第548話 閑話 補助魔法使い、学園生活を送る
「初めまして、私はキアラルカです! よろしくお願いしますね!」
「あ、はい! キアラりゅ……ルカさんですね」
「ふふっ、呼びにくかったらキアラでいいですよ」
「わかりました。キアラちゃんと呼ばせて頂きますね」
「はい! 私もユアンさんと呼ばせて頂きます!」
最初の授業が終わり、次の授業までの休み時間になると、先ほど席に着く時に手を振ってくれた女の子が、休み時間になると声を掛けてくれました。
エルフ族の女の子ですね。
「私はスノー・クオーネだよ。一応だけど、学級委員長としてこのクラスを纏めてる。何か困ったらいつでも相談してね」
「スノーさんですね? わかりました。困ったら相談させて頂きます」
それだけではありません。
僕を心配してくれたのでしょうか?
銀色に近い髪を高い位置で纏めた人族の方も声を掛けてくれました。
家門名がある事から貴族の方とわかりますので、あまり迷惑をかけないようにしないといけませんね。
「それで、ユアンはどうして遅れてこの学園に入学してきたの?」
「えっと、それはですね……」
僕が通う事になったこの学園は、冒険者を育成する学園であり、ここを卒業すると最初からEランク、またはDランクの冒険者としてスタートできる資格を得られる場所だったりします。
といっても、Dランクの資格を得られるのはかなり稀なケースらしいですけどね。
なので、大概の人はEランクの資格を得てから卒業するのが基本らしいです。
それでも、学園で冒険者の基本を得られるのはかなり有難いと思います。
ここを卒業した冒険者と普通に冒険者になるのでは、死亡率や依頼達成率が大きく変わるみたいなので。
「へぇ、急に入学が決まったんだ」
「そうなんですよね。お母さん達にオルフェ先生に預けられたと思ったら、ここに案内されました」
「オルフェ先生とはお知り合いなのですか?」
「はい。お母さん達の友人で、小さい頃からよく面倒を見て頂きました」
お母さん達は特殊な仕事をしていて、長期間家を離れる事が何度もありました。
その時にオルフェ先生に預けられたのは始まりですね。
「でも、ユアンさんの実家はここから遠いのですよね?」
「まぁ、遠いといえば遠いですね?」
「どうやって此処まで来たの?」
「えっと、それは……」
これは隠した方がいいですよね?
まさか転移魔法でお母さん達に連れてこられたと言うのは大きな騒ぎに繋がり兼ねません。
どうにか笑って誤魔化せないかなと考えている時でした。
「…………うるさい」
ずっと眠り続けていた獣人の女性が目を覚ましたみたいです。
「あ、すみません。起こしてしまいましたか?」
「うん。うるさくて起きた…………だれ?」
顔をあげた女性は目を擦りながら、ジッと僕の方を見ました。
それは凄く綺麗な人でした。
眠たそうな目をしていますが、瞳の色は金色で、顔も凄く整っています。
僕が見つめ返してしまったからでしょうか、獣人の女性は少しだけ眉をひそめました。
「なに?」
「あ、いえ……なんでも、ないです」
もしかしたら不快な思いをさせてしまったかもしれません。
と、とりあえず怪しい人ではないと伝えなければいけませんね。
「えっと、今日からこの学園に通う事になったユアンと申します。よろしくお願いします」
「私はリンシア。影狼族。よろしく」
よ、良かったです。
一応は自己紹介はして頂けました。
それと、リンシアさんは犬ではなくて狼だったのですね。
気になったので聞こうと思っていましたが、聞かなくて正解だったみたいです。
それにしても、ちょっと変わった方ですね。
リンシアさんはすぐに僕に興味をなくしたようで、再び机を枕に伏せってしまいました。
さっきまで寝ていたのに、また眠るみたいです。
「ちょっと、シア。いい加減起きたら?」
「平気。起きてる」
「そういう問題じゃないし。それと、制服くらいはちゃんと着なよ」
「やだ。リボンは苦しい。邪魔」
スノーさんの言葉が鬱陶しかったのか、リンシアが顔をあげると、確かにリボンは外され、ボタンも二つほど外されていました。
一応は学園の決まりで制服はきっちりと着るように指示されていますが、それを破っている辺りリンシアさんは不良なのですかね?
ちなみにですが、制服は統一されていて、靴は革靴、白か黒のソックス、学園から支給された紺色のブレザーとスカート、白色のシャツという決まりがあり、赤色のリボンを胸の少し上あたりにつけるのが正装とされています。
「その気持ちはわかるけどさ、一応は新入生が隣に居るんだから模範にならないとね」
「それを言ったらスノーだってスカート短い」
「それは私の足が長いだけだし!」
「うん。それに加えてムチムチしてる」
「太ってないし!」
二人は仲がいいみたいですね。
それを見てキアラちゃんは二人のやりとりを止めないで笑っていますし、いつもの光景なのでしょうか?
「くぅ~~~」
そんな時でした。
リンシアさんの方から可愛らしい音が聞こえました。
「……お腹空いた。スノー、何か食べるものちょうだい」
「今はないかな。ってか、朝食は食べてこなかったの?」
「うん。起きた時には食堂は閉まってた」
どうやらリンシアさんは学園寮に住んでいるみたいですね。
僕も今日からそこで暮らす事になるのですが、そこには食堂があり、朝、昼、夕方にご飯を食べる事が出来ると聞いています。
「もしかして、シアさん寝坊したの?」
「違う。気づいたら朝だっただけ」
それは寝坊と言うのではないでしょうか?
でも、例え寝坊したからといって、お腹が空いているのは可哀想ですね。
リンシアさんは不貞寝するように、また顔を机に伏せてしまいました。
「あの、干し肉でよければありますが、食べますか?」
「いいの?」
は、早いですね。
僕が声をかけると、リンシアさんはすぐに顔をあげ、キラキラとした瞳で僕を見つめてきます。
「はい。ただ、僕が作ったので味は保証出来ませんが、それでも良ければですけど」
「平気。お腹が空いているよりはマシ」
「そういう事なら……どうぞ」
僕は収納魔法から袋を取り出し、袋ごとリンシアさんに渡してあげます。
「へぇ、ユアンは収納魔法が使えるんだ」
「僕は補助魔法が得意ですからね。リンシアさん、お湯もどうぞ」
「ありがとう」
マグカップにお湯を注ぎ、リンシアさんに渡すとリンシアさんは袋から干し肉を取り出しお湯に浸け始めました。
やはり僕よりも先に学園に入学しているだけありますね、干し肉の食べ方もわかっているみたいです。
この辺りも授業で習っているのかもしれませんね。
「ユアンさんって便利ですね。一緒に冒険をしたらすごく助かりそうだと思うの」
「そう言って頂けると、鍛えてきた甲斐があります」
冒険者とは戦う事が全てではないと僕は思っています。
もちろん、戦える事に越したことはありませんが、それぞれの特性を活かし、自分に合った冒険者となるのも大事だと思います。
「それで、シア……それって美味しいの?」
「うん。凄く美味しい。今までで一番かもしれない」
「へぇ……なんかお湯が凄い色になってるからマズそうに見えたけど、そうでもないんだね」
「スノー。それはユアンに失礼」
「あぁ、ごめん。別に悪く言うつもりじゃなかったから、気にしないで貰える?」
「はい。気にしていないから大丈夫ですよ」
僕の作った干し肉は好きな人は好きですが、苦手な人は苦手とハッキリと分かれますからね。
「ちなみにだけど、どんな味なのですか?」
「気になるならキアラちゃんも食べてみていいですよ」
「本当ですか?」
「なら、私もいいかな?」
「はい。干し肉はそれで全てではないので問題ありませんよ」
リンシアさんに渡したのはほんの一部ですからね。
僕の収納の中には小分けした干し肉が沢山あります!
「それじゃ、貰うね?」
「何の干し肉なんだろう……」
「食べてみればわかる」
「まぁ、そうだね」
「では、頂きます」
スノーさん達も慣れているみたいですね。
マグカップに浸した干し肉が柔らかくなった頃合いを見計らい、二人は干し肉を口に運びました。
その瞬間でした。
「うぇ……苦くて、辛いです……」
キアラちゃんは一口干し肉を齧ると、顔をしかめました。
一方スノーさんはというと。
「ゴホッ、ゲホッ! にゃ、にゃにこれ」
盛大にむせてました。
どうやら一気に齧り付いたのが失敗だったみたいですね。
「スノー。辛かったらお湯を飲むといい」
「あ、うん。 ブホッ!」
今度はお湯を口に含むと、盛大に吹きだしました!
「スノー……汚い」
「ご、ごめ……ゲホッ!」
「だ、大丈夫ですか?」
「う、うん。だいじょうぶ、だけど……ユアン、これって食べ物なの?」
「はい。非常食にはもってこいですよ?」
「ほ、本当ですか?」
「うん。これは最適な非常食といえる。むしろ、普段から食べたい味」
「シア、無理してる訳ではないよね?」
「してない。ユアン、もっと貰っていい?」
「はい。好きなだけ食べて貰っていいですよ」
「ありがとう」
スノーさんとキアラちゃんは駄目だったみたいですが、リンシアさんは気に入ってくれたみたいですね。
「えっと、ユアンさん。ちなみにだけど、あの干し肉って何なのですか?」
むむむ?
まさかキアラちゃんはそこが気になるとは思いませんでした。
どうしましょうか。
本当なら教えたくはない所ですね。
ですが、キアラちゃんは僕に最初に声をかけてくれた人でもありますし、これからも仲良くして欲しいので少しくらいなら教えてもいいかもしれませんね。
「えっと、みんなには内緒にしてくださいね?」
「うん。約束します」
「わかりました……実はあれはですね……」
流石に作り方は内緒にしましたが、キアラちゃんは干し肉の元となった素材を知り凄く驚いていましたね。
きっと、ゴブリンから干し肉を作るなんて発想はなかったのだと思います。
そして、結局のところ、スノーさんとキアラちゃんが食べていた干し肉はリンシアさんのお腹へと納まる事になりました。
「ユアン、美味しかった。ご馳走様」
「いえ、リンシアさんが喜んでくれたのなら良かったです」
「うん。大満足。それと、私の事はシアでいい。親しい者はそう呼ぶ」
「いいのですか?」
「うん。ユアンの事は気に入った。これからも仲良くして欲しい」
「はいっ!」
これは本当にゴブリンの干肉様に感謝しなくてはいけないかもしれませんね!
餌付けしたみたいな形になってしまいましたが、シアさんと少し仲良くなれたみたいです!
ちなみにですが、スノーさんが吹きだしたスープは僕が綺麗にしましたよ。
ここでも補助魔法使いとしての本領を発揮することが出来たのです。
みんなは見た事のない魔法だと驚いていましたけどね。
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