第582話 補助魔法使い達、砂漠を航海する
「不思議な感覚だね~」
「船が砂の上を進んでいるというのは確かに変な感じがするな……」
「あんまり身を乗り出して落ちないようにしてくださいね?」
リコさんとラインハルトさんの気持ちはよくわかりますけどね。
実際に僕もナナシキのダンジョンで体験した時は同じ気持ちでしたからね。
「これってどういう原理なんだい?」
「えっと、飛行魔法の応用とシノさんは言っていましたよ」
「そうなんだね~。そもそも飛行魔法というのがわからないけどね」
実際の所、僕もその原理はよく理解できていません。
前にフルールさんから魔法は感覚で使えるようにもなると言っていましたが、飛行魔法はまさにそれですね。
あまり認めたくはないのですが、シノさんとの魔法の相性は悪くないみたいなので、シノさんが魔力を流して教えてくれたら感覚で出来るようになってしまいました。
それはさておき、リコさんとラインハルトさんは珍しい移動方法に夢中になって楽しんでいますが、その一方では問題も起きています。
「なー……」
「大丈夫ですか?」
「あんまり大丈夫じゃないー……」
看板から船内に入り、僕達が寝泊まりする部屋に戻るとサンドラちゃんがベッドに横たわっていました。
「
「楽になったぞー。ありがとなー」
「はい。でも意外でしたね。まさかサンドラちゃんが酔ってしまうとは思いませんでした」
「馬車は平気なんだけどなー。浮いたり沈んだりするのがダメみたいー。一回乗ったくらいじゃ慣れないみたいだなー……」
「運転している時は平気なのに不思議ですね」
砂漠の地形は独特なせいか、地形に沿って進む船は地形に大きく影響が出ます。
サンドラちゃんはこの揺れが苦手みたいで、船が動き出して暫くすると直ぐにダウンしてしまいました。
「辛くなったらまた言ってくださいね」
「うんー。だけど、慣れたいから出来るだけ我慢するー」
「ほどほどにですよ。いざとなった時は戦闘になるかもしれませんからね」
「わかってるー。だから暫く寝てるなー」
「そうしてください。お昼になったら起こしますね」
サンドラちゃんは布団を被りました。
僕にはわかりませんが、酔いというのは本当に辛いみたいですね。
いつも元気なサンドラちゃんがこうなってしまうのですから。
「後の問題はあっちですね」
あまり気乗りしませんが、僕はもう一つの問題を解決するために操縦室に向かいました。
すると、案の定では面倒な事になっていました。
「もぉ、エレン様! 集中できないのでもう少し離れてください!」
「十分に離れているではないか。ふむふむ、船の操作はそうやるのだな」
「あっ! 勝手に触っちゃダメなんだよ!」
「ちょっとくらいいいではないか。おっ、このスイッチは『なんだ?』」
エレン様がルリちゃんの許可を得ずに何かのスイッチを押すと、船の中にエレン様の声が響き渡りました。
どうやらエレン様が今押したスイッチが声を伝えるスイッチだったみたいですね。
「んー……何だかんだ楽しそうにやっているので放っておいても良さそうですね」
「そんな事ないんだよっ! ユアンお姉ちゃん、エレン様をどうにかして……」
「えっと……ルリちゃん、頑張ってください!」
やっぱり僕にはエレン様の相手をするのは早いと思いました。
見た所、エレン様は色々と触ったりしていますが、ルリちゃんから操縦を奪ったりその邪魔をしていないみたいですし、多分問題ないです。
そう思うと、エレン様が我慢できなくなる前にルリちゃんと交代して正解でしたね。
それにしてもエレン様も懲りないですよね。
あれだけ僕とルリちゃんにシノさんに言いつけると言われているのに、堪えた様子はないですからね。
それだけ興味があるという事なのでしょうが、僕だったらそこまで言われたら流石に手を出そうとは思いません。
まぁ、それくらい心が強くなければ親衛隊長や王族としてやっていけないのかもしれないのですけどね。
ある意味、見習わなければいけない所でもあるのかもしれません。
「あー……こうやってのんびりするのも悪くないねー」
「うん。最近は何だかんだ忙しかったから昼間からこうして休めるのは息抜きになるね」
ルリちゃんから逃げるように再び外に出ると、スノーさんとキアラちゃんが船尾の方で横になっていました。
「スノーさん達は問題なさそうですね」
「あー、ユアン? うん、私達は問題ないよ」
「暑くないのですか?」
「平気だよ。みぞれさんとルークに協力して貰って快適な温度を保っていますので」
本当ですね。
スノーさん達に近づいてみると、僕が立っていた場所よりも涼しく、そよ風くらいの風が吹いていました。
「僕の事を便利とよく言っていますけど、スノーさんとキアラちゃんも便利ですよね」
「みぞれとルークのお陰だけどね」
「それもスノーさん達の力なので同じだと思いますよ。ですが、日焼けには気をつけてくださいね? 後で大変な思いをすると思いますので」
みぞれさんとルーくんのお陰で快適にみえますが、日差しは防げませんからね。
快適だと思って日向ぼっこしていたら、この強い日差しで軽い火傷みたいな症状になるかもしれません。
その時は回復魔法の出番になりますけどね。
ですが、サンドラちゃんの酔いもそうですが、あまり回復魔法に頼るのも良くないので一応は注意だけはしておきます。
「大丈夫だよ。ちょっと休憩したら船内に戻るし」
「それよりも、ユアンさんもどうですか? こうしてると気持ちいいですよ」
それは魅力的な提案ですが、今は断る事にしました。
「それはまた今度にします。それよりも、シアさんの姿が見えませんが何処に行ったのですか?」
「シアならあそこに登ってたよ」
「あそこ?」
スノーさんが寝ころびながら指さしたのは見張り台でした。
看板から一本だけ伸びた塔みたいな場所ですね。
「あんなところに居たのですね」
上を見ていなかったので気づきませんでしたが、確かにそこにはシアさんの姿がありました。
何をしているのでしょうか?
気になった僕は、スノーさん達にもう一度日焼けに気をつける事を伝え、シアさんのいる見張り台へと向かいました。
「シアさん、何をしているのですか?」
「見張り。みんな寛いでるから、一人くらいは必要。ユアンも?」
「僕は違いますよ。シアさんが一人で居たので来ちゃいました。迷惑でしたか?」
「そんな事ない。嬉しい。一緒に見張ろ?」
「はい! えへへっ、隣に失礼しますね」
「うん。狭いからくっ付くといい」
見張り台はそれほど広くなかったので、僕が見張り台へと入ると、体をぴったりと寄せないと二人で座れないくらいでした。
「魔物の姿は見えましたか?」
「うん。遠くの方で動いてるのはみた」
「やっぱり魔物は居るのですね。どんな魔物が居ましたか?」
「ダンジョンと一緒。
意外と魔物は居るみたいですね。
もし船で移動していなかったらその魔物と遭遇していたと思うと大変だったかもしれませんね。
歩きでも砂漠専用の馬車でもこれほど早く進めないでしょうし。
「あれは居なかったのですか?」
「あれ?」
「はい。ほら、砂漠の砂の中を移動するあれですよ!」
「もしかして、ワー……」
そこでシアさんは何かを察したようで、口を閉じました。
惜しいです!
ですが、そこまで言ったらシアさんも意識したはずですよね。
なので、その続きを代わりに僕が言う事にしました。
「そうですよ! いつも喉が渇いて水をーーむーっ!」
しかし、シアさんも学んでいるみたいです。
僕が全てを言う前にシアさんが僕の口を塞ぎました!
「ユアン、それ以上は駄目。言わせない。今回は私の勝ち」
勝ち誇った顔をシアさんはしました。
ですが、成長しているのは僕も、いえ僕たちも一緒です!
『み、みず……ですよ!』
「ぷふーっ!」
口を塞がれても僕には念話という手段がありますからね!
「えへへっ、僕の勝ちですね!」
「むぅー……それはずるい」
「ズルくないですよ。僕とシアさんの繋がりなのですからね!」
今度は僕が勝ち誇った顔でシアさんを見ました。
逆にシアさんは悔しそうに頬を膨らませていますね。
それが可愛くて、僕は甘えるようにシアさんへと寄りかかりました。
「ユアン、甘えてる」
「ダメですか?」
「ダメじゃない。もっと甘えるといい。それと気を張り過ぎないようにする」
「んー、やっぱりわかりますか?」
「上から見てたからわかる。みんなの様子を気にして歩き回ってた」
やっぱりシアさんにはバレバレですね。
僕達弓月の刻だけならあまり気にしませんでしたが、今回はリコさん達やエレン様やルリちゃんが一緒に行動してるので、慣れない環境に適応できているか心配だったのです。
「それで、みんなの様子は?」
「今の所は問題ないですよ。色々と問題ばかりですけど、問題ないと思います」
「どっち?」
「みんなうまくやってくれているといった感じです」
「なら大丈夫だと思う。だけど何かあったら直ぐに相談する。私でもユアンの力になれる事はある」
上手く説明できませんが、シアさんは理解してくれたみたいです。
「はい。なので、こうやって甘えさせてもらってます。シアさんとこうしているだけでも僕は元気をいっぱい貰えますからね」
「うん。私も。だけど、こうやって密着してるとむらむらする」
「それは我慢してくださいね」
「うん。だけど、ちょっとくらいダメ?」
シアさんが僕の肩に腕を回してきます。
すっかりその気になってしまっているみたいです。
「えっと、ちゅーくらいなら?」
「うん! 今はそれで我慢する」
「本当ですか?」
「本当。だから……」
シアさんが目を閉じて、顔を近づけてきます。
「今回だけ、ですよ?」
そんな風に迫られたら僕だって我慢できませんからね。
なので、僕もシアさんの気持ちに応えるように顔を近づけ、軽く口づけをしました。
「むー……もう、終わり?」
「終わりですよ。続きは……」
夜にと言おうとした時でした。
『あーあー、コホン。ユアンお姉ちゃん、シアお姉ちゃん。そういうのは別の所でお願いするんだよっ!』
「ふぇっ! えっと、ルリちゃんもしかして……」
『見えているんだよっ!』
ど、どうやって……。
「ユアン、たぶんこれ」
「ふぇっ! こんなのがあったのですか!?」
シアさんが上を見ていたのでつられて上をみると、僕たちの座っている見張り台の二メートルくらい上に水晶のようなものがありました。
つまりはこの距離でばっちり見られてしまっていたという事ですね。
「うー……やってしまいました」
「気にする事ない。むしろ、もっと見せつける」
「だ、ダメですよ! あっ! 僕はもう一度サンドラちゃんの様子を見に行ってきますね!」
「なら、私も下で休む。ユアン、部屋に行こ?」
『シアお姉ちゃん、聞いてましたか?』
「聞いてた。ルリの邪魔はしない。だからルリも邪魔しない」
『ルリは悪くないと思います! だけど、お姉ちゃん達がその気になっちゃったのなら仕方ないね。どうぞ、ごゆっくり!』
ぷつんと音声が途切れました。
「それじゃ、ユアンいこ?」
「えっと、シアさん? 見張りの方は……?」
「平気。あの水晶があるのなら、船の周りは見える。私達は必要ない。だから……」
シアさんが僕の服をぐいぐいと引っ張ります。
「わっ、狭い所で危ないですよ!」
「うん。だから下にいこ?」
「うー……わかりました」
結局、見張り台から降りた僕たちは部屋に戻り休む事にしました。
あくまで休憩です。
うん。二人でベッドに横になったので、あれは休憩といえますよね?
その後、みんなから何があったのか聞かれる事になりましたが、僕は同じことをみんなにも伝えました。
それで納得していない人が大半でしたけどね。
それでも、僕は言い張ります。
あれは、あくまで休憩でしたと。
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