第591話 補助魔法使い達、ラ・ムウを出発する

 「ラ・ムウの街は観光地って感じの場所でしたね」

 「うん。あそこならそこまで印象は悪くはない」


 ラ・ムウの街の一泊した翌日、僕たちは再びリアビラに向けて出発をしました。

 泊ってみた印象は、シアさんも言っていましたが、僕も悪いとは思いませんでした。

 宿屋でも差別される事はなく、普通に接してくれましたし、サービスも充実していましたからね。


 「だけど、どうしても奴隷には目がいっちゃうね」

 「それは仕方ないと思うの」

 

 リアビラ領というだけありますね。

 街の中ではあまり意識していなかったので気づきませんでしたが、宿屋へ行くとそこには普通に奴隷の人が働いていました。

 まぁ、僕の想像していた奴隷とは全然違いますけどね。

 僕のイメージは薄汚い格好で、まともな食事や寝床を与えられ、死ぬまでコキ使われるイメージでしたが、ラ・ムウの奴隷さん達はみんな綺麗な格好をしていて、健康そうな顔色で働いていました。

 それだけで悪い扱いを受けているようではないとわかりましたね。

 

 「でも、どうして普通で働けるような人が奴隷となってしまったのでしょうか?」

 「理由は色々かな。親の借金の肩代わりだとか、食い扶持に困って自ら堕ちていったとかね」

 「そんな理由で奴隷になってしまう人もいるのですね」

 「まぁ、こっちは職業奴隷みたいなものだからまだマシだけどね」

 

 奴隷とはいえ、人権がちゃんとあるだけ確かにマシですよね。

 鉱山や森の僻地などで強制労働をさせられる犯罪奴隷の人は人権がないと言われていますからね。

 

 「それにしても、スノーさんは日に焼けましたね」

 「そう? いい感じかな?」

 「いい感じだとは思いますけど、わざと日焼けしたのですか?」

 「そうだよ。こんな時くらいしか出来ないからね」


 どおりで綺麗に日焼けしている訳です。

 スノーさんも肌は白い方なので、日焼けすると凄く目立ちますね。

 

 「そういうユアンも結構焼けてる」

 「それを言ったらシアさんもですよ」

 「というか、みんな綺麗にやけたなー」


 それだけ遊んでしまったという事ですね。

 思い出してみても楽しかったです。

 街の観光名所としてオアシスという所がラ・ムウの街にはありました。

 オアシスとは砂漠地帯に広がる小さな湖と同じ規模くらいはある水源の事です。

 僕たちは宿屋に荷物を預けた後、そこへとみんなで向かいました。

 そこで、みんなはそれぞれのやりたい事をする事になりました。

 スノーさんみたく日焼けする人や、オアシスを回る為の乗り物に乗る人や僕たちのように……。


 「釣りも楽しかったですね」


 釣りをする人ですね。


 「うん。だけど、不思議。どうしてあそこに魚が居たんだろう」

 「誰かが運んできたのかもね」

 「生きたまま?」

 「そうじゃない? 知らないけど」

 「それか、何処かに繋がっているのかもしれませんね」

 「水が湧いてくるという事は、その可能性もありますよね」


 とりあえず、理屈や理由はわかりませんが、あの湖には魚が生息しているのは確実です。

僕たちは実際に魚を釣る事が出来たのでそれが証拠です」


 「ですが、高かったですね」

 「うん。ナナシキで買える三倍は少なくともしてた」

 

 それも仕方ない事だと思いますけどね。

 オアシスで吊り上げた魚は買い取り義務が発生していました。

 釣ったらその時点で代金を支払わなければいけないというルールですね。

 最初はそれを聞いた瞬間、せこいと思いましたが、砂漠で魚をとるのは簡単ではないと説明され、それで納得しました。

 砂漠で魚を獲りたければ、何処かの洞窟……鍾乳洞ですね。

 そこを探すしかないと言っていましたからね。

 そう考えると、僕たちはとても貴重な経験をさせて頂いたという事になりますね。

 ただ、何となく釣りができるので釣りをしただけですけどね。


 「とりあえず、リアビラ領の全ての街が悪いという訳ではないのは安心しましたね」

 「油断はできないけどね。あそこが最初の街って訳ではないけど、他国に近い街はあえて緩いって可能性もあるしね」

 「つまりは外の人間を中へと引き込む罠って事ですか?」

 「そうなるね」


 ラ・ムウの街が過ごしやすく、もっとリアビラの事を知りたいと思い、首都のリアビラを目指した結果、待ち構えていたのは……。

 となる訳ですね。

 深く考えすぎかもしれませんが、リアビラならやり兼ねないという不安がありますね。


 「どちらにしても、リアビラに向かう事には変わりないですけどね」

 「うん。気にする必要はない」

 「そうだね。だけど、これからはどうするの?」

 「リアビラに着くまでの間に幾つも街があるみたいですよ」

 「全部の街に寄るのかー?」

 「んー……物資に余裕があるのなら寄る必要はないと思いますよ」


 街に入るのは大変ですからね。

 船から降りって、船をしまい、竜車を出して、サラちゃんとデルくんを召喚して牽いて貰ってと、考えるだけで面倒に思えてきます。

 やってしまえば一瞬で終わる事ですけど、いちいちそこに気を遣うのが面倒なのですよね。

 それに、街へと入るという事はそれだけ危険や面倒ごとに遭遇する可能性が高くなりますしね。


 「なので、余程の事がない限りはリアビラに向かう方がいいと思います」

 「うん。ラ・ムウ以上の街があるとは思えないからよる意味がない」

 

 湖がある街はリアビラ領の中でもラ・ムウだけみたいですので、一番充実した街と言えるかもしれませんね。

 他の街では水を確保するだけでいっぱいいっぱいになるみたいです。

 お風呂を使う余裕がないほどに。

 まぁ、それは正しいと思いますけどね。

 貴重な水をいわば娯楽に使うのなんてありえませんからね。


 「スノーさん達はどう思いますか?」

 「それぞれの街の良さはあると思うけど、目的はそこじゃないし私もシアに同意かな」

 「ラ・ムウに寄った事で、私達の事はリアビラへと伝わってしまっている可能性はあるので、手を打たれる前に出来る限り進んでしまった方がいいかもしれないね」 

 「そうだぞー! 街に入るとまたサラちゃんとデルが止められるからなー! 街にはいかないぞー!」


 サンドラちゃんはデルくん達と一緒に居たいだけみたいですが、他の街に寄るのは反対な事には変わりないので大丈夫ですね。


 「リコさん、まだ食料等は大丈夫ですか?」

 「今の所は問題ないよ~。ただね、鮮度の落ちやすい食料を優先して使っているから、日が経つにつれて料理の質が落ちるのは許して欲しいかな~」

 「大丈夫ですよ。リコさんのご飯はいつも美味しいですからね!」

 

 それに、元気も出ます。

 っと、僕が言いたいのはそこではありませんでした。


 「リコさん、食料関係や他の事でも困ったら直ぐに言ってくださいね」

 「うんうん。その時は遠慮なく言わせて貰うよ。それがみんなの為になるからね~」


 とりあえず、当面の間は問題なさそうですね。

 なら、このままリアビラの近くまで行けるとこまで行きましょうか。


 「えっと、今の運転はラインハルトさんでしたが、方針を伝えるのならみんなに伝えてしまった方が後で楽ですね」


 という事で、僕は艦内放送を使い、みんなを船室へと呼び、今後の予定を伝えました。

 もちろん、予定なので必ずしもその通りにいくとは限りませんけどね。

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