第601話 弓月の刻、闇の龍神様を発見する

 「なにこれ……」

 「魔素が、凄い」

 「これでどうですか?」

 「うん、平気かな。ありがとう」

 「助かる」

 「大丈夫なら良かったです。それにしても、凄い場所ですね」


 螺旋階段を上り、スノーさんが部屋に掛かっていた鍵を開けて部屋の中に入るために扉を開けると、開けた扉から驚く程の魔素が溢れだしてきました。

 魔力の器が大きくなったスノーさんが辛そうにし、それ以上に大きくなったシアさんですら驚いた程の魔素の濃さです。

 それを搾取ドレインを含ませた防御魔法で防ぎ、僕たちは部屋の中へと入りました。


 「これが、原因だったのですね」

 

 部屋の中へ入ると、その原因は直ぐにわかりました。


 「もしかしてあれって……」

 「闇の龍神様?」

 「だと思いますよ」


 部屋の中心には両手両足を鎖のようなもので繋がれ、宙へと吊るされた人の姿がありました。


 「なー! 直ぐに助けるぞー!」

 「サンドラ待つ」


 その姿をみたサンドラちゃんは直ぐに助けに向かいそうになりましたが、シアさんがいち早くそれに気づき、サンドラちゃんの腕を掴み飛び出すのを止めてくれました。

 

 「シアさんナイスです」

 「うん。危ない所だった」


 シアさんがサンドラちゃんを止めてくれなかったらゾッとしますね。

 もしあのままサンドラちゃんが龍神様の元へと向かっていたら、どうなっていたのか正直わかりません。

 もしかしたら何ともないかもしれませんが、龍神様の足元には魔法陣が展開されていますので、何か起きた可能性も十分にあり得たのです。

 

 「なー……でもー……」

 「直ぐに助けたい気持ちはわかります。ですが、まずは自分たちの安全を確保するのが先です」

 「自分たちの安全ってどうするんだー?」

 「まずは魔法陣の解析です」


 そして、出来る事ならその魔法陣の破壊ですね。


 「ユアン、気をつける」

 「わかりました。シアさん達も何かあったら直ぐに逃げれるようにしておいてくださいね」

 

 という事で、僕は一人龍神様の足元に展開される魔法陣へと近づきました。


 「これは……搾取ドレインですね」


 サンドラちゃんを止めて正解でしたね。

 もしあのままサンドラちゃんが突っ込んでいたのなら、サンドラちゃんの魔力はこの魔法陣によって根こそぎとられていた可能性があります。


 「あ、でもサンドラちゃんなら大丈夫そうですね」

 

 試しにどれくらいの効果があるのか触ってみると、少しだけ魔力を抜かれただけで済みました。

 恐らくですが、一気に魔力を抜くためではなく、長い期間をかけてじっくりと魔力を抜くようにしてあるのだと思います。


 「んー、でも何のためにそんな事をしたんだろうね~」

 「多分ですけど、この魔法陣は他の魔法陣に繋がっていたんだと思いますよ」

 「そうなのかい?」

 「はい。さっき魔法陣を壊してきたばかりですから……ってリコさん?」

 「なんだい?」

 「なんだい? じゃないですよ、どうしてここに居るのですか?」

 「そりゃ、来たからに決まってるじゃないか~」

 「いや、そうじゃなくてですね?」


 僕が知りたいのはルリちゃんと一緒に助けた人の面倒を見てくれていたのに、どうしてこっちに来たのかです。


 「あの後、ラインハルトちゃんとエレンちゃんが戻ってきたからね~。任せてきたんだよ」

 「そうだったのですね。ですが、ここに来るの早すぎませんか?」

 「そうかな?」

 「そうですよ。だって、結界が壊れたのってついさっきですよね?」

 

 リコさんが居た場所からこの場所までは結構な距離がありますし、この場所にくるにはお城の中に入り、一度外に出たりなど少し複雑な道を通らなければなりません。

 それなのに、僕たちと到着したのがほぼ一緒のタイミングなのです。

 これは流石に速すぎると思います。

 

 「まぁまぁ、細かい事はね? それよりもこの子を助けないとマズくないかな?」

 「そうですけど……」

 「なら早く助けてあげようか。手遅れになる前にさ?」

 「そうですね」


 リコさんの事は気になりますけど、リコさんの言う通り先に龍神様を助ける必要がありますね。


 「何か手伝う事はあるかい?」

 「いえ、これくらいなら僕一人で大丈夫です」


 ここ最近、魔法陣を壊す機会が何度もありましたしので、これも慣れたものですね。

 もちろん魔法陣によって壊し方は違いますけどね。

 ですが、洞窟にあった魔法陣とお城の地下にあった魔法陣、そしてこの魔法陣の制作者は同一人物のようで、全ての魔法陣に共通した癖がありました。

 なので、壊すのは比較的に簡単に出来そうです。


 「ここをこうしてあげれば……これで大丈夫ですね!」

 「どれどれ……うんうん、確かに大丈夫そうだね」

 「後は、この鎖をどうにかして龍神様を降ろしてあげるだけですね。シアさん、少し手伝って……あれ?」

 

 魔法陣を壊し、安全を確保できたのでシアさんに龍神様を助けるのを手伝って貰おうと声を掛けたのですが、何故か返事がありませんでした。

 いえ、返事だけではありません。

 全くといっていいほどに反応がなかったのです。


 「固まってる、のですか?」

 

 みんなの様子を不審に思い、試しにシアさんの顔の前で手を振ってみましたが、まるで時が止まってしまったかのように、シアさんはまばたき一つもしませんでした。

 

 「スノーさんも、キアラちゃんも……サンドラちゃんも?」


 しかも、シアさんだけではなく他の仲間たちも同じでした。


 「いったい何が……」

 「どうしたんだい?」

 「見ての通りです。みんなの動きが止まってしまったみたいで…………あれっ?」

 「どうしたんだい? 私の顔をジッと見つめたりなんかして?」

 「どうしてって……なんで、リコさんは動けているのですか?」

 「どうして? 決まっているじゃないか」


 リコさんがにこりと笑いました。

 そして、それと同時にリコさんの瞳の色が金色から灰色へと変化していきます。

 そして、リコさんは、いえ。

 リコさんの姿をしたリコさんではない誰かは静かに口を開きました。


 「前にも一度体験した事があるであろう? 久しいな、我が子よ」

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