第555話 補助魔法使い、服の相談をする
「これは無理ですよ……」
「そんな事ない。凄く似合ってる」
「うん。僕も悪くないと思うよ?」
どうしてこんな事になったのでしょうか?
僕は今、シノさんのお家で着替えをしています。
「というか、どうしてシノさんがこんな服を持っているのですか?」
「貰ってきたからだよ?」
「自分で着るためにですか?」
「……僕にそんな趣味はないからね?」
「でも、僕よりもシノさんの方が絶対に似合うと思いますよ?」
僕の普段の格好は、黒色のローブを羽織り、誰が見ても地味だといえる格好をしています。
それなのに、流石にこの色合いはないと思います。
「僕は男だからね。だけど君は違う。一応は女の子なんだから、たまにはお洒落でもするといいさ」
「これがお洒落ですか?」
「うん。凄くお洒落。かわいい」
シアさんにそう言って頂けるのは嬉しいですけど、絶対に似合っていないと思います。
だってですよ?
今の僕の格好は白いドレスに青い色のマントをつけた状態です。
しかも、ドレスの長さが太股辺りしかないのですし、胸元も少し空いていて、赤い宝石が嵌めこまれています。
「絶対にこれはないです……」
「いや、だけど君たちの希望を叶えるとなるとこれくらいがちょうどいいと思うよ」
「うん。どうみても王族にしかみえない。完璧」
「僕は貴族っぽい格好でいいって言いましたよね?」
これはシノさんに相談したのが間違いだったかもしれません。
結局の所、昨日の話し合いで決まった事は、僕が貴族っぽい格好をし、スノーさんが騎士、シアさん達が護衛という形でリアビラに向かう事になったのです。
「リアビラに向かうんでしょ? それなら中途半端な立場よりもいっそのこと、王族のように振舞った方が安全だと思うよ」
「どうしてですか?」
「王族に手出しをするような馬鹿はそうそういないからさ」
まぁ、国に喧嘩をうる人なんて確かにいないでしょうね。
「でも、どこの王族か確かめられたらそれはそれで面倒ですよね?」
「そうかな? 普通にアルティカ共和国の王族だと名乗ればいいんじゃない?」
「それはかなり危険じゃないですか?」
だって、つい最近戦争をしたばかりですからね。
向こうは僕たちの事をよく思っていない証拠です。
「表向きは戦争ではなかった事になっているから大丈夫だと思うよ?」
「そういえばそうでしたね」
結果的にはリアビラに根を張っている大きな組織が起こしたことになっているみたいですね。
大きな組織が数千人単位の人を動かせるとは思いませんけどね。
それでも、多額の賠償金と首謀者の首が届いたのでその件はそれで終わりとなっているのでした。
「だからといって、決して安全とは言えないけどね」
「当然ですよ。例え組織の犯行だとしても、その組織自体はまだ潰れていませんからね」
「だけど、王族として動いているのであれば街中で襲われる危険はかなり抑えられると思うよ」
「出来れば目立たずに龍神様を探したいのですけどね」
「それは無理かな。君たちの情報は伝わっている筈だし」
結果的になりますが、タンザの街、サンケの街、鼬国とリアビラに関係しそうな所を潰して来ちゃいましたからね。
これで僕たちの情報がリアビラに伝わっていないと思うのは楽観的過ぎますね。
「となると、やっぱり堂々としていた方が良さそうですね」
「そうだね。という訳で、君の格好はそれで決まりかな」
「他の選択肢はないのですか?」
「ないかな。僕が君たちに用意できるのはそれが限界だよ。着物を着ていく訳にもいかないでしょ?」
着物は動きにくいので流石にないですね。
まぁ、アリア様は戦場でも着物を着ていましたけどね。
「ちなみにですけど、このドレスってどこで用意したのですか?」
「それはエメリアが昔着ていたドレスだね」
「え、エメリア様のですか!?」
「そうだよ。スノーの格好と色合いは同じでしょ?」
そう言われるとそうですね。
「でも、そんなものをお借りして良かったのですか?」
「問題ないよ。むしろ、君の役に立つのならと快く譲ってくれたよ」
「え、譲って……ですか?」
「うん。貰ってきたよ。まぁ、他に着る人はいないからいいんじゃないかな?」
そうは言っても、このドレスってかなり高い物ですよね?
本当にいいんでしょうか?
後で返せと言われたら当然返しますけど、汚したり破いてしまったら弁償するのが怖いですよね。
「エメリアは仮にも王族だよ? そんな事を言うはずがないさ。恥になるからね」
「それでも大事に扱わないといけませんよね……」
「これからも着る機会はあるだろうから、今のうちに慣れておくといいさ」
そんな機会はいりませんけどね!
「そうは言ってもね。君はいずれは王になるんでしょ? 王がいつまでもローブを羽織っているなんておかしいからね」
「そ、その時はその時です!」
まだまだ先の話ですからね。
「まぁ、僕に出来るのはここまでだ」
「はぁ……ありがとうございます。けど、まだこの格好でリアビラに行くとは限りませんからね?」
まだリアビラに行く準備段階ですからね。
他の選択肢が出るようであれば、その時はまた別の格好になると思います。
「僕としてはその選択が一番正しいと思うけどね。ところで、君たちはどうやってリアビラに行くつもりでいるんだい?」
「んー……途中までは徒歩で向かう予定ではいますよ?」
「徒歩で……?」
「何ですか? 変な顔をして」
「いや、本気で言っている訳ではないよね?」
「本気ですよ?」
だって、それ以外に方法がありませんからね。
何せ僕たちはリアビラに行った事がないので転移魔法は使えませんし、キティさんの配下に転移魔法陣を持たせる訳にもいきません。
バレる事はないと思いますが、万が一バレたらかなり面倒な事になるのが目に見えています。
それだけ転移魔法は危険だという認識が一応はありますからね。
「あのね? 君は王族として振舞うつもりでいるんだよね?」
「今の所はそうですね」
「それなのに徒歩っておかしいと思わないかい?」
「おかしいのですか?」
「おかしいよ。少なくとも徒歩で移動する王族なんて僕は聞いた事がないかな」
「そうですか? トーマ様なんかはいつも一人で獣化してナナシキにやってきますよ?」
「あれを参考にするのかい?」
まぁ、僕も流石にアレはおかしいと思っていましたけどね。
「それじゃ、どうすればいいのですか?」
「別の移動手段を考えるべきだと思うけど?」
「別の移動手段……馬車とかですか?」
「まあ、普通ならそうなるね。まぁ、砂漠を移動するならば車輪が砂に埋まって無理だろうけどね」
「なら、徒歩しかないですよね?」
「あるさ。全く、もう少し考えてから行動をしてくれるかい? 兄として凄く心配になるよ」
深いため息をシノさんがつきました。
そう言われても、知らないものは知らないので仕方ないですよね?
「まぁいいや。その辺りは僕の方で用意しておくよ」
「色々とすみません」
「いいよ。僕としても君たちには無事に帰って貰わないと困る訳だしね」
僕たちに呆れながらもこうやって手助けしてくれるのは本当に助かりますね。
とりあえず、これで移動手段も手に入りそうなのである程度の準備は大丈夫ですかね?
「まだあるよ」
「まだ、あるのですか?」
「当然だよ。もしかして、君たちだけでリアビラに行くつもりかい?」
「そのつもりですよ?」
「従者もつけずに?」
「従者ならシアさんが居ますからね」
「うん。ユアンの事を守るのは私の役目」
「それは護衛でしょ? 身の回りの世話をする人はどうするんだい?」
「それって必要なのですか?」
「当たり前でしょ。まぁ、エメリアの騎士団は特殊だったからそういった役割はエレンがしていたけど、それでもメイドの一人や二人は連れていたよ」
そう言われるとそうですね。
王族なのに身の回りをお世話してくれる人がいないのはおかしいような気がしてきました。
「それに、王族の護衛が四人というのもおかしいからね?」
「そう言われると少ないかもしれないですね」
「いや、明らかに少ないからね?」
となると、メイドさんと別の護衛も用意した方が良さそうな気がしますね。
「宛はあるのかい?」
「はい。とりあえず、メイドさんの方はどうにかなりそうです」
兵士の方はスノーさんに相談するとしても、メイドのさんの方はこういった時に張り切ってくれそうな人がいますからね!
「なら、そこはしっかりとしようか」
「わかりました。早速、確認してみようと思います」
多分大丈夫だとは思いますが、確認は大事ですからね!
という事で、僕たちはシノさんにお礼を告げ、シノさんのお家を離れました。
しかし、僕はここで大きな失敗をしてしまった事に後で気が付きます。
話に夢中で自分の格好に気づかず、そのままお家に戻ってしまい、そのままとある方に会ってしまったのです。
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