第558話 補助魔法使いの変化について話し合う
「スノーさん、ニーナ様の部下たちの案内の準備終わりましたよ」
「あ、うん。ありがとう」
兵士のシエンさん達にニーナ様の部下の方々を案内するように頼み、応接室に戻ると既にニーナ様は宿屋へと向かったようで、応接室にはスノーさんとアリア様とアンリ様だけが残っていました。
だけど、少し様子がおかしいと思うの。
何故かニーナ様がもう居ないというのに、応接には張りつめたような雰囲気が漂っている。
「何かあったの?」
「ちょっとね」
言いにくい事なのかな?
スノーさんは私の質問に濁すようにそう答えた。
「もしかして、ニーナ様に何か失礼な事でもしちゃったの?」
「ううん、そういう訳ではないんだけどさ」
「それなら良かったけど……私には言えない事でも起きたの?」
「そんな事はないよ。ただ、まだ私も少し戸惑ってて、どう伝えていいのかわからない感じかな」
本当に何があったんだろう。
スノーさんが困っている事を見るのは珍しい事ではないけど、それでも困っていれば直ぐに相談してくれるからこんな感じにはいつもならない。
そうなると、他の人から状況を聞いた方がいいのかもしれない。
「アリア様」
「ん? 何じゃ、キアラも戻っておったか」
アリア様に声を掛けると、アリア様が驚いたように私の方を見た。
普通に戻ってきたけど、気づいていなかったみたい。
「はい。先ほど戻りました……何かあったのですか?」
「そうじゃな……キアラはユアンの事をどう見ておる?」
ユアンさんは私のお姉ちゃん的な立場ではあるけど、とても可愛らしい人だと思うの。
魔法の腕も凄いし、時々抜けていたり常識が無かったりするところもあるけど、基本的にしっかりしていると思うから頼りになると思う。
だけど、今聞かれているのはそういう事じゃないというのはアリア様の雰囲気でわかった。
それに、ユアンさんは魔法を使ったのかな?
「それは、闇魔法を使った時のユアンさんという意味でいいですか?」
「うむ。お主も何度もユアンの変化を見た事があるじゃろ?」
「はい」
あれはとても不思議な事だと思うの。
闇魔法をユアンさんが使うと、ユアンさんの雰囲気と、口調が変わる。
だけど、何よりも特徴的なのは瞳だと思うの。
あの赤い瞳はジッと見つめられると体が震えそうになる。
「それがどうかしたのですか?」
「どうもせん。じゃがな、私も何度もあのユアンを見た訳じゃが、今日のユアンは凄かった」
「そんなにですか?」
「アリア様がユアンの事をユアン姉様と呼んだくらいだね」
雰囲気が黒天狐様に似ていたという事なのかな?
「うむ。あの時は私も気圧された。その証拠に……アンリ」
「ん? あ、母上、どうなさいましたか?」
「いつまで呆けておる。キアラが戻ったぞ?」
「……! これは失礼した。キアラ殿、お帰りなさい」
「はい、ただいまです」
アンリ様はようやく私が戻ってきた事に気付いたみたい。
それだけユアンさんが衝撃的だったという事なのかな?
「スノーさん、そんなに凄かったの?」
「正直、凄かったよ。シア以外はみんな最初は動けなかったと思う」
そんなになんだ。
私がその場にいたらどうなったんだろう?
普段から一緒に居るスノーさんがこんな感じになるのなら、私も同じかな?
「けど、ニーナ様はそれで良く平気でしたね」
「平気じゃなかったよ。ユアンに対して委縮した感じになってたし、涙目になってたから」
「そんなにですか?」
「うん。まぁ、ニーナなら一日経てば大丈夫だとは思うけどね」
そう聞くと、ちょっと見て見たい気持ちもあるけど、見るのが恐い気持ちにもなる。
「じゃが、あれは一体何じゃったのじゃろうな」
「アリア様でもわからないのですか?」
「うむ。最初はアンジュ姉様の雰囲気にそっくりで歓喜してしまったが、少しだけ違和感を感じた。魔力と雰囲気にな」
「それは私も同じかな。魔力の方は自信はないけど、雰囲気は全然違ったよ」
「どんな風にですか?」
「んー……何と言うか、普通に喋っているのに、それだけで威厳があるという感じ? 例えるなら、初めてアリア様と話した時と同じ感じかな」
「私と一緒にするでない。あの時のユアンは私よりもずっと上じゃ。話すだけで相手を委縮させる事は私も出来ん。私は所詮仮初の王みたいなものじゃからな」
そうは言いますけど、初めてアリア様と対談したときはかなり緊張しました。
声を掛けられるだけで、声が震えそうになったのを思い出す。
「母上が仮初ならば、私はどうなるのです?」
「まだまだ未熟じゃな。親しみのある王を目指すのも良いが、せめて使い分けるくらいは出来るようにならぬと意味はないぞ」
「わかりました。私もユアン殿とまではいきませんが、あの領域を目指してみます」
「うむ。無理だとは思うが、精進するとよい」
アリア様は厳しいですね。
だけど、アンリ様がそこまで言うのなら本当に凄かったのだと思うの。
「しかし、やはり腑に落ちぬな」
「何処がですか?」
「うむ。先ほども言ったが、あの時のユアンはユアンだけではなかったように思えたのじゃ」
「黒天狐様が宿っていたみたいな感じですか?」
「いや、アンジュ姉様ともまた違う雰囲気でもあった。魔力自体はアンジュ姉様とほぼ変わりはないが、それともまた違うように思えたのぉ。スノーはどう思った?」
「私もですね。最後にユアンの変化をみたのはアーレン教会での時でしたが、あの時よりも凄みが増しているように思いました」
残念な事に、風の谷での時はユアンさんの魔法しか見れなかったから変化までは確認できなかった。
けど、アーレン教会の時よりも凄みが増しているとスノーさんが言っているのは本当かもしれない。
風の谷であれだけの魔法を使ったのに、ユアンさんは体に異変はなかったみたいだから。
「ふむ。とりあえず、ユアンの事は一応気にかけておいた方がいいかもしれぬのぉ」
「そうですね。悪い変化だとは思いませんが、その変化でユアンが変わってしまうのは私も怖いです」
私もそう思う。
私は今のユアンさんが好き。
いつもみんなの事を気にかけて、からかうとすぐに顔を赤くして、それでもいつも笑顔でいてくれるユアンさんのままで居て欲しい。
仮に、闇魔法を使っている時のユアンさんが本性だとしても、私は今のユアンさんのままで居て欲しいと思うの。
「うむ。私としてはさっきのユアンも捨てがたいが、やはり見慣れているという事もあり、今のユアンが一番じゃからな。だからこそ、気をつけろ。ユアンはリアビラに行く。必ず一度はあのユアンが姿を見せるぞ」
「はい。十分に気をつけようと思います」
「そうしてくれ。私の方でも一応じゃが、ユアンについて少し調べてみるとしよう。何を調べればいいのか見当はつかぬがな」
「それならシノさんに話を聞くのもいいかもしれないね」
「あー……そういえばシノさんも同じような変化があったね」
兄妹だからかな?
シノさんも光魔法を使うと性格が変わるのを知っている。
そこに手掛かりがあるのかもしれない。
「ま、深くは考えないでいこう。何があってもユアンは大事な仲間だからね」
「うん。それは当然だよ。ユアンさんが変わったとしても、本質は変わらないと思うから」
それは信頼。
ユアンさんがどうなろうと、私達は仲間で家族です。
ユアンさんの変化に戸惑う事はあっても、変わらない事があるの。
それに、ユアンさんには大事なお嫁さんが居ますからね。
「ま、とりあえず私達はトーマの結婚式の支度でもするかのぉ。何かあったら一応は報告をくれ」
「わかりました。その時はまた相談させて頂きます」
「うむ。アンリ、いくぞ」
「はい。では、失礼します」
アリア様とアンリ様が部屋を出ていく。
「それじゃ、私達も準備しようか」
「うん。その前に、ニーナたちの手続きがあるから先にそっちから終わらせようね」
「あー……そうだった。仕方ない、やるか」
「うん」
色々あってスノーさんは完全に忘れていたみたいだけど、ニーナ様達は虎族からの客人として扱わなければいけない。
その為には書類上の手続きもしなければいけません。
それを怠って、困るのは私達ですからね。
問題が後で発覚して、その時の状況がわからないという事にならない為にも。
「えっと……なんか、仕事が増えてない?」
「うん。増えてるね」
執務室に戻ると、何故か机の上に山積みの書類が置かれていました。
「当然です。これは虎族との国交ですから。こちらかの贈り物がある以上は手続きが必要となります」
オルフェさんが笑顔で私達の疑問に答えました。
「大丈夫です。スノー様とキアラ様であれば、これくらい今日中に片付きますよ。では、早速取り掛かってください」
「「わかりました」」
今更ですけど、領主の仕事って終わりがないと思うの。
「それと、先日ナナシキに訪れていたエルフ族の方々から移住を考えているという話しがありました。そちらの方も考えておいてくださいね?」
そして、更に仕事は増えました。
これは頑張らないと明日にも響く事になりそうなの。
結局、私とスノーさんはユアンさんの事を一度忘れ、日が落ちるまで書類と睨めっこをするのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます