第563話 補助魔法使い達、結婚式会場につく
「王族の結婚式ってこんな場所でやるのですね」
「そんな訳があるか! 全く、相変わらず馬鹿な事ばっかり考えよって……」
ビャクレン着いてから二日後、ついにトーマ様とガロさんの結婚式が始まります。
しかし、僕たちが案内されたのは何故かビャクレンの都から少し離れた草原でした。
そこに色んな所から集まったのか、沢山の人が集まっています。
「でも、こういうのもいいと思いますよ」
僕も結婚式はビャクレンの都か教会みたいな場所でやると思っていました。
ですが、先ほども言ったように、僕たちが案内されたのは草原でした。
変だと思う気持ちもありますが、これはこれでトーマ様らしいですし、何よりも自然を豊かに感じられる中での結婚式というのも悪くないように思えます。
晴れ渡った空が祝福するように光を差し、風が幸せを運んでくる。
そんな感じにも思えたのです。
「じゃからといって、これはないじゃろう? 私だって、それなりに祝福する為に準備してきたのじゃぞ?」
「確かに、これじゃ普段と変わらない」
シアさんはアリア様の格好を見てそう言いました。
アリア様の格好はいつもの通り着物を着ていますが、その着物は僕たちからしたら普段着みたいなものです。
着物なので汚れてもいいように、というのは変ですが、僕とシアさんの結婚式に着てきたような煌びやかで明らかにお金と手間をかけにかけまくっている着物ではなく、普段から目にする普通の着物です。
再度繰り返しになりますが、普段着が着物というのも変ですけどね。
「でも、どうして普段着何でしょうか?」
「さぁのぉ。ま、馬鹿なりに色々と考えたのじゃろうな」
実は普段着を着ているのはアリア様だけではありません。
僕もいつも着用しているローブを着て、結婚式に参加しています。
もちろん、他の方もです。
中にはドレスを着ている人も見受けられますが、それはほんの一部で、その人たちを除いた大半の人が街を歩くような格好をしています。
「でも、何かしらの意味はありますよね?」
「そうかもしれぬが、そうじゃないかもしれぬな」
「どっちですか?」
「どっちもじゃ。馬鹿の考えは馬鹿にしかわからぬ。まぁ、馬鹿でもわかぬかもしれぬがな。あんなことを考える何てな」
アリア様が呆れているくらいですし、これはきっと前例がない事なのかもしれませんね。
となると、もしかしたらこれはガロさんの提案の可能性もありますね。
獣人族の習わしでないのなら、竜人族の習わしの可能性もありますし。
「だけど、トーマ様って何だかんだ愛されてますよね」
「まぁ、愛される馬鹿ってやつじゃな」
「そういうアリアだってトーマの事は嫌いじゃない」
「馬鹿の面倒は誰かが見なければならぬ。それがたまたま私だっただけじゃよ。しかし、それも今日で終わりじゃ。これからはあ奴の嫁が私の代わりとなるのじゃからな」
それでも、こうしてトーマ様から招待を受けたら参加する辺りは嫌いではないと思いますけどね。
むしろ、遠くではしゃぐトーマ様を見る目は優しくも思えます。
きっと、アリア様はトーマ様が一人立ちするのが嬉しいのと、少し淋しい気持ちがあるのかもしれませんね。
二人は顔を合わせる度に喧嘩みたいなことをしていましたが、今思えばお互いの愛情表現による戯れにも思えました。
「しかしな……流石にこれは計画性がなさすぎではないか?」
「うん。これじゃ、ただの宴会と変わらない」
「確かにそう見えますね」
トーマ様の結婚式はあっと言う間に終わりました。
『お前ら、集まってくれてありがとうな! 俺達結婚するからよろしく頼むぜ! まぁ、好きに食って飲んで楽しんでくれ! 以上!』
と、トーマ様とガロさんがこの草原に姿を現したかと思ったら、本当にこれだけで終わってしまいましたからね。
流石に続きがあるだろうと思っていましたが、その場でトーマ様は飲み食い始めてしまいましたし、虎族の方もそんなトーマ様に慣れているのが、その場で騒ぎ始めてしまいましたからね。
「まぁ、僕たちとは違う価値観って事ですよね」
「うん。これはこれで一つの形。悪くないと思う」
堅苦しいのが嫌い人にとってはいいかもしれませんね。
「シアさんはどっちがいいですか?」
「私はしっかりと形があって良かったと思う。私とユアンは一つ一つ形があったから」
シアさんと出会い、従者としての関係になり、それと同時にパーティーを組み、ちょっとしたすれ違いがあったものの、そこで恋人になって、最後はみんなの前で結婚しました。
それが、シアさんにとっての形だったのですね。
「ユアンは?」
「僕もですよ。シアさんと一つ一つ積み上げていったものは凄く大事な事だと思いますし、ちゃんと思い出になりましたからね!」
だから胸を張って今の僕はとても幸せだと思います。
「だからこそ、こういう結婚式もいいと思いますけどね」
「どうしてじゃ?」
「だって、どんな形にしろ、トーマ様もガロさんも幸せそうじゃないですか。その幸せが僕たちが幸せだという事を教えてくれていると思うのです」
「確かにな。ま、あの二人の愛なんて私とアランに比べたら小さいものだけどね」
「それなら僕たちだって負けてないですけどね!」
「うん! 私とユアンの愛は世界一」
そう言って、シアさんは僕に腕をからめてきます。
「全く。ユアンは変な方向に変わったのぉ」
「そうですかね?」
「そうじゃよ。前ならそんな風に人前でイチャついたりはしなかっただろうに」
「確かにそうかもしれませんね。でも、アリア様も今この場にアラン様がいたら同じような事をしますよね?」
「当然! あーあ、こんな事ならアランも無理やり連れてくればよかった」
「なら、今から呼べばいい。ユアンなら直ぐに連れてこれる」
やろうと思えば簡単に出来ますね。
これがお城の中だったら騒ぎになりそうなのでやめた方がいいと思いますが、草原というこの場所ならあまり目立たないと思います。
「嬉しい提案じゃが、それは辞めておこうかのぉ」
「どうしてですか?」
「アランがこの場にいたらこの後大変になるからじゃよ」
「アラン様が居るとですか?」
「うむ。時期にわかる……ほれ、始まったぞ」
アリア様が呆れた口調で見つめる先は虎族の貴族でしょうか?
トーマ様達の席から近い場所の集団でした。
「あ……だ、大丈夫ですかね?」
僕たちの見つめる先で大変な事が起きました。
一人の虎族が、同じ虎族に顔を思い切り殴られて吹き飛んだのです。
あれは絶対に痛いと思います。
殴られた拍子に設置された机や椅子が宙を舞いましたからね。
「あ、でも反撃にでましたね」
やっぱり虎族はタフな種族みたいですね。
あれだけの事がありながら、殴られた虎族は何事もなかったように立ち上がり、殴ってきた虎族の人を思い切り殴り返しました!
「なんか、凄い盛り上がってる」
「そうですね。トーマ様も爆笑してますし、凄く楽しそうに見えます」
ですが、僕たちの心配を他所に、騒ぎはどんどんと大きくなっています。
「えっと、あっちでも乱闘が起きてますよ」
「うん。あっちも」
気づけばトーマ様達の周りは大乱闘が始まっていました。
もちろんその中心となっているのはトーマ様とガロさんですね。
いつの間にかあの二人も乱闘に混ざり、みんなで殴り合っていたのです。
しかもそれだけじゃありません。
トーマ様は殴りかかってきた虎族を逆に殴り飛ばすと、机に登り拳を天に掲げると、離れている僕たちでさえ耳を塞ぎたくなるほどの声を上げました。
「っしゃっ! 祭りの始まりだ! お前らも好きなように暴れまわれ! 拳祭りを始めるぞ!」
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