第605話 弓月の刻、リアビラの今後を考える

 「やばい……これは、やばすぎるね!」

 

 スノーさん達に時間が止まっていた時の事を伝えた結果、少し面倒な事になってしまいました。


 「スノーさん、そこはあまり……」

 「もうちょっとだけ……」

 「ひゃうっ、お姉ちゃん、助けてよぉ」

 「大丈夫大丈夫。いや~、ジーアは可愛いねぇ」

 「酷いよぉ」

 

 ジーアさんは困った顔で助けをリコさんに求めますが失敗に終わったみたいですね。


 「ユアンさん、助けてくれませんか?」

 「あー……すみません。そうなったスノーさんは僕では止められませんので頑張ってください」

 「うぅ……」


 ごめんなさい。

 本当にこればかりは無理なんです。


 「ここの部分はどうなってるんだろう……あ、凄いぷにぷにしてる!」


 スノーさん達に今の状況を説明する為にリコさんとジーアさんに翼を出してもらった結果、スノーさんは二人の翼を目にした瞬間暴走しました。

 リコさんとジーアさんの翼を比べながら、ぺたぺたと触り始めたのです。

 

 「スノー、ますますキモくなった」

 「もともとだぞー? 私も散々弄繰り回されたからなー」

 「だけど、流石に節操がなさすぎだと思うの」

 「獣耳や尻尾だけじゃなくて、翼でも嬉しそうですし、キアラちゃんの耳もよく触ってますよね」

 

 ここまでくると触れるのなら何でもいいのでしょうか?

 ですが、僕とシアさんの毛並みの違いを一瞬で見分けたりも出来たりもしますし、その辺に強い拘りもありそうなのですよね。

 

 「とりあえず、話が進まないのでスノーさんをどうにかしないとですね」

 「うん。キアラ」

 「はい……スノーさん!」


 びくりとスノーさんが体が跳ねました。

 やっぱりスノーさんの相手をするのはキアラちゃんが一番ですね。

 スノーさんはキアラちゃんに首根っこ捕まれるとそれだけで大人しくなり、その間にジーアさんがスノーさんから逃げるように離れ僕の後ろへと隠れました。

 

 「お疲れ様でした」

 「はい。ユアンさんの苦労が分かった気がします」

 「まだマシな方ですよ?」

 「あれでですか?」

 「はい。酷い時なんか耳の中の匂いまで嗅ごうとしてきますからね」

 「本当ですか?」

 「本当。だから、ジーアも気をつけるといい。これから狙われる」

 「気をつけます!」


 スノーさんの怖ろしさにジーアさんも気付いたみたいですね。

 ですが、これからが本当に大変だと思います。

 何せジーアさんは狐耳と尻尾だけではなく、翼まで自由に出せますからね。

 

 「いや~、ジーアはモテモテだねぇ」

 「他人事じゃない。リコも危険」

 「そうかね? ジーアで満足してたように見えたけど?」

 「そんな訳ないじゃないですか。スノーさんですよ?」


 ああなったらスノーさんは中々満足しませんからね。

 今はキアラちゃんが抑えてくれていますが、まだまだ満足していないに決まっています。

 きっと隙さえあれば誰かの事を狙っていると思います!


 「えっと、流石に言い過ぎじゃない?」

 「そんな事ない事実」

 「そんな事ないよね?」

 「あるよ。スノーさんはもうちょっと我慢を覚えた方がいいと思うの」

 「そうだぞー。これからは私の翼を触るのも禁止なー?」

 「あっ! それなら僕の耳と尻尾も触るの禁止でお願いします!」

 「私のも」

 「それは無理っ!」

 「それならちゃんと節度は守ろうね?」

 「気をつけるけど、そんなにだったかな?」


 本当に無自覚なのですかね?

 

 「それで、これからどうしますか?」

 「どうするって言われても困る」

 「むしろどうすればいいのかな?」


 ま、まぁそうなりますよね。

 僕たちの状況を振り返ると、実はかなり面倒な事になっている事に気が付きました。


 「とりあえず、この都は放置するしかないんじゃない?」

 「それしか方法がないですよね」

 

 何せ、リアビラの国を纏めていた王様は既にこの場所にはいないみたいですからね。

 話によれば他の街へと逃げたみたいですが、それも真実とは限りません。

 もしかしたらあの騒動の中で亡くなっている可能性もありますし、僕たちが倒したゾンビや屍鬼グールになっていた可能性もあります。

 

 「だけど、私達が都を解放したのに平和になったからといって戻って来られるのも癪だよね」

 「わかる。結構大変だった」

 「ですが、僕たちがこの事件を起こしてリアビラを占領したと言われても面倒ですよね」

 「そう言ってくるだろうなー」


 とても難しい問題になってしまいましたね。

 嫌な考え方になりますが、そうなるとかなり面倒なのであの騒動でリアビラの王様は居なくなっていればいいと思ってしまいますね。


 「ユアンちゃん達は何を悩んでいるんだい?」

 「この状況ですよ。どうするのがいいのかと思いまして」

 「悩む必要はないと思うよ?」

 「何でですか?」

 「だって、この街はもう終わってるじゃないか」


 まぁ、あれだけ街が破壊されていれば再建するのはかなり大変ですし、こんな事件が起きた場所でもう一度暮らしたいと思う人は少ないかもしれないですね。

 ですが、ここが故郷だと思っている人はきっといますし、少なからず住めるならば戻ってくる人はいるかもしれません。

 仮にナナシキが同じような境遇になったとしても、僕たちだったらまた一から街を再建しようとすると思いますしね。

 

 「違う違う、もうこの街を再建するのは無理って話だよ?」

 「無理ってどういう事ですか?」

 「そのまま意味さだよ。この街は闇の龍神様の力があったからこそ成り立っていた街だったみたいでさ、私がジーアの体に闇の龍神様を移したら崩壊が始まっちゃったみたいだね」

 「えっ! それは、本当ですか?」

 「うんうん。直ぐにという訳ではないけど、確実に終わりに向かっているとは思うよ」

 「そんなに闇の龍神様の力に依存していたという事なのですか?」

 「そういう事だね。魔力で出来る事は全てそこで補っていたんだろうね~」


 街にあった湖も街を彩っていた灯りも全て闇の龍神様の力があったからこそ保てていたのだとリコさんは言いました。

 しかし問題はそこではないみたいで、大変なのはその先みたいです。


 「という事は、近いうちにこの街は砂に呑み込まれるという事ですか?」

 「そうなると思うよ。対策しなければだけどね」

 

 闇の龍神様の力はこの土地にまで及んでいるみたいで、その力が完全になくなると、リアビラの都は砂の海へと沈んでしまうようです。


 「対策ってどうすればいいのですか?」

 「今できるのは魔力を確保する方法かな?」

 「それは無理ですね」


 一時的であれば可能かもしれませんが、この街を維持する為の魔力をずっと確保するのは流石に無理です。

 僕だってずっと魔力を注いでいられる訳ではありませんからね。


 「ならもう一つだね。だけど、これはあまりお勧めは出来ないかな」

 「どんな方法なのですか?」

 「リアビラの街をダンジョン化する方法だねぇ」


 確かにそれはやめた方が良さそうですね。

 もしダンジョン化したとしても管理する人がいませんし、出来たとしても生き残って戻ってきたリアビラの王様が何を言い出すのかわかりません。

 むしろ悪用するために動くのが容易に想像できます。


 「となると、リアビラの都は諦めるしかなさそうですね」

 「そうなるね。ま、猶予はあるしエレンちゃんと相談してみるのがいいんじゃないかな?」

 「エレン様とですか?」

 「うんうん。もしかしたら、ルード帝国と共同で管理できるかもしれないからねぇ」


 それもそうですね。

 もしかしたら、この場所が大事な拠点みたいな役割を果たすかもしれませんので、相談してみる価値はあるかもしれません。

 どちらにしても、エレン様達と合流する必要もありますしね。

 という事で、僕たちは一度エレン様達と合流する為に戻る事にしました。

 ジーアさんは先にナナシキへと戻してあげましたけどね。

 その時に、別れを惜しむようにリコさんがジーアさんの唇を奪い、ジーアさんが涙目になりながら怒るといった一幕がありました。

 それでも、送る際にジーアの尻尾は揺れていたので嬉しかったことは隠せていませんでしたけどね。

 そして、僕たちもその後無事にエレン様達と合流する事が出来ました。

 問題はどこまでこの事を伝えるかですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る