第581話 補助魔法使い達、船に乗り込む

 「それじゃ、この先は君たちで頑張ってね」

 「わかりました。色々とありがとうございました」

 「構わないよ。だけど、本当に困った時は遠慮なく声をかけてくれて構わないからね?」

 「その時は頼りにしていますよ」

 「うん。それじゃ」


 アーリィを出発してから一週間が経った頃、ルリちゃんと再び合流したシノさんに馬車を運転していただき、ついにリアビラ領へとたどり着きました。

 事前に伝えていた事もあり、国境をすんなりと通過できたのは有難かったです。

 それも当然ですけどね。

 何せ、あの戦争の一件から国境の警備の人達の人選は厳しくなったようで、国境を守る人は信頼に厚い人達が守ってくれているみたいです。

 

 「まさかギギアナさん達が居るとは思いませんでしたけどね」

 「うん。顔見知りばかりでびっくりした」

 「シアが覚えていたのは意外だけどね」

 「そんな事ない。指導した人くらいは流石に覚えてる」

 「名前は?」

 「……覚えてた」

 「覚えてなかったのですね」

 

 約一年振りの再会となったギギアナさんは僕達がルード帝国から魔の森を抜けてやってきた時に出会った国境警備隊の方達ですね。

 最初こそ僕たちを警戒していましたが、そこから一緒に模擬戦などをしたりして打ち解けた事が懐かしく思えます。

 

 「でも、それだけルード帝国とは友好的な関係を築けている証拠でもあると思うの」

 「そうですね」


 ギギアナさん達がこっちの国境へと移ってきた理由としてルード帝国の脅威が無くなった事が大きな要因となるようです。

 

 「逆にリアビラが一番脅威とみなしているという事でもあるなー」

 「実際に攻め込んできたくらいだしね。ここで警戒しないのはあり得ないかな」

 

 同時にギギアナさん達がそれだけ評価されているという事でもありますね。

 実際にギギアナさん達はルード帝国との国境で起きた封印された魔物を撃退した時に大きな功績をあげたみたいです。

 僕たちは目にしていませんでしたが、ギギアナさんが兵を率いて魔物の群れを撃退したみたいだったのですよね。

 ただし、その行動を疑問視する声も上がったみたいですけどね。

 国境の警備隊が勝手に持ち場を離れるのはあり得ないといった声が何処からか上がったみたいなのです。

 まぁ、それを言い始めたのは鼬国だったので、誰も耳を貸さずにむしろ国境警備隊としての責務と実力を発揮したという評価が大きく上回る事になったようです。

 

 「けど、その結果がこれなのはちょっと可哀想ですけどね」

 「本人たちは納得してるとはいえ、大変な所に送られた訳だしね」

 「そのうちナナシキからも援助をしていくべきかもしれませんね」

 「そうですね。まぁ、他の場所でも頑張ってくれている人がいるので、大袈裟には出来ませんけどね」


 それでも、ギギアナさん達にとは知らない仲ではありませんし、少しくらいは何かしてあげたいと思います。


 「それにしても、やっぱり暑いですね」

 「うん。汗がとまらない」

 

 ナナシキのダンジョンで砂漠の暑さは体験していましたが、リアビラ領に広がる暑さはそれ以上に暑いように思えました。

 照りつける日差しも強く思えますし、無風といっていいほどに風もありません。

 そのお陰で視界はいいですが、何処までも続く砂の海を見ると本当に歩きではなくて良かったと思えます。


 「でも、よくこんな土地に国を造ろうと思いましたよね」

 「造らざるを得なかったというのが正解だけどね」

 

 リアビラという国の歴史はそこまで古いものではないとスノーさんは言っていました。

 もちろん古くないといっても、僕達が生まれる前から既に国の形をとっていたので、凄く新しい国という訳でもありませんけどね。


 「元犯罪者の国でしたっけ? そう聞くと、余計に警戒してしまいますよね」


 これも聞いた話になりますが、リアビラの国が出来たきっかけは、ルード帝国にありました。

 なんでも、まだクジャ様が王様の座に就く前は、ルード帝国は本当に独裁国家であり、死刑や国外追放などが頻繁にあったみたいです。

 そして、その国外追放というのがリアビラの始まりで、元犯罪者の国というのもルード帝国から追い出された人たちが立ち上げたのがリアビラとなったみたいです。

 何もない島に体一つで追い出される事を島流しなんていったりしますが、ある意味それと同じですね。


 「とりあえずさ、その話は船の中でしない?」

 「そうですね。ここまで歩けばもう大丈夫だと思いますのでそうしましょうか」


 僕たちは汗を流しながら砂漠を歩いていました。

 流石に国境の直ぐ近くに船を出すとギギアナさん達が驚いてしまうからですね。

 それに、国境を越えて直ぐに砂漠がある訳でもないのも理由の一つとしてありました。

 ですが、その制限もなくなった今、出し惜しみする必要もありませんね。

 僕はみんなに距離をとって頂き、収納魔法から船を取り出します。


 「改めて見てもやっぱり大きいですね」

 「ユアンお姉ちゃん、本当に動くの?」

 「動きますよ。それは事前に確認しているから問題ありません」


 ルリちゃんからその疑問の声があがるのは仕方ありませんね。

 僕達だってこんなものが本当に動くかどうかは半信半疑でしたからね。

 

 「ちなみに、どうやって乗ればいいんだい?」

 「面倒ですが、上まで僕が運びますよ」


 これは船の欠点の一つですね。

 試作品という事なので仕方ないかもしれませんが、船には甲板に上がる手段がありませんでした。

 正確にはあるのですが、船の上に一度上がり、そこから梯子を地上へと伸ばさないと船へと上がる事が出来なかったのです。

 まぁ、それは仕方ない事でもありますけどね。

 船は本来ならば水の上に浮かべる乗り物なので、その高さに合わせて乗り場を作ります。

 ですが、この船は地上に設置するのでそれに合わせた高さの乗り場はそうそうありませんし、そもそも僕やシノさんのような収納魔法を使える人間が居ない限りは持ち運びは今の所できません。

 それをシノさんが無理やり奪ってきたのでそこで文句を言うのはお門違いって奴ですね。


 「それ以外を除けば凄いですけどね」

 「うんうん。これなら快適に過ごせそうだね~」


 改めて船の中を覗いても驚く事ばかりです。


 「こっちの部屋は私達が使っていいのかな?」

 「はい。一人一部屋は状況によっては無理ですけど、好きな部屋を使って貰って大丈夫です」


 船は長旅を想定しているので幾つも部屋がありました。

 寝泊まりできる部屋が五つに、みんなが集まれるようなちょっとした食堂にキッチン、それに物を運ぶための倉庫などもありました。

 倉庫には作りかけの通路みたいなのがあったので、本来ならばそこから物を搬入する予定だったのかもしれませんね。


 「それでここが船を動かす場所です!」

 「なるほど。これは凄いな」

 「最近の技術は進んでいるね~」

 「これは私でも動かす事が出来るのか?」


 ラインハルトさん、リコさん、エレン様を船を動かす操縦室へと案内するとやはり驚いた様子でした。

 

 「一つ疑問。なんでエレンが驚いてるの?」

 「驚いてはいけないのか?」

 「別にいけなくはない。だけど、この船はルード帝国で造られた。エレンは見た事なかったのか疑問に思っただけ」


 あ、それは僕も思いました。

 エレン様は案内したというよりも一緒についてきただけだったので、エレン様も一緒になって驚いていたのが不思議だったのですよね。


 「私は開発には携わっていないからね。むしろ、触ると壊すとかで携わらせて貰えなかったのだよ。失礼な話だと思わないか?」

 「それは可哀そうではありますね」

 「いやいや、ユアン。エレン様に操縦はさせちゃ駄目だからね? 私よりも下手だから」

 「スノー、何を言っているのだ。私はやればできる女だ。スノーと同じにされては困る!」

 「いえ、それだけは勘弁してください、子供ですら扱える魔道具マジックアイテムですら壊してしまうのですから……」


 スノーさんが言うくらいですし、エレン様には触らせない方が良さそうですね。


 「ふっ……スノーよ。お前がルード帝国から離れている間に私も変わったのだ。心配する気持ちはわかるが、一つ私を信じてみろ」

 「いえ、これだけは譲れません。エレン様、お願いですからどうか考え直してください」


 うわぁー……スノーさんが本気でエレン様に頭を下げています。

 これはスノーさんを信じた方が良さそうですね。


 「嫌だ! 私も運転してみたいのだ! ユアン殿、もう出発するのだろう? どうか最初は私に運転させて欲しい!」

 「ユアン! 絶対に駄目だからね!」

 「ユアン殿!」

 「ユアン!」


 二人とも必死になった僕の名前を呼んできます!

 いきなり大変な事になってしまいましたよ!

 仕方ありませんね。

 ここは魔法の言葉を使うしかありません。


 「えっと、あまり我がままを言ったらシノさんに言いつけますからね?」

 「うっ……」


 やはり効果は絶大ですね。

 エレン様の表情が引き攣るのがわかりました。

 ですが、まだ諦められないといった表情もしています。

 それならもう一押し必要そうですね。


 「ルリちゃん」

 「はーい! エレン様、私はシノ様の従者なので、今すぐ報告する事も出来ますがいいのですか?」

 「それはっ……仕方ない。今は我慢しよう」


 良かったです。

 どうにか一先ず諦めてくれたみたいですね。

 

 「では、出発しますね! ラインハルトさんとリコさんには運転をお願いする事もあるかもしれませんので、一応見ていてくださいね?」

 「私達は?」

 「運転をしない人以外は基本的には自由で構いませんが、何人かは魔物が襲ってくるかもしれませんので、警戒してくれると助かります」

 「わかった」


 この船には魔物が寄りにくい仕組みが仕込まれているようですが、その効果も絶対ではないみたいですので、完全に頼りすぎるのは良くないですからね。

 その辺りは進みながらみんなで決めていこうと思います。

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