第553話 補助魔法使い、リアビラについて聞く

 スノーさんに傭兵蟻さん達を紹介する少し前の事、僕とシアさんはイルミナさんとカミネロさんの元を訪れました。

 

 「いらっしゃい。よく来てくれたね」

 「すみません。急にお邪魔してしまって」

 「いいのよ。二人ならいつでも来てくれて構わないからね」


 嬉しいですね。

 こうやって僕たちを暖かく迎えてくれると、血は繋がっていないですが、家族だと思えてきます。


 「それで、今日はどうしたんだ?」

 「ちょっとカミネロさんに聞きたい事がありまして」

 「俺に? もしかして、リアビラか?」

 「はい、その事についてです」


 僕が知っている中で、リアビラについて一番よく知っているのは間違いなくカミネロさんだと思います。

 実際にクジャ様からの指令でリアビラで活動していた事があるくらいですからね。


 「そうか。ついにその時が来てしまったか」

 「その時?」

 「あぁ。いつかは娘達がリアビラに行く事になるとは思っていたからな」

 「おとーさん、心配なの?」

 「正直、心配だ。特にユアンとシアにとってはな」

 「僕たちが、ですか?」

 「そうだ」


 カミネロさんは凄く険しい顔つきになりました。

 それだけリアビラは危険って事なのですかね?

 まぁ、実際に危険だとは思っていますけどね。

 何せ、前にカミネロさんと一緒に行動を共にしていたカバイさんが全身傷だらけで、死にかけて帰ってきたくらいですからね。

 それでも僕たちはリアビラに行く理由があります。

 

 「仕方ないな。本当なら娘達をそんな場所に向かわせたくはないが、どうしても行くんだろ?」

 「はい。僕たちの目的を果たすためには絶対に必要な事だと思いますので」

 「うん。これは譲れない」

 「そこまでか……わかった。しかし、これを聞いて不安に思うのなら考え直してくれ」


 深いため息をこぼし、カミネロさんがリアビラについて少しずつ話してくれました。


 「まず、ユアンとシアが危険だと言った理由だが、あの街では奴隷制度が当たりまえとなっているからだ」

 「そうみたいですね」


 実際に奴隷として連れて行かれそうになった人は何人も見て、助けていますからね。


 「でも、どうして私とユアンが危険なの?」

 「リアビラという国は亜人を奴隷となるために生まれてきた存在としか見ていないからだ」

 「亜人って何ですか?」

 「人の形をした、人族以外の種族の事だ」

 「えっと、それは獣人以外も含まれていますか?」

 「そうだな。魔族や精霊族なども含まれかもしれないな。俺がリアビラに居た時は、魔族や精霊族の奴隷は見た事がなかったから何とも言えないが」


 どうやら亜人という呼び方はリアビラだけにある言葉みたいですね。

 簡単にいえば、人族の人が他種族の人を表す差別用語みたいです。


 「そうなると、僕たちだけではなく、キアラちゃんやサンドラちゃんも危険という事ですよね?」

 「そうなるな。だが、一番危険なのはユアンとシアなのは間違いない。常に狙われていると思ってくれ。宿屋でも決して気は抜くな、奴らは手段を選ばない」


 それほど危険なのですね。


 「でも、リアビラにも兵士は居ますよね? そんな目立つ事を悪人がするでしょうか?」

 「するだろうな。何せ、兵士達もリアビラの思想に染まっている。仮にユアン達が襲撃にあったとしても、襲撃者を咎めはしないだろう。むしろ、難癖をつけてくる可能性すらある」

 「それだけ獣人の立場が弱いという事ですか?」

 「弱いというレベルではない。人権を与えられていないレベルだ」


 なるほど……。

 人権を与えられていない人に何をしても構わないという考えのようですね。

 

 「その対策はありますか?」

 「当たり前の事だが、耳や尻尾を隠して目立たない事だな」

 「それは無理。ユアンが目立たない訳がない」

 「それもそうだな」


 むー……それは酷いと思います!

 これでも僕は忌み子として育ってきたので、耳や尻尾を隠してずっとやってきましたからね。

 隠蔽の技術はシアさんよりも高い自信があります!


 「ユアン、今だから言うけど、ユアンの隠蔽はバレバレだったよ?」

 「ふぇっ? な、何でですか?」

 「見れば普通にわかる。みんなも敢えて触れなかっただけだと思う」

 「本当ですか?」

 「うん。中には気付かない馬鹿も多かったと思うけど、注意深くみれば直ぐにわかる。実際に、ユアンと初めて会った時、直ぐにわかった」


 シアさんと初めて会ったのはギルドでオリオとナターシャに絡まれている時でしたが、入口から入ってきたシアさんは僕の頭と腰辺りを見ていましたね。

 

 「むー……でも、大人しくしていたら大丈夫ですよね?」

 「それはユアンちゃんだから無理じゃないかな?」

 「どうしてですか?」

 「ユアンちゃんがユアンちゃんだからだよ」


 どんな理屈ですか!

 それに、どうしてカミネロさんもシアさんもイリアルさんの言葉に頷いているのが納得いきません。


 「まぁ、それは冗談として、仮に耳と尻尾がバレなくても、ユアン達は常に狙われていると思った方がいい。奴らからしたら、格好の獲物だからな」

 「それは、僕たちが女性だからですか?」

 「そうだ。若い女性や子供は比較的狙われやすい。何せ、それだけで奴隷としての需要が上がるからな」


 そういえば、タンザで助けた人たちは女性や子供ばかりでしたね。

 

 「でも、それだと対策仕様がありませんよね?」

 

 僕たちのパーティーは女性だけで構成されていますし、サンドラちゃん辺りはぱっと見、子供にしか見えません。

 僕だって成人している事を驚かれたりするくらいですからね。


 「そうだな。出来る事なら護衛をつける事をお勧めする。その際には逆に目立つ格好の方がいいかもしれないな」

 「逆に目立つ格好ですか?」

 「相手に要人だと思わせるのも一つの手だ」

 「この人達には手は出せないなと思わせればいいのよ」


 そういう手もあるという事ですね。

 流石に相手も何処かの貴族や王族には手を出そうとは思わないという事ですかね?


 「んー……出来る事なら目立ちたくはないですね」


 目立つという事はそれだけマークされる可能性もあるという事ですからね。

 闇の龍神様を探すのに、それが邪魔になる可能性があるように思えます。


 「ならばもう一つの方法をとればいいだろう」

 「もう一つですか?」

 「ユアンちゃんとシアちゃんが最初から奴隷になっていればいいのよ」

 「もしくは従者だな。それならば誰もユアンやシアに強引な手を出そうとは思わないだろう。奴隷を奪うのはリアビラでは犯罪に当たるからな」


 変な国ですね。

 奴隷にするために、他国で人さらいをするくせに、奴隷を人から奪うのは禁止されているみたいですね。

 

 「そうじゃないと、街の至る所で犯罪が横行するだろうからな」

 

 それでも少なからずそういった事件はあるみたいなので、常に危険とは隣り合わせではあるようですね。


 「とりあえず、何かしらの対策をしてからリアビラに行かないと面倒な事になりそうですね」


 やっぱりカミネロさんに相談して良かったと思います。

 相談をしないでそのまま向かっていたら絶対に大変な事になっていたと思います。

 

 「気をつける所はそれくらいですか?」

 「いや、まだまだ沢山あるぞ」

 「そんなにですか?」

 「あぁ。他にも気をつけなければいけない事は……」


 その後、カミネロさんからリアビラに対する注意点を沢山教わりました。

 それだけでリアビラという街が他の国と比べて特殊な街だとわかりましたよ。

 もしかしたら、闇の龍神様を探す旅で一番大変なのかもしれない、僕はそんな予感がしました。

 何せ相手は未知の国であり、言ってしまえば戦争を仕掛けてきた敵国に向かうのと同じようなものですからね。


 「俺から言えるのはこれくらいだ。すまないな、もっと情報を集めておくべきだった」

 「いえ。僕たちはそれだけでも十分に助かる内容でしたよ。本当に助かりました」

 「少しでも役に立てたのなら良かったが、絶対に無事に戻ってきてくれ。家族や知り合いを失うのは辛いからな」


 影狼族の事件の事を思い出しているのですかね?

 カミネロさんが少しだけ暗い顔になりました。

 しかし、やはりいいパートナーですね。

 暗くなりかけた空気を払しょくするように、イリアルさんがカミネロさんに甘えるように寄りかかりながら、明るい口調で話を僕たちに振りました。


 「あ、そういえば家族で思い出したけど、私達からも報告があるんだけど、聞いてくれる?」

 「はい、なんですか?」

 「えっとね……ユアンちゃんとシアちゃんがまたお姉ちゃんになるかも」


 僕がお姉ちゃんに?

 あっ!


 「おかーさん、もしかして、出来た?」


 シアさんの言葉にイリアルさんが自分のお腹を撫で、ゆっくりと頷きます。


 「うん。新しい命が宿ったみたい」

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