第574話 補助魔法使い達、船の魔物退治に向かう
「壊れた船なのに、随分としっかりしてますね」
「そうだね。意外にも波の影響もないみたいだね」
岬と座礁した船を往復して、みんなと下に降りて船の調査をしたのですが、意外にも船は安定していました。
上から見るといつ壊れてもおかしくないと思っていなのに、そんな事を微塵も感じさせないほどにしっかりしていたのです。
「この魔力が原因ですかね?」
「ユアンさんの防御魔法みたいなものなのかな?」
「そうかもしれませんね」
上から見ていた時はわかりませんでしたが、船は押し寄せる波を弾いていました。
弾くと言っても、僕たちが乗っている甲板の部分だけですけどね。
それでも、こうやって波を防げるのはかなりの技術だと思います。
逆にそのせいでこうして船が残ってしまっているのですけどね。
「それで、魔物はどうなの?」
「ちょっと待ってくださいね……これは船の中っぽいですね」
「数は?」
「…………沢山です」
逆に探らなければ良かったと思うほどです。
「危険そうな魔物はいる?」
「その反応はないので大丈夫だとは思いますよ」
赤い点の反応はゴブリン程度ばかりです。
中にはオークくらいの反応もありますが、僕たちであれば油断さえしなければ問題ないと思います。
「でもこれだけの数だと、一日で終わらせるのはちょっときついかもしれませんね」
「うん。小さな島くらいの大きさはありそう」
更には地下まであるような状態ですからね。
見た目以上に広いという事がわかります。
「これは手分けした方がいいかな?」
「効率的に考えればそうですね」
「だけど、船が沈んだら危険ですよね」
「その場合は転移魔法で逃げるしかないかな?」
「その前に、妨害されないか確かめる」
「そこは問題ないですよ。妨害をする魔法は今までに何度も遭遇していますが、外から内は無理でも内から外に出る分には妨害された事はありませんので」
そもそも、そういった妨害を施されていませんしね。
万全を期す必要はありますが、そこまで心配し過ぎる状況でもないと思います。
となると、メンバーは僕とサンドラちゃんで分かれるのがいいですかね?
転移魔法を使えるのはこの二人だけですし。
もちろん転移魔法陣はみんなに渡してあるのでそれでも大丈夫なのですが、咄嗟に設置して、発動するまでに若干の時間がかかりますので、その時間が命取りになる可能性もありますからね。
「まぁ、いつも通り分かれるのが無難かな」
「そうだね。ユアンさんとシアさん。サンドラちゃんは私達になるかな?」
普通に考えればそうなりますね。
ですが、今回は別でもいいと思いますよ。
「えっと、たまにはメンバーを変えませんか?」
「ユアン、私とだと嫌なの?」
シアさんが凄く悲しい表情をしてしましました。
「ち、違いますよ! シアさんと一緒だと心強いですし、安心できます。ですが……そうなると、自然と僕とシアさんの二人きりになってしまうので……」
「あー……ユアンは怖いんだね?」
「まぁ、そうです」
二人より三人の方が安心できますからね!
出来る事なら僕を真中に前後に挟んでくれると凄く嬉しいです!
「平気。ユアンの事は私が抱えて移動する。それなら安心」
「それは安心できそうですけど、それだとシアさんの手が塞がってしまうので危険ですよ」
「それなら、シアさんの影狼でユアンさんを囲ったらどうですか?」
「あっ! その手がありましたね!」
シアさんの影狼は三体まで作る事が出来ますので、実質シアさんが四人居るのと同じになります。
そうなると、僕を中心にシアさんが前後左右に居る事になります。
これなら怖くないかもしれません!
「けど、それだと私は影狼の操作で手いっぱいになる。魔物への対応が遅れるかもしれない」
「勝手に動かす事も出来ますよね?」
「出来る。だけど、その時はユアン争奪戦が始まるかもしれない」
「なんか、ユアンが揉みくちゃにされる未来が見えるね」
そうなったら魔物どころの騒ぎじゃなくなってしまいそうですね。
それだけシアさんに愛されているという証拠ではありますが、本来の目的から離れてしまうのは大問題です。
「となると、援軍を呼んだ方がいいのかな?」
「それも有りかもしれませんね。ラインハルトさんは一緒に来たがっていましたし、ユアンさんと一緒に行動できるのなら喜んで手伝ってくれると思うの」
「うん。それに、ラインハルトの聖剣はアンデット系のモンスターに絶大な効果がある筈。ラインハルトが戦えば楽になる」
今回のラインハルトさんの役目は僕たちのメイドさんとしての同行ですので、ここで一緒に戦って頂くのはラインハルトさんに旨味はないので、不本意なのですよね。
「んー……一応、声だけかけてみますか。ちょっと待っていてくださいね」
ラインハルトさんが乗り気ではなかったら諦めるつもりでは僕はアーリィへと転移魔法で戻りました。
そして、宿屋で待つラインハルトさんに声を掛けたのですが……。
「では、メンバーは僕とシアさん、ラインハルトさんにリコさん組とスノーさんとキアラちゃん、サンドラちゃんにエレン様組でよろしいですね?」
ラインハルトさんだけではなく、リコさんとエレン様までついてきました。
「私は構わないけど……どうしてエレン様まで?」
それは僕が知りたい所です。
僕はラインハルトに声を掛けただけなのですが、どうしてもエレン様も行くと言って聞かなかったのです。
「嫌なのか?」
「え、嫌という訳ではありませんが、これはエレン様の任務ではないので、ご迷惑かと思いまして……」
「スノーよ、その事なら気にしなくていい。他国とはいえ、民が困っているのだ。ここで私が民の為に動かなくてどうする?」
なるほど。
どうやらエレン様は正義感に駆られたみたいですね。
皇女様の立場としては困った所かもしれませんが、人の為に頑張ろうとする所は好感が持てますね。
「そ、そうですね。エレン様はそういうお方でしたね」
「うむ。では、進もうではないか!」
「はい……キアラ、サンドラ。エレン様のフォローはお願いね」
「わ、わかりました」
「任せろー」
「良い返事だ。ではついて参れ!」
「あっ、ちょっとエレン様!」
でも、短絡的な所があるのは問題ですね。
どうやって攻略するのかも聞かずに、エレン様は一人で船の中へと入っていき、慌ててスノーさん達が追いかけていきました。
「では、私達も行こうか」
「うん。その前に、リコ」
「ん~なんだい?」
「どうして来た?」
僕たちも別の場所から船の中に入ろうとした時でした。
シアさんがリコさんに純粋な疑問をぶつけました。
「いや~、一人で待ってるのも退屈だからね~。それなら、私もご一緒させて貰おうかと思ったのさ。駄目かい?」
「ダメじゃない。だけど、この先は魔物が居る。危険」
「平気だよ~。ユアンちゃんとリンシアちゃんが守ってくれるんだよね?」
「勿論守りますよ。だけど、出来る事なら危険な場所には連れて行きたくないのが本音です」
リコさんは龍人族を祀る巫女さんで不思議な力を持っているとはいえ、冒険者でも兵士でもありませんからね。
そんな場所に連れて行くのは気が引けます。
「大丈夫だよ。私だってそれなりに戦えるからね~」
「本当?」
「うんうん。これでも、結構強いつもりだよ~?」
「初めて会った時は森で倒れてたのに?」
「あははっ、それは言わないで貰いたい所だね。でも、戦えるのは本当さ。だから、連れていって欲しいな?」
まぁ、ここに連れて来てしまった以上は今更一人だけアーリィに帰す訳にはいきませんしね。
それに、リコさんがそれなりに戦えると言ったように、リコさんなら大丈夫だという謎の安心感があります。
それを信じてみたいですし、リコさんの実力というのも気になるところです。
「だけど、無理はしないでくださいね?」
「それと、私達から離れないようにする」
「ほいほい、任せておくれよ」
「わ、私には何かないのか?」
「ラインハルトさんは実力的に問題ないですし、周りの事もちゃんと見れる人だと思っているので、心配がないだけですよ」
「信頼しているという事か。それは、失礼した……必ずやユアン殿の信頼に応えてみせよう!」
ラインハルトさんが凄く張り切っていますね。
だから、あまり言葉をかけたくなかったのですが、張り切り過ぎて逆に失敗しなければいいですけどね。
ともあれ、僕たちもラインハルトさんを先頭に船の中に巣くう魔物退治を始めました。
けど、これはこれで新鮮で面白いですね。
魔物がアンデット系のモンスターでなければ、きっと僕も楽しめたと思いますが、そうも言っていられませんね。
僕たちはまるで迷宮のようになってしまった船の中を進むのでした。
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