第589話 補助魔法使い達、砂漠の街へとたどり着く

 シノさんの策略によって、無事に? シノさんが連れてきた二体の魔物のと契約ができたサンドラちゃんでしたが、そこでとある問題が発生しました。


 「なー! 可哀想だぞー!」


 船から降り、街まで竜車で移動をした時でした。

 サンドラちゃんが、契約したサラちゃんとデルくんに竜車を牽かせるのは可哀そうだと言いだしてしまったのです。

 ちなみにですが、契約した二体の魔物は砂竜サンドドラゴンというのが正式名称で、サラちゃんが雌でデルくんが雄で、兄妹のようです。

 サンドラちゃんとちょっと正式名称が似ていますが、それも相性だったりするのですかね?

 それはともかく、僕たちはサンドラちゃんを説得する事になりました。


 「サンドラちゃん、可哀想ではありませんよ」

 「なー! でも、これだけの人数を牽くのは流石に大変だぞー!」

 「そんな事ない。砂竜は力持ち。これくらいなら簡単に牽ける」

 「それに、シノさんが用意してくれた竜車は重力魔法がかけられているので、そこまで重くないみたいですよ」


 流石は魔法道具マジックアイテムの開発が進んでいるルード帝国ですよね。

 これの応用として、今は空を飛ぶ為の魔法道具マジックアイテムも開発が進んでいるらしいです。

 

 「なー……それなら、私が龍化して竜車を牽くぞー?」

 「サンドラちゃんだと大きすぎるから無理ですよ」

 「大丈夫だぞー! そこはどうにかするぞー!」


 どうしてもサンドラちゃんはサラちゃんとデルくんに竜車を牽かせたくはないみたいですね。

 それだけ愛情が沸いてしまったという事でしょうが、このままでは街に向かうどころか、ここから進めなくなってしまいます。


 「サラちゃんとデルくんがどうしたいのかを確認したらどうなのかな? 本人たちが嫌がるなら無理に牽いて貰う必要はないと思うの」

 「キアラちゃんの言う通りですね。逆に牽きたいというのなら、牽いてもらうのはどうですか?」

 「なー……聞いてみるー」


 これで駄目なら大人しく徒歩で向かうしかありませんね。


 「なーなー?」

 「あるじさまどうしたのー?」

 「遊んでくれるのー?」

 「なー! 後でいっぱい遊んであげるなー!」

 「やったー」

 「あるじさまだいすきー」

 「なー! 私も大好きだぞー!」


 サンドラちゃんはデルくん達の頭を抱え、頬ずりしだしました。


 「サンドラ、用件が違う」

 「そうだったなー……。なーなー?」

 「「なにー?」」

 「サラとデルはこれを牽けるかー?」

 「牽けるよー」

 「これ引っ張るのは楽しいよねー」

 「楽しいのかー?」

 「うんー。これを牽くと人間が喜んでくれるのー」

 「人が乗ると重いからいい運動になるんだよー?」


 既に竜車を牽いた経験はあるみたいですね。

 もしかしたらそういう訓練をされていたのでしょうか?

 まぁ、シノさんが連れてきたくらいですし、その辺りはきっとしっかりしていますよね。


 「なー……それなら、二人は私達を乗せて引っ張りたいかー?」

 「やりたいー!」

 「あるじさま、はやく、はやく!」


 嫌がるどころかむしろノリノリでしたね。

 

 「わかったぞー。ユアンー」

 「はい、聞いていましたよ」

 「うんー。サラとデルが引っ張りたいみたいだから早く乗ってー?」

 

 サンドラちゃんの変わり身の早さに思わず笑いながら、サンドラちゃんに押し込まれる様に竜車へと僕たちは乗り込みます。


 「サンドラちゃんは乗らないのですか?」

 「私はサラとデルの背中に乗るから平気だぞー」

 「大丈夫ですか?」

 「心配はいらないぞー! みんなを街まで連れってあげるから安心してー」


 サンドラちゃんが御者をやってくれるみたいですね。

 まぁ、こうやって会話ができるくらいですしむしろ馬の扱いよりは楽そうに見えるので任せてみましょうか。


 「みんな乗ったなー?」

 「はい、大丈夫ですよ」

 「わかったぞー! サラ、デル頼んだぞー!」

 「「はーい!」」

 「出発ー!」


 サンドラちゃんの掛け声と同時に竜車がゆっくりと動きだしました。

 

 「船と比べるのはおかしいですけど、意外と広いですね」

 「うん。全員が乗っても余裕がある」


 ナナシキからアーリィへと向かう馬車よりも広いですね。

 あの時はエレン様が馬に乗ってついてきてくれましたが、そのエレン様も今は同乗しています。

 それなのに、あの時よりもゆったりと座れているので、それだけで広いとわかります。

 足を伸ばせますし、シアさんとくっ付いて座っていますが、くっ付かなくても十分に余裕があるくらいです。

 これなら後三、四人は座れそうですね。


 「これは快適だね~」

 「そうだな。やはりルード帝国の技術は凄い。砂漠なのにここまで涼しいのは驚きだ」

 

 天井から冷たい空気が流れ、それが竜車の中を流れて行きます。

 さっきまで外にいたので、じんわりと汗が滲んでいましたが、それが一瞬で乾いた程です。


 「揺れもほとんど感じないのが凄いと思うの」

 「そうだね。まぁ、速度がほとんど出ていないって事なんだろうけどさ」

 「実際にどれくらいの速度で進んでいるのでしょうか?」


 ゆっくりでも構いませんが、あまりゆっくり過ぎると魔物に囲まれる可能性もあるので、速度を確かめるために、僕は窓から外を覗きました。


 「え?」

 「どうしたの?」

 「し、シアさんも見てください」

 「うん…………速い」

 「うわっ、なにこれ」

 「こんな速度で進んでいたの?」


 みんなも驚いています。

 それもその筈です、外の様子を確かめると景色が流れていました。

 

 「軽く飛ばした馬くらいの速度はありそうだな」

 「私の愛馬ならもっと速いぞ? 今度ラインハルト殿も乗せてあげよう」

 「お、それは嬉しいな。最近は馬に乗る機会はなかったので、楽しみにさせて貰うよ」

 「ふっ、ではその時は相乗りで楽しむとしようか」


 エレン様とラインハルトさんの仲がいつの間にか近づいていますね。

 この短期間で何があったのかわかりませんが、いい傾向だと思います。

 それよりも、どうしてこんなに速いのでしょうか?

 僕はそれが気になって、竜車からサンドラちゃんの様子を伺いました。


 「サンドラちゃん……」

 「なー! 速いぞー! サラ、デル、もっと飛ばせるかー?」

 「「まかせてー」」

 「わっ!」


 また一段と速度をあげ、僕は後ろに倒れそうになりましたが、どうにか踏ん張りました。


 「サンドラちゃん!」

 「なー?」

 「ちょっと飛ばし過ぎですよ!」

 「大丈夫だぞー! サラとデルが頑張ってるー」

 「そういう問題じゃありませんよ。もし、何かあったら危ないじゃないですか」

 

 防御魔法をみんなに付与しているとはいえ、竜車が転倒したりしたら頭を打つ可能性だってありますからね。

 

 「なー? サラとデルなら大丈夫だぞー。ちゃんと安全な所を通ってるからなー」

 「二人が大丈夫でも、竜車が壊れるかもしれませよ」

 「確かになー……サラー、デルー、ちょっと速度を落としてー」

 「「はーい」」


 賢いですね。

 急にとまったら危ない事を理解しているのか、竜車が徐々に速度を落としていきます。


 「サンドラちゃん、その調子でお願いしますね」

 「わかったぞー」

 

 それにしても、サラちゃんもデルくんも凄いですね。

 普通の砂竜サンドドラゴンは喋ったりしませんし、ここまで身体能力は高くないと聞きました。

 せいぜいゆっくりと竜車を牽けるくらいの能力しかないと言っていましたからね。


 「これも契約の力でしょうか?」

 「多分そう。契約魔法には不思議な力がある」

 「だけど、普通はここまで飛躍的に能力はあがったりしないと思うの」

 「それをキアラが言う? ラディもキティも相当だと思うけど」

 「そうなんだよね。どうしてなんだろう?」


 今更ですけど、僕たちが契約した魔物さん達はかなり特殊な部類に入るみたいです。

 普通に人化できるくらいですからね。

 本来の契約魔法というのは、魔物と契約するだけなので、こうやって身体能力が上がる事はないみたいです。

 それなのに、当たり前のように喋るようになり、人化をしたりするのでそれが不思議で仕方ありません。

 しかも、その理由はキアラちゃんですらわからないみたいなので、謎は深まるばかりです。


 「落ち着いたら契約魔法も調べてみましょうか」

 「うん。その時は協力する。私はユアンとの繋がりでお互いが強化されてる。そこにヒントがあるかもしれない」

 

 影狼族の契約は血の契約で、契約魔法の中でも特殊な部類に入るようですからね。

 参考になる可能性は大いにあります。


 「あとちょっとで街に着くぞー」


 途中で飛ばした甲斐があったのかもしれませんね。

 船から降りた時は遠くに見えていた街でしたが、あっという間に街の姿が近くなりました。


 「初めてのリアビラの街ですか楽しみですけど緊張しますね」

 「うん。はぐれないように気をつける」

 「特にユアンは誘拐されないようにね?」

 「前科があるから気をつけてくださいね?」

 「あれはわざとですからね?」


 アーレン教会の時の事を言われているみたいですね。

 ですが、あれは僕の作戦なのでノーカウントです!

 ともあれ、僕たちは街へとたどり着きました。

 ですが、ここから先は油断できません。

 僕は改めてみんなに気を引き締めるように伝えました。

 一番心配されたのは僕だったのが腑に落ちませんけどね。

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