第561話 補助魔法使い達、ビャクレンの街を巡る
「た、食べ過ぎました……」
「お腹いっぱいだぞー……」
「そうじゃな。流石に私もきついな」
「情けない。私はまだまだいける」
「流石ですね……うぷっ」
シアさんを除き、僕たちは限界を迎えました。
今も手に串焼きを持っているシアさんを見ているだけで胸焼けを起こしそうです。
というよりも、既に胸焼けを起こしています。
「それにしても、お肉料理ばっかりですね」
「そうだなー……少しはお野菜を食べたいぞー」
サンドラちゃん野菜を食べたいというのは珍しいですね。
サンドラちゃんは龍人族だからなのか、どちらかというと、野菜よりもお肉の方が好きだったりします。
まぁ、それだけ並んでいる屋台がお肉料理ばかり……むしろお肉料理しか並んでいなかったのです。
「けど、本当に美味しかったですよね」
「そうじゃな。味は確かに美味かったな」
アリア様はこれまでに様々な料理を食べてきているらしいので、王族らしく美食家でもありましたが、そのアリア様が唸るほどですからね。
料理の美味しさは文句の付け所がなかったと思います。
しかもこれが、王族に出される料理ではなくて一般の人が普段から食べているというから更に驚きですよね。
王族の結婚式を控えた一種のお祭りみたいなものなので、流石に普段よりも手の込んでいるみたいですが、それを踏まえてもお店ごとにアレンジされた料理は見事としか言いようがありませんね。
「もう限界?」
「僕はもう無理ですね」
「私も無理だなー」
「流石にこれ以上は無理して食おうとは思わぬな」
お腹いっぱい食べるのは幸せな事だと思いますが、限度がありますからね。
僕なら食べ過ぎたと思う手前が一番幸せな状態だと思います。
「残念。もっと食べたかった」
逆にシアさんは限界まで食べて動けなくなる手前が一番幸せだと思うみたいですね。
まだまだ余裕があるみたいで、チラチラと屋台を見ています。
「僕たちの事は気にしなくていいので、もっと食べても平気ですよ?」
「平気。その代わり、お持ち帰りしてもいい?」
「お持ち帰りですか?」
「うん。寝る前にまた食べる」
「寝る前にですか? んー……太りますよ?」
「平気。私達一家はいくら食べても太らない体質」
「確かにイリアルさんもカミネロさんも凄く沢山食べる人ですが、二人ともスラっとしてましたね」
前に二人に招待されて夕食を共にしたことがありましたが、その時はシアさんに負けず劣らず沢山食べていたのを思い出しました。
「だから、夜に食べても問題ない」
「スノーさんが聞いたら怒りそうですね」
その辺りは不公平ですよね。
スノーさんは食べたら食べただけ身についてしまうらしく、運動しないとお腹周りが気になるとよく言っています。
まぁ、元はといえばみんなが茶化すから気にしているだけだと思いますけどね。
「ユアンはもっとお肉をつけた方がいいかもなー」
「そうじゃな。その体型ではいずれ子供が出来た時に乳をあげる事が出来ぬぞ?」
「む。シアさんはともかく、二人が言っても説得力がないですよ?」
サンドラちゃんは僕よりも小さいですし、アリア様だってキアラちゃんよりも少し背が高いほどで、決して胸が大きい訳ではありませんからね!
「じゃが、私はアンリを育てておるからのぉ」
「私も変身すればバインバインだぞー!」
あ、そう言えばそうでしたね。
アリア様はアンリ様を育てた実績がありますし、サンドラちゃんは前に成長した時の姿を見せて貰いましたが、背も胸もシアさんくらいになっていましたね。
あれはズルみたいなものですけどね。
「けど、実際にユアンはもっと肉をつけた方がいい。細すぎる」
「そうですかね? だけど、食べてもこれ以上は成長しないと思いますよ?」
シノさんはある時を境に成長はぱったりと止まったと言っていましたし、オルフェさんもそれと同じような事を匂わしていました。
「ふむ。じゃが、胸くらいは成長するかもしれぬぞ?」
「そうだったら頑張りますけどね」
「期待を持つのは自由だからなー」
「サンドラちゃんはさり気なく酷い事を言わないでくださいね?」
それだけ僕たちに馴染んできたとも言えますが、出来る限りサンドラちゃんには真っ当に育って貰いたいと思ってしまいます。
前だったらこういった会話を呆れて聞いていましたが、最近ではちょっと乗って来たりしますからね。
思春期ってやつですかね?
「それよりも、シアさんはお持ち帰りを……ってもう買ってたのですね」
「うん。いっぱい買った。預かって?」
「はい。一度収納魔法にしまっておきますね」
それにしても、沢山買いましたね。
気づけば、シアさんは両手いっぱいに袋を抱えていました。
流石に今の一瞬でこれだけ買うのは無理なので、恐らくは……。
「ユアンこっちもお願いする」
「わかりました」
ですよね。
別の所からシアさんがやってきました。
これはシアさんの分身ですね。
予想はしていましたが、シアさんは自分の分身を使い、色んな所に買い物に行かせていたみたいです。
これぞ魔法の無駄遣いって奴だと思います。
まぁ、便利だと思いますけどね。
「ちなみにですけど、ちゃんとお金は払ってきましたか?」
「うん。流石にお金は分身させる事は出来ない。ちゃんと払ってきた」
そこまで出来てしまったら大問題ですからね。
「なんじゃ、わざわざお金を払ってきたのか?」
「うん。タダで貰ってばかりだと流石に悪い」
「勿体ないのぉ」
「そういう決まりみたいなので仕方ないですよ」
この事は予め説明を受けていましたからね。
ニーナさんから預かった短剣はその場で食べるのはタダですが、お土産は有料になっていたりします。
そうじゃないと、収納魔法が使える僕だと幾らでも持って帰れてしまいますからね。
まぁ、その場で食べる振りしてこっそりと収納魔法にしまえばバレないと思いますけどね。
それでもそうしないのは、虎族の方の信頼を落としたくないからです。
「あの娘も肝心な所が抜けておるのぉ」
「肝心な所ですか?」
「うむ。私達の飲み食いもそうじゃが、お土産に関しても自由になっておるのじゃよ」
「そうなのですか? ですが、それだと屋台の人が損をしてしまいますよね」
「問題ない。ビャクレンで屋台を開いている者に関しては予め予算を配られておる。その予算の中で準備をしておるのじゃから、絶対に損は出ないようになっておるぞ。余程の阿呆でない限りはな」
そういう仕組みになっていたのですね。
となると、シアさんがお金を払ったのは無駄になってしまった事になるのでしょうか?
「無駄ではない。チップを払ったと思えばいいだけ」
「シアさんがいいならいいのですけどね」
「うん。それだけで明日も美味しい物を用意してくれるなら私も嬉しい」
「お主も成長したのぉ。前なら自分とユアンさえ良ければそれで良かったのに、他人にまで気を配れるようになったのはいい事じゃ」
「そんな事ないですよ。シアさんは前からこんな感じでした。表には出さないだけで、ちゃんと周りの気遣いはしっかりしていましたからね」
ただ、お金に対して無頓着な所がありますけどね。
それは少し直した方がいいとは思いますが、今回に関してはシアさんの意見もわかるのでいいと思います。
それに、これだけの量でありながらも虎族の料理のお金は比較的に安いと思いますからね。
それで、みんなが笑顔になれるのならばむしろシアさんはいい事をしたと思います。
「まぁ、問題はそこではないがな」
「他にも問題があったのですか?」
「うむ。ニーナに関してじゃ。結果的には本人たちが良しとしたから大事にはなっておらぬが、場合によってはかなりの大事になっておったぞ?」
確かに問題になり兼ねない事ではありますね。
ニーナさんの把握洩れにより、国賓待遇のシアさんが余分にお金を使う事になってしまいました。
幸いにもシアさんは気にしていませんでしたが、仮にこれが鼬王みたいな傲慢な人だったらそれを大事にした可能性はあります。
「ですが、僕たちは気にしないので、アリア様はニーナさんを責めないであげてくださいね?」
「うむ。本人たちの問題じゃ。別に口出しをしようとは思わぬよ。じゃが、ユアンからは伝えた方がいいと思うぞ。今後の小娘の為を思うならな」
「わかりました。一応は考えておきます」
一応は頷いておきましたが、気が重いですね。
ここでこの件を口にしたらニーナさんとの距離は更に離れてしまうような気がします。
でも、これはニーナさんの為でもあるとアリア様は言っていました。
僕もそれには同意です。
「ユアン。今は楽しむといい」
「そうだぞー。悩むだけ無駄な事はあるからなー」
「そうですね。その件は後々に考えるとして、今は楽しみましょうか!」
「うむ。まぁ、何かあったらいつもの通り私を頼れ。私がどうにかしよう」
「はい。その時はお願いしますね!」
といっても、この件は自分でどうにかしようと思いますけどね。
僕とニーナさんの問題なので、他人に任せる訳には行かないと思っています。
ですが、今は楽しむ事が先決です!
まだまだ屋台は沢山ありますからね。
もう食べれないですけど、見るだけでも僕は十分に楽しめますからね。
「ユアン。次はあれ食べる」
「はい。あっちも珍しい食べ物がありますね」
その後、シアさんの買い食いに付き合いながらビャクレンの街を回りました。
その結果、僕の収納魔法の中はお肉料理でいっぱいになりましたけどね。
当然、お金はパーティー資金から払いましたよ?
シアさんは自分で払うと言っていましたけど、料理に関しては野営とかでも食べる機会がありますからね。
そして、ビャクレンの屋台をざっと回った僕たちは満足して宿屋へと戻りました。
あの後も少しずつ料理を口にしたので、今日の夕飯は食べれそうになさそうですけどね。
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