第562話 補助魔法使い達、客人に迎えられる

 「アリア様は王城に向かうのですね」

 「そうじゃな。流石に元とはいえ女王じゃからな」

 「送ってく?」

 「その必要はない。此処には何度も足を運んでおる。今更迷子になんかならぬよ。お主たちと違ってな」

 「僕は迷子になったりなんかしませんよ。シアさんやスノーさん達は不安ですけどね」

 「それは不服」

 「なー! それって私も含まれてるだろー!」


 シアさんとサンドラちゃんが抗議の声をあげますが、実際に事実ですからね。

 自分で言うのも何ですか、弓月の刻の中では一番まともだと思っています。

 みんな方向音痴ですからね。


 「それじゃあの。また明日」

 「はい、また明日です!」

 「気をつけて帰る」

 「またなー」


 王城へと続く道でアリア様と別れ、アリア様は一人で歩いて行ってしまいました。

 

 「大丈夫ですかね?」

 「平気。虎族は友好国。それに、アリアに何かをしようとしても、逆に痛い目を見るだけ」

 「それもそうですね」


 虎族は実力主義の国で、今のトップであるトーマ様も実力で王様の座を掴んだお方です。

 そんな人を相手にアリア様は片手で捻ってしまうくらいですし、確かに心配はありませんね。

 

 「おぅ、遅かったな!」

 「えっと、やっぱり来たのですね」

 

 宿屋に戻ると、僕たちの部屋にお客さん達がいました。

 まぁ、お客さんというのはおかしいですけどね。

 実際には僕たちがお客さんであり、目の前の人達が僕たちを招待してくれたのですから。


 「何しに来た?」

 「そりゃ決まってるだろ。挨拶だよ、挨拶」

 「本音は?」

 「いつものアレ、直ぐにやってくれ!」


 ここ最近は僕達が出かけているという事もあって、ナナシキに来ていないと聞いていましたが、相変わらずアレが好きなのは変わらないみたいですね。


 「はぁ、わかりました。一回だけですよ?」

 「おぅ!」

 「では、搾取ドレイン!」

 「ふぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 トーマの大きな声が部屋中に響き渡る。

 失敗した。

 うるさいから外でやるべきだった。


 「ぐへっ!」

 「うるさいぞトーマ! サンドラ様との貴重な時間を邪魔するなっ!」

 

 トーマ様の体が吹っ飛びました。

 殴ったのは当然ガロさんですね。

 部屋で待っていた人達と言いましたが、そのもう一人がトーマ様のお嫁さんのガロさんでした。

 まぁ、敢えて触れなかった理由があるのですけどね。

 というのも……。


 「サンドラ様、虎族のもてなしは満足して頂けたでしょうか!」

 「なー……ユアンー、たすけてー」


 部屋に入るなりガロさんがあの調子でサンドラちゃんに詰め寄ったからです。

 ああなったガロさんを止めるのは大変ですし、面倒くさいのでサンドラちゃんには申し訳ないですが、ガロさんの相手を任せる事にしたのです。

 僕もトーマ様の相手をしなければいけませんしね。


 「くー! やっぱりガロの拳は効くな!」

 「えっと、大丈夫なのですか?」

 「問題ねぇよ。それよりも、もう一回いいか?」

 「またですか? 一回だけって約束ですよね?」

 「ケチケチすんなよ。ほら、マナポーションもあるしよ!」

 「でも、また叫んだらガロさんに殴られますよ?」

 「それはそれで構わないよ。あいつの愛情表現だからな!」


 そんな愛情表現は僕は受け入れる事が出来ない自信がありますけどね。

 まぁ、トーマ様がいいというのなら、いいですけどね。


 「それで、用件はそれだけですか?」

 「ほれはへじゃへーほ」

 

 それだけじゃない、ですかね?

 顔を腫らしているせいでしっかりと聞き取れませんでしたが、僕にはそう言ったような気がします。


 「えっと、とりあえず話が出来るくらいまでは治しますね」

 「おふ! ……ありがとな!」

 「いえ、別にお礼を言われる事ではないですよ」


 そうなった原因の一つは僕でもありますからね。

 結局、僕が搾取ドレインを使い、トーマ様が叫び、ガロさんに殴られるを数回繰り返した結果なので、そのサイクルの中に僕が含まれているのですから。


 「それで、どうかしたのですか?」

 「あぁ、ニーナの事だ。悪かったな」

 「いえ、別に気にしていないので、大丈夫ですよ」

 「そうか? あいつからの報告ではお前たちに随分と失礼な態度をとってしまったと言っていたぜ」


 あ、そっちでしたか。

 てっきり買い物用に渡された短剣の効力の事かと思いましたが、違うみたいですね。

 ですが、ニーナさんが僕たちの事を気にしてくれているのは嬉しいですね。

 ニーナさんはナナシキの担当みたいですが、それを誰かに変わってもらうなりして、そのまま二度と顔を合わせようとしないと思います。


 「良かったです。嫌われたりはしていないのですね」

 「何があったのかは知らねぇが、ニーナはそんな事で人を嫌ったりはしねぇよ。だからこそ外交官として仕事をさせている訳だしな」


 あの明るい性格は賛否両論かもしれませんが、確かに人と接する人物としてはいい人材だと思います。

 羽目を外しすぎる時もありますが、しっかりとする時はしていますし、僕たちとしても好ましいと思っています。

 けど、意外ですね。

 トーマ様がニーナさんの人柄をちゃんと見て、外交官としての役目を任せているとは思いませんでした。

 少し見直しましたね。

 

 「ま、その辺りは俺は良くわからないけどなっ! 難しい事は文官に任せればいいからよっ」

 

 前言撤回です!

やっぱりトーマ様は何も考えていないようでした!

 でも、ニーナさんの人柄とかは見てるみたいなので、意外とちゃんと王様をやっている可能性も……。


 「トーマはどうやって人柄を見極める?」

 「そんなの簡単だろ。一度全力で殴り合えばそれで全てがわかるに決まってる」

 「えっと、もしかしてニーナさんとも?」

 「おぅ。殴り合ったぜ? こっちは手を抜いてやったけどな!」


 それで見極めが出来ているのならいいのですかね?

 んー……文化の違いって事なのでしょうけど、虎族の貴族は随分と大変そうですね。


 「でも、どうしてそんな話をしに来たのですか?」

 「どうしてって、お前たち上手くいってないだろ?」

 「まぁ、そうかもしれませんね」

 「だろ? 俺としては上手くやって貰いたいもんだ」


 今のままでもナナシキと虎族の交流は上手くいっているとは思います。

 ですが、これから虎族との交流はより親密になっていくのに、僕たちとニーナさんの関係が良くないのはあまり良くないとトーマ様も思ってくれているみたいです。


 「でも、どう接していいのか正直わからない所もあります」


 こればかりは僕の性格なのかもしれませんが、人から距離をとられると、一気にその距離感がわからなくなってしまうのです。

 今まで通りに接しようと思っても、相手がその気が無いとわかると、僕がどう接していいのか、どう接していたのかがわからなくなってしまいます。


 「ったく。女ってめんどくせぇな」

 「そうですか?」

 「そうだ。いい女ってのはな、そんな小さな事でウジウジ悩んだりしねぇよ! ガロを見て見ろよ、本当にこいつは俺に対して遠慮何てしないぜ?」

 「当り前だ。トーマに気を遣うだけ無駄だからな。気を遣うくらいなら、拳で語るだけだ」

 「な? いい女だろ?」


 その基準がわかりませんが、確かにガロさんみたく何事にも遠慮がないというのは少し羨ましいですね。

 流石にサンドラちゃんには別みたいですが、基本的にはそのスタンスで居るので、本当に凄いと思います。


 「なら、どうしたらいいのですか?」

 「ユアン達も拳で語りあえばいいだろう。私とトーマがしているようにな」

 「そ、それは無理だと思いますよ?」


 ニーナさんにそんな話を持ち掛けても遠慮すると思いますし、僕だってニーナさんに振るおうとは思いません。

 そもそも、そんな展開になる訳がありませんからね。


 「とにかく、これからの事を考えると、お前たちの関係はどうにかして欲しい。頼んだぜ?」

 「最善は尽くそうと思いますが、あまり期待しないでくださいね?」

 「おぅ! ま、楽しみにしてろやっ!」

 「はい? わかりました?」


 楽しみにしてる、ではなくて僕たちが楽しみにするって事ですかね?

 トーマ様の言葉の意味はよくわかりませんが、とりあえず僕は頷き返しました。


 「それじゃ、明日もくるぜ!」

 「明日もですか?」

 「おう! 結婚式は明後日だ。明日までは余裕があるからな!」

 「サンドラ様、また明日伺わせて頂きます!」

 「なー……あまり、こないでほしいぞー」


 サンドラちゃんの本音が零れましたね。

 それを聞いて、ガロさんが悲しそうな顔をしていますが、こんな事でへこたれる人ではないので多分大丈夫でしょう。

 代わりにトーマ様が八つ当たりされなければいいですけどね。


 「なー……疲れたぞー」

 「頑張りましたね」

 「ユアンも頑張った」

 「まぁ、あれくらいなら慣れましたね」


 搾取ドレインくらいなら体が痛む事も無くなりましたし、魔力も無駄に消費しないようになりましたからね。

 まぁ、だからといって多用するつもりはないですけどね。

 闇魔法を使うと僕の雰囲気が変わるみたいで、今回のようになってしまうのは僕としても望みませんからね。

 でも、トーマ様からお願いされたようにニーナさんとの関係はまた元通りにした方がナナシキの為ではありますね。

 何よりも僕もニーナさんと仲良くしたいと思いますし。

 

 「大丈夫。きっとどうにかなる」

 「本当ですか?」

 「うん。必ず」


 シアさんが自信を持って言い切りました。

 シアさんがそこまで言うのなら、どうにかなりそうな気がするから不思議ですね。

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