第579話 補助魔法使い達、魔法陣を壊す

 「皆さん、お疲れ様でした。大丈夫だとは思いますが、怪我などはありませんか? 些細なものでも後に影響を及ぼすかもしれないので、報告はしてください」


 アンデット系の魔物で厄介な所に毒攻撃というのがあります。

 爪や歯に毒が含まれていて、小さな引っ掻き傷だからといって放置した結果、後で腕を切断する事になったり、寝る前は元気だった人が朝になったらひっそりと息を引き取っていたりなんて話も聞きます。

 それを心配してみんなに声を掛けたのですが、大丈夫そうですね。


 「もしかして、本当にもう終わってしまったのか?」

 「見ての通り、みんなで魔物を倒したので大丈夫ですよ」

 「結局、私の出番はなかったのか……」


 エレン様が項垂れました。


 「えっと、エレン様は船の方から来た敵を倒してくれてましたよね? 凄く助かりましたよ?」

 「ゾンビやスケルトン相手だ……」あんなもの誰でも倒せるではないか。私も屍鬼グールと戦いたかったのに……」

 「エレン様が戦っても楽しめた相手ではないと思いますけどね」


 実際に、魔物の大軍を倒すのは一瞬で終わりました。

 これだけのメンバーが集まっているので、多少の数の差は何ともありませんでしたし、Bランク指定の屍鬼グールが含まれていても、一対一で負ける人は居ませんでしたからね。

 むしろ一番大変だったのが、エレン様が私も前線で戦うと何度も持ち場を離れそうになった事ですし。

 まぁ、その度に「シノさんに言いつけますよ?」とエレン様に伝える事でどうにか抑える事が出来たので良かったですけどね。

 

 「では、僕はあの魔法陣を調べてきますので、少しの間ですけど休んでいてください」

 「なら、私も一緒にみるー」

 「それならば私も一緒に行こう。ユアン殿の護衛は任せてくれ」

 「お願いします」


 護衛がついてくれるのは有難いですね。

 見た所、まだ魔法陣の輝きは失われていないので、魔法陣が起動している事がわかります。

 解析している最中にいきなりそこからゾンビなどが現れたら凄くびっくりしますし、怖いですからね。

 という事で、僕達四人は魔法陣に近づきました。

 三人ではなく、四人です。

 

 「シアさんは休んでいなくていいのですか?」

 「平気。むしろユアンの近くの方が休める」


 増えたのはシアさんでした。

 ラインハルトさんだけではなく、シアさんも護衛についてくれるのは安心ですね。

 護衛するつもりがあれば、ですけどね。


 「これは転移魔法陣ではありませんね」

 「違うなー。ユアンー、次はこっちだぞー」

 「はい。見た事のない魔法文字ですけど、サンドラちゃんはわかりますか?」

 「わかるー。これは、召喚の魔法陣だなー」

 「これがそうなのですね」

 「キアラも召喚魔法が使える。あれとは違うの? それと、次はこっち」

 「はい。あれとはまた違うみたいですね。キアラちゃんの場合は契約魔法の魔法陣なので、召喚とはまた違うのですよ」

 「確かにそうかもしれないな。ラディ殿やキティ殿を召喚する時に魔法陣を使用している所を見た事がない。ユアン殿、次は私だ」

 「はい……っって! どうして僕が順番にみんなの頭を撫でなきゃいけないのですか?」


 僕が魔法陣の解析をしていると、何故か撫でろと言わんばかりに順番に頭を差し出してくるのです。

 

 「なー? ユアンはこっちの方が集中できるんじゃないのかー?」

 「出来ないですよ。頭を撫でるのだって気を遣いますからね!」

 「でも、ユアンなら出来る。次は私」

 「なー! ラインハルトの後だから、次は私だぞー!」

 「サンドラ殿は撫でられる時間が長いように思える。これでは私の順番が中々回ってこない。なので、もう少し私の番を増やして貰いたいのだが?」

 「それは贅沢。順番は守る」


 サンドラちゃんは一緒に解析をしてくれるのでまだしも、シアさんとラインハルトさんは護衛をしてくれる気はあるのでしょうか?

 まぁ、撫でられていない間は警戒してくれているみたいですが、もうちょっと気を張って貰いたい所です。


 「えっと、撫でるのは無しで解析に集中するというのは駄目ですか?」

 「ダメ! ユアンに撫でてもらうために護衛してる。それは譲れない」

 「リンシア殿の言う通りだ。これは正当な護衛の報酬だと思う」

 「ユアンー、早く撫でてー?」


 撫でるくらいなら今じゃなくてもいいと思うのは僕だけでしょうか?

 宿屋とかで時間があれば撫でてあげるのに、この場所に拘るのが理解できません。

 まぁ、撫でながらでも解析は出来るのでいいですけどね。


 「まぁ、こんな所ですね」

 「終わったの?」

 「一応は解析して覚える事は出来ましたよ」

 「流石はユアン殿だ。それで、これは一体何だったのだ?」

 「単純に召喚の魔法陣だと思います。転移魔法陣と違い、一方的に繋がった魔法陣といえばわかりますかね?」

 

 転移魔法陣は繋がった場所を行き来できる魔法陣ですが、召喚の魔法陣は向こうからこちらにしか来る事が出来ないのが特徴ですかね?


 「なるほど。こちらからは向こうに干渉は出来ないが、向こうからはこちらには干渉できるという事なのか」

 「そうなりますね。一方的に魔物を送ったりするのにはちょうどいいのだと思います」」

 「だけど、これ以上魔物が送られてくる気配はない。どうして?」

 「それはわかりません。そもそも、どうして船が座礁した先に洞窟があって、そこに魔法陣があるのかもわかりませんからね」


 偶然船がこの場所に座礁したとは思えません。

 だとすると、意図して船がこの場所に座礁したという事になるのですが、流石にこの状況だけではその意図を解き明かすのは無理ですね。


 「とりあえず、解析は終わったので魔法陣は壊してしまいましょうか」

 「それがいい。そうすればこれ以上魔物が増える心配はない」

 「では、魔法陣は壊してしまうがいいか?」

 

 そう言って、ラインハルトさんは聖剣を抜きました。

 僕はそれを慌てて止めます。


 「だ、ダメですよ! ラインハルトさんは魔法陣の壊し方を知っているのですか?」

 「いや、知らないが、普通に壊してしまっては駄目なのか?」

 「ダメです! 魔力の籠っていない魔法陣なら構いませんが、起動中の魔法陣はきちんと壊さないと大変な事になりますからね」


 魔法陣は魔法文字によって効果を表しています。

 適当に壊してしまった結果、魔法文字の意味が変わり、魔法陣が違う意味合いになってしまう可能性が低いながらあります。


 「なので、壊すときは適当にではなくて、まずは魔法陣を形成する元から壊すのですよ……これですね」


 一番簡単な方法は、魔法陣を起点を壊す方法ですね。

 

 「ふむ。今まで何ともなく壊していたが、私の方法では危険だったという訳なのか」

 「そうですよ。もしかしたら暴発していた可能性もありますね」

 「その場合はどうなるの?」

 「この場所だったら、洞窟が崩れたりした可能性はありますよ」

 

 それほど間違った方法で魔法陣を壊すのには危険を伴う作業です。

 まぁ、滅多にそんな事は起きませんけどね。

 ただ、正しい方法を知っていれば、正しい方法で魔法陣を壊すのが一番という事です。


 「これでよしっと。後は二度と使えないようにぐちゃぐちゃにしてしまえば大丈夫です」


 それほど複雑な魔法陣ではなくて良かったです。

 魔法陣の魔力が流れる始まりの場所の魔法陣を壊すと、魔法陣の輝きは失せました。

 そうなれば何をしても大丈夫です。

 

 「では、後は脱出するだけですね」

 「うん。帰ってゆっくりする」

 「帰りは転移魔法で戻りましょうか」


 リアビラへと向かう前に、こんな事をやる事になるとは思いませんでしたが、この調子で魔物がどんどんと増え、アーリィの街に被害が出た時の事を考えれば対処出来て良かったと思います。

 しかし、この時はまさかこれがきっかけであんな事になって、それに巻き込まれる事になるとは思いもしませんでした。

 それを知る事になるのはもう少し先の事ですけどね。

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