第606話 弓月の刻、今後の事を話合う
「オルフェさん、順調ですか?」
「今の所は問題ありませんが……本当に貴方たちには困ったものですね」
珍しくオルフェさんが深いため息をこぼしました。
それも仕方ないですよね。
女性や子供ばかりとはいえ、いきなり百人単位の人がナナシキへと送られてきたのですから。
僕だったら何が起きているのかを把握するだけで頭がパンクする自信があります。
まぁ、オルフェさんがここまで手際よく対処できているのは、事前に僕たちが伝えていたからというのもありますけどね。
「それで、今後はどうなるのですか?」
「まだ先になりますが、本人たちの意志を尊重する事になりましたよ」
「意志ですか?」
「はい。帰りを待つ人がいる者達は家へと帰し、何処にも居場所がなくなってしまった方に関してはナナシキやフォクシアで面倒を見る事になっています」
ただ連れ去られて来た人や家族を殺されたうえで奴隷にされた人など様々な人が居るという事ですね。
「となると、僕たちがちゃんとケアをしてあげなければいけないのですね」
「そうですね。子供に関しては孤児院がありますが、問題は大人の女性ですね」
子供の心配はいらなさそうですね。
何せ、その手のプロが目の前に居ますからね。
戦争や魔物により親をなくした子供達というのは僕も散々見てきましたが、オルフェさんと共に暮らし、同じ子供同士で過ごしていると自然と心の傷は癒えました。
僕も孤児院で育ったのでそれは僕がよく知っています。
しかし、大人の女性は違います。
流石に子供のようにはいきませんよね。
「それなら解決済みだから平気だよ」
「ダビドさんが受け入れてくれることになったの」
「それは心強いですね」
「ラインハルトのお陰だね」
ラインハルトさんを連れて行って正解でしたね。
そのお陰もあって、ダビドさんに正確に何が起きているのか伝わったみたいです。
もちろん、伝えてはいけない事は伏せていますよ?
「でも、アーレン教会で大丈夫なのかな?」
「うん。正直頼りない気がする」
二人が心配するのも無理はありませんね。
実際の所、ナナシキにあるアーレン教会は機能している状態とはいえません。
まぁ、これはナナシキの住民が教会に興味がないというのも理由の一つでもあるのですが、今のアーレン教会に集まるのはサンケの街から移住してきた百人に満たない魔族の人達の集まりですからね。
「百人くらい居るなら十分に多いと思うけどね」
「一般の信者は多いかもですね」
「それじゃ意味ない」
信者は多くても肝心の教会を運営する人が居なければ何もできませんからね。
セーラも聖女を辞めてしまいましたし、他の修道女の人もナナシキに移ると同時に教会を抜けてしまった人も何人か居るという事は聞いています。
なので、実際に教会を運営する人物はダビドさんを含めて数人しかいない状態がナナシキのアーレン教会だったりします。
ですが、そんな状態でもアーレン教会に任せて良かったと僕は思っています。
何せ、セーラもそうでしたが、アーレン教会の人々は同じような境遇を過ごしてきたのですからね。
なので、過去の事を思い出してしまうかもしれませんが、きっと今回救助してきた人の助けになってくれると僕は思っています。
「いいの? アーレン教会の信者が増えちゃうと思うけど」
「そこは問題ありませんよ。ヤオヨロズですからね!」
「うん。私達の目標」
ヤオヨロズには沢山のという意味があります。
沢山の種族、沢山の思想、沢山の崇拝があったいいと僕は思います。
まぁ、街を破壊したり謀反を起こしたりするような危険な宗教だったりしたら流石にダメですけどね。
ですが、アーレン教会……というよりもダビドさんは凄く真面目で誠実な方なのであの人が人を導く限りは大丈夫だと思えます。
「それで、あっちの件はどうなったのですか?」
「結論はまだ出てないかな」
「やっぱり時間が掛かりそうですか?」
「掛かるだろうね」
当然といえば当然ですね。
僕たちが今話している内容はリアビラ首都の話です。
「ですが、早くしないとダンジョン化が終わっちゃいますよ?」
「そうなったら潰すしかないね」
「誰かに悪用されたら困っちゃいますよね」
「うん。それなら潰した方がいい」
現在、リアビラの首都はリコさんの力によりダンジョン化が進んでいます。
ですが、実際の所はダンジョン化が進んでいるだけでダンジョンを作っているわけではなかったりします。
ただそうしないとあの街が砂漠の海に沈んでしまうので応急処置としてそのような形をとっているのです。
「ところでサンドラちゃんはどうしたのですか?」
「サンドラは家でサラとデルと遊んでる」
「一緒に居れなかったので仕方ないといえば仕方ないですね」
長く生きているとはいえ、中身が子供っぽいところもありますからね。
理性が本能に負ける所を見たのは一度や二度どころではありません。
「まぁ、リコとジーアの事もあるし、一人くらいは家に居てくれた方が当面は安心だしね」
「そういえば、そっちも今後は気にしなくてはいけないのですね」
「一気にやる事増えた」
本当ですね。
まぁ、それだけ進展したという事でもあるのですが、ざっと考えただけでもやる事は山積みです。
「とりあえず私達は暫くは新たな住民の管理かな」
「それとリアビラの首都もだね」
「それだけではありませんよ。ビャクレンとクリスティアとの交流も控えていますので」
「忘れてなかったけど、忘れてたことにしちゃダメですか?」
「ダメに決まってますよ。アカネに言いつけますよ?」
「それは勘弁してください」
「ふふっ、なら一緒に頑張りましょうね」
「私も出来る事はお手伝い致しますので、頑張りましょう」
「はーい……」
軽くまとめただけでもスノーさん達は仕事漬けになりそうですね。
そう考えると僕たちはまだマシですかね?
「リコとジーアのフォローが楽だと思う?」
「思いませんね」
もちろん、あの二人に対しては今まで通りに接するつもりではいます。
ですが、正体だけはバレないようにしなければいけません。
もしレンさんにリコさんとジーアさんの事がバレたら何が起きるか想像すらつきません。
まぁ、それはどの龍神様でも同じですけどね。
「っと龍神様で思い出しましたが、まだ加護って貰っていませんよね?」
「うん。バタバタしてたからまだ」
「それにダンジョンマスターの権限もですよね?」
「それもまだだね」
「だけど、ジーアさんの事もあるし、それは落ち着いてからの方がいいと思うの」
「そうですね」
リコさんはともかく、ジーアさんの力はまだ不安定のようで、力をうまく引き出せないみたいです。
そんな状態で加護を頂いても怖いですし、何よりもジーアさんの負担になってしまいます。
「だけど、ダンジョンマスターの権限は早めに欲しいかな」
「焦る必要はない。むしろ、焦ったらスノーが大変な思いをする」
「どうして?」
「ラディがいつも大変そうにしてるから」
「そういえば、魔物の管理が大変と愚痴をこぼしてましたね」
放っておくとダンジョンの中に魔物が溢れてしまうみたいです。
もちろんダンジョンなのでそれが当たり前で悪い事ではないのですが、一度増えてしまうと簡単に消す事は出来ないみたいなので、綺麗に保つためには魔物をしっかりと管理し、勝手に生み出されないようにしなければいけないみたいです。
「今の状態じゃ無理かな」
「落ち着いてからの方が良さそうだね」
「引き続き魔物の管理はラディに任せる方法もある」
「それならダンジョンマスターになっても大丈夫そうですね」
「そうだね。でもまぁ、ダンジョンマスターになった事で別の仕事が増えても今は困るし、なるのはもう少し先にするよ。そもそもダンジョンマスターに直ぐなれるかもわからないしね」
その辺りの話もまだ交わせていませんからね。
ですが、こう話してみると実感しますね。
遠い目標だと思っていたダンジョンマスターも龍神様もこうして現実として目の前にやってきました。
「そしたら、これからどうする?」
「暫くは街の仕事かな」
「それも大事。だけど、この先も必要」
「そうですね。街の発展を優先しても、魔力至上主義が復活して世界が壊れても意味がないですからね」
本末転倒ってやつですね。
「だけどさ、これ以上どうしようもなくない?」
「魔物と戦って経験を積んだりした所で限界はあるよ思うの」
それもそうなのですよね。
正直な所、龍神様の加護を集めるで一年を費やしてしまうと僕たちは予想していました。
ですが、思いのほかあっさりと龍神様全員を見つけてしまったのです。
なので、実はこれから先の事は何も考えていなかったりします。
「それならば、魔族領に行ってみたらどうですか?」
「魔族領ですか?」
「えぇ、まだユアン達はそちらに足を踏み入れた事は一度もないでしょう?」
「確かにないですね」
行く理由がそもそもなかったですからね。
「ならば行ってみるといいでしょう」
「何かあるのですか?」
「それは自分たちの目で確かめる事です。ですが、何も行動しないよりはいいと思いませんか?」
確かに何もしないのは一番良くないですね。
それに、オルフェさんが進めてくるくらいですし、何かしらの意味があるような気が僕はします。
「わかりました。それも踏まえてみんなと話合ってみます」
オルフェさんの案に乗り気ではありますが、僕一人が勝手に決める訳にはいきませんからね。
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