第598話 補助魔法使い、作業をする

 「これで、最後だね」


 スノーさんの剣がゾンビへと深々と刺ささると同時に、ゾンビの体が青い炎に包まれ消えました。


 「ふぅ……どうにかなりましたね」

 「うん。流石に疲れた。精神的に」

 「僕もです。ただ、まだ終わりではないので油断は出来ませんけどね」


 この場所にいるゾンビは一掃できましたが、お城へと続く道にはまだまだ沢山のゾンビが居る事はわかっています。

 とりあえず、その通路を塞いだので落ち着いていられますが、この後にもゾンビとの戦いが控えていると考えると気が重くなりますね。

 

 「それにしても……ユアン殿の魔法は凄いな」

 「相性が良かっただけですよ」

 「それでもだ。あの発想は素晴らしかったと思う」


 何でも試してみるものですね。

 先ほどスノーさんが最後のゾンビを倒したのですが、その時にゾンビは青い炎に包まれました。

 あれはスノーさんの魔法ではなく、実は僕の付与魔法エンチャウントで【聖炎セイントフレイム】を付与してみたのですよね。

 その結果、付与魔法エンチャウントされた武器で攻撃されたゾンビは青い炎に包まれ、それだけで倒せるようになったのです。

 ゾンビに対し特攻効果を得られ、ゾンビの死体も同時に処理ができるなの、非常に役に立つ事がわかりました。


 「ユアンさん、こっちも大丈夫そうだよ」

 「ありがとうございます。深手を負っているような人はいない感じですかね?」

 「うん。ざっと見て回っただけだけど、問題がありそうな人は居なかったと思うの」

 「それは良かったです」

 「危険人物は居ない?」

 「それも大丈夫だと思うぞー。大半が女子供だったからなー」

 「それでよく耐えられたよね」

 

 本当ですね。

 戦いが本職ともいえる僕たちでさえこの量のゾンビを相手にするのは少しばかり骨が折れました。

 これが一般人でも厳しいのですから、女性や子供であればもっと大変だった筈です。


 「正直ギリギリだったみたいですよ。後数時間もすればゾンビに押し切られていたと思うの」

 「間に合ってよかったという事ですね」

 「うん。だけど、問題はこれから」

 「だね。あの人たちをどうするつもり?」

 「話を聞いてみない事にはなんとも言えませんね。とりあえず、中の様子を自分たちの目でも見て見ましょうか」


 キアラちゃんの報告では、ここに居た人は女性や子供ばかりだと言っていましたが、問題はどうしてこんな場所に居たのかです。

 

 「なるほど。みなさんは奴隷として連れてこられた人だったのですね」


 シアさんの記憶で見た時にわかっていましたが、まさか全員が奴隷だとは思いもしませんでした。

 

 「しかも、アルティカ共和国から連れてこられた人ばかり」

 「これは国に帰してあげた方がいいかもね」


 話を聞いていると色々な事がわかってきました。

 どうやら、奴隷として捕まっていた人たちの大半は誘拐されて連れてこられた人ばかりのようです。

 

 「また鼬国かー」

 「本当に迷惑ですよね」


 しかも、その誘拐の犯人は鼬国が関わっているようで、話を聞いた人の大半からその名前が挙がりました。

 国が滅んでもこうやって名前が出てくるとは思いませんでしたね。

 鼬族の全員が悪い訳ではありませんが、ここまで腐敗した国であったのなら、一度滅んで正解だったと思えてきます。


 「とりあえず、僕は作業に移りますので、みなさんは食事などのケアと誘導をお願いします」

 「一人で大丈夫?」

 「誘導さえして貰えれば大丈夫ですよ。それに、これは僕にしか出来ませんからね」


 今からやらなければいけない作業の事を考えると少し憂鬱ですけどね。

 ですが、そうも言っていられません!

 みんなを解放するには避けられない作業ですからね!

 

 「では、どんどんやっていきましょう!」

 

 という事で、僕は作業に入ります。

 もちろん、奴隷の人が相手となればやる事は決まっていますよね?

 そうです。

 今から全員の隷属の首輪を外す作業をやらなければいけないのです。


 「一列に並んで。そっちじゃなくてこっちね」

 「首輪を外し終わったら、あっちに行く」

 「こっちに温かいスープがあるぞ~」

 「その前にこっちで体を拭いてくださいね」

 

 僕も大変ですが、みんなも大変そうですね。

 ある程度は言う事を聞いてくれますが、奴隷の中にはまだ幼子といっていいほどの少年少女が混ざっていますので、みんなの指示をちゃんと聞けずに勝手に列から外れたり割り込んだりしています。

 中には状況がわからずに泣き出してしまう子までいる始末です。


 「ほら、君は男の子だろう? 強くならないと駄目だぞ」

 「別に泣いたっていいんだよっ! みんなは一杯頑張ったからね、とっても偉いんだよ!」

 「ほら、もっとだ、高いだろ!? 待て待て、順番だ順番。守らないと遊んであげないからな?」

 


 ですが、その辺はルリちゃんやラインハルトさんと意外な事にエレン様が上手く対応してくれているのでどうにかなっていますね。

 そのお陰で、何とか混乱は避ける事が出来ていますね。

 なら、僕は僕で頑張らないといけませんね。


 「はい。これで大丈夫ですよ」

 「ありがとうございます……このご恩はー……」

 「気にしないでくださいね。それよりも、後がつかえていますので、先に進んでください。はい、次の方~」


 ある意味これも経験が活きているのかもしれませんね。

 僕の元に並ぶ人は、首輪を外してあげると涙を流しながらお礼を伝えてくれます。

 ですが、まだまだ首輪を外さなければいけない人は山ほどいるので、一人一人からお礼の言葉を受け取っていたらとても今日中には終わらなくなります。

 なので、少し申し訳ないと思いつつも、僕はお礼の言葉に軽い返事だけをして次の人の相手をするように心がけました。

 チヨリさんのお店に並んでくれるナナシキの人達と同じような対応ですね。

 まぁ、ナナシキ人達でしたらもう少し丁寧に接し、もう少し話を聞いたりしますけどね。

 それでも、ちょっとだけあの状況に似ていて、それが活きていると思えました。

 

 「ふぅ……疲れましたね」

 「うん。人を沢山相手するのは大変」

 「そうだね。特にユアンはお疲れ様」

 「全員の首輪を外すのは大変でしたよね?」

 「いったい幾つの首輪を外したんだー?」

 「途中から数えるのを辞めたのでわからないですよ」


 数えても数えても、ずっと後ろに列が続いていたので途中で数を数えるのは諦めました。

 そんな事で集中力を落として、首輪を外すのに失敗しても嫌ですからね。


 「それで、この人達はどうする?」

 「一応は連絡待ちだよ」

 「誰の?」

 「アリア様のですよ。判断するのはアンリ様ですけどね」

 「先に準備してたんだなー」

 「はい。キアラちゃんが連絡を入れてくれたので助かりました」

 

 といっても、一方的に連絡をしただけですけどね。


 「返事はどうやって貰うの? このままじゃ無理」

 「そうですね。なので、ここからは本格的に手分けする必要がありますね」


 シアさんが言った通り、ここで待っていてもアリア様からの返事は直ぐには戻ってきません。

 なにせ、リアビラには結界のようなものが張られ、外から内には干渉できないようになっていますからね。

 なので、返事を頂くためにはまずはその結界をどうにかしなければいけないのです。


 「ふむ。結界なら私達がどうにかしよう」

 「大丈夫なのですか?」

 「問題ないさ。エレンとならね」

 「うむ。頼りにしているぞ、ラインハルト」


 状況を説明すると、結界壊すためにラインハルトさんとエレン様が動いてくれる事になりました。

 いつのまにかお互いに呼び捨てで呼び合うほどに仲良くなっているみたいなので安心できますね。


 「なら私とルナちんでこの場を預かろうかな~」

 「メイドさんとしての本領発揮なんだよ!」

 「それは助かりますね」


  助けた人達の面倒を見てくれる人も必要ですし、いざとなったら戦える人も残しておかないと不安だったので、二人がこうして立候補してくれたのは正直助かりました。


 「それじゃ、僕たちは元凶の大元の調査ですね」

 「うん。次が生まれる前に潰す」

 「また戦うと考えると憂鬱だけどね」

 「仕方ないと思うの。私達が何もしない訳にはいきませんから」

 「なー、私はあまり役にたてそうにないけどなー」

 「大丈夫ですよ。サンドラちゃんにもきっと役目がありますからね」


 僕たちの仲間に足手纏いは居ませんからね。

 仮に仕事がなくても、一緒にいてくれるだけで心強いですのでそれ自体が役目だともいえます。

 という事で、僕たちはゾンビの発生源を確かめ、エレン様とラインハルトさんは街の結界、リコさんとルリちゃんは救助者の面倒を見る事が決まりました。


 「無理はしないでくださいね。危険だと思ったら必ず引いてください」

 「わかっているよ。結界が壊せても壊せなくても、ユアン殿の防御魔法が切れる前には戻ってくるようにする」

 「絶対にそうしてくださいね。ルリちゃんの方は……」

 「私の方は罠を仕掛けておくから心配いらないんだよっ!」

 

 両方とも問題なさそうですね。

 これなら僕たちは自分たちの事に集中できそうです。

 

 「では、行ってくるよ」

 「はい、気をつけてくださいね」

 「うん。いくぞ、エレン」

 「うむ!」

 

 ラインハルトさんとエレン様が二人並んで結界を探しに出かけ、僕たちはそれを見届けました。


 「では、僕たちも行きましょうか」

 「うん。場所は検討ついてる」

 「お城の地下ですよね?」

 「うん。真っすぐ進むだけ」

 「敵を倒しつつ真っすぐ進むって事だよね?」

 「そうなると思うの」

 「面倒だなー」

 「本当ですね」


 しかし、やらなければいつまで経っても終わりませんからね。

 嫌でもやるしかないのです。

 という事で、僕たちもこうなった原因を探るためにお城の地下へと向かいました。

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