第536話 弓月の刻、魔物と戦う
「なんだか、いかにもって所に出ましたね」
シアさんに影狼を先行させて貰いながらダンジョンを進むと、マグマの湖とも呼べる場所へとたどり着きました。
「魔物の反応はある?」
「小さな反応が多いですが、大きいのも居ますね」
「どれくらい?」
「ランクで言えばCランクくらいですかね? オーガくらいだと思います」
「一応警戒した方がいいかもしれませんね」
「そうですね。ですが、今の所は姿は見えませんので、戦闘にならない事を祈って進みましょう」
先への道は見えています。
対岸と言えばいいですかね?
湖を半周ほどすれば先に進めそうです。
「なーなー」
「はい、どうしましたか?」
「見られてるぞー」
「サンドラちゃんもわかるのですね」
サンドラちゃんがジッとマグマの湖を気にしています。
サンドラちゃんの言う通り、マグマの湖を飛び跳ねる魚が増えてきました。
僕たちの動きを確認するように移動に合わせてピョンピョンと跳ねているのです。
「なんだか、偵察って感じがするね」
「わかる。さっきから違う魚が順番に跳ねてる」
「違いがわかるのですか?」
「わかりますよ。背びれが違ったり、模様が違ったりしますから」
目が良いとそこまでわかるのですね。
そう言われてもみると……わかりませんね。
ですが、探知魔法の反応で確かめると二人の言う通りでした。
魚は飛び跳ねると、一度その場から離れ、大きな赤い点の方へと移動し、また戻ってきて跳ねるを繰り返しているのがわかりました。
「もしかしたら、大きな反応がある魔物に伝えているのかもしれませんね」
そうだとしたら、大きな反応は飛び跳ねる魚のボス的な存在なのかもしれませんね。
「まぁ、何もしてこなけえれば無視でいいんじゃない?」
「そうですね。このままなら無事に通過できそうですからね」
マグマの湖を避けて歩き、もう半分くらいまで来れましたからね。
この調子で残り半分も進めれば、先に進む通路へとたどり着く事が出来ます。
ですが、そう簡単には行かせてはくれないみたいです。
「止まって!」
先頭を歩くスノーさんが立ち止まり、左手を真横に伸ばし、いきなり剣を抜きました。
それと同時に、僕たちも戦闘態勢をとります。
「飛び出してきた」
「そうですね」
僕も見えていたので、状況はわかっています。
スノーさんが立ち止まる直前、マグマの湖から魚が大きく飛び跳ね、僕たちの進路を塞ぐように飛び出してきたのです。
「何してるんだー」
「跳ねてるのだと、思うけど……」
しかし、僕たちは直ぐに行動に移せませんでした。
飛び出してきた魔物の行動に意表を突かれたのです。
「あれは、危険なのですかね?」
「平気。跳ねてるだけ」
「なんだか可哀想に見えますよ」
飛び出してきた魔物は陸に上がると、体を横にしてピチピチと頑張って跳ねています。
しかも、それが一匹ではなく僕たちを偵察するようについてきていた五匹の魔物がみんなして跳ねているのです。
「何がしたいんだろう」
「わかれば苦労しない」
「別に苦労していませんけどね」
そのまま素通りできそうな状態ですからね。
ですが、魚の魔物はただ飛び出してきた訳ではないみたいです。
「え、立ちましたよ?」
「足が、ありますね」
「逆に気持ち悪いんだけど」
跳ねていたのは体勢を変える為だったみたいです。
「どうする?」
「向かってきそうなので倒した方がいいとは思いますよ」
「なら、倒しちゃうね?」
何だか可哀想な気もしますが、向こうは僕たちを襲うつもりのようで、ゴツゴツした不規則に並んだ歯を見せながらこっちを見ています。
「よっと! んー……弱い!」
「でも、面白い攻撃ですね」
「ただの噛みつき」
「でも、あの足で跳躍できるのは凄くないですか?」
暫く様子を伺っていると、魚は急に短い脚を曲げ、スノーさんへと歯を見せて飛びついてきました。
ですが、スノーさんは何事もなかったようにそれを躱し、着地した所を剣でぶすりと刺したのです。
うん。
あれなら僕でも簡単に倒せそうですね。
「やっぱり魔石になるんだね」
「魔物の大きさを考えれば仕方ありませんが、かなり小さいですね」
ダンジョン産と言えばいいですかね?
やっぱり倒した魔物は小石ほどの魔石へと変わりました。
「居る?」
「流石に使い道はなさそうなので要らないですよ」
「なら、そのままでいいか」
結局、飛び出してきた魔物の討伐は一瞬で終わりました。
「それじゃ、先に進もうか」
「待つ」
目の前の脅威? を排除し、立ち止まっている理由もないとスノーさんが再び進もうとした時でした。
シアさんがマグマの湖をジッとみつめ、スノーさんを止めました。
「あー……もしかしてボスの登場?」
「うん。くる」
僕たちが倒した魚はやはり偵察と足止めだったみたいですね。
シアさんのみつめる先のマグマがボコボコと泡みたいなのが沢山浮き上がり、暫く警戒しながらそこを見つめていると、その場所から大きな魔物が飛び出してきました。
「わっ!」
「マグマが降り注いできますよ!」
飛び出してきた魔物は一緒にマグマまで連れてきました!
しかも、僕たちを丸呑みにするつもりか、大きな口をあげて真っすぐに僕たちへと落下をしてきます!
「平気」
しかし、慌てはしましたが問題ありません。
やはりCランク程度の魔物では僕の防御魔法は破る事ができず、防御魔法に口を大きく開いたまま顔をぶつけ、陸へと転がりました。
「マヌケ」
「仕方ありませんよ。防御魔法は目に見えませんからね」
見えない壁があったら知らなければ誰でもそうなると思います。
「やっぱり足があるんだ」
「一応ですが、手もあるみたいですよ?」
陸にあがった魔物は直ぐに立ち上がりました。
それにしても、不思議な魔物ですね。
背びれと尾びれもありますし、足が生えていて、小さいながらも手もあります。
「やっぱりだなー」
「やっぱり? サンドラちゃんはあの魔物を知っているのですか?」
「うんー。あんなのでも、一応は竜種だぞー」
龍ではなくて竜ですか。
となると、種類は違いますが、ワイバーンなどの知能の低い魔物ですかね?
「どんな攻撃をしてくるのですか?」
「火を吐くぞー」
「確かに竜ぽいですね」
竜というのは体内の中に火炎袋という器官があって、そこに空気を取り込み、吐きだした空気が火になるらしいです。
まぁ、火だけではありませんけどね。
中には火ではなく毒などを吐きだす竜も確認されているらしいです。
冒険者ギルドで聞いた事があるだけなので本当かは知りませんけどね。
「対処の仕方とかありますか?」
「普通に倒せばいいー」
「普通にですか……」
「うん。飛べないからワイバーンよりも簡単に倒せるぞー」
空を飛ぶ魔物は厄介ですからね。
攻撃が届かなければ倒す方法は限られてきます。
そう考えると、竜とはいえ、地面に居てくれれば倒す方法は幾らでもありそうですね。
「まぁ、私がサクッと終わらせてくるよ」
「大丈夫ですか?」
「みぞれと協力すればどうにかなるでしょ」
「お任せください」
フルールさんと同じ大精霊となったみぞれさんとなら問題なさそうですね。
安全を考えればみんなで戦った方がいいとは思いますが、スノーさんがやるというのなら任せてもいいかもしれませんね。
まぁ、サポートはしますけどね。
「ちなみにだけど、食べると美味しいらしいぞー」
「そうなのですか?」
「うんー。竜種は他の魔物に比べて魔力が高いからなー、質がいいみたいー」
そうなのですね。
「スノー聞いてた?」
「うん。聞いてたよ。だけど、魔石になるから関係ないよね? 前と同じ失敗はしないよ」
「残念」
冷静ですね。
シアさんの誘導にも引っ掛かりませんでした。
「みぞれ、準備はいい?」
「いつでも」
スノーさんの傍にみぞれさんが立ち、防御魔法から二人が出ていきます。
「足止めは私がしましょう。スノーは自由にやってください」
「任せたよ」
むむむ?
どうやらみぞれさんはスノーさんのサポートに回るみたいですね。
これでは僕の役割がまた減ってしまいそうな気がしますよ?
そして、その予想は的中しました。
みぞれさんが水を操り、魔物の足を水魔法で絡めとり転倒させ、転倒した魔物をスノーさんが攻撃する。
結果的に何の苦労もせずに魔物を二人で討伐してしまいました。
僕がサポートするよりも楽に魔物を討伐してしまったのです。
「気にする事ない。ユアンは守り重視のサポート。状況が違えばユアンの方が活躍できる」
「そうかもしれませんけど……」
ですが、少しだけ複雑な気分です!
ずっとやってきた役割を奪われた気がするのです!
まぁ、実際はそこまで気にしていませんけどね。
ちょっとだけ、みぞれさんに嫉妬しただけです。
その後、僕たちはマグマの湖を無事に通り抜け、先に進みました。
しかし、ダンジョンはまだ続いてました。
龍神様の元に行くにはまだまだダンジョンを攻略しないといけないみたいですね。
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