第603話 補助魔法使い、リコの正体を知る

 「お姉ちゃん、何を言っているの?」

 「そのままの意味だよ~?」

 

 リコさんの言葉にジーアさんが首を傾げました。

 当然ですよね。

 いきなりジーアさんも神様になって欲しいとか言うのです。

 そんな事を言われたら誰でも困惑しますよね……ん?


 「あれ、ジーアさん『も』ですか? という事は、リコさんも……神様だったりするのですか?」

 「簡単に説明するとそうなるのかな?」

 「お姉ちゃん、ちゃんと説明してくれる? じゃないと、全然わからないよ」

 

 僕もジーアさんと同じです。

 正直言って、今の状況は何も掴めていません。


 「そうだよね~。いきなり神様になってくれと言われても困るよね。うんうん、それじゃ、サクッと説明しちゃうから聞いてくれるかい?」


 僕とジーアさんはリコさんの言葉に頷きます。


 「まずは、私の事からだね。今まで黙っていて悪かったけど、実は私はこういう存在なんだ」


 リコさんの背中から翼が生えました。

 

 「綺麗……」

 「まるで、天使ですね」

 

 その翼は形こそ龍種の翼のような形をしていますが、半透明に光輝き、とても神秘的でした。


 「いや~、褒められると照れるねぇ」

 「うん。本当に綺麗だよ。だけど、その翼は一体何なの?」

 「この翼は私の中に眠る光の龍神様のものだよ」

 「光の龍神様ですか?」

 「うん。ユアンちゃん達が探す最後の龍神様が私って事なのかな?」


 まさかのまさかです!

 光の龍神様の手掛かりは今の所で何もなかったのですが、手掛かりどころか本人が目の前に現れてしまいました!

 けど、これはこれでマズいですよね?


 「えっと、リコさん?」

 「気にしなくてもいいよ? これは私が好きでやってきた事だからね? ジーアの事もあったし、ユアンちゃん達には感謝してるよ~」

 「それなら、良かったです」


 知らなかったとはいえ、僕たちは光の龍神様をメイドさんとして雇っていた事になります。

 それに対する謝罪をしようとしましたが、怒ったりなどはしていないみたいで良かったです。


 「うんうん。実際にあの当時の私の力は安定していなかったし、実際に助けられた事には変わりないからね~」

 「そうなのですか?」

 「そうなんだよね。まだ龍神様の力が馴染んでいなかったからね。ここまで操れるようになったのも割と最近の事なんだよ?」

 

 僕達とリコさん達が出会った時、二人は倒れていました。

 どうやらあれは演技ではなかったみたいですね。

 ですが、根本的な疑問があります。

 それは、ジーアさんも同じようで、その質問はジーアさんからリコさんへと投げかけられました。


 「お姉ちゃんが光の龍神様が居るって事なんだよね?」

 「そうなるね~」

 「そうなんだ……それじゃ、お姉ちゃんの人格というのはお姉ちゃんなの? それとも、光の龍神様のものなの?」

 「私は私だよ。ジーアと出会った時から何も変わっていない。この先もずっと私は私。まぁ、時々光の龍神様が顔を出すかもしれないけどね? それでも、ジーアの事を想っている事には変わりないよ?」

 「そうなんだ……良かった」


 安心したようにジーアさんは深く息を吐きました。

 ジーアさんが不安に思う気持ちは当然ですよね。

 僕だってシアさんが血の契約で操られた時は凄く不安で仕方ありませんでした。

 シアさんなのにシアさんではない人格に操られているみたいでそれが凄く怖かったのです。

 

 「という訳で、ジーアも神様になっちゃおうね?」

 「えっ、それはまた別の話だよ! 私が神様だなんて無理に決まってるじゃない!」

 「そうかな~? ジーアなら大丈夫だと思うんだけどね。それに、適性もあるしね~」

 「適正ですか? ジーアさんに?」

 「うんうん。というか、私とずっと一緒に居たからそうなったのかもしれないけど、ジーアは龍神様を受け入れる器があるんだよね。元々はそういう一族な訳だし」

 「そうなのですね?」


 龍人族を祀る一族だとは聞いていましたが、龍神様にも関係しているという事ですかね?

 その辺りも一度詳しく聞いた方が良さそうですね。

 光の龍神様でもあるリコさんがあの場所で暮らしていた意味もきっとありそうですしね。


 「それじゃ、ジーア準備はいいかい?」

 「良くないよ! ユアンさんじゃ、ダメなの?」

 「駄目ではないけど、私はジーアがいいな」

 「どうして?」

 「だって、私の正体を知った今、ジーアが今まで通り接してくれない気がするからねぇ」


 ジーアさんの性格からしたらそうなるかもしれませんね。

 僕の家には女神や龍神様など、とんでもない人が集まっています。

 その人達に対してジーアさんはいつも委縮しちゃっています。

 

 「そんな事ないよ、お姉ちゃんはお姉ちゃんだから」

 「本当かい?」

 「うん、本当だよ」

 「いや~。嬉しいねぇ! それじゃ、尚更ジーアには受け入れて貰わないとだねぇ」

 「どうしてそうなるの!?」

 「どうしてと言われてもねぇ? 私がそうしたいからに決まってるじゃないか」

 「それは理由になってないよ!」

 

 確かにジーアさんでいい理由ではないですね。

 

 「理由なんて必要かい? ジーアとずっと一緒に居たいと思う気持ちに、本当に理由が必要なのかな?」

 「え? お姉ちゃん、それはどういう意味なの?」

 「そのままの意味だよ? 私だってずっと自分の事で悩んできた。良くも悪くもこんなだからね?」


 リコさんが背中に生えた羽をパタパタと動かしました。


 「感覚でわかるのだけど、私とジーアの寿命は全然違うし、年を重ねればいずれかは老いて行く。もちろん、それが悪い事だとは思わないけど、私はそれが嫌なんだよねぇ。出来る事なら、今のままジーアと一緒の時を過ごしたいと思うんだ」


 スノーさんも同じ悩みがありますね。

 キアラちゃんはエルフで長命なのに対し、スノーさんは人族なのでエルフ族や僕たちに比べたら短命の種族です。

 きっとその感覚と同じような事をリコさんはジーアさんに感じているのだと思います。

 けど、これってまるで……。


 「お、お姉ちゃん……そんな告白みたいなの、流石に恥ずかしいよ」


 そうなんですよね!

 まるで告白みたいな内容に僕までドキドキしてきました!


 「違うよ。みたいじゃなくて、告白なんだけど?」

 「えっ……。冗談、だよね?」

 「冗談じゃないよ。私はジーアの事が大好きだからね~。一緒に居たいという気持ちに嘘はないさ」


 まさかの告白でした!

 

 「それは、闇の龍神様を助ける為の口実じゃないの?」

 「違うよ~。この子を助けるだけだったら別の方法が幾らでもあるからねぇ。ここにダンジョンを作って、そこの管理者にしてもいいわけだし」


 そういえば、光の龍神様はダンジョンを作る事ができるのでしたね。

 

 「まぁ、ジーアにその気持ちがないのなら無理は言わないけどね。私だけの一方的な想いでジーアに迷惑をかけるつもりは……」

 「い、一方的な想いじゃない! わ、私もお姉ちゃんの事が……すき」


 顔を真っ赤にしながらもジーアさんはリコさんにそう伝えるも、恥ずかしかったのかうつむいてしまいました。

 わかります!

 慣れるまで好きという気持ちを伝えるの凄く照れくさいのですよね。

 

 「い、いやぁ~……て、照れるねぇ。まさか、ここまで破壊力があるとは思わなかったよ」

 

 こっちは珍しいですね。

 ここまで動揺しているリコさんは初めてですし、照れているのも初めてみます。


 「お、お姉ちゃんが言い始めたんだよ」

 「あははっ、それもそうだったねぇ……ジーア、受け入れてくれるかい? ずっと一緒にいるためにさ」

 「うん。龍神様を受け入れる事は怖いけど、お姉ちゃんと一緒なら大丈夫なんだよね?」

 「大丈夫だよ。何があっても私がジーアを守ってあげるから」

 「うん……わかった。私、龍神様を受け入れるよ」

 「ありがとう。それじゃ……失礼するね!」

 「んんっ!?」


 あわわわわっ!

 それは一瞬の事でした!

 なんと、リコさんがジーアさんの顎をくいって持ち上げると、そのまま唇を重ねたのです!

 そして、そのままジーアを抱きしめると背中へと闇の球体となっていた龍神様を押し当てました。

 その瞬間。


 「わっ!」


 リコさんとジーアさんを中心に光が爆発するように広がり、それと同時に魔力が広がりました。

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