第615話 補助魔法使い、チヨリから話を聞く

 ローゼさんのお屋敷で夕食を頂いた僕たちは、ローゼさん達とお酒を飲んで盛り上がるチヨリさんを残し、一足先に湖の宿屋へと戻ってきました。

 僕の背中で、なーなーと寝息を立てて眠るサンドラちゃんをベッドに降ろし、寝る支度をしながら、シアさんに質問をぶつけました。


 「シアさん、怒ってないですか?」

 「何を?」

 「えっと、ほら……ローラちゃんの事です。デートする約束してしまったので……」

 「別に怒ってない」

 「本当ですか?」

 「本当。信じられない?」

 「いえ、シアさんが怒っていないのはわかりますよ。ですが、逆に怒らないので不思議に思ったのです」


 あれは鼬国との戦争になる前の時でしたね。

 僕たちは戦争に負けてしまった時の事を相談しに来たことがあり、もし戦争に負けてしまったら、ナナシキの住民をトレンティアに受け入れて貰う条件として、ローラちゃんの第一夫人に僕がなる事。そんな条件がありました。

 その条件を提示された時にシアさんは今までにない位に怒りました。

 なので、今回も怒るかなと思ったのに、全く怒らなかったので、それがちょっと不安に思えたのです。


 「それはユアンの一番がローラに変わるから怒っただけ」

 「それはあり得ませんよ。僕の一番はずっとずーっとシアさんですからね!」」

 「うん。だから怒る必要がない。正妻の余裕。むしろ、ユアンがみんなから認められるのは私も誇り高い……だけど」

 「だけど?」

 「ローラと出かける前に予行演習はした方がいいと思う。私はいつでも空いてるから」

 「えへへっ、そうですね!」


 正妻の余裕と言いながら、何だかんだ気にしていたみたいですね! 遠回しにデートのお誘いをされてしまいました!

 ですが、シアさんの言う通りですね。

 確かに僕も予行演習は必要だと思います!

 

 「それじゃ、いつデートしますか?」

 「全部ユアンに任せる」

 「僕にですか?」

 「うん。ローラとのデートプランはユアンが決める。だから、今回もユアンが全て決めるべき」

 「それもそうですね」

 

 となると、色々と下調べしなければいけませんね。

 その前に何処でデートするかも肝心になってきますね。

 

 「ちなみにですが、シアさんは何処に行きたいですか?」

 「特にはない。だけど、美味しいものは食べたい」

 「となると、食事が優先ですね。だとしたら帝都なんかどうですか?」

 「いいと思う」

 「では、後日ーー……」


 そんな会話で盛り上がった僕たちでしたが、気づけば日付が変わりそうな時刻になっていた為、眠る事にしました。


 「ん……?」


 しかし、それから一時間ほど経った頃でした。

 急に誰かに起こされたように僕の目は覚めました。


 「時間は……一時くらいですね」


 朝まではまだまだ寝れる。

 そう思い再びベッドに横になろうとした時でした。

 何気なく探知魔法を使用すると、外に人の反応がある事に気付きました。

 しかも、これは知り合いの反応です。

 

 「あれは……」


 それが気になった僕は窓から外を覗くと案の定そこには知り合いの姿があり、何をしているのか確かめる為に僕も外へと出る事にしました。


 「何をしてるのですか?」

 「んー? ユアンかー。何もしていないぞー、ただ綺麗だから見てるだけだなー」

 

 外の居たのはチヨリさんでした。

 桟橋に座り、足をプラプラとさせながら湖をボーっと眺めていたのです。


 「わかります。夜の湖も凄く綺麗ですよね」

 「そうだなー」


 そこから暫く無言の時間が続きました。

 正直、聞きたい事は沢山ありますが、何から聞けばいいのかわからなかったのです。

 ですが、これはいい機会ですし、この機会を逃したらいつまで経ってもこの話をする事が出来なくなりそうなので、僕は勇気を振り絞りチヨリさんに尋ねる事にしました。


 「チヨリさん」

 「なんだー?」

 「どうして、チヨリさんが僕のおばあちゃんだって黙っていたのですか?」

 

 今更チヨリさんが僕のおばあちゃんかどうかを疑うつもりはありません。

 ですが、気になったのはどうして黙っていたかです。

 何だかんだチヨリさんとの付き合いはだいぶ長くなってきましたので、言う機会は幾らでもあったと思います。


 「気を使わせたくなかったからだなー」

 「そんな理由ですか? んー、おばあちゃんと知ったからといって、無駄に気を使ったりしないと思いますよ」

 「本当かー? ユアンの性格だったら使うと思うぞー?」

 「そうですかね?」

 「うむー。もし鼬国の戦争の段階でわっちとの関係を知っていたら、戦いに参加させてくれたかー?」


 むむむ……それを言われると困りますね。

 

 「むしろ、わっちをそのまま親衛隊として扱ってくれたかも疑問だなー。祖母が親衛隊なんておかしいと思ってなー」

 

 確かにそういう思考になるかもしれませんね。

 現段階で想像してもおかしいと思いますからね。


 「そういう理由もあって言い出せなかったなー」

 「ちゃんと理由はあったのですね。ですが、おばあちゃんとしての立場よりも親衛隊としての立場を選んだのは何故ですか?」


 僕の事が大事だと思ってくれるのならば、より近い立場にあるのはおばあちゃんだと思います。

 

 「わっちらの生き甲斐だからだなー」

 「そんなにですか?」

 「うむー。それだけアンジュ様に恩があるからなー」

 「そうなのですね。でも、アンジュお母さんはチヨリさんの子供なのですよね?」


 それなのに親衛隊というのは変ですよね。


 「違うぞー。わっちはユーリの母親で、アンジュ様は義理の娘だなー」

 「お父さんのお母さんだったのですね」

 

 そう言われるとそんな感じはしますね。

 お父さんの印象はアンジュお母さんよりも柔らかい印象がありました。

 もちろんアンジュお母さんが厳しい訳ではありませんよ?

 ただアンジュお母さんよりもお父さんの方が包み込むような優しさがあり、その雰囲気がチヨリさんに似ているように思えたのです。


 「ふむー? ユアンの中ではユーリがお父さんなんだなー」

 「そうですね。お父さんは自分の事を俺と言いますからね」

 「それを言ったらユアンも僕だぞー?」

 「これは生まれつきだから仕方ないですよ」


 気づいたら自分の事を僕と呼んでいましたからね。

 きっかけはわかりませんが、そのまま来てしまったので今更直すのは大変ですし、特に直す必要もないとも思ってます。

 それはさておき。


 「でも、どうしてチヨリさんはアンジュお母さんの親衛隊になったのですか?」

 「アンジュ様に受け入れて貰ったからだなー」

 「アンジュ様にですか?」

 「うむー。もともとわっち達はアルティカ共和国に生まれた訳ではなくて、他の場所からの移民だったからなー」

 「そうだったのですね……ん? わっちら、ですか?」

 「うむー。ユアン様の親衛隊、ほぼ全員がそうだぞー?」

 「えっ、全員ですか?」

 「うむー。アリア以外全員だなー」


 アリア様以外全員となると、アラン様もなのですね。

 というか、アリア様も親衛隊の一人なのですね。

 まぁ、アラン様と一緒に戦闘に参加しているので部隊の一人といえば一人なのですが、それはそれで違和感があります。

 っと、また話が逸れましたね。


 「チヨリさん達も苦労していたのですね」

 「昔の話だけどなー。だけど、海を越えるのは本当に大変だったぞー」

 「海を越えてきたのですね……あれ?」

 

 海を越えてきた?


 「どうしたんだー?」

 「いえ、海を越えてきたと言ったので、前に聞いた事があるなと思いまして」

 

 何処でしたっけ……そうだ!


 「思い出しました! ジーアさんの一族が海を越えてきて、あの場所に住むようになったと言っていたのでした!」

 

 確かジーアさんの一族は倭の国からこっちの大陸に移動してきたのですよね。

 

 「そうだなー。わっちらの一族は倭の国から来たなー」

 「チヨリさん達の一族ですか?」

 「うむー。ジーアの一族とわっちらは同じ所の出身だぞー?」

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