第576話 一方、スノー達は……
「ふっ、弱いな」
「え、エレン様、少しは自重してください!」
「何を言うか。このような機会はそうそうない。これも経験だ!」
ユアン達と分かれてから嫌な予感はしていたけど、やっぱりこうなったか。
「知っていたはいましたけど、エレン様って勇ましいですね」
「言い方を変えればね……」
「スノーも大変だなー」
「本当だよ。はぁ……」
やっとエレン様から解放されたと思ったのにまさかこんな形でまた一緒に行動する事になるとは思わなかった。
もちろん、尊敬もしているし憧れはあるけどね。
それでも、あればかりは本当に治した方が絶対にいい。
私も含めエレン様の部下だった私達は相当苦労させられたからね。
きっと今もそうなんだろうけど。
「スノー! 何をしている、早く進むぞ!」
「はっ、はい!」
「その気の抜けた返事はなんだっ!」
「はっ! 失礼致しました!」
「うむ! では進むぞ、ついて参れ!」
「了解! ……きあらぁ~」
「ふふっ、頑張ろうね。今のスノーさんも凄くかっこいいよ」
「ほんとに?」
「本当だよ。騎士だった頃のスノーさんの事はあまり知らないので凄く新鮮だよ」
キアラにそう言って貰えるだけまだ良かったけど、正直これは辛いけどね。
魔物は全てエレン様が率先して倒してくれるから問題ないけど、エレン様は無茶が過ぎるのでそのフォローが大変。
きっと、この先も何かしらやらかすんだろうな……。
そう思いながら私達はエレン様の背中を追うと、その予想は的中した。
「またスケルトンか……学ばない奴らめ! シノ様より授かった我が愛剣の錆にしてくれるっ!」
「骨を斬っても錆びないと思うけどなー」
「サンドラ、それは言わないであげて」
私も思ったけど、流石にそれは言えなかった
幸いにもエレン様には聞こえていなかったみたいだけど、エレン様は割と短気だし、今の一言で機嫌が悪くなる事もあり得る。
流石にそこまではフォローしたくないからね。
「ふっ、所詮はこの程度か」
「エレン様、お疲れ様です」
「うむ。しかし、この様子では魔物はまだ潜んでいるだろう。決して油断はするな」
「はっ!」
「だが、ここは面倒だな。いちいち下の階層へと繋がる道を探すのも面倒だ」
エレン様が顎に手を当て、怖い事を言い始めた。
私は知っている。
エレン様がこういう事を言い出すと、必ず良からぬことが起きると。
「それは仕方ないかと。魔物が現れるという事はどこかに下へと続く道があると思われます」
そして、エレン様が突拍子のない事を言い始める前に、それを私が止める。これが私の昔からの役目でもあった。
「確かにな……ん?」
「どうなさりましたか?」
「スノーよ、今……下と言ったな?」
「はい。そう言いましたが、それが何か?」
「どうして下に道があるとわかったのだ?」
「それは私が風魔法で感じ取った事をスノーさんに伝えていたからです」
「キアラルカ殿がか……なるほど。キアラルカ殿は風魔法の使い手であったな。流石は冒険者だ」
「お褒めの言葉、ありがたく頂戴致します」
「そう畏まらなくてもいいぞ。この先も頼りにしてる」
「ありがとうございます」
「うむ! しかし、いい事を聞いたな。下にも道があるのか……」
その時、私は見てしまった。
何かを思いついたようににやりと口の端を吊り上げて笑うエレン様を。
「スノーよ、このまま進んでも迷うだけだと思わないか?」
「いえ、退路もあることですし、堅実に進んだ方が良いかと……」
「そうだな。だがしかし、ユアン殿達も今頃は進んでいる頃だろう。私達が遅れる訳にはいかん」
「それはそうですが……まさか!」
「そのまさかだ! 皆の者、行くぞ!」
エレン様の魔剣が光を帯びた。
そして、エレン様は躊躇いもなくその剣を床へと突き刺してしまった。
「キアラ、サンドラ!」
「なー!」
「失礼します!」
サンドラが私の背中に飛び乗るように抱き着き、私はキアラを抱き上げる。
「爆ぜろ!」
その言葉と共に、エレン様の剣が一層輝きを増し、それと共に私達の床が崩れ落ちた。
「キアラっ!」
「わかってます! ルーク!」
「任せて!」
流石はキアラだね。
キアラの名前を呼ぶだけでキアラはその意図を察してくれた。
「っと!」
落下したのは一瞬だったと思う。
高さとしては五メートルくらいかな?
頭上をみると、私達が落ちてきた穴が見えている。
「キアラ、ありがとう」
「うん。それにしても、びっくりしたね」
「無茶な事をするなー。昔からああなのかー?」
「そうだよ。私の苦労もわかってくれる?」
「わかるなー……」
「よくスノーさん達はやって来れましたね」
「結果が伴っていたからね。だから何も言えないんだよね」
こんな無茶ばかりするくせに、エレン様が失敗をしたという話しは一度も聞いた事はないのが不思議なんだよね。
「スノー達も無事か?」
「はい。何も問題ありません。エレン様は?」
「私の方も問題ない。キアラ殿の魔法に助けられた」
まぁ、周りのサポートがあっての結果でもあるけどね。
今回だってキアラが落下する私達をルークの精霊魔法を使ってクッションを作ってくれたお陰で無傷で済んだ。
流石にあの高さから普通に落ちたら足を痛めるくらいはしてもおかしくなかったしね。
「では、この調子で進んでいこう」
「はい! ……この調子?」
「うむ! さぁ、どんどん行くぞ!」
嘘だよね?
エレン様は再び剣を床へと突き刺した。
「え、エレン様! 魔物が寄って来ていますので、今は……」
「なに!? それをもっと早く言わぬか!」
「やる前にちゃんと周りを見てーーきゃぁぁあ!」
私達の床が再び崩壊する。
「ルーク!」
「……まかせて」
あー……ルークも呆れちゃってると。
やっぱり予想はしていたけど、エレン様に任せるといつも面倒になる。
それで、一度こうなると連鎖的に面倒な事は続く事を私は知っている。
「うむ。どうにかなりそうだな」
「なっていませんよ! エレン様、迎撃です!」
エレン様は満足そうに頷いているけど、決していい状況とはいえない。
音に釣られてきたのか、通路を挟むようにして大量のゾンビとスケルトンが迫ってきている。
「ぐぁぁぁぁぁぁ」
「上からも降ってくるぞー」
「あぁ、もう! エレン様は一人でそっちの通路をお願いします! キアラとサンドラは反対の通路をお願い! 私は上から降ってくるのをどうにかする!」
「わかったよ!」
「任せろー」
うぅ……エレン様に任せれば楽だと思ったけど、やっぱり大きな間違いだったよ。
エレン様を止めれなかった私にも責任はあるけど、流石にこの仕打ちは酷いと思う。
こうなってしまっては気持ち悪いとは言っていられない。
私は泣きそうな気持を抑えながらもユアンの防御魔法がゾンビたちの体液を弾いてくれることを祈ってゾンビを切り伏せていくのだった。
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