん。まぁ、私が言いたいのは、ユアンちゃんが頑張っていないと思っていても、周りは認めてくれているという事かな。だからもっと自信を持つといいよ~?」


 そう言って貰えると自信が持てるかもしれません。

 リコさんって人を元気づけるのが上手ですよね。

 

 「あはは~、褒めても何も出ないよ? あ、でもちゅ~くらいだったらしてあげようか?」

 「それはジーアさん怒られるからダメですよ!」

 「いいじゃないか。身内のスキンシップだしね~?」

 「しませんよ!」


 リコさんの事は好きですけど、シアさんとはまた違った好きですからね。

 っと、身内で思い出しました。


 「そういえば、リコさんとチヨリさんはもっと仲良くしたりしないのですか?」

 「ん~、別に仲が悪い訳ではないしね~」


 確かに仲は悪くないみたいですね。

 チヨリさんが僕たちのお家に来た時も普通に会話している所を何度も見ていますからね。


 「でも、僕たちに隠す必要もないですし、もっと話したらどうですか?」

 「そうなんだけど、今更って感じもするしさ」

 「嫌なのですか?」

 「嫌という訳ではないよ? でも、長い間別々に暮らしていたからどうやって接していいのかわからなくてね~」


 それはリコさんらしくないですね。

 リコさんのイメージといえば、誰とでも気さくにお話できる人って感じがします。

 あの女神のレンさんに対しても変わらない態度で接するくらいですし。


 「それに……」


 それに?

 リコさんが何かを言おうとして口籠った時でした。

 天井をドタバタと走り回る音が聞こえ、上を向くと、天井から慌てた鳴き声が響き渡りました。


 「ヂュッ!」

 「へ? そ、それは本当ですか!?」

 「ヂュヂュッ!」

 「わ、わかりました! 直ぐに行きます!」

 「どうしたんだい?」


 リコさんは魔鼠さんの言葉はわからないみたいですね。

 なので、魔鼠さんの言葉を僕がリコさんに伝えます。


 「お、落ち着いて聞いてください。えっと、チヨリさんが……倒れたみたい、です」

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