第593話 補助魔法使い達、妙な噂を聞く

 「おやおや? ふむふむ……」

 「どうしたんですか?」

 「あー、ジーアが……ううん。何でもないよ~? まぁ、随分と遠くまで来たと思ってね~」

 「そうですね。ついにここまで来てしまったという感じがしますね」

 

 ジーアさんの事を言いかけた辺り、リコさんも淋しくなってきたのかもしれませんね。

 それも仕方ありません。

 僕たちの旅は間もなく二週間が過ぎようとしています。

 船の旅という事で順調に進んでいるので気が付きにくいですが、距離をみればナナシキから随分と離れました。

 きっとナナシキとトレンティアくらいの距離は離れていると思います。

 そう考えると、近いようにも感じるので難しい所ですけどね。


 「ユアン。あとどれくらいでリアビラに着くの?」

 「このまま順調に行けば明日の夕方くらいには着くだろうとルリちゃんは言っていましたよ」

 「わかった。ルリが言うのなら多分その通りになる」

 

 どれくらいの速度で船を進めれば、次の日にどの辺りまで進むのかがわかる計算式と地図の見方があるのですが、僕はそれのやり方がわからないので、予めルリちゃんが計算してくれてあった予測をシアさんへと伝えます。

 

 「私達の目的もあとちょっとで達成できるとなると感慨深いものがあるね~」

 「そうですね。といっても、僕たちはここからが本番ですけどね」

 「そうだったね~。まぁ、私達も手伝えることは手伝うから何でも言っとくれよ」

 「その時はよろしくお願いしますが、どうなるのかは未定なので何とも言えませんけどね」


 ここまでは順調すぎるほどに順調です。

 もしかしたら、リアビラからちょっとした妨害を受ける事も予想していたりもしましたが、今の所はその様子もありません。

 てっきり盗賊くらいの襲撃はあったりするかと思ったのですが、全くと言っていいほど平和な旅が続きました。


 「逆にその反動が怖いかな」

 「そうだね。リアビラの宿屋でも安心しない方がいいと思うの」

 「そうですね。とりあえず、安い宿屋は泊れないですよね」


 どこの国や街でもそうですが、低い宿屋ほどサービスや治安が悪い傾向にあります。

 そもそもの経営者が裏の人間だって事もありえますからね。

 リアビラで宿をとる際は、そういった所も気をつけなければいけないと思います。


 「今更ですけど、本当に僕はこのまま行くのですか?」

 「それが無難。実際に、ユアンも見たはず。獣人の扱いを」

 「まぁ、そうですけどね」


 ラ・ムウの街から出発してから、何だかんだ幾つかの街に寄る機会がありましたが、どの街に寄っても奴隷の方は居ました。

 しかも割合的には人族よりも獣人の奴隷が多く思えました。

 それだけリアビラ領では獣人の扱いが酷く、身分が低いのかもしれません。

 なので、僕が普通に歩いているだけで、簡単にトラブルが起きてしまう事は容易に想像できますよね。

 

 「その為のこの姿ですけど、みんなから離れるのは危険ですね」

 「それは全員に言える事だけどね」

 「そうですね。人族の奴隷も居ましたし、エルフの奴隷も居てもおかしくはありませんから」

 

 老若男女問わず、みんなが常に危険な立場にあると考えるべきですかね。


 「だけどさ、万が一誰かが攫われたりしたらどうする?」

 「その時は容赦しない」

 「下手すれば国を相手する事になるけど、それでも?」

 「勿論。スノーは見捨てる?」

 「まさか。仲間を見捨てる選択肢はないよ。だったら国を相手に戦った方がずっとマシかな」

 

 そこまで大きな問題にならないことを祈るばかりですが、その可能性は十分にありえるのですよね。

 まぁ、そうなった時の覚悟は僕たちは出来ていますので、やれるものならやってみろって感じです。

 もちろん、平和に終わるのなら平和が一番ですけどね。


 「ちなみにだけど、あの噂ってどう思う?」

 「あの噂ですか? 僕は流石に冗談だとしか思えなかったですよ」

 「私もかな。そんな状態になっていたら、もっと噂が流れると思いますし」

 「うん。普通にありえない」

 「そうだなー。だけど、噂を流した人物を見た限り、嘘だとも思えないぞー」

 「確かに、あれが嘘でやっているのなら大した演技力だとは思いましたけど……」


 流石にあの噂を信じろ言われても無理があります。

 

 「スノーはどう思う?」

 「私も信じてはないよ。だけど、もしかしたらあり得るかなとは思っているかな」

 「どうしてですか?」

 「私達のいく先ってどうしても色んな事が起きるからさ。それくらいの事があってもおかしくないかなって」

 「そうかもしれないけど、流石にリアビラが廃都になってるのはあり得ないと思うの」

 「まぁ、普通に考えたらそうだよね」


 最後に立ち寄った街で、僕たちは怯えた商人さんの呟きを耳にしました。

 リアビラの都がゾンビに支配された。

 あの街はもう終わりだと。

 あの様子からすると、冗談を言っているようには見えませんでしたが、冗談みたいな内容を信じる人は誰もいませんでした。

 実際に僕たちもそうです。

 仮にそんな状態にあるのであれば、もっと他の街が騒いでいるでしょうし、リアビラの街には兵士や冒険者だっている筈です。

 それなのに他の街に救援も求めず、ゾンビに支配されるなんてあり得ないですよね。

 

 「けどさ、仲間割れって可能性はない?」

 「仲間割れですか? 誰と誰のです?」

 「リアビラと魔力至上主義のだよ。リアビラってあそこと繋がりがあったよね」

 「あ、もしかしたらその可能性ならあり得ましたね。ですが、その可能性もないと思いますよ」

 「うん。レンの話が本当なら、魔力至上主義は別の場所にいる」

 「そういえばそうだったね」

 「となると、やっぱり噂はただの噂っぽいですね」

 

 魔力至上主義の人達はレンさんが造り上げた謎の空間に押し込まれ、約一年後先までこちらの世界に戻ってこれないと言っていましたので、仲間割れという可能性は魔力至上主義の人が居ない以上はあり得ないと思いました。

 まぁ、レンさんも抜けている所があるので、一人や二人、魔力至上主義の人を見逃している可能性もあるので、あり得ないと思っていた事が実際に起きてしまっている可能性もありますので、一応ですが気には留めておきます。

 

 「どちらにしても、明日には真実がわかりますので、別の事も考えましょう」

 

 ここまで来たら現実的な話をした方がいいですからね。

 僕が王族として振舞うのならば、リアビラの王様に話を通すのか、それともお忍びで来たということで挨拶しないのか。

 それだけでも、あの街での振る舞いはかなり変わってきます。

 しかし、その話合いも全て無駄になるとはこの時は思いもしませんでした。

 次の日、リアビラに着いた僕たちはあの噂は嘘ではなかったのだと、知る事になったのです。

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