第568話 補助魔法使い、シノに移動手段を渡される
「あの、シノさんは砂漠を移動する乗り物を用意してくれるのではなかったのですか?」
「そうだよ?」
「でも、これって……」
「何か問題でもあるのかい?」
「ありますよ! 僕だってこれくらいは知っています。これは砂漠を移動する乗り物ではなくて、海や湖などを移動する乗り物ですよね!」
シノさんのお家へと向かうと、庭にシノさんが用意してくれた乗り物がありました。
しかし、用意されていたものはどう見てもお船です。
車輪もついておらず、丸みを帯びた船底が地面につき、傾いているのです。
どうみてもこれでは移動は出来ませんよね?
「それが出来るんだよ。この船ならね」
「どうやってですか?」
「実際に見て見ればわかるさ。ちょっとそこに居てくれ」
そう言ってシノさんは飛行魔法で船に乗り込みました。
中の様子までは見えませんでしたが、船室に入っていく所までは見えましたね。
『準備はいいかい?』
「わっ!」
いきなりシノさんの声が船から聞こえました!
一体どこから?
『多分驚いていると思うけど、驚くのはまだ早いからね』
「わ、わかってますよ! それよりも、待っているので早くしてください!」
『せっかちだね……まぁ、みててご覧』
こちらの声も聞こえているのか、会話が成り立ってしまいました。
『どうだい?』
「どうって言われても特に変化はありませんよ?」
『本当かい? 僕の感覚だと船の傾きが直ってると思うけど』
「あ、本当ですね」
言われて気付きましたが、船の傾きが少しずつ直っていますね。
「というか、少しだけ浮いてます?」
『うん。その通りだよ』
「凄いですね! こんな船が世界には存在するとは思いませんでした!」
『開発されたのはつい最近なんだけどね』
「そうなんですか?」
『リアビラの事はルード帝国でも危険材料でもあるから、その時の為に開発されたものだよ』
やはりルード帝国の技術はアルティカ共和国よりも遥かに進んでいる事がわかりますね。
アルティカ共和国ではいまだに
でも、シノさんの言葉で気になるところがありましたね。
「ちなみにですけど、どこから手に入れてきたのですか?」
『もちろんルード帝国の軍からだよ』
「だ、大丈夫なのですか?」
『問題はないよ。何せ、開発を担当したのは僕だからね。置き忘れてきた私物を持ってくるくらいは問題ないよね?』
大問題だと思いますけどね。
開発を担当したのはシノさんかもしれませんが、実際に開発したのは別の人でしょうし、造るための費用はルード帝国から出している筈です。
『それに、陛下からの許可は頂いているよ』
「それなら大丈夫ですかね?」
『うん。その代わり、君たちにはこの船に使用感を陛下に報告して貰う事になるからそこは頼んだよ』
安心したのも束の間、シノさんはとんでもない事を言い出しました!
「えっと、無理です!」
『どうしてだい?』
「僕たちに船の知識がないからですよ!」
そもそも船に乗った事がないので、他の船と比べようがありませんし、運転もできる自信がありません!
仮にこれが馬車だったとしても説明できる自信があります。
それだけ僕たちは乗り物の知識に疎いのです。
『それは何となくでいいんだよ。揺れをもっと抑えた方がいいとか、速度が遅いとかね』
「それくらいなら報告できるとは思いますけど……」
あまり難しい事は無理ですね。
まぁ、その辺はシノさんに上手く誤魔化して貰えばどうにかなりますかね?
『ところで、いつまでそんな所で見てるんだい? 中においでよ』
「いいのですか?」
『構わないよ。というか、操作方法がわからなくちゃ移動も出来ないよ』
「それもそうですね」
という事で、僕も船の中を見させて頂く事にしました。
飛行魔法で看板へとあがると、シノさんは中から出てきて、僕を迎えてくれました。
「どうだい?」
「意外と高いのですね」
値段は知りませんが、船の上に上がってみると意外と高い事がわかりました。
二階のベランダくらいの大きさはありそうですね。
「そうだね。まぁ、流石にこれ以上は浮く事は出来ないからこの高さが限界だけどね」
「それでも凄い技術だと思いますよ」
「そうだろうね。今の所は世界に一つの船だからさ」
「量産はしないのですか?」
「今の所は無理じゃないかな? それだけ製造するのにお金がかかるし、そもそも使い道が限られているからね」
それもそうですね。
リアビラに移動する為だけに造船するのは勿体ないですからね。
「それに、砂漠まで運ぶ手段が今の所はないからね。造った場所から移動できないのなら造るだけ無駄なのさ」
「確かにこの大きさの物を動かすのは大変ですし、保管場所がないのなら困りますね」
見ただけでわかりますが、船の大きさは普通の家くらいの大きさがあります。
「けど、そんな物をどうやって運んできたのですか?」
「収納魔法だけど?」
「えっ、こんな大きな物をシノさんはしまえるのですか?」
「出来るよ。というか、君も余裕で出来るよね?」
「やった事がないのでわからないです」
そんな大きな物を収納しようとは思った事がありませんからね。
「多分……いや、確実に大丈夫だと思うよ。僕よりも君の方が魔力の器はもう大きいからね」
「そうなのですか?」
「あぁ、君は僕の事をとっくに抜いてるよ。悔しいけどね」
シノさんがそこまで言ってくれるのなら出来るような気がしました。
まぁ、お世辞も含まれていると思いますけどね。
魔力の器はともかく、魔法の扱いに関してはシノさんの方がまだまだ上だと思いますからね。
「それよりも、中は見なくていいのかい?」
「あっ、見たいです!」
「それじゃ、中においで。色々と説明する事があるから」
実はこの船を見た時から中を見るのがすごく楽しみでした!
この船の大きさは家くらいの大きさがありますし、移動手段ではありますが、船という特性を考えると、きっと中には人が暮らす場所もあると思うのですよね。
船は当然ながら陸地ではなくて海を移動するので、一度海に出てしまえば遠くに向かえば向かうほど海の上での生活を余儀なくされます。
それなのに、生活する空間がないというのはおかしいですからね!
「それじゃ、まずは船室とこの船の動かし方を説明するよ」
「難しいですか?」
「魔力があれば誰でも操作できるよ。余程センスがない限りはね?」
ということは、動かせなかったらセンスがないという事ですよね?
ちょっと緊張しますね。
「大丈夫。本当に簡単だからね。君の場合はこっちだね。その水晶盤に手を触れて魔力を流してごらん」
「これですね……わぁー!」
シノさんの指示に従い、水晶盤に手を触れて魔力を流すと、目の前に映像が浮かび上がりました。
室内でどうやって外の様子を見ながら動かすのか不思議でしたが、この映像があれば普通に動かす事はできますね。
「後はどうすればいいのですか?」
「水晶盤の横に水晶があるでしょ?」
「これですね?」
「そうそう。それを前に倒せば前に進み、後ろに倒せば後ろに進むようになってる」
「横には移動できないのですか?」
「横は無理だね。その代わり、横に倒せば向きを変える事が出来るよ。あ、ここではやらないでね? 浮いてるとはいえ庭が荒れるから」
「む、わかりました」
ここで動かすのは駄目みたいですね。
でも、こんなに大きな物を簡単に動かせるのは凄い技術ですね。
「操作はこれくらいかな」
「確かに簡単ですね。ですが、僕の場合はと言いましたよね? 他の人が動かすのにはどうすればいいのですか?」
「その場合はあっちにレバーがあるでしょ? あれを使うんだ」
シノさんが指さす場所には二つのレバーがありました。
前後に動かせるレバーと左右に動かせるレバーですね。
どうやらあのレバーを動かす事によって、水晶と同じ動きを再現できるみたいです。
「動力はどうなるのですか?」
「あっちの場合は魔石だね。魔力を節約したいときや、魔力がない人が動かすときに使うように出来ている」
そんな所まで考えているのですね。
「これなら誰でも操作できそうですね」
「そうだね。後は細かい機能はあるけど、全てを説明するのには時間はかかるし、今はこれくらいでいいかな?」
「はい。とりあえず船を動かす事が出来れば大丈夫です。それよりも……」
「わかってるよ。船内が気になるんでしょ? そっちも案内するよ」
「ありがとうございます!」
その後、僕はシノさんに船内を案内して貰いました。
そして、僕の予想通り船内には人が十分に暮らせるだけの空間があり、小さな家みたいな造りになっていました。
まさかトイレとお風呂まであるとは思いませんでしたけどね。
しかも、そこの設備も相当なもので、水を生み出す魔石が使われ、汚水も浄化できるような仕組みが使われていました。
まぁ、流石に汚水だったものを再利用しようとは思いませんが、その水も排水できるようになっているので、特に気にはなりませんでしたね。
「ちなみにですけど、これを買おうとしたら幾らくらいするのですか?」
「聞いても良いけど、万が一壊した時に青ざめる事になるけど、それでも聞くかい?」
「や、やっぱりやめておきます!」
「まぁ、これは僕の私物で試作品だから壊してもいいけどね」
そうは言われても、壊さないようにしますけどね。
これは、かなり大事に扱わないといけないような気をつけないとですね。
ですが、これでリアビラへの移動手段は整いましたね。
当然ながらいきなりリアビラ領の砂漠で使う事はしませんけどね。
その前に一度練習しようと思います。
その為の場所がナナシキにはありますからね。
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