第580話 補助魔法使い達、アーリィを出発する

 「日が暮れる前に戻って来れて良かったですね」

 「うん。これで依頼は終了」

 「そうですね。まぁ、結局燃やす事になってしまいましたけどね」

 「あれしか方法がなかったしね。仕方ないかな」


 転移魔法でみんなで外へ出た後、僕たちは船の残骸をどうするかで悩みましたが、結局は燃やす事で話は纏まりました。

 収納魔法で残骸を撤去しようにも、船の中にはまだ魔物が残っているようで、収納できなかったのが原因ですね。


 「でも、怒られるとは思いませんでしたね」

 「別に怒られた訳ではない」

 「怒られたようなものではないですか?」

 「ある意味そうかもなー」

 

 僕たちはギルドに報告をし、報酬を頂いて宿屋へと戻ってきたのですが、その時に少し小言を言われてしまったのですよね。

 もちろん、今回の船の事はとても感謝されましたよ?

 ですが、問題は別の所にありました。


 「ですが、ああ言われても受けれる依頼も大してないですし、受けるタイミングがないのですよね」


 その内容とは、Bランクの冒険者なのだから、もっと依頼を受けるようにしてくださいというものでした。

 

 「でも、そんなに依頼を受けてなかったかな?」

 「受けてないよ。最後に受けた依頼はナナシキの北にある森の調査で、その前はトレンティアでの調査だったと思うの」


 ナナシキの森の調査は割と最近の事ですが、トレンティアでの調査となるとかなり前の事ですね。

 みんなで色んな所に行ったりしていたので、冒険者として活動していたつもりではいましたが、実際はそうでもなかったのですね。


 「このままだとマズい。ランクが下がる」

 「んー……別に僕はBランクからCランクに下がった所で構いませんけどね」

 「私もかな。だけど、それってちょっと情けなくない?」

 「かなり情けないと思うの。自分で言うのもあれですが、私達の実力ってそれなりにあると思いますので」

 「なー……これ以上下がったら私のランクがFランクになっちゃうなー」

 「僕達がサンドラちゃんを誘ったみたいなものなので、それは流石に避けないといけませんね」


 サンドラちゃんは冒険者としての肩書を結構気に入っているみたいなので、ランクには僕達よりも拘りがあるみたいです。

 というよりも、サンドラちゃんを除き、みんながBランクなので、早く追い付きたいという気持ちが大きいみたいです。


 「今の所は龍神様を探す旅は順調ですので、光の龍神様を探すときはギルトで依頼を受けながらの方が良さそうですね」

 「うん。Bランクならそれなりに面白い依頼もある筈」

 「自分たちの鍛錬にもなるし、積極的に受けるようにしていこうか」

 

 今回起きた事は龍神様を探す事ばかりに目を向けていた自分たちの現状を見つめなおすいい機会になりましたね。

 結果的には、ですのでシノさんに嵌められたことは当然忘れませんよ。

 ちなみにですが、今回の依頼を達成した報酬は参加したメンバーと山分けになりました。

 リコさんもラインハルトさんは遠慮していましたがけど、ちゃんと受け取って貰いました。

 やってくれた事に対する報酬を払わないのは雇い主である僕たちの面目を保てないですからね。

 そして、依頼を終えた次の日、僕たちはリアビラに向けて出発する事になりました。


 「皆さま、改めまして本当にありがとうございました」

 「いえ、元はといえば僕達が原因だったので気にしないでください」

 「いえいえ、皆さまたちがリアビラ軍を撃退してくださらなかったらアーリィは今頃無くなっていたかもしれませんから。本当に感謝しております」

 

 これは何を言ってもお礼を告げてきそうですね。

 それなのにその言葉を受け取らないというのは逆に失礼ですね。

 ですが、これだけは伝えておきたい事がありますね。


 「わかりました。お礼の言葉確かに頂きました。皆さんの幸せを守れて本当に良かったと思います。ですが、一つだけお願いがあります」

 「何でしょうか?」


 町長さんが少し困った顔をした気がします。

 もしかして、無理難題を言われると思ったのでしょうか?

 そうだとしたら、その誤解は直ぐに解かないといけませんね。


 「僕たちの街は今発展途上で、まだまだ活気が足りません。なので、これからはもっとアーリィとの交流を深めたいと思っているのですが、如何でしょうか?」


 アーリィに寄った事で、海の幸がどれだけ美味しいのかを僕たちは知りました。

 折角二日ほどで行き来できる場所にあるのに、交流をしない手はありません。

 もちろん、全くゼロだった訳ではありませんが、もっと交流を深めていくのはお互いの為でもあると思ったのです。


 「そういう事でしたら喜んで。むしろ、私達の方からお願いしたいくらいですよ」

 「そう言って頂けて良かったです。では、今後ともよろしくお願いします」

 「はい、こちらこそ」


 町長さんと握手を交わします。

 これでナナシキもまた一歩進めましたね。


 「では、お気をつけて」

 「はい! また美味しいご飯を食べに来ますので、よろしくお願いします!」

 「お待ちしております!」

 「「「いってらっしゃーい!!!」」」


 リアビラでは何が起きるかわかりませんが、その前に息抜きできたのは良かったですね。

 

 「では、出発なんだよっ!」

 「はい、お願いします」


 元気な掛け声と共に、馬車が動き出しました。

 街の方を見ると、離れていく僕たちに向かってアーリィの人たちが手を振ってくれています。

 僕たちもそれに応えるように手を振り返し、僕たちはリアビラへと向かいました。


 「いい街でしたね」

 「うん。暖かい街。交流を決めて正解」

 「そうだね。ユアンが率先して町長さんに交流の話を持ち出すとは思わなかったけどね」

 「あっ……すみません。これはスノーさんの仕事でしたね」


 つい話の流れで町長さんと交流の話を出してしまいましたが、それを決めるのはスノーさん達でしたね。

 出しゃばった真似をしてしまいました。


 「別にいいと思いますよ。ユアンさんが言わなくても、スノーさんが言っていたと思いますから」

 「実際にその話はする予定だったね」

 「それなら良かったです」

 「その代わり、ユアンが話したからには、手伝って貰うからよろしくね?」

 「えっと、僕は忙しいので……」

 「駄目だよ。町長さんはユアンさんがお偉いさんだと思っていると思うし、話合いになった時にユアンさんが居なかったら口だけだったと思われてしまいますからね」


 交流の為の話合いになった時に、持ちだした本人が居なかったら確かに困惑してしまうかもしれませんね。

 成り行きとはいえ、考えなしにああいった提案をするのは駄目という事ですね。


 「大丈夫。これも勉強」

 「そうだぞー。ユアンが王になるのならそれくらいやらないとなー」

 「そうですね。ですが、スノーさん達も一緒に話を聞いてくださいね? 僕だけだと間違った方向に向いてしまうかもしれませんからね」

 

 特に交渉事になったら僕は言いくるめられてしまうかもしれません。


 「大丈夫だよ。そういう時はオルフェさんが居てくれるからね」

 「変な事を言ってオルフェさんに後で怒られないように頑張ってくださいね?」

 「が、頑張ります」


 オルフェさんに怒られるのは絶対に嫌です!

 基本的に怒る事のないオルフェさんですが、本気で怒った時のオルフェさんは本当に怖いのです!

 まだ孤児院で一緒に暮らしている時ですが、一度だけ僕は本気で怒られた事があるのでわかります。

 あれは、浄化の森で初めて闇魔法を使った時だったのですが、その反動で一日孤児院に帰れなかったのが原因で僕が悪かったのですが、その時のオルフェさんは二度と忘れないと思います。

 

 「ちなみにですけど、この話は先に伝えておいた方がいいと思いますか?」

 「伝えられるなら伝えた方がいいと思うよ」

 「そうですよね……ちょっと行ってきますので先に行っててください! 直ぐに追いつきますので!」


 オルフェさんの怒った時の事を想像して僕は居ても立っても居られず、みんなの了承を経てナナシキへと転移魔法で飛び、オルフェさんに伝えました。

 その時に、『先に伝えてくれて良かった』と言っていたので、僕の判断は間違いではなかったです。

 もし、後回しにしていたらと考えると背中に冷たい汗が流れましたけどね。

 ともあれ、アーリィでの出来事は僕にとっても良い経験になりました。

 この調子でリアビラも無事に終わってくれることを願うばかりです。

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