第577話 補助魔法使い達、合流する

 「ん……?」

 「どうしたの?」

 「今、揺れませんでしたか?」

 「そう?」

 「気のせいですかね?」

 「うん。多分気のせい」

 「それか、船に波が当たったのかもね~」

 「あ、その可能性もありますね」

 「こんな場所だ。ユアン殿が心配になるのもわかるさ。しかし、安心して欲しい。ユアン殿に何かあっても私が守るからね」

 「ありがとうございます。ですが、僕だけでなく、みんなも守ってくださいね?」

 「当然さ。ユアン殿に悲しい顔をさせる訳にはいかないからね」


 まぁ、みんなは揺れたと思っていないみたいなので、きっと気のせいなんでしょうね。

 スノーさんの叫びが聞こえたような気もしますけど、近くに反応はないですし、きっとそれも僕の気のせいでしょう。


 「それにしても、魔物の数は一向に減らないねぇ~」

 「そうですね。こうなってくると、何処かに召喚の魔法陣か転移魔法陣があるとしか思えませんね」

 

 無限に湧き出てるんじゃないかと思うほどですからね。

 もしかしたら、それだけの数の乗組員が居たとのだとも考えられますが、それにしても異様な数だと思います。

 既にラインハルトさんが百……いえ、二百から三百くらいのゾンビとスケルトンを倒しているくらいですからね。


 「ユアン、魔力で探れない?」

 「ある程度なら探れますが、妨害ではありませんが、魔法道具マジックアイテムが色んな所に散らばっているぽいので、それが邪魔で確実は言えませんね。今言えるのは、やっぱり下からというくらいです」

 「それで十分」

 「問題は道が繋がっているかだね~」

 「その辺りは問題ない。私が道を切り開いて見せよう!」

 「あまり無里な事はしないでくださいね? 今は大丈夫かもしれませんが、一応は海の上なので、海水が入って来たら大変です」

 「流石に壁や床に穴を開けるなんてことはしないさ。安心してくれ」


 ラインハルトさんも船の中がどれだけ危険なのかわかっているみたいですね。

 まぁ、普通に考えればわかりますよね。

 こんな場所で無暗に床や壁に穴を開けて進もうと思う人なんて居ないと思います。

 それが近道になるとわかっていても、それがきっかけで沈没する事だってありえますし、これだけ魔物が居るのですから、魔物を減らしていない状態で下に降りれば直ぐに魔物に囲まれる事くらいは容易に想像できますし。


 「とりあえず、安全を確保しながら進みましょうか」

 「そうだね。しかし、日が暮れる前には終わらせよう」

 「慎重に急いで進む」

 「矛盾してるようだけど、それしかないね~」


 スノーさん達も無事に進んでいる事を祈りながら、僕たちは進めそうな通路を選び、下へと向かっていきました。

 

 「ここは……?」

 

 時間としては二時間くらいでしょうか?

 ゾンビやスケルトン、時々壁からにゅるりと現れるゴーストなどに驚きながらも下を目指していると、船の中とは思えないほどに広い空間に辿り着きました。


 「床は石ですね」

 「うん。明らかに船ではない」

 

 もしかして、船を歩いているうちに外に出てしまったのでしょうか?


 「その可能性はあるかもね~。ほら、みてごらんよ」

 「これは、ヒカリゴケ……ではないですね」

 「うん。ただのコケ」


 どう見ても船の中ではないですね。

 それに、魔物の反応もありますね。


 「もしかして、船の中に居た魔物は此処から来ていたのでしょうか?」

 「十分にありえるな。調べてみよう」


 そう言って、ラインハルトさんが先へと進もうとした時でした。


 「な、なんだ!」


 歩き出したラインハルトさんが慌てた様子で振り向き、剣を抜きました。


 「物凄い音がした」

 「そういえば、さっきから聞こえてた気がするね~」

 

 リコさんは僕とシアさんよりも耳がいいみたいですね。

 僕には聞こえていませんでしたが、リコさんには同じような音が聞こえていたみたいです。


 「ユアン」

 「大丈夫ですよ」


 シアさんもラインハルトさんと同じように剣に手をかけました。

 ですが、本当に大丈夫です。

 探知魔法でわかっていましたからね。


 「ようやく広い場所へとたどり着けたな」

 「エレン様……そろそろ大人しくしてください」


 そこに現れたのはスノーさん達でした。


 「そっちも此処へと辿り着いたのですね」

 「へっ? あ、ユアン! 良かった、会いたかったよ! 本当に……」


 感動の再会ですね。

 スノーさんは僕たちの姿を見つけると、本当に嬉しそうに近づいてきました。

 そして、そのままの勢いで僕を抱きしめようとしてきます。

 それだけ、僕たちに会いたかったという事ですね。

 嬉しいですけど……僕はその気持ちに応える事は出来ませんね。


 「えっ、どうして避けるの?」

 「当然ですよ、スノーさん達と無事に合流できたのは嬉しいですけど……その格好で抱き着かれるのは流石に嫌ですからね」


 エレン様とスノーさんの格好は酷い物でした。

 甲冑に直接ついている訳ではないのですが、防御魔法にドロッとした液体が付着しているのがわかります。

 これは僕も知らなかった事なのですが、防御魔法は水を弾く効果がありますけど、ゾンビなどの液体には魔力が解けているようで、それは防御魔法では防げずに、付着してしまうみたいなのですよね。

 

 「確かに。スノー、汚いから寄らないで欲しい」

 「ひ、ひどっ! これでも頑張って進んできたんだけど!」

 「それはこっちも一緒。ここまでに来るまでにいっぱい魔物を倒した」

 「リンシア殿はほんとんど倒していない気がするのだが……」


 ラインハルトさんから悲しい声が聞こえます。

 実際に一番頑張ったのはラインハルトさんですからね。後でまた頭を撫でて労ってあげようと思います。


 「まぁ、言われてみたら確かにこれは酷いね。途中からはそれどころじゃなくて気にならなくなったけど」


 それだけ過酷な事があったのですね。

 

 「とりあえず、綺麗にしちゃいますね?」

 「うん、お願い」

 「浄化魔法クリーンウォッシュ……とりあえず、これで大丈夫ですよ」


 何かと使う機会の多い魔法ですが、やっぱり便利ですね。

 一瞬でスノーさんの体が綺麗になりました。ついでにエレン様もですね。

 防御魔法を解いても良かったですけどね。

 ですが、それだと防御魔法に付着していたゾンビの体液がその場に落ちそうだったので、今回は丸ごと綺麗にしました。


 「ありがとう。それじゃ、いいよね?」

 「わっ! もぉ……!」


 スノーさんが僕の事を抱きしめてきます。

 

 「あー……やっぱり癒されるなぁ」

 

 そして、耳と尻尾も遠慮なく触ってきますね。

 

 「「「ずるい……」」」

 

 すると、恨めしそうな声が色んな所から聞こえました。


 「スノーよ、そろそろ私とも変わってくれないか?」

 「え、エレン様もですか?」

 「うむ! ユアン殿の耳と尻尾はきっとシノ様に近いだろう。私も堪能してみたい」

 

 そ、そんな理由でですか?


 「エレン、それはユアンに失礼。ユアンはシノの代わりではない。それに、ユアンは私の嫁、気軽に耳と尻尾を触るのは良くない」

 「確かにそうだな。まずは本人に確認をとらなくてはいかぬな。それで、ユアン殿? 私もユアン殿の耳と尻尾に触れてもいいだろうか?」

 

 返事に困る事を言いますね。

 正直言いますと、本能的なものだと思うのですが、あまり親しくない人に触られるのは好きではありません。

 かといって、エレン様はルード帝国の皇女様で今回の協力者でもあります。

 無下に断る事は出来ないですよね。

 

 「えっと、流石に尻尾は駄目ですけど、耳くらいならいいですよ」

 「十分だ!」


 僕が妥協案を提示すると、エレン様は納得してくれたみたいで、頭を撫でるように耳を触ってきます。

 

 「ゆ、ユアン殿……私は?」

 「ラインハルトさんは逆に後で頭を撫でてあげますよ」

 「それはそれで嬉しいけど、どうせなら私も触りたい!」

 

 そこまでして触りたいのですかね?

 まぁ、ラインハルトさんは一緒の家に暮らす仲ですし耳くらいならいいですけどね。


 「なら、私も堪能させて貰おうかな?」

 「り、リコさんもですか!?」

 「うんうん。ユアンちゃんは可愛いからねぇ~」

 「なら、順番ですね」

 「順番だなー」

 「最後は私。その後も私」


 結局、僕は順番にみんなから撫でまわされる事になりました。

 まぁ、それでこの先に進む為の英気が養われるのならいいですけどね。

 それに、みんなに撫でまわされて再確認出来た事もありましたからね。

 当たり前の事ですが、シアさんに撫でて貰うのが一番嬉しくて、安心できるのだと。

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