第607話 補助魔法使い、家に戻る
「ただいま戻りました」
「ただいま」
領主の館での話し合いが一段落した僕とシアさんは一足先にお家へと戻る事にしました。
正直、かなり疲れました。
影狼族やアーレン教会の人々などで経験があるとはいえ、やはり新たに人を受け入れるというのは大変なのだと改めて実感しました。
まぁ、僕が大変と言える立場ではないのですけどね。
僕たちは先に帰ってきましたが、スノーさんとキアラちゃんは今も領主の館で色々な手続きに追われているのですから。
「おかえりだぞー」
「「おかえりなさいー」」
家に戻ると、リビングではサンドラちゃんがソファーへと座り、サラちゃんとデルくんがサンドラの足元で丸くなって寛いでいました。
「すっかりと懐きましたね」
「最初から仲良しだぞー!」
「「なかよしー!」」
それもそうでしたね。
サンドラちゃんと契約を結んだ時からサラちゃんとデルくんはサンドラちゃんにべったりでしたね。
「ユアン、逆。サンドラがサラ達にべったり」
「そういえばそうでしたね」
どちらかというとそっちのほうがしっくりきますね。
何せこっちに戻ってからサンドラちゃんはずっとサラちゃん達と同じ時間を過ごすようにしているくらいですからね。
「ですが……ちょっと問題がありますね」
「うん」
サンドラちゃんとサラちゃん達の光景は一見とても微笑ましく見えましたが、冷静に見て見ると問題がありました。
「なー? 何かダメなのかー?」
「ダメという訳ではないですが、ちょっと大きすぎますよね」
「うん。サラもデルも大きすぎる」
サラちゃんとデルくんで僕たちを乗せた竜車を引っ張れるくらいなので当然といえば当然なのですが、二人の体格はかなり立派です。
全長でいえば二メートル近くありそうですし、人と違って四足歩行の生き物なので、床に寝転がっているとそれだけでかなりのスペースをとってしまっています。
「それに、サラちゃんとデルくんだけ特別扱いする訳にもいきませんよね?」
「うん。リオン達から不満がでる」
リオンちゃんは僕たちが契約を交わしたコボルトのリーダーなのですが、僕とシアさんに凄く懐いてくれていて、一緒にお昼寝したりすると凄く嬉しそうにしてくれます。
ですが、リオンちゃん達には普段から仕事をお願いしていますので四六時中一緒に居れる訳ではありません。
それなのに、サラちゃんとデルくんが四六時中サンドラちゃんと一緒に居れるとなれば、リオンちゃんもそう思ってしまうかもしれませんよね。
「なー! でも、私はユアンやシアと違って相方がいないんだぞー! サラとデルくらい許して欲しいぞー!」
あー……それを言われると困りますね。
僕とシアさん、スノーさんとキアラちゃんはほぼ毎日一緒に寝て朝を迎えるのですが、サンドラちゃんは決まった相手がいません。
僕たちと一緒だったり、スノーさん達と一緒だったり、リコさん達と一緒だったりとその日の気分や僕たちの都合によって一緒に寝る相手が変わったりします。
「嫌だったの?」
「嫌じゃないぞー? だけど、私だってパートナーみたいなのは居たら嬉しいと思ってなー」
「それがサラちゃんとデルくんなのですか?」
「パートナーとは違うけど、可愛い存在だぞー!」
ある意味、サンドラちゃんも成長したという事ですかね?
元々サンドラちゃんが僕たちと一緒に寝たい理由は一人だと寂しいからという理由でした。
それも当然ですけどね。
何せ、ずっと長い間ダンジョンで一人の時間を過ごしてきました。
ですが、そのサンドラちゃんが僕たちではなく契約した魔物と一緒に寝たいと言ったのです。
これは成長と言えるのではないでしょうか?
「どう思いますか?」
「ちゃんとした理由があるのなら仕方ない」
「そうですね。僕もいいと思います」
子供が巣立っていく感じというのはこんな感じなのですかね?
少し寂しい気持ちもしますが、サンドラちゃんがそう思うのなら協力してあげたいと思います。
それにこれは僕たちもリオンちゃん達との関係を見直すいい機会でもありますしね。
もちろんリオンちゃん達コボルトさんとの関係は良好です。
ですが、繋がりという点ではまだまだ浅いと僕は思っていて、シアさんと僕の関係を考えると、リオンちゃん達との繋がりが強くなればリオンちゃん達も成長するのではないかと僕は予想しています。
っと、それは後々考えるとして、今はサンドラちゃんとサラちゃん達ですね。
「そうなると、やっぱりサンドラちゃんの部屋は必要になってきますね」
「うん」
実はサンドラちゃん個人の部屋はなかったりします。
正確には、サンドラちゃんが要らないと言っていたので用意していなかったのですよね。
「なー……だけど、空いてる部屋って反対側だよなー?」
「そうなりますね」
「ユアン達と離れているのは嫌だぞー?」
そこは相変わらずなのですね。
サンドラちゃんが部屋を要らないと言った理由はそこにありました。
本館には個室が八つあるのですが、四つずつ通路に別れて部屋があるため、同じフロアですが少しだけ離れています。
決して遠いという訳ではないですが、両隣に人がいないのは淋しいと感じるみたいです。
まぁ、その気持ちはよくわかります。
僕とキアラちゃんも同じ理由で真ん中二つの部屋を選び、両隣に人が居る場所を選びましたからね。
「それなら私の部屋を使えばいい」
「いいのかー?」
「うん。私は特に部屋は要らないから平気」
とシアさんは提案しますが、それはそれで問題があります。
「シアさん、あの武器はどうするつもりですか?」
「何処か適当な所に置いとく。ユアンの部屋じゃダメ?」
「ダメですよ!」
個人の部屋というのはそれぞれ特徴があります。
キアラちゃんでいえば、部屋の中に観葉植物が置いてあったり、魔鼠さんが寛げる場所などを用意してあったりします。
それと同じようにシアさんの部屋も特徴があるのですが、その特徴が変わっていて、シアさんの場合は色んな武器が部屋に飾られているのです。
「どうして?」
「シアさんの趣味は否定しませんが、流石にあの数を壁に飾るのは嫌ですし、見栄えが良くないからですよ」
この間、久しぶりにシアさんの部屋に入った時に驚きました。
なんと、壁一面に色んな武器が飾られていたのです。
しかも、統一性が全くなくて、剣と隣に槍があってその隣には斧、その隣に剣があったりと、本当にただ並べてあるような状態で、ダンジョンで手に入れた錆びたボロボロの剣もそのままの状態で飾られていたりしたのです。
「そんな事ない。あれは完璧な配置」
「完璧じゃありませんよ。とりあえず、サンドラちゃんが使うのなら、武器の類は一度撤去しましょうね」
「むぅ……どうしてもこの部屋に飾っちゃダメ?」
「だーめーです!」
可愛らしく首を傾げてきたので、一瞬許しそうになりましたが、そこはグッと堪えました。
ここで許してしまうと、僕の部屋が武器だらけになってしまいそうですからね。
流石にそれは落ち着かないので嫌です。
という事で、まずはシアさんの部屋を片付ける事にしました。
したのですが……。
「シアさん、また増えてませんか?」
「少しだけ?」
「少しじゃないですよ!」
サンドラちゃん達とシアさんの部屋に移動すると、僕は目を疑いました。
前よりも明らかに武器が増え、飾れない武器は乱雑に樽の中に突っ込まれている状態だったのです。
「なー? シアは武器屋でも始めるのかー?」
「始めない。これはコレクション。誰にも譲らない」
「誰も要らないと思いますけどね」
樽の中から適当に剣を抜いてみるとかなり悪い状態だと直ぐにわかりました。
実戦ではとても使える状態ではないですし、使いたいと思える品ではないような剣です。
「ユアンそれは失礼。私にとって宝物」
「あ、はい。それは申し訳ないです。とりあえず、サンドラちゃんが部屋を自由に使えるように武器は預からせて貰いますけどいいですか?」
「うん。大事にお願い」
「はい、それはちゃんとするので安心してください」
価値は人それぞれですからね。
「他に隠してる武器とかはないですか?」
「それはないから平気」
「本当ですね?」
「うん……あっ、ベッドの下にナイフ類があるかもしれない」
「ベッドの下にですか?」
あっ、本当にありました。
「他には?」
「多分、もうない」
この様子だとありそうな気がしますけど、とりあえず目の届く場所にはなさそうなので、とりあえずは良しとしましょうか。
「サンドラちゃんどうですか?」
「うんー。大丈夫だぞー!」
随分とスッキリしましたね。
それに全然部屋の中は汚れていなかったので助かりました。
きっと普段からリコさんとジーアさんが掃除をやってくれていたみたいですね。
「では、今日からこの部屋はサンドラちゃんが使ってくださいね」
「ありがとうなー。だけど、シアの部屋はいいのかー?」
「うん。私は平気。ユアンと一緒の部屋でいい」
「そうですね。僕も一人で使うには広すぎるくらいですので、シアさんと一緒でも十分です」
個人の部屋というのは憧れましたが、結局の所はシアさんと毎日寝るので個人の部屋の意味がありませんからね。
僕に何か集めたり飾ったりする趣味があれば別ですけど、今の所そういった趣味はありませんし、邪魔になりそうなものは収納魔法で仕舞ってしまいますからね。
「後は必要な物があったら用意するので言ってくださいね」
「うんー。今の所は大丈夫だけど、その時は頼むなー」
これで引き渡しもとりあえずは終わりですね。
「おーい、ユアンちゃん、スノーちゃん達が帰ってきたよー」
あれはリコさんの声ですね。
「わかりました、直ぐにいきます!」
どうやらスノーさん達の方も仕事は一段落したみたいですね。
「では、久しぶりにみんなでゆっくりしましょうか」
家でゆっくりとするのは久しぶりですからね。
まぁ、思った以上にリアビラへの旅はあっという間でしたが、それでも二週間以上はかかりましたので、久しぶりに羽を伸ばしたいと思います。
まぁ、やることは山積みですけどね。
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