第613話 補助魔法使い、ローラの相手をする

 「見てください! これは私が作ったんですよ」

 「ちょっと失礼しますね…………うん! これならお店に並べても問題ない品質にまで仕上がっていると思いますよ!」

 「本当ですか?」

 「はいっ! 頑張りましたね!」

 「ありがとうございますっ!」


 それだけチヨリさんからちゃんと学んでいる証拠ですね。

 

 「それで、ユアンさん達はここ最近何をしていたのですか?」

 「僕たちですか? 僕たちはですね……」


 ローゼさんに食事の招待を受け、僕たち弓月の刻とチヨリさんは夕食をご一緒するためにローゼさんのお屋敷へとやってきました。

 シアさんとサンドラちゃんは振舞われる料理に夢中になり、キアラちゃんとみぞれさんとルーくんはフルールさんと談笑をし、チヨリさんとローゼさんとスノーさんは三人でお酒を酌み交わしてそれぞれの時間を楽しんでいるみたいです。

 そして、僕はというと……。


 「リアビラにも行ってきたのですね……私も行きたかったです」

 「色々と大変でしたけど、やっぱり色んな所を回るのは勉強になりますね」

 「いつか私も連れて行ってくださいね?」

 「そうですね。ローラちゃんがもう少し大きくなってローゼさんの許可を頂けたら構いませんよ」

 「はいっ! 楽しみにしています!」


 僕はというと、ローラちゃんの相手をする事になりました。

 もちろん、ローラちゃんは素直で頑張り屋さんなので嫌いではないので、相手をするのが嫌な訳ではありませんよ。

 ですが、違うんです。

 今は僕ではなくて、チヨリさんがローラちゃんの相手をしなければいけない筈なんです!

 そのためにチヨリさんに可愛い服を着てもらい、お化粧までしたのですからね!

 その努力を無駄にする訳にはいきません。


 「そういえば、今日はチヨリさんとお話をしなくてもいいのですか?」

 「後でしようと思います! チヨリさんにも成果を見て頂きたいので!」


 これなら二人を無理に引き合わせる必要もありませんね。

 まぁ、ローラちゃんもチヨリさんの事は気に入っているみたいなので、そもそもこの調子ならば僕が余分な事をしなくても自然と仲が深まるような気もしますけどね。

 何せ、ローラちゃんがチヨリさんに抱き着いて仕事を眺めているところを前に見た事があるくらいですからね!

 でも、そうなってくるとローラちゃんがチヨリさんに対してどれくらいの好意を寄せているのかが気になってきますね。

 

 「今じゃなくてもいいのですか?」

 「大丈夫です! それに、チヨリさんもおばあちゃんもとても楽しそうに話されていますから、邪魔はしたくありません」

 「そうですね」


 むむむ……本当に楽しそうにお話をしていますね。

 これではチヨリさんとローラちゃんの仲を進展させよう作戦が失敗に終わってしまいます!


 「それにしても、今日のチヨリさんの格好は凄く可愛いですね」

 「あっ、そう思いますか?」

 「はい! ユアンさんもああいう格好をしたらとても似合うと思います!」

 「ぼ、僕がですか? 似合わないと思いますよ」


 それに、僕はあまり明るい色は好きではないのですよね。

 白と黒なら黒のほうがいいですし、赤と青なら青の方がまだマシです。


 「そんな事ないですよ! ユアンさんもきっと似合います! あぁ……私もユアンさんのドレス姿を見たかったです」

 

 凄く熱のこもった言い方ですね。

 

 「そう言ってくれるのは嬉しいですけど、どうしてもドレスとかって苦手なのですよね」

 「どうしてですか?」

 「着慣れていないというのもあるでしょうが、僕たちは動く事が多いのでドレスだと動きにくいのですよね」

 

 リアビラで行動する時はドレスを着る予定だったのですが、リアビラの首都があんなことになっていた為に結局の所はローブで過ごす時間の方が多くなってしまいました。

 

 「冒険者のユアンさん達はそうかもしれませんね。ですが、着ないといつまで経っても慣れませんよ?」

 「そうなのですよね」

 「今からでもお着換えしませんか?」

 「そ、それは遠慮します!」

 「ぷぅー……ユアンさんのドレス姿を見たいのに」


 ローラちゃんが頬を膨らましてしまいました。

 

 「機会があればローラちゃんに見せてあげれる時があると思いますのでそれまで我慢してくださいね?」

 「約束ですよ?」

 「はい、約束です」


 ですが、頭を撫でてあげると直ぐに機嫌が治ったようで、直ぐに笑顔に戻りました。

 この辺りはシアさんに少し似ているかもしれませんね。

 シアさんも直ぐに拗ねたふりをしたりしますからね。

 今も、僕がローラちゃんの頭を撫でると、じーっとこっちを見ていますしね。

 っと、このままではいつまで経ってもローラちゃんとチヨリさんの仲を深める事はできませんね。

 なので、僕は思い切ってローラちゃんにとある質問をぶつけることにしました。


 「ところで、ローラちゃんはチヨリさんの事をどう思っているのですか?」

 「チヨリさんですか? おばあちゃんと同じくらい尊敬していますよ?」


 尊敬ですか。

 確かにチヨリさんは色んな知識や技術を持っているので尊敬できる人です。

 ですが、比較対象がローゼさんというのは良くないですね。

 年の差は関係ないと思いますが、その認識ですと恋愛の対象になっていないように思えますからね。


 「えっと、そうじゃなくて……もっと他にないのですか?」

 「他にですか?」

 「はい……お付き合いしたいなーとか思ったりとか?」

 「ふふふっ、ユアンさんも面白い冗談を言いますね」

 「冗談ではないですよ?」

 

 僕は本気で言ってますからね!

 ですが、それを聞いたローラちゃんは更に吹きだしてこう続けました。


 「もぉ、笑わせないでくださいよ。実の祖母を年下の子に紹介するなんておかしすぎますよ」

 「そんなにおかしいですかね?」

 「おかしいですよ。私がおばあちゃんをユアンさんに紹介するようなものですよ?」


 むむむ……確かにそれはおかしいですね。

 想像したら余計に変だと思えてきました。

 僕とローゼさんがお付き合いするのは正直想像もできません。

 それと同じで考えれば考える程、僕のおばあちゃんのチヨリさんとローラちゃんがお付き合いするなんて……。

 あれ、僕のおばあちゃん?

 それと、ローラちゃんも実の祖母って?


 「どうしましたか?」

 「あっ、いえ……ローラちゃんが変な事を言ったような気がしまして」

 「変な事ですか?」

 「はい。チヨリさんが僕の実の祖母と言いませんでしたか?」

 「言いましたよ? 実際にそうですよね?」

 「違いますよ! チヨリさんと僕は……」


 なんて言えばいいんでしょうか?

 お友達も違いますし、仕事仲間というのも違いますよね?

 かといって、僕の親衛隊と紹介するのも違うような気がします。

 そんな風に僕がチヨリさんをどう紹介するのか悩んでいるとその間にローラちゃんから衝撃的な一言が発せられました。


 「どう見ても祖母と孫ですよね? じゃないと魔力の形が同じな事を証明できませんよ?」

 「魔力の形ですか?」

 「はい! 魔力の形というのは生まれながら決まっているみたいで、後から変える事は出来ないと聞きます。血の繋がりと一緒ですよ」


 ローラちゃんにはそれが見えるという事ですかね?

 となると、もしそれが本当ならば……チヨリさんは僕のおばあちゃん?

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