第600話 弓月の刻、リアビラのお城へと侵入する

 「上、ですかね?」

 「下じゃなくて?」

 「わからないですが、何となく上のような気がします」

 「ユアンさんの勘が頼りですね」

 「自信は正直ありませんけどね」

 「下は通って来たから上の方が可能性が高そうだなー」

 「そうですね。どちらにしても、お城に続いていますので、お城の様子とかも書くにしておきたいですしね」


 という事で、ゾンビの発生源を解決した僕たちは龍神様と思われる反応を目指してお城へと侵入をしました。

 どうやら地下通路はお城の牢屋などがある場所に繋がっていたみたいで、僕たちはそこから上の階へと目指し進みました。


 「すんなりと出る事ができましたね」

 「うん。だけど、酷い有様」

 「ゾンビや屍鬼グールはこっちでも暴れたって事かな」

 「そうだと思うの。それで、死体がないのはやっぱり……」

 「あの場所に連れて行かれたんだろうなー」


 お城の中は至る所が壊され、血の跡が残っているのがわかりました。

 当然ながら、人の気配は全くせず、広いお城と惨状が相まって凄く不気味に思えます。


 「ユアンこっちでいいの?」

 「反応を頼りに進むのならこっちですね」

 「外に居るのかな?」

 「なのですかね?」

 

 こればかりは見て見ないとわかりません。

 僕はあくまで反応を頼りに進んでいるだけですからね。


 「この中みたいですね」


 お城から外に出ると、そこは緑の溢れた庭のような場所になっていました。

 砂漠の中にある街にも関わらず、木や芝生があるのはそれだけお金と手間をかけられているのがわかりますね。

 っと、それはさておき、僕たちはその庭を突っ切るとお城から少し離れた塔のような場所へとたどり着きました。


 「スノーさん、開けられますか?」

 「任せて……んっー! 駄目だね、扉に鍵が掛かってるみたい」


 塔の扉を力いっぱい押してみたみたいですが、扉はスノーさんの力を持ってしても、ピクリとも動きませんでした。

 それを見たシアさんは呆れたようにスノーさんに声を掛けました。


 「そうじゃない。水魔法で盗賊する」

 「あっ、その手があったか……って! 盗賊じゃないしっ!」

 「スノーさん、いいから早く開けて欲しいの」

 「あっ、ごめん」

 「スノーはキアラには敵わないみたいだなー」


 二人きりの時はわかりませんが、普段のやりとりを見る限り、スノーさんよりもキアラちゃんの方が立場が上って感じがしますね。

 これが姉さん女房って奴なのかもしれませんね。


 「ユアンさん? 私は妹ですからね?」

 「そ、そうでしたね」


 何も言っていないのにキアラちゃんから圧が飛んできました。

 鋭いですよね。


 「空いたよ」

 「流石は盗賊」

 「騎士なんだけど!」

 「やってる事は盗賊みたいだけどなー」

 「そうですね。あ、でも悪い意味ではないですからね?」

 「いい意味でも悪い意味でも嫌なんだけど」


 まぁ、盗賊って響きは嫌ですよね。

 いかにも何かを盗んだりして悪さをするイメージがありますからね。

 冒険者ギルドで登録する職業の意味では、罠の解除や斥候などをする職業ですが、名前からは想像できませんしね。


 「暗い。ユアン、明るくできる?」

 「はい……こっちは綺麗に保たれていますね」

 「塔が壊された様子もなかったし、ゾンビとかは侵入できなかったのかな?」


 その可能性が高いですね。

 ですが、もしかしたら地下があってそこからゾンビが現れる可能性もあるので油断は出来ませんけどね。

 今の所は大きな赤い点以外に反応はありませんので、近くにゾンビや屍鬼グールなどの魔物は居ない事はわかっていますけどね。


 「ここを上るのかな?」

 「螺旋階段って吸い込まれそうな感じがして凄く不気味に思えるの」

 「私も苦手だなー」

 「私は慣れた」

 「僕も慣れましたね」


 お家にも螺旋階段はありますからね。

 最初は僕も螺旋階段に苦手意識はありましたが、何度も通っているうちに苦手意識は薄れていきました。

 まぁ、流石に初めて通る螺旋階段はちょっと不気味に思えますけどね。

 それでも、螺旋階段の先に終わりが見えているのでそこまでだったりします。

 

 「こっちも鍵が掛かってるね。ユアン、この先なの?」

 「この先だと思いますよ。そうですよね? サンドラちゃん?」

 「そうだと思うぞー。龍神様の気配がするなー」


 ここまでくればサンドラちゃんもわかるみたいですね。

 僕もそれらしい魔力を感じているので、探知魔法がなくても間違いないと思えてきます。

 ただ気になる事が一つあって、龍神様の魔力がとても弱弱しいのですよね。

 もしかしたら、この中でまだ眠っているとかですかね?


 「とりあえず、鍵を開けるよ」

 

 慣れた手つきで水を操りスノーさんが鍵を開けていきます。


 「開けたよ」

 「手際良すぎ」

 「将来これで食べていけそうですね」

 「これで食べるつもりはないしっ!」

 「けど、本当に器用だと思うの」

 「単純に凄いなー」

 「そ、そうかな?」


 普段はみんなから不器用だとか雑だとか言われるスノーさんですが、こればかりは繊細な作業になるにも関わらず、上手くやってのけるので凄いですよね。

 みんなから褒められ照れるスノーさんを先頭に、僕たちは螺旋階段の先に繋がっていた部屋へと入りました。

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