第583話 補助魔法使い達、砂漠で野営の支度をする
「陽が暮れ始めましたし、今日はこの辺りで止まりましょうか」
「わかりました。『みなさん、船を泊めますので、注意してください』」
船の中にキアラちゃんの声が響き、ゆっくりと船は止まりました。
「夜は進まないのかい?」
「進んでもいいのですが、砂漠は起伏が激しい場所もありますので、暗い中走ると危険だと思いまして」
「それに魔石の交換もしないといけない。ずっと走り続けるのは無理」
「便利だけど欠点もあるんだね~」
これだけ大きな物を動かすのにはやはり動力が必要になるみたいですが、その辺は僕はわからないので、ルリちゃん任せになってしまうのが申し訳ない所です。
「それで、私達は何をすればいいの?」
「とりあえずは、見張りですね」
「全員でするのかー?」
「その方が安全ですからね」
船には魔物が近づけきにくくなる仕組みがあるみたいですが、その仕組みも魔石が動いている間でしか発動しないみたいなので、ルリちゃんが魔石を交換している間は働きません。
そうなると、魔物が寄ってくる可能性も十分にあり得るので、ルリちゃんが魔石を交換し終わるまではどうしても見張りは必要になります。
「という事は、あの水晶盤に映る映像も見れないって事かな?」
「はい。基本的にはトイレやお風呂などの独立した機能しか使えないと思ってくれればいいと思います」
その辺りは上手い仕組みだと思いました。
この辺りは後で報告する事の一つとして覚えておいた方が良さそうですね。
「それじゃ、魔石を交換しますので、まずは錨を降ろして欲しいんだよ!」
「わかりました。では、二手に分かれてやっちゃいましょうか」
「お願いするんだよ! 下ろし終わったら報告はお願いだよ。そしたら魔石の交換に入るんだよ」
実はこの作業は結構大事だったりします。
今から降ろす錨は、重力魔法が掛かっているみたいで、浮いている船を砂の上へと降ろす事ができ、船を安定させる効果があるみたいです。
そうしないと、船の底は丸みを帯びているので船が傾いた状態で砂の上へと着地してしまうみたいです。
「ユアン、もうちょっとそっちを下げて!」
「こんな感じですか?」
「いい感じかな?」
「スノー、今度はそっちが下がり過ぎてる。ちょっとあげる」
「了解」
これもなかなかに大変な作業ですね。
砂の上という事もあり、船の下は平らではありません。
なので、その調整は自分達でしなければいけないのです。
「こんな所ですかね?」
『ユアンお姉ちゃん、もういいですか?』
「はい、大丈夫だと思います」
『わかったんだよ! それじゃ、船を下ろすのでちょっと気をつけてね! いくよーっ!』
ルリちゃんの掛け声と共に、船がゆっくりと沈み、船底が地面へと着くのを確認しました。
「どんな感じですか?」
「問題ないと思いますよ」
「良かったんだよ! それじゃ、ルリは作業に入りますので、ユアンお姉ちゃん達は周りの警戒をお願いします!」
「わかりました。だけど、ルリちゃんの手伝いはいらないのですか?」
「一人くらいは居てくれると楽になるけど、一人なら一人でも大丈夫なんだよ」
作業が捗るのなら、ルリちゃんのお手伝いは一人くらい居た方が良さそうですね。
それに、毎回ルリちゃんにやってもらうよりは、他の人も覚えた方が良さそうですし。
となると、ルリちゃんのお手伝いを誰にお願いするかですが……。
「シアさん、ルリちゃんのお手伝いをお願いしてもいいですか?」
「私?」
「はい。シアさんはルリちゃんと姉妹ですし、ルリちゃんがどうしたいのかわかると思いますので」
「わかった。ユアンにお願いされたからにはやる。ルリ、私が手伝うけどいい?」
「えー……シアお姉ちゃんですか?」
意外にもルリちゃんは嫌そうな声を出しました。
「えっと、シアさんじゃ嫌なのですか?」
「嫌ではないんだけど、シアお姉ちゃん雑だから魔石を壊さないか心配なんだよっ!」
そういう心配だったのですね。
「大丈夫ですよ。シアさんはそういう所はしっかりとしていますので」
「うーん。それでも心配なんだよ?」
「わかった。それならエレンにお願いする。ルリがそれでいいなら」
「うー……それならシアお姉ちゃんの方がいいと思うかな?」
「何だか、私の扱いが酷くなってないか?」
「エレン殿、その気持ちよくわかるよ」
「ラインハルト殿……」
ラインハルトさんとエレン様がガッチリと固い握手を交わしました。
それだけお互いに気を許せる仲になったという事ですね。
僕達と合流した時に堅苦しいのは嫌だと言ったのはエレン様ですし、そもそもエレン様が変な事をするからこういう結果に繋がってしまっているのですよね。
ですが、今回はシアさんをルリちゃんのお手伝いに回って貰ったのは別の理由です。
「では、僕たちはラインハルトさんとエレン様組に別れて船の警備をしましょうか」
「ゆ、ユアン殿、それは酷いのではないか?」
「どうしてですか?」
「私とラインハルト殿の友情を早速引き裂くなんて……」
別に引き裂いたつもりはないですけどね。
「えっと、エレン様とラインハルトさんがペアになってもいいのですが、二人は船の上から安定して魔物を倒せますか?」
「船の上からだと、少し厳しいかもしれないな」
「私もあまり得意ではないとは思う」
「そうですよね」
二人も遠くから敵を倒すよりも、敵に近づいて剣で倒す方が向いていますからね。
なので、そこでペアを組むよりも魔法や弓が得意な僕たちが二人と組んだ方がいいと思ったのです。
それと同じ理由でシアさんはルリちゃんのお手伝いですね。
シアさんも遠距離で攻撃する手段はありますけど、どちらかというと敵に近づいて攻撃する方が得意ですからね。
「なるほど。私達の仲を裂こうという意味ではなかったのだな」
「もちろんですよ。むしろ、二人が仲良くなってくれるのなら僕としては有難いですからね」
一緒に行動していてギスギスしているのは嫌ですし、ラインハルトさんがエレン様と仲良くしてくれるのなら、僕に付きまとってくる頻度も少なくなりますからね。
「という訳で、キアラちゃんとスノーさんはエレン様と、サンドラちゃんとリコさんはラインハルトさんと一緒に警戒をお願いします」
「ユアンはー?」
「僕は見張り台の上から探知魔法で周囲を警戒しつつ、飛ぶ魔物を探そうと思います」
砂漠で危険なのはワームなどの地中を移動する魔物ですが、空を飛ぶ魔物も居ない訳ではありませんからね。
「他に注意する事はある?」
「特にはないと思います。暫くは船に掛かっていた魔よけの効果も残っていると思いますからね」
それに、魔物というのは自分よりも大きな相手を避ける傾向もあるみたいですしね。
一応は警戒しますが、そこまで気を張る必要もなかったりします。
ただ、興味を持たれて下手に壊されない為の対策ですね。
「という事で、みなさんよろしくお願いします。船の整備が終わったらみんなでご飯にしましょう」
僕がみんなに指示を出すと、それぞれが船の左右に分かれるように動きだします。
やっぱり、これだけ人が居ると楽ですね。
僕達だけだったら、全体を目視で確認するのは無理でしたからね。
「ですが、夜の見張りも必要ですし後でそれも決めないといけませんね」
夜の間は移動しない事に決めましたので、船の設備も止まった状態です。
そうなると、時間が経つにつれて魔物が寄ってくる可能性もありますからね。
「っと、僕も仕事をしなければいけませんね」
みんなに任せて僕は何もしていなかったら怒られてしまいますからね。
実際には怒る人はいないと思いますが、心の中でそう思われたら嫌ですしね。
「魔物は……今の所近くにはいませんね」
探知魔法も慣れてきたお陰が、集中すれば結構な範囲を探索できるようになりました。
僕を中心に五百メートルくらいですかね?
移動しながらでしたら、ここまでは無理ですがこうやって座っている分ならちゃんと作動しているのがわかります。
「後は、空の魔物ですね」
遠くの方に鳥のような姿は見えますが、昼間に見た鳥ですかね?
シアさんが言うには、シニクイドリという、死んだ魔物を食べる鳥の魔物と言っていましたね。
よほどの事がない限りは襲ってこないとはいいましたが、一応警戒はしておくべきですね。
「それにしても、綺麗な風景ですね」
陽が落ちかけ、夕焼け空から夜空に変わる風景はなんとも言えない美しさがありました。
もう少しすれば、空には沢山の星が輝く事になりますね。
「シアさんと見たいですね」
砂漠は過酷な場所と聞いていましたが、実際に昼間は何も対策しなければ凄く暑いですし、夜は体が震えるほどに冷え込むとも聞いています。
ですが、そんな場所だからこそ見れる景色というのもあります。
それが、凄く楽しみです。
そんな気持ちを胸に僕は見張りをするのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます