第592話 閑話 お留守番メイド
「それでは、終礼を始めます。みなさんから気になった事はありますか? 無いようですね。それでは、本日の業務はここまでです。お疲れ様でした」
「「「お疲れ様でした」」」
こうして人前に立って話すのも少しだけ慣れました。
私がここで働き始めた時の事を考えると、私も少しは成長できたのではないでしょうか。
「ジーアさま、この後食事でもどうですか?」
そんな事を考えながら、部屋に戻る途中、私は他のメイドから声を掛けられた。
「食事、ですか? けど、私なんかがお邪魔したらみんなの迷惑に……」
「迷惑な事なんてありませんよ! それでは、待っていますので着替えたら下に来てくださいね」
「わ、わかりました」
断るつもりでいましたが、勢いに押され、つい頷いてしまいました。
しかし、ユアンさん達がいないからといって、メイドさんが家の中を走り回るのはよくないですので、そこは後で注意しておかないといけませんね。
「でも、急にどうしたんだろう?」
他のメイドさん達と一緒に仕事をし始めてからこうして食事誘われるのは初めてでした。
「それだけ私が話しかけづらいって事なのかな?」
振り返ると、そうかもしれない。
正直、みんなの事は嫌いではないですが、中々ゆっくりと話す機会はなかったと思います。
もしかしたら、これはいい機会なのかもしれませんね。
ちょっと緊張するけど、勇気をだして私はみんなの待つ食堂へと着替えて向かいました。
「お待たせしました」
食堂へと入ると、既に食事の準備は進められていました。
「何かお手伝いしましょうか?」
「ジーア様は座って待っていてください。今日はジーア様はお客様ですからね」
「わかりました。お言葉に甘えさせて頂きます」
手伝いを申し出ましたが、やんわりと断られ、背中を押されるようにして、席へと座らせられました。
そして、暫くすると料理が次々に運ばれてきます。
「あの、少し量が多くありませんか?」
「そんな事ないですよ」
「むしろ、ジーア様の食事がいい加減すぎるのです」
「リコ様に頼まれていましたからね、食事はちゃんととって頂きますよ!」
「でも、こんなに豪華な食事を私達だけで食べる何て……」
「それがダメなんですよ。むしろ、私達メイドがやせ細っていたら、ご主人様達が変な目で見られます。それを教えてくれたのはジーア様ですよ」
そんな事を言った記憶もありますね。
私達が食事をとらず、健康管理を怠れば、ユアンさん達が私達を虐待していると思われてしまう。
なので、健康管理はしっかりするようにと、みんなには気をつけて貰っていました。
「なので、食事はしっかりとってくださいね」
「わかりました。ご心配をおかけして申し訳ありません」
「いいんですよ。私達も、ジーア様から色々と聞きたい事もありましたので」
「私から?」
なんだろう。
私は思い当たる節がなくて、首を傾げました。
「とりあえず、まずは食事にしましょうか」
「そうですね、では頂きます」
「「「頂きます」」」
こうして食事をみんなでとるのは久しぶりかもしれません。
ユアンさん達の旅にお姉ちゃんが同行してからは、食事はいつも一人だった。
「それで、私に聞きたい事って何ですか?」
「もちろん決まってますよ。ジーア様はリコ様の事をどう思っているのかって話ですよ」
「お姉ちゃんを? お姉ちゃんはお姉ちゃんですよ?」
「ですが、本当の姉妹って訳ではないのですよね?」
「はい。幼馴染……みたいなものでしょうか?」
私の小さな頃からお姉ちゃんはずっと今のお姉ちゃんでした。
本当の年は知りません。
お母さんがいうには、お母さんが子供の頃から既にお姉ちゃんはあの村に居たというくらいなので、実はかなりの年上なのかもしれません。
「という事はですよ。別の感情はないのですか?」
「別の感情?」
「恋人になりたい、とか」
「こ、恋人!?」
飲んでいたお茶を吹きだしそうになってしまいました!
誰でもびっくりしますよね。
いきなりそんな事を言われたら……。
「実際、どうなんですか?」
「どうも、しませんよ……。お姉ちゃんはお姉ちゃんですから」
「なら、ずっとこのままでいいです?」
「私は今の関係で十分ですよ」
お姉ちゃんはお姉ちゃんですから。
「でも、最近はオメガ姉さんとも仲いいですし、このままじゃオメガ姉さんにとられてしまいますよ?」
「オメガさんに?」
そう言われると、思い当たる節はあります。
オメガさんがこの家で働くきっかけとなったのはお姉ちゃんが連れてきたからでした。
それからというもの、オメガさんはお姉ちゃんの直接の部下みたいな立場で、お姉ちゃんと一緒に居る時間も自然と長くなっています。
「けど、お姉ちゃんに限って……」
「甘い、甘いですよジーア様!」
「そうです。ジーア様は奥手すぎます」
「もっと積極的にアピールした方がいいですよ!」
「積極的にって言われても……」
困ります。
別に、私はいまの関係で十分だと思っていますし、お姉ちゃんとこれから先一緒に居られれば、十分。
だけど、お姉ちゃんの一番でもし、いられるなら……。
そう思うと、ついみんなの言葉に耳を傾けてしまいます。
そんな事があったからでしょうか。
みんなからのアドバイスを受け、お風呂に浸かり、部屋へと戻った私は部屋の中で一人、お姉ちゃんの事を考えてしまいました。
「早く帰ってこないかな」
お姉ちゃんは仕事の為にユアンさん達と共に遠くへと行きました。
なので、早く帰って来て欲しいと思うのは私のわがままです。
「今日くらい……いいよね?」
私とお姉ちゃんは一緒の部屋で生活をしています。
なので、私のベッドの隣には、お姉ちゃんのベッドがあります。
お姉ちゃんと一緒に寝る時は時々ありましたが、こうしてお姉ちゃんのベッドで一人で眠るのは初めてで、何だか悪い事をしているみたいで、ドキドキします。
「お姉ちゃんに包まれてるみたい」
ベッドの中に潜りこむと、みんなからのアドバイスのせいか、余計にドキドキしました。
とても口では言えないようなアドバイスもされてしまったのです。
勿論、そんな事が出来る訳もないので聞き流したつもりでしたが、実際には聞き流せていなかったみたいです。
「ダメダメっ! お姉ちゃんの布団なんだから……あっ、自分の布団なら良いって訳でもないけど……あぅぅ」
生きていれば、そういった知識は自然と身につくため、つい意識をしてしまいましたが、私は首を振って自我を保ちます。
「だけど、ちょっとくらい……お姉ちゃんもいないし」
私だってお年頃です。
そういう事にだって興味は……。
翌朝、私はお姉ちゃんのベッドで朝を迎えました。
「あ……私? はぅ……」
どうやら、私はあのままお姉ちゃんのベッドでいつのまにか眠ってしまったみたいです。
なので、昨夜の事は、覚えていませんよ。
はい。何があったのか、全く覚えていません。
だから、何を聞かれようが、私は何も答える事は出来ません。
私は、黙秘を貫かせて頂きます。
こうして、今日も一日が始まりました。
お姉ちゃん、早く帰ってこないかな。
そしたら、その時は……。
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