第590話 補助魔法使い達、砂漠の街を歩く

 「やっと中に入れましたね」

 「うん。あんな騒ぎになるとは思わなかった」

 「なー……サラー、デルー……」


 船から竜車に乗り換えた僕たちはどうにか砂漠の街【ラ・ムウ】へと入る事が出来ました。

 

 「サンドラちゃん、また直ぐに会えるから大丈夫ですよ」

 「なー……」


 サンドラちゃんが項垂れてとぼとぼと重い足取りで歩いているのはフードを深く被り暑いせいではなく、街に入る時に起きた事が原因でした。

 

 「サンドラ、街にはルールがあるから仕方ないよ」

 「そうだよ。サンドラちゃんだって、ナナシキでルールを守らない人が居たら嫌だよね?」

 「そうだなー。だけど、砂竜サンドドラゴンくらいいいと思わないかー?」

 「その気持ちもわかりますけどね」


 街に入る時に僕たちは入口の兵士さんに他国から来たことを伝えると、この国でのルールを幾つか説明されました。

 その一つに、従魔登録をしていない魔物を街中まで連れて行ってはいけないというのがあったのです。

 それもあって、僕たちは街に入るのに時間がかかりました。

 サンドラちゃんがサラちゃんとデルくんから離れたくないと言い始めてしまい、その説得に時間が掛かってしまったのです。

 幸いにも街へと訪れる人はあまり多くないみたいなので、街の入り口を塞いで他の人を邪魔してしまうという事はありませんでしたが、かなり目立ってしまいましたね。

 もちろん、悪い方でです。

 

 「ちなみに、従魔登録って初めて聞きましたけど、どういうものなのですか?」

 「魔物使テイマーいが魔物を操るのは知ってるよね?」

 「はい」

 「その魔物がそうだよ。街の人にこの魔物は安全ですよ、私が管理していますから安心してくださいって一目でわかるようにするのが従魔登録なの」

 「契約魔法とは違うのですか?」

 「本質は似ていますが違いますよ。魔物使いの魔物は常に行動を共にする相方みたいなものですから」

 

 そういう事でしたか。

 これは盲点でしたね。

 となると、街中で契約しているリオンちゃんなどを召喚してしまったらかなりマズい事になるという事ですね。

 まぁ、ラディくんは関係なしに既にラ・ムウの街を勝手に動き回ってくれていますけどね。

 

 「なーなー? 従魔登録ってどこで出来るんだー?」

 「冒険者ギルドで出来るかな」

 「確か出来たはずですね」

 「なー! なら、冒険者ギルドにいこー?」

 「サンドラ我慢する。冒険者ギルドが安全とは限らない。従魔登録をするなら安全なナナシキでやった方がいい」

 「なんでだー?」


 タンザの時にはサンドラちゃんはまだ居なかったですし、ナナシキ以外の冒険者ギルドに行った事がないので疑問に思うのは仕方ないですね。


 「前にタンザという街で色々あったんですよ」


 僕たちは直接何かをされたわけではありませんでしたが、タンザの領主と当時の冒険者ギルドのマスターは裏で繋がったいて、誘拐された人の捜索を依頼を跳ねのける所か、誘拐された人の捜索をしようとしている冒険者をこっそりと処分しようとしていたのが後で発覚しました。

 もちろん、全てのギルドマスターがそんな人だとは思いませんが、ここのギルドやギルドマスターがどんな人なのかはわからないので、ここで登録して目立つような事はしない方がいいと思います。

 関わるにしても、依頼を受けるくらいに留めておくのが無難という訳です。

 

 「そういう理由なら我慢するー。だけど、心配だなー」

 「まぁ、心配事は色々とありますね」


 街の入り口までは竜車で来た為、竜車を隠す事は出来ませんでした。

 隠したらサラちゃんとデルくんの説明は難しいですし、サラちゃんとデルくんをナナシキへと返しても歩いてきたのかと疑われる事になりますからね。

 なので、サラちゃんとデルくんと竜車は街の入り口で預かって貰いました。

 リアビラ領で大事な移動手段を預けるのは不安なのでサンドラちゃんが不安に思うのは仕方ないと思います。


 「後で様子を見にいってもいいー?」

 「そうですね。サラちゃんとデルくんも喜んでくれると思うのでそうしましょうか」

 「なー! 楽しみだなー!」


 今にもぴょんぴょんと跳ねだしそうなくらいにサンドラちゃんが喜んでいます。

 みんなが魔物と契約している中で一人だけ契約できていなかったので、余計に嬉しいのかもしれません。

 まぁ、一人だけと言っておいて、僕も実際には契約はしていませんけどね。

 その代わりに、いつでも呼べるわけではありませんが、ナナシキには頼もしい親衛隊の方達が居てくれますので、必要はないと思っていまのでいいですけどね。


 「それで、この後はどうする?」

 「まずは宿屋に行きますよ?」

 「その後だよ。宿屋に行って、ただ休むのもつまらないでしょ?」


 僕はそれでもいいと思いましたが、街を見て見たいという気持ちもありますね。

 ですが、ここで僕が街を見て回りたいと何気なく言ってしまうと大変な事になります。


 「リコさんやラインハルトさんはどうしたいですか?」

 「私かい? ん~、こんなに遠くまで足を運ぶことはないし、街を見て見たい気持ちはあるかな?」

 「私もだ。私が住んでいたのは魔族領だから、南の事は全く知らなかったから興味深いと思っているよ」

 「なら、みんなで回りましょうか。エレ……シレン様も大丈夫ですか?」

 「構いません。私はユアン様の護衛ですので、何処へでもついていきます」

 「ありがとうございます」

 

 大変な事になってしまう理由がこれですね。

 僕はみんなから護られるように街の中を移動しています。

 というのも、ナナシキを出発する時に決めた、王族のような立ち振る舞いをしているからです。

 そんな僕が何処かへ行こうとしたら、護衛をしているエレン様も勿論、場合によってはリコさん達にも来て頂かなければいけませんからね。


 「それでは、宿屋を確保してから街を少し探索しましょうか。あと、ちょっと見て見たい場所があるので、付き合って貰えますか?」


 迷惑かなと思いつつも、みんなにそう尋ねるとみんなからいい返事が戻ってきました。

 どうやら僕だけではなかったみたいですね。

 

 「ありがとうございます! では、早くいきましょうか!」

 「うん。だけど、ユアン」

 「はい、どうしましたか?」

 「さっきから素が出てる。もっと落ち着くといい」

 「あっ……、ではみなさん、まずは宿屋へと向かいますよ」


 リアビラ領の街という事で、それなりに緊張感を持っているつもりでしたが、新しい街を探索する楽しみにの方が勝っていたみたいです。

 それをシアさんに注意して頂き、遅いと思いつつも改めて落ち着いた雰囲気を演出します。


 「というか、ユアンが先行したら護衛の意味がないんだけど」

 「あっ、それもそですね」

 「いっその事、ユアンさんは王族でも子供として振舞ったらどうですか?」

 「そっちの方が自然だなー」

 「確かにそうかもしれないね~」

 「皇女様に振り回されるメイドも悪くないかもしれないね」

 「ふふっ、昔の私達を思い出すな。シノ様に連れられはしゃいでいた時をね」


 流石にそんなに子供ではありませんけどね!

 ですが、シノ様とエレン様達もずっと仲が悪い、とは違いますがそうやって一緒に遊ぶような時期もあったのですね。

 小さい頃のシノさんの話も一度聞いてみたいと思いました。

 それはともかく、宿屋へとまずは向かいましょうか。

 みんなも楽しみにしているみたいですからね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る