第575話 補助魔法使い達、船の魔物を退治する
「はぁっ!」
狭い船内の中で聖剣を一振りすると、それだけ複数のスケルトンがバラバラとなりました。
凄いですね。
これだけの数を一度に倒す力量も凄いですが、船内の壁や天井を斬る事なく、的確にスケルトンだけを最小限の動きで葬り去る技術は流石の一言です。
シアさんやスノーさんの戦いを見ていつも思う事は、今の僕の実力では二人には敵わないなと思うのですが、ラインハルトさんを見ても同じ感想を持ちます。
それだけ僕との差は歴然としているという事ですね。
シアさんとラインハルトさんが戦ったらどちらが上なのかが凄く気になりますね。
個人的にはシアさんには負けて貰いたくないですし、負けないと思っていますけど、アーレン教会でラインハルトさんとダンテが戦っているのを見て、評価していましたし、戦ってみるまではわかりませんね。
「ユアン殿っ、見ててくれたか!?」
「はい。やっぱりラインハルトさんに声を掛けて正解だったと思います」
「そう言って貰えると私も嬉しいよ。さぁ、私の雄姿をもっと見てくれ!」
ただ、これさえなければですけどね。
僕にいい所を見せたいという気持ちはわかりますが、敵を倒す度に振り返るのは良くないですよね。
「でも、いいんじゃないかい? 私達は楽が出来るからね~」
「うん。ラインハルトには出来る限りの敵を倒して貰う方がいい。汚れなくても済むから」
シアさんが珍しく前に出て戦わないのはその為ですね。
今はスケルトンが相手でしたが、敵はスケルトンだけではなく、ゾンビなども出現しますので、それを斬るのが嫌みたいです。
その点、ラインハルトさんはゾンビが相手だろうと臆することなく切り伏せているので、凄いです。
「ふっ、今の私を止めようと思うのならこの程度では無理だな」
「本当に大丈夫なのですか?」
「返り血の事かな?」
「はい。かなり鎧とかが汚れてしまっていますけど……」
「平気さ。彼らの事を思えば私が汚れるくらい何ともない。生前の肉体を奪われても尚、こうして操られるのは彼らにとって苦痛だろうからね。せめて楽に天へと昇らせてあげたいんだ」
自分の事よりも亡くなってしまった方の事を思って行動するのは純粋にかっこいいですね。
僕なんか、いきなり壁から現れるゴーストに驚いて泣きそうになりながら戦っていますからね。
シアさんに関しては未だに一匹も魔物を倒していませんし。
ちなみにリコさんは戦闘職ではないので戦いには参加していません。
僕の心の支え的な存在ですね。
リコさんの隣を歩いていると妙な安心感があるのですよね。
これも巫女さんとしての力なのでしょうか?
「それにしても、これだけの魔物がいるのは驚きですね」
「うん。どんどん増えている気がする」
「ユアンちゃんの探知魔法だとどんな感じなんだい?」
「増えている感じはしませんが、減っている感じもしないといった感じですね」
「ユアン殿の探知魔法がそう捉えているのなら間違いはないだろうね」
「そこまで信用されても困りますけどね。探知魔法にも欠点はありますので」
確かに魔物を捉える事が出来るので便利には便利かもしれませんが、こういった場所ですと地下にも魔物が存在しているので、実際にどの辺に魔物がいるのかというのがあやふやです。
魔物の反応があると伝えていざ通路を曲がってみるとそこに魔物は存在せず、実際は一つ下の階だったりなんてことはよくあります。
そのせいで、魔物の数も正確な数がわからないのですよね。
一つの赤い点だと思っていたら実は赤い点が上と下で重なっていたりして、いきなり反応が増える事だってあります。
まぁ、根本的にそれだけの魔物が存在するという事でもありますけどね。
少ない数でしたら、ここまで魔物の反応が重なる事はありえないので。
「だけど、ここまでユアンがわからないのは流石におかしい」
「リンシア殿の言う通りだ。これまでに五十以上の魔物を倒してきたが、一向に数が減る気配はない」
「そうですね。リコさんはどう思いますか?」
「そうだねぇ~。ここまで数が減らないとなれば、何かしらの細工が施されているんじゃないかと思えてくるね~」
「十分にありえますね」
シノさんの報告によれば、リアビラ軍は召喚魔法を使い、帝都の時のように蜂型の大量の魔物を召喚してきたと言っていました。
もし、この船にも同じような細工がしてあったとしたら魔物が一向に減らない理由にも納得がいきます。
「それなら、それを目指して進むのがいいかもね~」
「そうですね。といっても、そうはさせてくれないみたいですね」
「うん。だけど、あれが手掛かりに繋がっているかもしれない」
「どんな敵が来ようが結果は同じさ」
姿はまだ見えていませんが、探知魔法を持たないシアさんとラインハルトさんは気づいたみたいですね。
ズルズルと何かを引きずるような音が近づいてくれば当然ですか。
しかも、それは一つではなく幾つも聞こえてくるのです。
それも、前からだけではなく、後ろからも。
「まるで狙ったかのようにも思えますね」
「そうかもしれないね~。もしかして、何処かで見られてるのかな~?」
「そんな感じはしない」
「でも、タイミング的にはバッチリですよ?」
ここが洞窟などであれば、こんな状況にはならなかったと思いますが、僕たちが居るのは船の中です。
しかもただの船ではなく、幾つもの壊れた船が合わさった船です。
なので、至る所に穴が開いていたりして、僕たちでは通り道と認識しないような場所が魔物の通り道になっていたりもします。
どうやら背後から迫ってくる魔物はそこを通り抜けてきたみたいですね。
「後ろの敵はどうしますか?」
「ユアンの
「うぅ……出来る事なら見たくはないですね」
音の感じからすると、背後の敵はゾンビっぽいですからね。
僕はあの魔物がどうしても苦手です。
「……仕方ない。私がやる」
「いいのですか?」
「うん。ユアンの防御魔法があるから、汚れる事はない。気分的な問題だから平気」
「申し訳ないです」
「いいの。その代わり、後で綺麗にして?」
「はい。それは勿論です」
嫌な事をお嫁さんに押し付けているようで情けなくなりますね。
いっその事、前みたくシアさんに抱えて貰って
何かあってからでは遅いですし、ここはシアさんに……。
「ん~? ユアンちゃんもリンシアちゃんも嫌なら私がやるよ?」
「ダメ。リコに危険な事はさせられない」
「危険かい? たかがゾンビだよね~?」
「たかがゾンビといいますが、見た目はかなりきついですよ?」
ゾンビもそうですがアンデット系の魔物の相手で一番嫌なのはそこですからね。
匂いもそうですが、それは防御魔法でどうにかなるので僕たちは問題ないですが、見た目だけはどうにもなりません。
「私はそういうの平気だよ? それに、私も魔法が少しは使えるし、ここは任せてくれないかい?」
「大丈夫なのですか?」
「平気だよ~。ゾンビくらいならちょちょいのちょいさ!」
リコさんは胸をドンと叩きました。
やれる自信があるみたいですね。
「わかった。そこまで言うのなら任せる」
「おっ、本当かい?」
「はい。ですが、無理はしないでくださいね?」
「無理なんかしないさ。ここからやっちゃえばいいだけだから……ねっ!」
リコさんが右手を突き出しました。
その瞬間。
「わっ!」
「眩しい」
目を瞑ってしまう程の光が通路に広がりました。
それと同時に、背後から聞こえていたズルズルという音も聞こえなくなりました。
「どうだい?」
「えっと、今ので終わったのですか?」
「だと思うよ? 実際に音は聞こえないしね~」
たったあれだけで終わりですか?
さっきまで怖かったのが嘘みたいです。
背後に迫っていた存在感が無くなったのが何となくですがわかります。
「リコ、何をした?」
「光を浴びせてあげただけだよ? 奴らは光が凄く苦手だからね」
それは間違ってはいませんね。
アンデット系の魔物は光に弱いというのはよく知られています。
ですが、それで消滅するという話しは聞いた事がありません。
せいぜい光によって動きが鈍くなる程度の筈です。
実際にシノさん達が相手をしたリアビラ軍は日中に攻めてきましたからね。
光で消滅するのであれば、日中ではなく夜に攻めてきたと思います。
「それは陽の光だからだね。ただの陽の光に魔力はないよね?」
「そうですけど……魔力を伴っていたからといっても光は光ですよね?」
光魔法と聖魔法は違います。
似たようで全然違うのです。
「んー……ユアンちゃんにでも出来ると思うけどね」
「本当ですか? それなら、今度教えて貰ってもいいですか?」
「構わないよ~。実際に難しい事ではないからね」
「ありがとうございます!」
これは嬉しいですね!
今のリコさんの魔法が僕にも使えれば、狭い通路であればゾンビをほとんど見ないで倒す事が出来そうです!
と、心の中で密かに喜んでいると、リコさんが頬を掻きながら困ったように笑いました。
「それよりも、前はいいのかい?」
「前ですか? 問題ないですよ、前はラインハルトさんが守ってくれて……」
いますよね?
うん。大丈夫そうです。
僕たちが後ろの魔物を相手している間にラインハルトさんは前の魔物を倒してくれたようで、僕達の方を見ています。
何も問題ないですよね?
「うん。問題ない」
「そうですよね?」
シアさんも問題ないと言っていますね。
けど、リコさんの表情は相変わらずです。
何かあったのでしょうか?
「あるよっ!」
「えっと、何がですか?」
「酷いじゃないか! 私が一人で前の敵を倒していたのに、リコさんばっかり褒められて……私も頑張ったんだよぅ!」
「あっ、そういう事でしたか」
そうですよね。
頑張ってくれたのはリコさんだけではありませんので、ちゃんとラインハルトさんも褒めてあげないと不公平ですね。
「うん。ラインハルトは頑張った。偉い」
「そ、それだけなのか?」
「それだけじゃ可哀想だね~。ラインハルトちゃん、ちょっと屈んでくれるかい?」
「こ、こうでいい?」
「うんうん。ラインハルトちゃんは頑張ったね~。いい子いい子」
「あっ、えへへ~……じゃないよ! ほら、もっと他にないのかな? ユアン殿に抱きしめて貰えるご褒美とか……」
「ラインハルト。それは贅沢すぎ。私も頭を撫でてあげるからそれで我慢する」
シアさんがラインハルトさんの頭を撫でてあげています。
「り、リンシア殿まで……だけど、それくらいじゃ私は……」
「なら、僕も撫でてあげますね! ラインハルトさん、いつもありがとうございます」
「う、嬉しいけど……何か違う気がするよぉ」
でも嬉しそうに見えますけどね。
実際に僕たちがラインハルトさんを撫でてあげるとラインハルトさんの機嫌はそれで治り、また先頭にたってゾンビやスケルトンを倒し始めてくれました。
「ちょろい」
「そういう事は言っちゃダメですよ」
「うん。だけど、ちょろい」
「まぁ、そうですけどね」
だけど、ラインハルトさんには本当に感謝しています。
ただ、それよりもリコさんの方が気になってしまっているだけです。
今まで気にしていませんでしたが、改めてこうして行動をしたことで新しい発見が色々とあったのです。
「ん~? 何だい、人の顔をみて? もしかして、惚れちゃった?」
「ち、違いますよ! 確かにリコさんは美人ですが、リコさんにはジーアさんが居ますからね。浮気は駄目ですよ!」
「うんうん。そうだね~。ジーアの事は裏切れないからね~? それに……」
「えっ、何ですか?」
「いいや~? 何でもないよ。それよりも早く終わらせようよ。夜になったもっと魔物が活発しちゃうからね~」
むむむ?
何かはぐらかされた感じがしますね。
ですが、リコさんの言う事は正しいですね。
夜になる前に終わらせないともっと面倒な事になるのは目に見えています。
結局、その話はそこで終わってしまった為に、リコさんが何かを言いかけた事は聞けないまま僕たちは下へと進みました。
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