第556話 補助魔法使い、連れて行くメイドを選出する

 「お帰りなさ……」


 シノさんのお家から帰ると、いつもの通りまずは執事服を来たキティさんが出迎えてくれましたが、頭を下げた瞬間、キティさんの言葉は途中で途切れました。


 「どうしたのですか?」

 「あ、いえ……失礼致しました。ユアン様の格好に驚きまして」

 「僕の格好? あっ!」


 忘れていました!

 キティさんに言われ、自分の格好を確認すると、シノさんに頂いた服をまだ着たままでした!


 「や、やっぱり変ですよね?」

 「そんな事はございません。とってもお似合いです」

 「そ、そうですか……」


 キティさんはにっこりと微笑みました。

 お世辞だとはわかっていますが、褒めて頂けるのは少しだけ嬉しいものですね。


 「夕食にはまだ早いですが、この後はどうなさいますか?」


 しかし、キティさんもすっかりと執事としての対応が板についてきましたね。

 戸惑ったのは一瞬の事で、いつも通りの対応に戻りました。


 「ラインハルトさんの手は空いていますか? 少し相談したい事がありますので」

 「ラインハルト殿ですね? わかりました。直ぐにお呼び致します」

 「お願いします。僕たちは本館のリビングに居ますので、そちらに呼んでください」

 「畏まりました」


 キティさんが頭を下げ、別館の方へと歩いて行きます。

 そっちに向かうという事は、別館でお仕事でもしているのですかね?

 

 「では、今の間に着替えちゃいましょうか」


 忘れていたとはいえ、いつまでもこの格好で過ごすのは落ち着きませんからね。

 僕たちはラインハルトさんを待つ間、先に着替えて待つ事にしました。

 しかし、本館へと入り、自分の部屋に向かおうとすると、何故かシアさんに肩を優しく掴まれました。


 「ユアン。このままラインハルトを迎える」

 「どうしてですか?」

 「面白そうだから」

 

 にたりとシアさんが笑いました。

 どうやら少し悪い事を考えているみたいですね。

 

 「何を考えているのか大体想像はつきますが、あまりやり過ぎては駄目ですからね?」

 「うん! あと、ユアンはいつもより威厳のある雰囲気をだす」

 「どうしてですか?」

 「これはユアンの練習でもある。リアビラでは何処に目があるかわからない。ボロが出ないようにするのも大事」


 それは確かに大事かもしれませんね。

 見た目だけは偉そうに見えても、中身が伴っていなかったら直ぐに僕が大したことない立場だとバレてしまう可能性はあります。

 まぁ、実際に爵位を授かっているので立場だけなら偉いといえますけどね。

 それでも、手を出しにくい状況を作るにはそれなりに威厳を保つ必要はあるかもしれません。


 「わかりました。ですが、期待はしないでくださいね?」

 「平気。ユアンなら大丈夫」


 大丈夫と言われても、貴族のような振る舞いは出来ないので本当に期待はしないで貰いたいですよね。

 まぁ、練習なので頑張ってみますけどね!

 若干緊張しつつ、リビングへと入り、ソファーへと腰を掛け、何故かシアさんは護衛のように僕の後ろにたち待つ事数分。

 リビングのドアをノックする音が響きました。


 「ユアン殿、私の事をお呼びと聞きましたが、入ってもよろしいか?」

 「構いません。どうぞ、中に」

 「わかりました。失礼しまー……」


 リビングの扉が開かれ、メイド服を着たラインハルトさんが中に入ってきましたが、僕の姿を見た途端に驚いたように目が大きく開かれ、その場で固まりました。


 「どうなさったのですか?」

 「いえ、ユアン殿がそのような格好をしているとは思わず、見惚れてしまいました」

 「それはありがとうございます。ですが、扉は締めてくださいね?」

 「し、失礼致しました!」


 慌てたように扉をラインハルトさんが締めます。


 「ラインハルトさん。少し落ち着きなさい」

 「申し訳ございません!」

 「謝る事ではございません。とりあえず、そちらにお掛けください」

 「よろしいのですか?」

 「ぼ……私がいいと言っているのですよ?」

 「では、失礼ながら……」


 ふぅ。中々難しいですね。

 危うくいつもみたいに僕と言ってしまいそうになりましたが、ラインハルトさんの委縮したような態度を見る限り、今の所は成功のようですね。


 「それで、私に要件があると伺いましたが、何か至らない点がございましたか?」


 どうやらラインハルトさんが委縮しているのは急に呼び出されたからみたいですね。

 この様子からすると、もしかしたら怒られるのかと思っているかもしれません。


 「いいえ、ラインハルトさんはよく頑張ってくれていると思います」

 「はっ! そのような言葉を頂けるのはありがたき幸せ!」


 思わず笑いそうになりました。

 僕がラインハルトを褒めると、ラインハルトさんはソファーから離れ、片膝をついて頭を下げました。

 これではメイドというより騎士ですね。


 「頭をあげてください。それに、メイド服が汚れてしまいますよ」

 「失礼致しました!」

 

 無意識だったのですかね?

 ラインハルトさんは自分の行動に驚いたように立ち上がり、戸惑った顔をしています。


 「とりあえず、座ってください」

 「は、はい。失礼致します……」


 ラインハルトさんは慌ててソファーへと座りなおしました。


 「ラインハルトさん、今回貴女を呼んだのには理由があります」

 「な、何でしょうか?」

 「そんなに緊張しなくても平気です。少し頼みがあるので聞いて頂けますか?」

 「ユアン殿の命令ならば何でもお申し付け下さい!」

 「そんなに慌てないでください。まずは、話を聞いてくれますか?」

 「わかりました」


 本当に慌ただしい人ですね。

 それだけ僕の為に何かしたいと思ってくれているという事だとは思いますが、それでも何でも軽く請け負ってしまうのは良くないと思います。

 なので、それを注意しつつ、僕はラインハルトさんを呼んだ理由とお願いを話しました。


 「私が、ユアン様のお供に……」

 「はい。ラインハルトさんにしかお願いできない事なのですが、如何でしょうか?」


 もちろん強制ではありませんよ。

 その事をしっかりと伝えたうえでラインハルトさんへとお願いをしました。

 

 「私でよければ、是非ともお連れください。必ずやユアン様の護衛としてお役にたってみせます!」

 

 いや、護衛じゃないですからね?

 ラインハルトさんはあくまでメイドとして一緒に来てもらう予定です。

 まぁ、もし戦闘になるような事があったりしたら手を借りるかもしれませんが、基本的にはその予定はないです。


 「いい返事を聞けたようで私も満足です。ラインハルトさんには期待していますからね?」

 「はっ! お任せください」


 とりあえず、これでリアビラへと向かうメンバーは一人増えましたね。

 ですが、もう一人欲しい所ですね。

 シノさんが言うにはメイドさんは二人くらい欲しいと言っていましたし。

 となると、他の人選ですが……。

 そんな事を考えている時でした、リビングの扉をノックする音が響きました。


 「どうぞ。お入りください」

 「お邪魔するね~。おやおや、ユアンちゃん、随分とめんこい格好をしてるね~」

 「ユアンお姉さま……! 素敵です!」


 リビングへ入ってきたのはリコさんとセーラでした。


 「どうなさったのですか?」

 「いやね~。キティさんからユアンちゃんが綺麗な格好をしていると聞いて驚いてね~」

 「ユアンお姉さま、本当に美しいです!」

 「そ、そうですか。ありがとうございます」


 セーラはすっかりと変わってしまいましたね。

 初めてあった時は、自分の事ばかりを考えている我がままな人という印象でしたが、アーレン教会の事が解決してからは落ち着いたように思えますね。

 いえ、落ち着いてはいませんね。

 僕の事を憧れの目で見るように、キラキラとさせ、鼻息が荒くなっているように見えます。

 まぁ、前のツンツンした感じよりはマシですけどね。


 「それで、ユアンちゃんはどうしてそんな格好をしているんだい?」

 

 そろそろいいですかね?

 少し威厳を保つような話し方は疲れたので、ここからは普通に話す事にしました。

 それに、あのまま話しているとセーラがどんどんと興奮? しそうですからね。

 

 「リアビラに行くのにメイドさんを連れて行くんだね~」

 「そうなんですよね。一応はラインハルトさんには着て頂ける事になりましたが、もう一人欲しいと思いまして」


 どうしてこんな格好をしていていたのか事情を説明すると、リコさんは納得したように頷きました。


 「それなら私が! ユアンお姉さまのお世話をさせて頂きます!」

 「セーラがですか?」

 「だめ、でしょうか?」


 う……そんな目で見られたら断りづらいです。

 ですが、ここは心を鬼にしなければいけませんね。


 「セーラは駄目ですね」

 「どうしてですか?」

 「リアビラが危険だからです。それに、セーラの心の傷はまだ癒えてはいませんよね? あの街には普通に奴隷が居ると聞きます。それを見て、セーラの心の傷がまた広がってしまったら、嫌ですからね」


 セーラがアーレン教会でされていた事は知っています。

 人によっては自ら命を断ってしまうかもしれないほどに大きな傷を負っていたのです。


 「でも、私はユアンお姉さまのお役に少しでも立ちたくて……」

 「その気持ちは嬉しいです。ですが、僕はセーラに辛い思いをして欲しくはないですし、セーラが家を守ってくれるのなら、それで十分手助けになると思っていますよ」


 掃除や洗濯などは僕よりもセーラの方がよっぽど上手に出来るようになっていますからね。


 「なので、セーラには家の事をお願いしたいと思います」

 「わかりました」

 

 残念そうな顔をしながらも、セーラは頷いてくれました。


 「それじゃ、誰を連れて行くつもりだい?」

 「それなのですが、オメガさんしか居ないかなと思っています」

 「オメガちゃんかい? ん~……悪くはないと思うけど、リアビラならやめた方がいいんじゃないかな?」

 「そうなんですよね」


 僕もかなり迷いました。

 実力的には問題ないと思うのですが、リアビラがナナシキに攻めてきた理由にオメガさんは関わっています。

 そんな場所にオメガさんを連れて行くとなれば、何かしらの騒動が起きるような気もしているのです。

 かといって、他に連れて行けそうな人もいないですし……。


 「なら、私ならどうだい?」

 「えっ、リコさんですか?」

 「うんうん。たまにはお出かけしてみたいと思ってたからねぇ」

 「けど、危険が伴いますよ?」

 「それくらい承知のうえさ。それに、オメガちゃんがダメなら他にいないからねぇ」


 ジーアさんは勿論ダメとして、他のメイドさんはダンジョンから作られた体で動いているのでナナシキを離れられませんので、確かに動けるのはリコさんしかいませんね。


 「大丈夫なのですか?」

 「平気平気。何かあったらラインハルトちゃんを頼らせて貰うしね~」

 

 そこまで言うのならリコさんにお願いしても大丈夫ですかね?

 

 「わかりました。みんなで検討してみますね」

 「ほいほい。前向きに検討してみてね! それじゃ、私は先にみんなに話を通しておくよ」

 

 まるで決まったかのようにリコさんはリビングを後にしました。

 こうなってしまっては後で駄目とは言いにくいですね。

 そして、結局の所、連れて行くメイドさんはラインハルトさんとリコさんに決まりました。

 ジーアさんが凄く心配して、オメガさんはリコさんに色々と仕事を振られたみたいで引き攣った顔をしていましたけどね。

 それでもリアビラに向かう準備は一つ整いましたね。

 しかし、その前に僕たちは他にもやる事があります。

 次に僕たちはその準備に取り掛かるのでした。

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