第599話 弓月の刻、ゾンビが溢れた原因を探る

 「凄いジメジメしてる所でしたね」

 「うん。ユアンの防御魔法がなかったら過ごすのは大変だった」

 「それに匂いも酷かったしね」


 防御魔法があって良かったですね。

 過去形で話していますが、現在進行形で僕たちは地下通路を進んでいます。


 「普通の神経ではとても進めるような場所ではないと思うの」

 「ここで絶対に転びたくはないなー」


 足元はぬかるみ、気を抜くと滑ってしまいそうですね。

 原因は……あまり考えたくないですね。

 苔とかだったらまだ良かったのですが、きっと他の事が原因ですからね。


 「けど、こんな場所が本当にお城の地下へと続いてるの?」

 「僕がシアさんから読み取った記憶が間違ってなければ続いている筈ですよ」

 「私達が信じられないの?」

 「そういう訳じゃないよ。ただ、どうしてこんな道が続いていて居るのかなって思ってさ」

 「普通に考えたら脱出経路」

 「普通に考えればそうだろうけど、普通にこの状態はおかしいよね」

 

 言わざるを得ないって感じですかね?

 というよりも、小言を洩らさないとやってられないという感じだと思います。

 スノーさんが感じている事は僕も含めみんなが感じている事だと思いますからね。

 

 「スノーさん、その曲がり角に魔物です」

 「はいはい。どうせゾンビでしょ」

 「うがぁぁぁぁ!」

 「やっぱりね」


 僕達を襲うためにタイミングよく出てきたゾンビは呆気なくスノーさんの剣によって斬り捨てられました。

 お城の地下通路に向かってからずっとこの調子なのですよね。

 そのせいか、ゾンビを倒すスノーさんに躊躇いが一切なくなりました。

 それは僕とシアさんもだったりしますけどね。

 

 「それで、あとどれくらいで城につくの?」

 「お城の地下にはもう到達している頃だと思いますよ」

 「そうなんだ。代わり映えがないから気づかなかったよ」

 「地下は地下だから。だけど……ほら」

 「階段だなー」

 「あそこから城の内部に出られるのですか?」

 「一応はそうですけど、僕たちが今いる場所は地下で表すと地下二階の場所ですので、あそこを登っても地下一階に進むだけですね」

 「目的地はそこだなー?」

 「そうですね。なので、ゴールといえばゴールになりますね」


 問題はそこに辿り着くまでが大変という事でしょうか。

 僕が覗いた記憶ではこの先に待ち構えるのはまたしても大量のゾンビと屍鬼グールですからね。


 「だけど、そこを突破すれば私達の目的は達成できるんだよね?」

 「一つ目の目的はそう。だけど、本当の目的はまだ達成できない」

 

 シアさんの言う通りですね。

 リアビラがこんな事になっているので、つい忘れがちですが、僕たちがリアビラを目指していたのは闇の龍神様を探すためです。

 

 「ちなみにそれらしい反応はあったのですか?」

 「その反応は今の所はありませんね」

 「それじゃ、この辺にはいないのかー?」

 「そうなるのですかね?」

 「わからない。結界のせいで認識できていない可能性もある」


 あっ! 確かにその可能性もありますね。

 となると、僕たちも早くやる事を終わらせてエレン様とラインハルトさんを手伝った方がいいかもしれませんね。

 遅くなればなるほど、リコさんとルリちゃんの負担も大きくなるでしょうしね。

 という事で、僕たちは階段を上り、お城の地下一階へと向かいました。


 「こっちだよね?」

 「恐らくそうですが、よくわかりましたね」

 「そりゃね。敵の数がどんどん増えてるからね」

 「流石にちょっと数が多すぎると思うの」

 「燃やせれば楽なのになー」

 「それは最終手段。今は我慢する」

 「そうですね。まぁ、屍鬼グール以外なら簡単に倒せますし、頑張りましょうね」


 シアさんの影狼で探れたのは地下一階へと続いていた階段までで、僕たちが進んでいる通路は探れていません。

 なので、ここからは完全に手探りになるのですが、正しい道を進めている自信があります。

 それだけ敵が多くなっていますからね。


 「あれがそうですね」

 

 一目でわかりました。

 ゾンビや屍鬼グールを倒しながら道を進んでいくと、僕たちは扉が内側から壊された部屋へとたどり着きました。

 

 「あっちがゾンビを生み出す魔法陣ですね」


 ゾンビを倒しつつ部屋に入ると、部屋の中央ににある場所からゾンビが生まれているのがわかります。

 正確には、一定の速度で動く床があって、そこに乗って人の死体が流れてきて、魔法陣に乗るとゾンビが生まれていくといった感じですね。


 「あの死体は何処から来てるんだろう」

 「助けた人の話だと、屍鬼グールが死体を攫って行くと言っていたので、その屍鬼グールがやっているのかもしれませんね」


 そして、その予想は当たりました。

 部屋の中にいたゾンビとゾンビを生み出す魔法陣を壊し、死体が流れてくる隣の部屋に向かうと、そこには数匹の屍鬼グールと山積みになった死体がそこにはありました。

 

 「ここに死体を集めて、先ほどの部屋でゾンビを生み出していたのですね」

 「うん。ユアン」

 「はい……安らかに。聖炎セイントフレイム


 青い炎が部屋の中に広がり、死体を焼いていきます。

 

 「これでこれ以上ゾンビが増える事はなさそうだね」

 「そうだね。だけど、まだゾンビは居ますよね?」

 「居る。それに、どうしてこうなったのかを確かめる必要もある」

 「そうですね。ですが、その原因ならゾンビが運ばれていった部屋をみればわかりますよ」

 「行ってみるかー」


 ここまで色々とありすぎて、肉体的にも精神的にも疲れてしまいましたが、恐らくはそこを探れば全てがわかるので、僕たちは二つ隣の部屋へと移動をしました。


 「まだ、こんなにいっぱい居たのね……」


 二つ隣の部屋に移動をしようとしましたが、それはできませんでした。

 というのも、その部屋はゾンビで埋め尽くされ、とてもではありませんが入れる隙間すらなかったのです。


 「ユアンの出番だなー」

 「そうですね」


 まぁ、聖炎セイントフレイムで焼いてしまうだけなので、そこまで苦労はしないので任されても大丈夫ですけどね。

 すっかりゾンビにも慣れてしまいましたし。


 「これで終わりですね」

 「お疲れ様」

 

 シアさんが優しく頭を撫でてくれます。

 これだけで頑張った甲斐があったと思えますね。


 「それで、結局の原因は何だったの?」

 「予想通りでしたよ。あれを見てください」


 僕の指さした先には、薄っすらと光る魔法陣がありました。


 「起動していないのかー?」

 「一応は起動していますけど、反対側が起動していないので、ああいう状態なのだと思います」

 「反対側というと、あの洞窟の?」

 「はい。アーリィに座礁した船に居たゾンビはここから送られていたのだと思います」


 それを僕たちが潰してしまったので、行き場のなくなったゾンビがここから溢れてしまったのだと思います。

 

 「誰も止めなかったのかな?」

 「止めれる人が居なかっただけだと思うの」

 「僕もそう思います」


 魔法陣の扱いは素人には無理ですからね。

 

 「でも、魔法陣を造った人がいるのなら、その人が止めればこんな事にはならなかったよね?」

 「その人が居なかったのだと思いますよ」

 「どうして?」

 「レンさんが連れて行っちゃったからです」


 これも僕の予想ですけどね。

 恐らくですが、この魔法陣を設置したのは魔力至上主義の関係者だと僕は思っています。

 ですが、その魔力至上主義の人はレンさんが強制的にレンさんが造ったという世界へと連れて行ってしまいました。

 なので、その結果この魔法陣は放置されこんな事になってしまったのだと思います。


 「というのが、僕とキアラちゃんの予想です」

 「それしかあり得ないと思うの」

 「この国に王が放置した理由は?」

 「魔法陣を通じて勝手に何処かに送りこんでいるので大丈夫だと判断したのではないでしょうか?」


 まさか僕たちが魔法陣を壊して、転移を防ぐとは思っていなかったのでしょうね。

 

 「気づいたら手遅れだったという事だなー」

 「そうですね」

 「という事は、やっぱり私達の責任でもあったわけか」


 そういう事になりますね。

 根本的には魔力至上主義の人たちが悪いにしても、僕たちが魔法陣さえ壊さなければ、ここまでならなかった筈ですからね。


 「気にしても仕方ない。私達が魔法陣を壊さなくてもいつかは同じことが起きていたかもしれない」

 「そうだね。魔法陣を管理する人が居ない以上はいつ壊れたっておかしくなかったわけだし」


 そういう考えも確かに出来ますね。

 

 「そういう事で、とりあえずは残りのゾンビをを倒しちゃおうか」

 「そうですね。これ以上ゾンビは……ふぇっ!?」

 「どうしたの?」

 「あっ、いえ……結界が急になくなったのでびっくりした、だけです」

 「エレン様とラインハルトさんがやってくれたのかな?」

 「多分、そうだと、思います」

 「ユアン?」

 

 シアさんが僕の顔を覗き込み、ジッと見てきます。

 まぁ、あれだけ歯切れが悪くなってしまえば、シアさんじゃなくても気付きますよね。

 僕が動揺した事くらいは。

 でも、誰でもびっくりすると思いますよ?

 僕たちが居るのはお城の地下ですが、その近くに大きな赤い点……つまりは龍神様と思われる反応がいきなり現れたのですから。

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