第596話 補助魔法使い、嫁の記憶を探る

 「ユアンさんはどう思う?」


 シアさんが影狼を操って情報を得ている間、僕たちは暫しの休憩をとっていると、突然キアラちゃんからそんな質問が飛んできました。


 「何がですか?」

 「こんな事になった原因ですよ」

 「原因ですか……やっぱり、魔力至上主義が関わっているとは思いますけど、キアラちゃんはどうですか?」

 「私もそう思うの。だけど、私達も原因の可能性もあるような気がしてるの」

 「僕たちもですか?」

 「うん。ほら、あの時……」


 キアラちゃんが立てた予想を僕は静かに聞きました。


 「…………十分にありえますね」

 「そうだよね」

 「というか、その可能性が一番高いだろうなー」

 「それを聞いたらその可能性意外に考えられないんだけど」

 「つまりは、僕たちがやらかしてしまったという事ですね」

 「まだ決まった訳ではありませんけどね」


 その話は休憩をとっていたスノーさんやキアラちゃんにも聞こえていたようですね。

 

 「ただいま……どうしたの?」

 「おかえりなさい。えっとですね……」


 そんな会話をしているとシアさんが戻ってきたと言えばいいのですかね?

 正確には意識を他に集中しているだけで、目の前にいるのですが、僕たちのことはあまり見えていない状態から戻ってきた訳ですが、とにかくシアさんは戻ってきました。


 「なるほど。それは私達が原因の可能性が高い」

 「やっぱりそう思いますよね」

 「まぁ、それは仕方ないとして、シアの方はどうたったの?」

 「ちゃんと探ってきた。ただ、面倒な事になってる」

 「面倒な事ですか?」

 「うん。まず、入口が複雑……ユアン手伝って?」

 「わかりました」


 僕たちの話は一度置いておき、先にシアさんが探ってきた事を共有することになりました。

 

 「手伝うって何をすればいいのですか?」

 「私の見てきた事を図面にして欲しい」

 「僕がですか? どうやってやるのです?」

 「出来ないの?」

 「無理ですよ。むしろ、そんな方法があるのですか?」

 「ある。前にシノとルリがやってた」

 「シノさん達が……あっ! あの時ですね?」


 思い出しました!

 あれは僕たちがまだナナシキに住み始めた頃で、少しでも街が発展するように、イルミナさんにお店を出さないか相談をしようとした時の事でしたね。

 あの時はまだ僕は転移魔法陣は使えても、陣を使用しないと転移魔法は使えない状態で、イルミナさんの所に向かうのにシノさんに手伝ってもらったのですよね。

 その時に、シノさんがルリちゃんの記憶を覗いていた事がありました。

 シアさんはあれを僕とやろうとしているのですね。


 「出来そう?」

 「わからないです。ですが、シアさんとなら出来る気もします」

 「うん。なら試してみる」

 「わかりました」


 完全に手探りになってしまいますが、とりあえず試してみる事にしました。


 「えっと、確かこうでしたよね?」

 「うん。おでこをくっつける」


 シアさんの顔が近づき、おでことおでこをコツンとくっ付けます。

 何度もシアさんとはキスを交わした間柄ではありますが、恥ずかしいですね。


 「する?」

 「し、しませんよ!」

 「しないの?」

 「今はしませんよ!」


 みんなが見ていますからね。

 そんな中でキスなんかできません。


 「それよりも、シアさんも集中してください」

 「何を?」

 「僕に伝えたい事を思い出してくれれば大丈夫です」

 「わかった」


 僕はそれを読み取るだけですね。

 問題は、それをどうやればいいのかという事ですが……シアさんやルリちゃん、そしてシノさんの事を思い出せばそれが応えになりますね。

 仮にあれが影狼族が関係した魔法だとすれば、そこから辿っていけばいいですし、シノさんの魔法だとすれば、そっちの方面で考えれば答えが出ますよね?

 つまり、何が言いたいかというと……。


 「シノも、影狼族も得意としているのはどちらかというと闇魔法だよね」


 そこから探ればいい。

 すると、ふと私の頭の中に知識のようなものが流れた。

 この感覚も久しぶり。

 何をどうすれば今からやろうとしている魔法が使えるのかが、頭と体でわかる。

 私はそれの感覚に従い、シアと私を繋げるように魔力を流す。


 「ゆあん」

 「何?」

 「ちゅーしていい?」

 「だめだよ。もうちょっと我慢して」

 「むぅー……」

 「いい子だから、ね?」

 「わかった」

 

 恥ずかしい事に、シアから流れる映像は私の事ばかりだった。

 嬉しいけど、今必要なのはその情報ではない。

 どうにかその気持ちを落ち着かせて、私はシアの記憶を読みとり、忘れないように用意した紙へと書きこみ、簡易的な地図を作っていく。


 「器用な事をしてるね~」

 「そう? 魔法陣を書くよりは簡単だよ」

 「どっちも変わらないと思うけどね~」

 

 全然違うけどね。

 地図は多少雑に書いても道さえわかればどうとでもなるのに対し、魔法陣は少しでも間違えたり雑に描いてしまえば、違う効果が現れたり、効果が落ちるからね。


 「こんな所ですかね?」

 「ユアン、ユアン!」

 「はい?」

 「私、我慢したよ?」

 「偉いですね! ほら、いい子いい子ですよ」

 「むぅー……そうじゃないないの。ちゅーするの」

 「それは後でですよ。シアさんが見てきた通り、急がないと手遅れになってしまいますからね」

 「約束?」

 「はい、約束ですよ」


 僕だってシアさんとちゅーするのは好きですからね。

 ですが、そう言っていられない状況になっているのがシアさんからの記憶でわかりました。


 「道を進めば、魔物の群れに遭遇しますので、移動しながら戦える準備はしておいてください」

 「そんなに数は多いのですか?」

 「多いですね。少なくとも、エレン様とラインハルトさん二人だけに任せるというのは無理なくらいはいました」

 「そんなに沢山いるんだ。気をつけるのはそれくらい?」

 「いえ、魔物に対抗するために人が集まっていますので、その人の救助もしなければいけません」

 「手分けするのかー?」

 「そちらは大丈夫だとは思います。上手く立ち回っているみたいだったので、暫くは持ちこたえてくれると思いますので」

 「なら、私達は魔物の殲滅に動けばいいんだね」

 「そうなりますね。ただ、相手はゾンビが主ですので、嫌な戦いになるので覚悟はしておいてください」

 「平気。体液が付着するのは嫌だけど、人命には変えられない」

 「私も見た目が嫌だとかは言っていられないですね」

 「僕もですね」


 出来る事ならゾンビなんて相手にしたくはありませんが、流石にここまでくると見慣れてきた気もしますし、今なら僕も戦えそうな気がします。


 「では、一度エレン様とラインハルトさんにも集まって貰って作戦会議をしましょう」

 「ほいほい~。ちょっと二人を呼んでくるから待っててね~」


 リコさんが簡易拠点の入り口を守る二人を呼びに向かい、リコさんは二人を連れて直ぐに戻ってきました。


 「拠点の入り口は大丈夫なのですか?」

 「問題ないよ。近くに魔物は居なかったからね」

 「それなら良かったです。では、二人は休憩しながらでいいので聞いてください」


 シアさんから受け取った情報を二人にも伝え、今からやらなければいけない事をみんなにも説明します。


 「なにか問題はありますか?」

 「救助した人はどうするつもりなのだ?」

 「それは後で考えます。流石にそこまでの面倒は今は見れませんからね」

 「ふむ。了解した。この件が終わったら私も父上に相談してみよう。ユアン殿達の力になれる事もあるだろうし、私達も無関係とはいえないだろうからな」

 「助かります。他にはありますか?」


 僕では気づかない事も、こうしてみんなにも考えて貰う事で気付ける事もありますからね。

 ですが、今回はこれ以上はないみたいで、各々武器を手に取ったりして準備を始めました。


 「では、行きましょうか」

 「うん。私が案内するから、みんなは後ろからくるといい」


 ゾンビが相手だというのに、先頭をいくと言ったのはやる気になった証拠ですね。

 もちろん、僕だって人の命が関わっているのでやる気に満ち溢れています。

 

 「こっち」


 そして、シアさんに続き僕たちは魔物の大群が居る場所へと向かいました。

 救助を待つ人たちを助けるために。

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