第584話 補助魔法使い、夜の見張りをする
「たまにはこういうのもいいですね!」
「うん。背中越しにユアンの体温が伝わってくる」
見張り台で背中合わせで一枚の毛布に包まり、僕たちは真夜中の見張りをしています。
昼間の暑さが嘘のように夜は冷え込み、吐く息が白く、耳がジンジンと痛むほどです。
それでも、寒いのが苦手な僕は何故か嫌ではありませんでした。
「風がなくて助かりましたね」
「うん。視界が遮られたら大変だった」
そのお陰で夜空に輝く星もよく見えて、凄く綺麗です。
時には風が強くて、砂が激しく舞う日もあるみたいなので、今日は幸運なのかもしれませんね。
「船の旅は少し心配でしたが、馬車などで移動するよりも早くて、安全で良い感じですね」
「うん。夜に無茶をしても昼間に寝れるのは大きい」
「そうですね。昼間ならそこまで魔物を警戒する必要はありませんからね」
実際にそこは大きいですね。
船の仕組みで魔物が寄ってこないというのもありますが、船は結構な速度で進みますので、大半の魔物は船の速度についてこれません。
今日の昼間もそうでしたが、そのお陰で昼間はゆっくりできるので、こうして夜の見張りも苦ではなかったりします。
見張りを交代すれば、その後はゆっくりできますからね。
「でも、みんなとの時間が減るのは少し残念ですけどね」
僕の中で問題があるとすればそこですね。
夕食をとった後、僕たちは役割分担を決めました。
昼間は船の運転とそのサポートをする人、見張りをする人、自由に過ごす人。
夜は身張りと、休む人と交代でやっていくように決めたのです。
ちなみに、夜の見張りをするのは僕達弓月の刻とルリちゃんになり、常に二人体制で見張りをする事になりました。
リコさんとラインハルトさんはメイドさんなので、朝昼晩の食事を担当して貰っているので、見張りは免除となっています。
そこまでお願いしたら仕事ばかりになってしまいますからね。
「大丈夫。それでも接点が無くなる訳ではない」
「そうですけどね」
これは贅沢な悩みですね。
人によっては馬車はお互いの距離が近くて窮屈だと思う人もいるかもしれませんが、僕はみんなの事が大好きですので、多少窮屈でもみんなと一緒に入れる時間があるのは嬉しいです。
まぁ、その為に朝と夜はみんなで食事をとる事になっているのですけどね。
「ヂュッ!」
「ありがとうございます。シアさん、魔物が近くにいるみたいですよ」
「わかった。倒す?」
「いえ、それは大丈夫みたいですよ。ほら」
見張りは常に二人でやっているのは理由があります。
本来なら、大きな船に対して二人で見張るのは死角が多いので足りませんが、僕たちには頼りになる仲間が他にも居ます。
「みぞれとルークは有能」
「そうですね。みぞれさん達は睡眠を必要としないので、夜でも活動出来ますからね」
むしろ夜の見張りは僕たちがオマケですね。
基本的にはラディくんの配下とキティさんの配下が船の周囲を警戒し、接近してきた魔物はみぞれさんとルーくんが対処してくれています。
僕たちは主にその報告を受けるくらいですね。
なので、大精霊の二人に護られる船は余程の事がない限りは安全だったりします。
「うー……寒いんだよ」
「大丈夫ですか?」
「なー……眠いぞー」
「まだ寝ててもいいですよ?」
「なー! 私も冒険者だから頑張るぞー!」
そんな風に過ごしていると、見張りの交代の時間になったみたいですね。
「お姉ちゃん達、狭いから早く降りて欲しいんだよ?」
「わかりました。何かあったら魔鼠さん達に伝えてくださいね?」
「わかったー。ルリー、頑張ろうなー」
「はーいなんだよっ!」
実はこの二人もそれなりに仲良かったりするんですよね。
サンドラちゃんはナナシキに来てから、龍人族という理由で中々外出をさせてあげられませんでした。
街の人に紹介するにも、どう紹介していいのかわかりませんでしたからね。
そんな時に出会ったのがルリちゃんでした。
これは後で知った事なのですが、ルリちゃんはリコさんやジーアさん達とも仲が良く、昼間にメイド仲間であるリコさん達とお茶会をしたりなどしていたみたいで、サンドラちゃんはその中に混ざって交流をしていたみたいです。
そういった経緯もあり、今日の見張りはルリちゃんとサンドラちゃんがペアになりました。
本人もそれでいいと言っていましたからね。
「ユアン、この後はどうする?」
「眠るには中途半端なので、朝食までのんびりしてその後に少し寝ようかと思ってます」
「うん。それがいい」
僕たちの見張りはスノーさん達の後なので、真ん中でした。
正直、一番大変な順番な所だと思ってます。
普通の冒険中なら、寝て、起きて、寝ての順番になりますからね。
纏まった休みがとれなくなります。
そう考えると、改めて船での移動は楽だと思えますよね。
移動中も問題なく眠る事が出来ますからね。
といっても、昼間には船の運転がありますので、ずっとゆっくり出来る訳ではありませんけどね。
「では、日が昇るまでの数時間、ゆっくりしていましょうか」
「うん。ゆっくりしようね?」
にやりとシアさんが笑いました。
「シアさん、しませんからね?」
「まだ何も言ってない」
「わかりますよ。シアさんがそういう顔をしている時は何をしようとしているか直ぐに」
「むー、わかった我慢する。だけど、ユアンが我慢できなくなったら直ぐに言う」
「大丈夫ですよ。僕はシアさんみたく節操がない訳ではありませんからね」
僕には理性がありますからね。
そういう事をするのは雰囲気だけではなく、場所が大事だと思います。
流石に、旅の途中でみんなが周りに居る中で直ぐにそんな気分にはなったりしません。
ちゅーくらいはしたくなりますけどね。
ですが、あれはスキンシップの一部です。
その後、部屋に戻った僕たちは眠りはしませんがベッドに軽く横になり、朝食の時間を待つ事になりました。
その時にシアさんが体を撫でるように色んな所を触ってきて大変でしたけどね。
その結果、我慢できなくなってしまった僕はシアさんに……。
何でもないです。
ともあれ、僕たちの一日目は順調に終わりました。
まだまだ砂漠の移動は続きますが、何事もなく進む事を祈るばかりです。
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