第587話 補助魔法使い達、街を発見する

 「着実にスノーさんの軍団も出来上がっていますね」

 「あまり嬉しくはないけどね」

 「やっぱり苦手なの?」

 「前よりは苦手意志は薄れたけど、どうしても元があれだと意識するとね。人の姿だったら大丈夫だけど」


 傭兵蟻さんたちと契約を交わし、再び船はリアビラに向けて出発しました。

 結局のところ、契約は無事に完了したのですが、相変わらずスノーさんは微妙な顔をしています。

 ガンディアのダンジョンから生まれた傭兵蟻さん……ではなくて、パラデアンナイト達も合わせると合計二十匹以上を従える事になり、スノーさんが率いる事のできる兵士が増えたのに、スノーさんは少し不満そうです。


 「なー! スノー、贅沢だぞ!」

 

 そして、それ以上に不満そうなのはサンドラちゃんですね。

 サンドラちゃんはスノーさんとの契約をとても羨ましそうに見ていました。

 それだけサンドラちゃんは傭兵蟻さんを気に入っているみたいです。

 

 「別に私は契約主を変わっても構わないよ?」

 「それは無理ですよ。契約者は契約する魔物と信頼関係が深くないと無理だから、サンドラちゃんだと厳しいと思うの」

 「それだけスノーさんは信頼されてるって事ですね」

 「うん。傭兵蟻にとってスノーは命の恩人」

 「助けたのは一匹だけだけど?」

 「仲間意識が高いので、助けたのは一匹だけだとしても、みんなが感謝してるって事だと思うの」

 「そういうものなのかな?」

 「そういうものですよ」


 それが仲間ですからね。

 僕たちだって、この中の一人が窮地に陥り、それを誰かが救ってくれたのなら救ってくれた人に感謝します。

 自分の事のように喜べる相手こそ仲間だと思うのです。


 「いいなー……スノー、いいなぁー。私も契約がしたいぞー」

 「サンドラもそんなに契約したいの? 別に契約を交わした所で、特に変わる事はないけど?」

 「したいぞー! この中で魔物と契約していたのは私だけだからなー!」


 どうやら一人だけ仲間外れみたいなのが嫌みたいですね。

 ですが、サンドラちゃんは少しだけ勘違いしています。

 正確には僕も魔物とは契約を交わしていません。

 今現在、僕たちが契約を交わしている魔物は魔鼠、魔鳥、コボルト、傭兵蟻ですが、魔鼠と魔鳥はキアラちゃん、コボルトはシアさん、傭兵蟻さんはスノーさんですからね。


 「でもユアンはコボルトに主様と思われてるぞー!」

 「それはシアさんと契約しているので、必然的にそうなっているだけだと思いますよ」

 

 主の主も主って事ですね。

 自分で言っていてよくわかりませんが、そういう事だと思います。


 「でもユアンはシアと契約しているから、実質契約を交わしてないのは私だけだぞー」

 「シアさんは魔物ではないですけどね」

 「うん。私は魔族」


 そういう意味で言った訳ではないですけどね。

 僕が言いたかったのはシアさんとは個人的な契約を結べているだけで、影狼族という種族を率いている訳ではないという事です。

 それはラディくん達も同じですが、契約の中身は少しだけ違うのです。

 僕と影狼族の関係は、あくまでシアさんを通じて協力して貰っている関係なので、個人的なお願いをすることは出来ても、命令する権限はありません。

 なので、僕が影狼族を命令しようとしても、断る権利を影狼族の人たちは持っています。

 それと比べ、契約している魔物はラディくんやキティさんを通じなくても命令をする事が出来ますし、ラディくんやキティさんという絶対的な立場を持った王様的な存在がいるので僕たちの命令を断る事が出来ない立場だったりします。

 まぁ、あくまでラディくん達の配下というのが条件ですけどね。


 「そう考えると、契約というのは奥が深いですよね」

 「うん。単純そうでそうでもない」

 「ふと思ったけど、他にも契約の種類はあるのかな?」

 「ありますよ。嫌な契約の仕方ですけどね」

 「それは私でも出来るのかー?」

 「はい。やろうと思えばやれると思いますよ。サンドラちゃんが望めば、ですけどね。ちなみに僕は絶対にその方法は嫌ですけどね」

 「どんな方法なんだー?」

 「簡単ですよ。強制的に従える方法です」

 「奴隷……ですね」


 キアラちゃんのトラウマはまだ消えていないみたいですね。

 そうです。

 僕が知っている方法は奴隷として強制的に従える方法です。

 これならば、主に対して基本的に逆らうことは出来ませんし、強制的に命令をさせる事もできます。

 もちろん、それも条件はありますけどね。

 魔力が強く、奴隷の首輪に対して抵抗力があれば当然無理ですし、魔力が弱くても物理的に反撃されれば、首輪を取り付ける事は困難です。

 

 「なー……私もそれは嫌だなー」

 「そうですよね。そこには信頼関係がありませんからね」


 そんな関係は虚しいだけですからね。

 表面上は従ってくれて、僕たちの言う事を聞いてくれているように見えますが、本心は憎まれている可能性だってありますし、奴隷となった人達に自由はありません。

 もちろん、奴隷となった理由もあるので、本人たちに問題もある可能性もありますが、誘拐されて無理やり奴隷となった人達だって中にはいるでしょうからね。


 「許せないなー」

 「はい、強制的な奴隷は僕も許せません」

 「だけど、リアビラにはそういう人が沢山いると聞く」

 「そうなんですよね。なので、リアビラでそういう人を見かけても助けてはいけないのですよね」


 出来る事なら奴隷から解放してあげたいと思いますが、人の奴隷を奪うのはリアビラでは犯罪だとカミネロさんから教えて頂きました。

 

 「最初の話からだいぶ逸れてしまいましたが、リアビラで奴隷を見かけても我慢してくださいね」


 傭兵蟻さん達との契約からリアビラの奴隷制度の話になってしまいましたが、これから先、大きく関わってきそうな事なのでここでみんなに改めて確認しておくのは大事ですね。

 

 「それで、話は元に戻りますけど、サンドラちゃんはどんな魔物と契約をしたいのですか?」

 「私はどんな魔物でもいいぞー!」

 「虫系でもですか?」

 「うんー。人懐っこいのなら大体大丈夫ー」

 「可愛い魔物かー……スライムとか?」

 「それは厳しいと思うの。契約できる魔物はある程度の知恵がないと無理だよ?」

 「スライムとかは本能に従っていますからね……というか、スノーさんはスライムが可愛いと思うのですか?」

 「前はそうは思わなかったけど、最近はちょっと可愛いと思うようになったかな?」

 「それはみぞれと契約したから?」

 「あー……それはあるかもしれないね」


 そういえば、もう一つ契約がありましたね。

 精霊さんとの契約も立派な契約の一つでした。


 「サンドラちゃんは精霊さんとの契約はどうなのですか?」

 「それもいいと思うぞー!」


 むしろ契約できるのなら何でも良さそうな感じすらしますね。

 

 「今度、フルールさんに聞いてみましょうか」

 

 トレンティアにサンドラちゃんと相性の良さそうな精霊さんが居ればですけどね。

 サンドラちゃんの得意なのは火の魔法なので、トレンティアではあまり期待できないような気がしますが、それでも聞いてみるだけ価値はあると思います。

 そんな話をしている時でした。


 『街が見えてきたよ~。一旦、船を止めるから注意してね~』


 リコさんの声が船内に響き、暫くすると船が止まりました。


 「あれ、街ですか? 予定ではリアビラに着くのまだまだ先ですよね?」

 「リアビラは首都だから、別の街なんじゃない? ほら」

 

 街が見えたと言うので、船首へ立つと確かに小さな街が見えました。

 

 「リアビラは広い。街が一つとは限らない」

 「それもそうですね」


 となると、あれは首都へと続く中継の街みたいなものですね。


 「寄っていきますか?」

 「そうだね。リアビラに行く前にリアビラの文化に少しは触れていた方がいいと思うよ」

 「なら、寄ってみましょうか。ここからは歩きの方がいいので準備しましょう」


 流石にこの大きさの船で近づいたら大騒ぎになりそうですからね。

 その後、船内で休んでいたエレン様とルリちゃんに事情を説明し、街に寄る事を伝えました。

 

 「リアビラ領の街なので、何があるかわかりません。十分に気をつけましょう」


 リアビラの文化はルード帝国やアルティカ共和国と全く違う文化が発展していると聞きます。

 奴隷制度が当たり前にあるくらいですからね。

 何があるかわかりません。

 

 「では、準備が整ったら甲板に集まってください」


 事情や注意点を再確認し、僕たちはそれぞれ準備に取り掛かりました。

 僕も着替えなければいけませんからね。

 あまり着たくない服ではありますが、事前に決めた事なので仕方ありません。

 その服を着るのに時間がかかりましたが、シアさんとリコさんに手伝ってもらい、僕はその服にどうにか着替え、甲板に戻りました。

 すると、そこにはシノさんが何故か居ました。

 僕はシノさんに来た理由を尋ねるのでした。

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