第557話 補助魔法使い、ニーナと再会する
「ユアンにゃ、お久しぶりにゃっ!」
「お久しぶりです。相変わらず元気そうですね」
「うんにゃ! それが私の取り柄だからにゃっ!」
一週間後にトーマ様とガロさんの結婚式を控えたお昼の事でした、チヨリさんのお店でお仕事をしていると、僕たちに訪問者が来たと知らせを受けた僕たちは訪問者に会う為に領主の館へとやってくると、応接室で僕たちを待っていたのは以前に虎族からの使者としてナナシキへとやってきたニーナ様でした。
「それにしても珍しいですね、ニーナ様がナナシキに来るなんて」
「そうだにゃぁ。あの時以来だから、凄く久しぶりだにゃぁ」
にゃん語は健在のようですね。
あの時は騙されて僕もにゃん語を使っていたのが懐かしく思えてきます。
だけど、不思議ですよね。
まだあれから一年も経っていないのに懐かしいと思えるのです。
それだけ密度の濃い時間を過ごしていたということかもしれませんね。
「それで、ニーナ様は……」
「その前に……様はやめて頂けますか? 周りの目が恐いので……」
僕の言葉を遮るようにニーナ様は小さな声で僕にお願いをしてきました。
確かに、周りの目は怖いかもしれませんね。
この部屋に集まったのは僕たち以外にもアリア様とアンリ様が居ます。
けど、そんな事を言うのであれば、最初からその調子で話せばいいと思うのは僕だけでしょうか?
まぁ、ニーナ様がそう言うのなら仕方ありませんね。
ちょっとだけ呼び方を変えてみましょうか。
「わかりました。ニーニャ様、でよろしいですかにゃ?」
それとついでに、僕も久しぶりににゃん語を使ってみました。
「……ご、ごめんなさい。調子に乗り過ぎました。どうかお許しください」
ニーナさんが机に頭を擦りつける勢いで謝ってきました。
どうやらあの時の事は忘れていないみたいですね。
っと、流石に可愛そうなので弄るのはこの辺にしといた方がいいですね。
また泣かれてしまっても困りますので。
「冗談なので気にしなくていいですよ。僕に対してなら今までの口調で問題ありません」
「本当かにゃ? 後で首を寄越せとか言わないにゃ?」
「言いませんよ。そんな事をしたら虎族の方達と争いになってしまいますからね」
そもそも誰かの首なんか要りませんからね。
それにしても、ニーナさんは相変わらずですね。
何かあると直ぐに首を獲られると思っているみたいです。
前もこんなやりとりがありましたからね。
「では、改めまして。ニーナさんは何しにナナシキへと来られたのですか?」
ニーナさんの訪問は突然でした。
スノーさん達にも伝えられておらず、いきなり使者として現れたのでみんなが驚いた程です。
まぁ、ラディくん達の配下が教えてくれましたので、向かって来ているのは途中で知りましたけどね。
そこから大慌でニーナさんを迎える準備をし、今に至る感じです。
「まずは突然の訪問、大変失礼致しました。それに加え、私如きの為に時間を割き、出迎えて頂いた事に感謝致します」
ニーナさんの雰囲気が変わりましたね。
どうやらここからは真面目にやるみたいです。
順番が逆だと思いますけどね。
それは突っ込まない方が良さそうなのでしませんけどね。
それに、いい機会です。
僕の方も少し真面目にやらせて頂く事にしましょう。
その為にアリア様とアンリ様に来て頂いた訳でもありますし。
「いえ、こちらこそ大したおもてなしをする事ができず申し訳ありません。ですが、ニーナ殿に再びこの地に来て頂けたことは心から嬉しく思います」
僕は素直な気持ちをニーナさんに伝えます。
本当なら、違う言葉を送りたい所ですが、ニーナさんが真面目に話している以上は僕もそれに合わせなければいけませんからね。
「ほぉ……」
「ユアン殿、変わられましたね」
ニーナさんとそんなやりとりをしていると、後ろからアリア様の感心したような声とアンリ様の驚いたような声が聞こえました。
だけど、集中しないと直ぐにボロが出そうなので、聞こえない振りをする事に決めました。
そんなニーナさんは……戸惑っていますね。
僕の対応がどうやら予想外だったようです。
「どうかなさいましたか?」
「い、いえ……失礼致しました」
しかし、ニーナさんも貴族として経験を積んできているみたいですね。
僕が首を傾げながら尋ねると、姿勢を正し、訪問の理由を語り始めました。
「そういう事でしたか」
「はい、私共がユアン様達を案内させて頂きます」
ニーナさんはトーマ様の命令で急遽ナナシキへと向かわされたみたいですね。
その理由は、ニーナさんが言ったように僕たちを虎族の都までの案内のようです。
「ですが、それにしては人数が少ないように思えますが?」
「私の部隊の者達は国境沿いで待機させておりますのでご安心ください」
実はその事も知っていました。
ニーナさんは数人の人を引き連れていたのをラディくん達から報告を受けています。
「それはいけませんね。スノーさん、直ぐにニーナ殿の部下の方々をナナシキへと案内してください」
「わかりました……キアラ」
「はい」
スノーさんがキアラちゃんの名前を呼び、目配せすると静かに頷いたキアラちゃんが、「失礼致します」とニーナさんに頭を下げ、応接室から出ていきました。
早速動いてくれたみたいなので、そっちはキアラちゃんに任せて大丈夫そうですね。
「ユアン様の心遣いに感謝致します」
「構いませんよ。部下の方々もニーナ殿と同様におもてなしさせて頂きますので、短い間ではありますが、寛いで頂けるようにニーナ殿からも後でお伝えください」
「重ね重ね感謝致します」
トーマ様とガロさんの結婚式はもう少し先になりますので、流石にそれまでの期間を外で待たす訳にはいきませんからね。
「まぁ、それだけの振る舞いが出来れば十分じゃろう」
「そうですね。落ち着いて話さえしていれば、それっぽく見えると思いますよ」
っと、そろそろいいみたいですね。
張りつめていた空気がアリア様とアンリ様の一言で軽くなったような気がします。
「ふぅ~……ニーナさん、すみません。堅苦しかったですよね?」
「えっ、ユアン様、いきなりどうなされたのですか?」
急に僕が砕けた話し方をしたからか、ニーナさんが戸惑っています。
「えっとですね。色々と訳があって、折角なので少し威厳があるように立ち振る舞わせて頂きました」
「そ、そうなのにゃ……いきだりだったからびっくりしたにゃぁ」
「それを言ったらニーナさんもですよ」
僕としてはあのまま対談しても良かったですからね。
その場合はアリア様とアンリ様に無駄足を踏ませてしまった事になりましたけどね。
一応は二人も招待を受けているので完全に無駄になった訳ではないと思いますけどね。
「でも、そういう事なら初めから教えて欲しいにゃ」
「それでは意味がありませんからね。それで、ニーナさんから見てどうでしたか?」
「前のユアン様を見ているからかもしれにゃいが、まずはびっくりしたにゃ」
とりあえず、普段の雰囲気よりは威厳があるようには見えているのですかね?
「でも、ユアン様の見た目は可愛らしいから、あまり似合わないようにも思えるかにゃ?」
見た目ばかりはどうしようもないですよね。
「なら、見た目の雰囲気も変える」
「えっと、髪の色でも変えてみますか?」
「その必要はない。ユアン、体に負担がかからない程度でいい。闇魔法を使ってみる」
闇魔法ですか?
それに何の意味があるかわかりませんが、ずっと静かに見守っていたシアさんがここで口を挟むくらいですし、きっと意味があるのですかね?
「これでいい?」
「うん」
闇魔法の扱いも少しずつ慣れているみたいだね。
魔法を使うと体が痛んだり、魔力を多く消費することになるけど、その手前。
闇魔法の素となる魔力を流すくらいなら問題なくなった。
「どう、ニーナ? 少しは雰囲気は変わった?」
ニーナからの返事は返ってこなかった。
何故か、ポカンと口を開いて固まった状態で私の事を見ている。
しかし、それ以上におかしいのはアリアだった。
「ゆ、ユアン姉様」
「アリア? 私は姪だけど」
「ぬ? あ、すまぬ。つい、アンジュ姉さまと重ねてしまった」
アンジュママと私が?
どちらかというと、私はユーリパパに似ていると思うけど。
ま、それを口にするとアリアの機嫌が悪くなりそうだから言わないけどね。
と、そっちはいいとして、問題は目の前で固まっている子猫ちゃんね。
「ニーナ。さっきから黙ってるけど、ちゃんと聞いてる?」
「あっ、はい! 聞いてます!」
それなら最初から返事をして貰いたいものね。
「それで、どうなの? 少しは雰囲気は変わったかしら?」
「はいっ! 今のユアン様はまさに王族といった感じが致します」
流石に大袈裟じゃないだと思うけど。
だけど、ニーナがにゃん語を忘れるくらいには雰囲気は変わったかもしれないかな。
「ね?」
「そうね。シアの言う通りだったわね」
「うん。ユアンの事は一番わかるのは私」
「ふふっ、困ったらシアに相談すれば間違いないのかもしれないわね」
だけど……。
「ふぅ。やっぱり少し疲れますね」
魔力的には問題ありませんが、闇魔法をずっと使っていると肩が凝るような気がします。
ですが、これも収穫ですね!
「ニーナさん、お付き合い頂きましてありがとうございました」
「い、いえ! こちらこそ、貴重なお時間を頂き、感謝の念が絶えません!」
「そんな畏まらなくていいですよ。それよりもビャクレンから来て疲れていませんか?」
「問題ありません。疲れなど微塵も……」
ニーナさんはそう言いますが、未だに僕に対して畏まっているみたいですし、本人は気づかないうちに疲れているのかもしれませんね。
それなのにここで無理をして貰うのは申し訳ないです。
「とりあえず、ニーナさんが訪問した理由はわかりましたので、出発の日までゆっくりしてください」
「わ、わかりました」
「では、前みたく僕とシアさんが宿屋まで送りますよ」
「い、いえ! 宿屋の場所なら覚えておりますので、ユアン様にご足労おかする訳には……」
「遠慮はいりませんよ。アリア様もアンリ様もお付き合い頂きありがとうございました。スノーさん、申し訳ありませんが後はお願いします」
「あ、うん。気をつけてね?」
「大丈夫ですよ。ナナシキは安全ですからね」
スノーさんはボーっとしていたのでしょうか?
僕が声を掛けてから反応するまでに少し間がありましたね。
その後、僕とシアさんはニーナさんを宿屋まで案内しました。
ニーナさんはやはり疲れていたみたいで、終始変な感じでしたけど、ゆっくり休んでいつもみたいに元気にして欲しいですよね。
でも、闇魔法を使っただけでそんなに僕の雰囲気は変わるのでしょうか?
そんな疑問を持ちながらもニーナさんを送った僕とシアさんは宿屋を離れるのでした。
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