第566話 補助魔法使い、ニーナと仲直りする

 「ど、どうして攻撃が当たらないにゃっ!?」

 「攻撃が単調だからですよ」

 

 後は飛び掛かるように攻撃をしてくるからですね。

 確かに速さという点においてはニーナさんの攻撃は脅威ではあります。

 ですが、毎回毎回、ジャンプしてから拳を繰り出してくるのなら避けるのは簡単です。

 不利になるのでそこは指摘しませんけどね。

 

 「にゃんっ! しかも、ユアンにゃの攻撃、凄く重いにゃ、どこにそんな力が……」

 「僕は補助魔法使いとはいえ、冒険者です。それなりに鍛えているつもりですよ!」


 実はシアさんとの契約のお陰ですけどね。

 シアさんが僕との契約で魔力の器が大きくなったように、僕は契約の恩恵で身体能力が上がっています。

 なので、細腕とはいえ、一般的な男性くらいの力くらいはあります。

 身体能力向上ブーストも相まって、今の僕はニーナさんよりも上ですよ?

 しかし、だからといって一瞬で決着が着くといった結果にはなりませんでした。

 ニーナさんは貴族でありながら、兵士でもあります。

 僕の攻撃は当たったり当たらなかったりしますし、何よりもタフです。

 

 「うにゃにゃ……こっちも負けてられないにゃっ!」

 「おっと、そんな攻撃もあるのですねっ!」


 ここにきて攻撃のパターンが少し変わりましたね。

 低い姿勢を保ち、地を這っているようにニーナさんが近づいてきます。

 けど、結局はジャンプして飛び掛かってくるので、避ける事は簡単でした。


 「ジャンプする以外に攻撃方法はないのですか?」

 「うるさいにゃっ! 攻撃が当たればすれば、ユアンにゃはそれで終わりにゃっ!」


 否定したい所ですが、確かにその通りですね。

 先ほどの一撃はニーナさんがまだ手を抜いていたので耐える事が出来ましたが、本気になったニーナさんの一撃を僕はきっと耐える事は出来ないでしょう。

 当たれば、ですけどね。


 「当たりませんよ!」


 頭上から振り下ろされるニーナさんの攻撃を躱し、それに合わせて僕も拳を繰り出します。

 

 「にゃにゃん! ユアンにゃんの攻撃だって私には当たらないにゃん!」

 

 むむむ。

 ここにきて、僕の攻撃も当たらなくなってきましたね。

 僕の力が思った以上にある事を警戒したのか、ニーナさんは僕に攻撃を仕掛けると、直ぐに僕から距離をとります。

 ヒットアンドアウェイって奴ですね。

 何よりも辛いのが、拳を振るうと体力が思った以上に消費される事です。

 型などはありませんが、顔の前あたりで両腕を構えていると、それだけで腕が疲れ、プルプルとしてきます。

 これ以上は長引かせると不利になっていきそうです。

 早めに決着をつけないと……。


 「にゃっ! ちょこまかとー!」

 「それはお互い様です……よ?」

 「どうしたにゃ? ニーニャの攻撃にビビったかにゃ!?」

 「いえ、そういう訳ではありませんよ」

 

 ただ、ちょっとだけ変な感覚がしただけで

 ニーナさんの攻撃を避けた瞬間に一瞬でしたが、ここを攻撃すれば……と思ったのです。


 「にゃっ!」

 「やっぱり……」

 「何がにゃっ!」

 「いえ、何でもありませんよ」


 またです。

 目が慣れてきたからですかね?

 今度はニーナさんが拳を振り上げた瞬間にそれを感じました。

 もし、あのタイミングで攻撃をすればきっと上手くいく。

 そんな感覚です。

 ですが、その感覚に従っていいのか不安になります。

 もし、それが失敗したら逆に手痛い反撃を受ける事になると思うのです。


 『ユアン、迷う事はない』

 『シアさん?』

 『見てればわかる。ユアンが反応してるタイミングは完璧』

 『わかりました』


 ちょっとズルかもしれませんね。

 一対一の戦いの最中ですか、シアさんにアドバイスを貰ってしまいました。

 ですが、これも僕の力の一部ですよね。

 なので、卑怯とは言わせません。

 最初の一撃を譲ってあげましたし、これくらいはニーナさんも許してくれますよね。


 「にゃっ……決めるつもりかにゃ……?」

 「はい。これ以上は長引かせるつもりはありません、次で決めます!」

 「わかったにゃ……受けて立つにゃ!」


 僕は腰を落としました。

 これも感覚ですが、こうした方が拳に力が伝わると思ったのです。

 

 「ユアンにゃ、いくにゃ!」

 「はいっ!」


 とても、不思議な感覚でした。

 でも、これは初めての感覚ではありません。

 鼬族との戦争で、スノーさんと共に戦った時の感覚に近いかもしれません。

 ニーナさんの動きがとてもゆっくりに見え、何を狙っているのかがはっきりとわかります。

 ニーナさんの狙いは……やはり僕の顔!

 

 「にゃっ!」

 

 力強い踏み込みと共に腕が伸び、拳が迫ってきます。

 大丈夫……見えました!

 

 「ふっ!」


 ニーナさんの拳をギリギリで躱すと、僕の頬が軽く切れました。

 ギリギリ過ぎましたが、最小限の動きで躱したので、その分僕にも余裕があります!

 それは一秒にも満たない時間かもしれませんが、ニーナさんが僕から離れる為の動作に移る時間を稼ぐことが出来ました。

 

 「ここ、です!」


 拳を避けた瞬間に、僕もニーナさんに攻撃を仕掛けます。

 狙いはお腹!

 ここを狙われると避けるのは難しいですし、何よりも痛い事を知っています!


 「うぎゃっ!」


 ニーナさんから変な声が聞こえました。

 それと同時にニーナさんは膝から崩れ落ち、苦しそうに地面をのたうち回っています。


 『ユアン、鬼畜』

 

 シアさんからそんな念話が届いた気がしますが、きっと気のせいです。

 ですが、ニーナさんはまだ気を失っていませんし、負けを認めていません。

 もう一押しですね!


 「ニーナさん、僕はこれ以上はしたくありません。負けを認めてくれますよね?」


 のたうち回るニーナさんに跨り、僕は拳を振り上げながらそう告げました。


 「にゃぁぁ……これ以上は、無理にゃ……」


 ニーナさんも馬鹿ではないみたいで、今の状況がニーナさんにとって不利だと悟ってくれたみたいです。

 良かったです。

 どうやら、僕の勝ちみたいですね!


 「リカバリー! ニーナさん、立てますか?」

 「痛みが引いたにゃ? もう、大丈夫みたいにゃ!」

 「良かったです……どうぞ」

 「にゃっ!」


 手を差し伸べ、ニーナさんを立ち上がらせます。

 

 「疲れましたね……」

 「うんにゃ……でも、ユアンにゃがこんなに強いとは思わなかったにゃ」

 「意外でしたか?」

 「正直、意外にゃ。ユアンにゃは魔法使いだと思っていたにゃ」


 実際に補助魔法使いですからね。

 ニーナさんの認識は間違っていません。

 ですが、勘違いされては困ります。


 「そうですよ。僕は補助魔法使いです。王族や貴族である前に、僕は冒険者です」

 「にゃっ……あ、すみませんでした」

 「何で謝るのですか?」

 「ユアン様の立場は私よりも遥かに上な事を、忘れてしまいました」


 だから、それが勘違いなのですよね。

 

 「ニーナ。勘違いしすぎ」

 「何がですか?」

 「ユアンは言った。ユアンも私も冒険者。そこに立場は関係ない」

 「ですが、実際に立場は存在します」

 「確かに面倒な立場はありますね。ですが、僕はこう思いますよ。そんな立場的な関係よりもニーナさんとは良き友人でいたいと」

 「本当にそう思ってくれているのですか?」

 「勿論ですよ。ニーナさんもナナシキに滞在しているのでわかると思いますが、ナナシキはそういう街です」


 敬ってくれる人や親しく接してくれる人など色んな人が居ますが、僕の事を偉いからといって避ける人は一人もいませんからね。

 他の国と比べたら変かもしれませんが、同じような国はあります。

 

 「トーマ様だって同じじゃないですか?」

 「確かに、そうですね」


 実際に虎族の国で過ごしたことはありませんが、トーマ様を見ているとそう思います。

 普通、こんな場でアリア様に喧嘩をうったりなんかしませんからね。

 まぁ、その中には僕たちの為の演出も含まれていると思いますけどね。


 「なので、僕はニーナさんと前みたいな関係を築きたいと思っています。ニーナさんはどうですか?」

 「私もです」

 「違いますよね? 私もにゃ、が正解です。にゃん語は僕の方が上手になってしまったみたいですね。これからは僕が教えてあげましょうか?」

 「にゃっ! 違うにゃ! ユアンにゃはまだまだにゃん語は下手くそにゃ!」

 「なら、これからも教えてくれますか?」

 「当然にゃ! ユアンにゃは……友達だから、にゃ」

 「はい! これからもよろしくお願いします!」

 「よろしく頼むにゃ!」


 ニーナさんが差し出した手を握ってくれました。

 これで、一件落着ですね!

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