第552話 ナナシキの変化
「おはようございます……」
「はい、おはようございます。今日もお邪魔していますよ」
ジーアさんに起こして頂き、シアさんと三人で日課であるピコフリ体操をした僕たちはいつもの通り朝食をとりにリビングに行きくと、日課となった光景に悩む事になりました。
いい加減慣れなければいけないと思うのですけどね。
「ユアンちゃんおはよー。いやー、今日も賑やかだねぇ」
「リコさんおはようございます。いつも朝からありがとうございます」
「気にしなくていいよ~。これが私の仕事だからねぇ」
「それでもですよ。みなさんの相手が大変だったらいつでも言ってくださいね。僕から一言言っておきますので」
「うんうん。だけど、本当にユアンちゃんは気にしなくて平気だよ。私も楽しいからねぇ」
リコさんの負担になっていないなら良かったです。
何せ、こうなってしまうとジーアさんはリコさんの力になれないですからね。
まぁ、僕も正直な所、あまり関わりたくないのが本音だったりしますけどね。
だって、いつ爆発してもおかしくない状況が目の前にあるのですから。
「フウさん、今日の予定はどうなさるのですか?」
「私は気の向くままに過ごすよ。スイは?」
「僕も同じかな。特にやる事はないから」
「羨ましいな。私は今日も仕事だよ」
「エンさんはお仕事なのですね。頑張ってください」
「おう!」
食卓を囲み、仲良さそうに話をしていますね。
それはとてもいい事だと思います。
だけど、メンバーがメンバーだけに本当に不安です。
「シアさん、どうしてこうなったのでしょうか?」
「わからない。だけど、賑やかなのも悪くない」
「そうなんですけどね……」
食卓を囲んでいるのは、女神のレンさん、風の龍神様のフウさん、水の龍神様のスイさんに、炎の龍神様のエンさんです。
フウさんとレンさんは前から来ていたのでまだわかりますが、何故か僕たちがドワーフの国から戻ってくるとそこにスイさんが追加されていました。
どうやらフウさんが得意の風の噂とやらを流し? スイさんを誘ったらこうなったみたいです。
そしてエンさんはというと……。
「ミレディの様子をこっそり見に来たら楽しそうだから参加した!」
らしいです。
それからというものの、これが毎朝の日課となり、こうして四人で集まるようになったみたいですね。
唯一の救いは、龍神様達はレンさんの事にまだ気づいておらず、レンさんの方も龍神様の事に気付いていないという事ですかね。
まぁ、本当は気づいているけど敢えて黙っているという可能性もありえますけどね。
どちらにしても、目の前の光景は異様ですけどね。
「では、僕たちは出かけますが、あまりリコさんに迷惑をかけないようにしてくださいね」
「勿論です。リコさんにはいつも良くして頂いてますので、ご迷惑などおかけする訳がございませんよ」
「うんうん。レンちゃんはいい子だからねぇ。私も楽しいから平気だよ~」
実際にリコさんとレンさんの仲はいいみたいですけどね。
それでもリコさんの負担になるのであれば、少し考えなければいけませんね。
尤も、何をどうすればいいのか全く思いつきませんけどね。
この人達を怒らせてしまったらどうしようもないと思いますし。
「スノーさん、キアラちゃんおはようございます」
「あー……おはよう」
「二人ともおはようございます」
「うん。おはよう。サンドラは?」
「いるぞー……おはよーなー……」
そっちに居たのですね。
声の方を見ると、スノーさんの執務室に置いてあるソファーで寝転がっているサンドラちゃんの姿がありました。
スノーさん達に合わせて起きるのが早かったからか、まだまだ眠いみたいですね。
「それで、スノーさんはどうしたのですか? 朝からテンションが低いみたいですけど」
「わかって言っているよね?」
「さ、さぁ……なんの事でしょうか?」
スノーさんが鋭い目つきで僕の事を睨みつけてきます。
まぁ、本気で睨んでいる訳ではないので怖くはないですけどね。
「スノー気にする事はない。むしろ、喜ぶべき」
「そうは言ってもさ。いきなりあんなことされたら私だってびっくりするよ」
「だけど、これでスノーさんの安全面は更に上がったと思うの」
「そうだけどさ、せめて一言教えといて貰いたかったよ。朝から凄くびっくりしたし!」
「でも、かっこよくないですか? それに、あの姿だったらスノーさんでも平気ですよね?」
「まぁね」
スノーさんが睨みつけた理由はわかっています。
今日の朝から領主の館にあらたに配属された魔物が原因です。
「それで? どうしてこんな事になっているのか、いい加減説明して貰える?」
「それはですねー……」
この件の始まりは、ドワーフの国から帰った所から始まります。
あの日、ミレディさんに街を案内した後、僕たちは今後の方針を話合いました。
その後、僕とシアさんとサンドラちゃんはとある人に呼び出されて、とある場所に向かいましたね。
「僕たちを呼びだしたのはラディくんとエンさんだったのですよね」
呼び出された場所は何とナナシキのダンジョンで、そこで待っていたのは呼び出した張本人であるラディくんとエンさんと……傭兵蟻さん達でした。
「なんで傭兵蟻がナナシキのダンジョンにいるの?」
「ガンディアのダンジョンとナナシキのダンジョンが繋がったからですよ」
「どうして?」
「それはわかりません」
理由はわかりませんし、確かめようがありませんからね。
ですが、ダンジョンが繋がったのは確かです。
でなければあの時の傭兵蟻さん達がナナシキのダンジョンに来れる訳がないですから。
「まぁ、繋がったのはわかったけどさ、どうして傭兵蟻が領主の館に配属されているの?」
「契約したからですよ」
「誰が?」
「スノーが主」
「契約なんてした覚えはないんだけど……」
「契約と言っても、魔鼠さんやコボルトさんのような契約ではないですよ」
正確には傭兵蟻さん達に働かないかと持ちかけて了承を得られたという形ですね。
ダンジョンを攻略する時に手伝って頂いたみたいに、食事や住む場所を提供するので働いてもらう事になったのです。
もちろん給金もありますけどね。
「まぁ、それはわかったけど……どうして人になってるの?」
「それもダンジョンの力みたいなものらしいですよ」
「そんな事が出来るんだ」
「そうみたいですね」
あれには僕たちも驚きましたね。
ラディくんとエンさんが言うには、ダンジョン力を借りて進化したと言っていましたが、まさか人の姿になれるとは思いもしませんでした。
それを目の前でやられるので本当にびっくりですよね。
「影狼という魔物が影狼族になるようなもの」
「そう言われると納得なのかな?」
「うん。魔族は魔物が進化したと言われてるから不思議ではない」
確かにそう言われると納得できるかもしれませんね。
とにかく、傭兵蟻さん達はこれから領主の館、正確にはスノーさんの親衛隊として働いてくれることになったのです。
「という訳ですよ」
「そうは言われてもね……」
「嫌なの?」
「嫌ではないよ? 悔しいけどかっこいいからさ。だけど、私とは正反対だよね?」
「そんな事ない。黒と白は表裏一体」
「あれはカッコいいよなー」
「そうだね。漆黒の鎧を着た兵士はそれだけで威圧感があってかっこいいと思うの」
僕もそう思います。
あの人たちが領主の館を守っているだけで、悪さなんかしたくないと思えますね。
「けど、傭兵蟻何だよね? 報酬次第では裏切られたりしないかな?」
「それはない。そもそも傭兵蟻はもう傭兵蟻じゃない」
「どういう事?」
「種族進化したみたいですよ」
「何それ?」
「えっと、オークがオークキングになるようなものですかね?」
簡単に説明するのならば、上位個体になったという事ですかね?
「それじゃ、何になったの?」
「それはわからないです」
ダンジョン独自の進化みたいなものなので、これは世界初の魔物とも言える存在みたいです。
まぁ、世界を探せば何処かにいる可能性もありますが、少なくとも冒険者ギルドに登録されている魔物ではないのは確認済みです。
「んー……わからない魔物か。とりあえず、もう傭兵蟻とは呼べないよね?」
「まぁ、そうなりますね」
「何て呼べばいいのかな?」
確かに。
呼び方は大事ですね。
ですが、実はそれも考えてあります!
「パラディアンナイトか……」
「はい、騎士であるバラディンと蟻を意味するアントを掛けあわせてみました!」
「ナイトも騎士だよね?」
「あ、確かに……でも、かっこいいですよね?」
響きというのは大事ですからね!
「まぁ、本人たちがいいのならいいんじゃない?」
「一応はそれでいいみたいですよ」
というよりもそこに興味がないというのが正解ですけどね。
「まぁ、ちゃんと働いてくれるなら私はいいかな」
「という事は、正式に決定でいいですかね?」
「そうだね。そうなると、色々と決めなきゃいけない事があるけどね」
「そうですね。前からいた兵士さんに不満が出てしまっては問題があると思うの」
そういえばそうでしたね。
何気にナナシキの兵士さんも増えていますからね。
シエンさんや元冒険者のトーリさん達などが嫌な思いをする可能性もありえましたね。
いきなり新人さんが近衛兵という立場に抜擢されたら誰だって思う所があるに決まっています。
「まぁ、その辺は上手くやるから平気だよ」
「私達に任せてくださいね」
「はい、よろしくお願いします」
こうして、新たにパラディアンナイトという兵士さん達が加わり、更にナナシキの防衛面は強固となりました。
まだまだ問題はありますけどね。
元傭兵蟻さん達はダンジョンモンスターなのでナナシキの外では活動できなかったり、部隊の編成を考えたり、警邏達との連携もあったりと。
それでも、結果だけをみればいい方向へと進んだと僕は思っています。
「それでは、本題に移りますね。リアビラの件についてですが……」
その後、僕たちは本題であるリアビラについて話し合う事になりました。
リアビラへの出発ももう間近ですね。
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