第549話 閑話 補助魔法使い、学園寮に向かう
「お、終わりました……」
「ふふっ、ユアンさんだいぶお疲れみたいですね」
「はい……授業を受けるのがこんなに大変だとは思いませんでした」
「慣れれば平気。気づいたら授業が終わってる」
「それはシアがいつも寝てるからだよね? 実技以外だと本当にやる気ないよね」
「そんな事ない。一応、授業は聞いてる」
「それじゃ、これは何に使う薬草かわかる?」
「習っていない事はわからない」
「えっと、さっきの授業で教わったばかりだと思いますよ?」
やっぱりシアさんは寝てたみたいですね。
まぁ、隣からすぅすぅと寝息が聞こえていたのでわかっていましたけどね。
でも、その気持ちはよくわかります。
実際僕も途中で眠気に襲われる事がありましたからね。
ですが、僕はちゃんと最後まで起きつづけました。
みんなよりも知識が遅れているのに、ここで眠ってしまったらいつまで経ってもみんなに追い付けないので頑張りました!
「それじゃ、私は先に帰るね」
「もう帰るのですか?」
「うん。これでも一応は騎士の家系だからさ、帰ったら他にも学ばないといけないことがあるんだ」
「そうなのですね」
騎士って大変なのですね。
いえ、この場合は貴族が大変なのでしょうか?
ですが、今日一日スノーさん達と過ごしてわかったことがあります。
スノーさんもキアラちゃんは休み時間になる度に僕の事を気にかけてくれました。
僕が孤立しないように声を掛けてくれて、凄く気を遣ってくれたのです。
休み時間になる度に、耳を触っていいとか尻尾をモフモフしたいとか言っていましたけど、あれもきっと僕の為に言ってくれていたのだと思います。
多分ですけど。
「それじゃ、私も帰りますね」
「キアラちゃんもですか?」
「ふふっ、そんな淋しそうな顔をしないでください。今日は無理ですけど、今度一緒に寄り道して帰りましょうね」
「はいっ!」
「それじゃ、また明日!」
「またね!」
スノーさんとキアラちゃんが僕たちに手を振りながら教室を出ていきます。
せっかく少し仲良くなれたのでもう少しお話したいところでしたが、二人もの都合があるので仕方ありませんね。
ですが、キアラちゃんは別の日にお出かけしようと誘ってくれました。
実現するかはわかりませんが、それでも嬉しいですね。
「それじゃ、私達も帰る」
「はい……私達、ですか?」
「うん。ユアンは学園寮に住むと聞いた」
「はい。今日からそこに住む事になっています」
「場所はわかる?」
「えっと、わからないです」
「なら案内してあげる。一緒に帰ろ?」
「あ……はいっ!」
なんと、シアさんが一緒に帰ってくれる事になりました!
本当の予定では、この後に職員の方に学園寮の場所を聞き、一人でその場所に行く予定でしたがその手間が省ける事になったのです。
しかも、お友達と一緒に帰れるという特典付きです!
ですが、僕のルンルン気分は直ぐに崩れる事になりました。
「学園寮は……学園の隣の建物だったのですね」
「うん。近くて楽」
シアさんと一緒に校門を抜けて右に曲がると、そこには三階建ての大きな建物がありました。
学校までの距離は僅か一、二分。
これでは、帰った気分がしません!
「うー……どうせなら王都を少し探索したかったのですが、今日の所は無理みたいですね」
「もしかして、ユアンは王都に来るのは初めて?」
「初めてです。しかも、今日ついたばかりでそのまま学園へと向かいましたので、王都がどんな場所なのかを見る事も出来ませんでした」
転移魔法でお母さん達にオルフェ先生のお家へと送られ、そこから一緒に学園へと向かいましたからね。
「なら、今度案内してあげる」
「本当ですか?」
「うん。ユアンが望むならだけど」
「是非お願いします!」
ですが、悪い事ばかりではありませんでした!
キアラちゃんに続き、シアさんも一緒にお出かけしてくれる事になったのです!
「わかった。私は割と暇してるから、いつでも誘うといい」
「はい! そうさせて頂きますね!」
さっきまでの残念な気分が嘘のようです。
こんなにいい事が起こるのならば、学園寮が近くて逆に良かったと思えます。
しかも、いい事は立て続けに起きるようで、シアさんは今日も暇みたいで学園寮も案内して頂ける事になりました。
「ここが食堂。右にいけば大浴場がある」
「お風呂まであるのですね」
「うん。部屋もシャワー室があるけど、お風呂に浸かりたかったらそっちを利用するといい」
「はい。機会があったら利用してみようと思います」
それにしても学園寮の設備は凄いですね。
ただ、学生が暮らす場所だと思っていましたが、シアさんの説明で凄く充実している事がわかりました。
今の説明でもありましたが、ここで生活する学生ならば食堂は無料みたいですし、大浴場も好きな時に利用できるらしいです。
それ以外にも、体を動かす事が出来る中庭があったり、トレーニングルームもあるとシアさんは言っていました。
「でも、どうしてこんなに充実しているのですか?」
「冒険者ギルドが提供してるから」
「そうなのですね?」
「うん。将来有望な冒険者を輩出する為の先行投資らしい」
なるほど。
そういう目的があるのですね。
それなら納得ですかね?
「とりあえず、施設は後でいい?」
「あ、はい! 問題ないですよ」
施設はいつでも利用できますが、シアさんに案内して頂けるのは今日だけですからね。
ここで僕があちこち見て回りたいと言って迷惑をかける訳にはいきませんし、我がままを言って嫌われたくはないですからね。
「なら、私達が住む場所に案内する」
「お願いします」
「うん。こっち」
シアさんの後に続きます。
どうやら僕たちが暮らす寮は建物の二階と三階にあるみたいですね。
「部屋がいっぱいありますね」
「うん。学園は大きい。それなりに利用している人はいる」
階段をあがるとまず扉の多さに驚きました。
シアさんが言うにはこの一つ一つが学生の部屋になっているみたいです。
そして、シアさんの後に続いてこの場所に来て、僕は重大な事に気付きました。
「シアさん……」
「何?」
「そういえば、僕。どの部屋に住むのかを聞いていませんでした」
すっかりと忘れていましたが、オルフェ先生から職員さんに学園寮の場所と部屋の番号を聞くように言われていたのです。
完全に僕のミスです。
シアさんに案内して貰えると聞いて、すっかり舞い上がって大事な事を忘れてしまっていたのです。
「問題ない。ユアンの部屋はこっち」
「えっ、シアさんは僕の部屋がわかるのですか?」
「うん。オルフェから聞いてる。だから、ユアンの案内を申し出た」
そうだったのですね。
シアさんが誘ってくれたのは僕の面倒を見る為でもあったみたいです。
僕を誘ってくれた理由の裏にそんな事実があったのは少し残念ですが、それ以上に僕の面倒を見てくれようとしているのは素直に嬉しいですね。
「ここ」
「一番奥なのでわかりやすいですね」
「うん。どうぞ」
「はい、お邪魔します」
というのも変ですね。
自分の部屋に帰るので、ただいまが正しいような気がします。
まぁ、そんな事を気にしても仕方ないですね。
シアさんは鍵を預かっていてくれたようで、扉を開けて中に入りました。
僕もそれに遅れないように中に入ります。
何せ、鍵は自動で掛かってしまうみたいですからね。
ここで遅れたらまたシアさんに内側から開けてもらうという手間をかけさせてしまいます。
「ひ、広いですね」
「うん。快適に暮らす事ができる」
驚きました。
部屋に入った先にあったのはソファーやテーブルが置かれたリビング。
しかも、自分達で料理が出来るようでキッチンもあります。
「あっちとあっちが個室になってる。それで、あそこがトイレ。その隣がシャワールーム。そこで洗濯もできる」
「凄いですね……あれ?」
そこら辺の宿屋よりもよっぽど快適な暮らしが出来そうな部屋に驚きましたが、その中で僕はとある違和感を覚えました。
「どうしたの?」
「えっと、何だかやたらと生活感があるなと思いまして」
というか、絶対に誰か暮らしていますよね?
だって、ソファーの上に服が脱ぎ散らかしてありますし、テーブルの上には教科書や私物が置かれています。
「もしかして、僕の他に誰か住んでいた李しますか?」
「うん。私が住んでる。ユアンは私の同居人」
「えっ……えぇー! シアさんがですか!?」
「うん。嫌だった?」
「あっ、いえ。嫌ではありませんよ。ですが、いきなりの事だったので驚きました」
まさかこれから暮らす場所が誰かと一緒だとは思いませんし、まさかその相手がシアさんだと全く想像していませんでしたからね。
でも、逆に気になる事がありますね。
「えっと、むしろシアさんは僕と一緒で嫌ではありませんか?」
「なんで?」
「だって、シアさんとは今日出会ったばかりですよ? 不安に思ったりしませんか?」
「問題ない。今日一日ユアンと一緒だったけど、悪い人ではないとわかったから」
「でも、まだたった一日ですよ? そんなに僕の事を信用して大丈夫なのですか?」
「それはわからない。だけど、一緒に暮らしていくうちにわかる事もある。嫌だったらその時に考えればいい」
それもそうですね。
それに、どうやら学園寮はどの部屋も同じ造りになっているようで、結局は誰かと相部屋になる仕組みになっているみたいです。
そう考えれば、シアさんで良かったと考えるべきですね。
まだまだシアさんの事を良くは知りませんが、少なくとも悪い人ではないと思いますからね。
お互いの事はこれから知っていけばいいと思います。
「では、不束者ですがこれからよろしくお願いします」
「うん。こちらこそよろしく」
シアさんが手を差し出してくれたので、僕はその手を握り返します。
この時、僕は初めてシアさんの笑顔を見ました。
とても優しそうな表情で、見るだけで何故か安心できる笑顔でした。
これは予感です。
きっと、シアさんとなら上手くやっていける。
そんな気がしました。
その予感は当たりました。
笑ったり泣いたり、時には喧嘩したりと色々ありましたが、この学園生活を振り返った時、そこには沢山の思い出が詰まっていました。
この学園生活で学んだすべての事が無駄ではなかったと思えたのです。
そして、学園を卒業してから数年経った今もシアさんは僕の隣にいます。
スノーさんやキアラちゃん。
後輩のサンドラちゃんという仲間に囲まれて。
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