第529話 補助魔法使い達、模擬戦の反省会をする

 「勝者……シアさん!」


 最後の一撃が決まり、シアさんの勝ちが決まりました。

 あれではユージンさんはもう戦えないでしょうからね。

 

 「おめでとう、シア」

 「ありがとう」

 「シアさん、おめでとうございます!」

 「かっこよかったなー」


 僕が勝利を伝えると、みんながシアさんの元へと集まっていきます。


 「リンシアちゃん、よく勝ったわね」

 「ギリギリだった」

 「そんな事ないよ。完勝と言っていいと思うわ」

 「結果はそう見えるだけ。ユージンは強かった」


 ユージンさんにかける言葉がないのか、シアさんの元にはルカさんとエルさんも集まっていきました。

 ちょっと、ユージンさんが可哀想ですけどね。

 ですが、実際にかける言葉がないのは確かでしょうね。

 というよりも、現実逃避ですかね?

 だって……。


 「おい、ちょっとは俺の事に触れて貰えないか?」

 

 ユージンさんがみんなの元に近づき、みんなへと声を掛けますが、みんなはユージンさんから目を逸らしました。


 「がはははっ! 今回は酷くやられたな!」

 「笑い事じゃねぇよ……どうしたらいいんだ、これ?」


 誰もユージンさんに話しかけない中、ロイさんだけがユージンさんへと声を掛けました。

 

 「まぁ、限界が来ていたって事だなっ!」

 「手入れしたばかりだっての!」


 うん。

 そろそろそっちにも目を向けないといけませんね。


 「えっと、大丈夫ですか?」

 「大丈夫じゃないな」

 「そうですよね」


 ユージンさんの両手には真っ二つに折れてしまったミスリルの剣が握られています。

 僕がシアさんの勝利を告げたのはあれが原因です。

 ユージンさんはまだ余力を残していたようでしたが、流石に剣が折れてしまってはあれ以上は戦えませんからね。

 それで、みんながシアさんの元へと駆け寄ったのも、それが理由でした。

 スノーさん達はシアさんを労う為でしたけど、エルさんとルカさんは見て見ぬふりを決めたからですね。


 「まぁ、またミレディに頼んでやるよ」

 「直るのか?」

 「素材があればな」

 「ミスリルか……誰か持ってるか?」

 「俺は持ってねぇな!」


 ユージンさんの言葉にルカさんとエルさんも目を逸らしました。

 ユージンさんも聞くくらいですし、多分持っていませんよね。

 仕方ありませんね。


 「ミスリルなら僕達が持っているので提供しますよ」

 「いや、流石に嬢ちゃん達からは貰えないな。金を払って譲ってくれるのなら構わないが」

 「いえ、事故とはいえ壊してしまったのはシアさんなので、それくらいはさせてください」

 「でもなぁ……」

 「問題ない。ミスリルなら沢山余ってる。スノーの武器が壊れた時に使う分が残っていれば後は要らない」


 高く売れるみたいですけど、今の所はお金に困っている訳ではありませんからね。

 

 「今後、再びリアビラとかが攻め込んでくる事もあると思うし、その時にまた手伝ってくれれば私としてはありがたいですよ」

 「そうですね。ユージンさん達の力はかなり宛になりますので、武器は直しておいて欲しいですね」

 

 スノーさん達もこう言ってくれていますからね。

 実際にこれから何があるかわかりません。

 その時に、ユージンさんの武器がなくて戦えないとなるとかなりの戦力ダウンに繋がると思います。


 「戦えないユージンは役に立たないから借りておくべき」

 「そうね。借りを作る事になるけど、ユアンちゃん達になら構わないでしょ? 何かあった時に戦う口実にもなるだろうし」

 「嬢ちゃん達に借りがあるのは今更だしな!」


 もう貸しはないと思っていますけどね。

 火龍の翼の皆さんには色々と助けて貰っていますからね。


 「現状、これしか方法はないか……」


 ルカさん達との説得もあって、ようやくユージンさんは頷いてくれました。

 これで、一安心ですね。

 正直、ユージンさんの剣が折れてしまった時はかなり焦りましたが、どうにかなりそうです。


 「それじゃ、次は私とロイさんかな」

 「おう、お手柔らかに頼むぜ!」


 話が一段落すると、次はスノーさんがロイさんと模擬戦をする事が決まったみたいです。


 「なーなー。ルカー?」

 「何かしら?」

 「私に色んな魔法を教えてー?」

 「私でいいの?」

 「うんー。私が出会った中でルカが一番強いと思うぞー?」

 

 確かに純粋な魔法使いとしては僕が知っている中ではルカさんが一番ですね。

 火の魔法も得意みたいですので、教わる相手としては一番いいかもしれません。


 「私達は久しぶりに的当て勝負でもしましょうか」

 「うん。お姉ちゃんには負けないよ?」

 「またコテンパンにしてあげる」


 あっちは姉妹で弓の勝負みたいですね。

 となると、僕がまた余ってしまいましたね。


 「ユージン、疲れてるところ悪いけど、反省会に付き合って」

 「そうだな。あの模擬戦を振り返るのも悪くないだろう」

 「頼んだ。ユアンも聞いておくといい。勉強になる」

 「はい!」


 良かったです。

 僕だけ除け者にならずに済んだみたいです。

 なので、僕もシアさんとユージンさんの反省会に参加させて頂く事になりました。


 「何か悪い所はあった」

 「幾つかはあったな」

 「どんなところ?」

 「一番はあれだな。嬢ちゃんはギリギリを見極めすぎる。攻撃を避けるのなら、もう少し余裕は持った方がいい」


 ユージンさんの言う通り、シアさんはユージンさんの攻撃をギリギリで躱している場面が何回もありましたね。

 その度に冷や冷やして見守る事になりました。

 

 「だけど、それだとカウンターを合わせられない」

 「嬢ちゃんのスタイルなら仕方ないかもしれないが、例えば……こういった攻撃を仕掛けてくる奴もいるぞ」


 折れた剣をユージンさんが振るうと、地面が少し削れました。


 「剣が伸びた?」

 「そういう事だ」


 あれは魔力ですね。

 ミスリルの剣に魔力が集まるのがわかりました。

 どうやら、その魔力が剣の射程を伸ばしているようです。


 「でも、どうしてシアさんとの戦いで使わなかったのですか?」


 もし使っていたのなら、結果は違ったかもしれませんからね。


 「それはリンシアの嬢ちゃんも同じだろう? 嬢ちゃんが剣の勝負に拘ってきたからそれに合わせただけだ」


 そういう事でしたか。

 けど、魔法がありだったらどうなっていたのかは気になりますね。


 「逆に俺の気になった所はあるか? あるのなら遠慮なく言ってくれ。今後の参考にしたい」


 ユージンさんもシアさんの事を認めてくれているのですかね?

 ランクでいえばユージンさんの方が上なのに、シアさんに教えを請いました。

 それが強さの秘訣かもしれませんね。

 常に高みを目指す姿勢というのは尊敬に値すると思います!

 

 「私の胸ばかりみてた。それが気になる」

 「むぅ……ユージンさん、どういうことですか!」


 前言撤回です!

 今の一言でユージンさんの評価は下がりました!

 試合中に僕のお嫁さんの胸を見ていたというのはあり得ません!


 「勘違いはしないでくれ。俺は誰が相手でもそうしているだけだ」

 「え……男性でもですか?」

 「そうだ」


 むむむ?

 もしかして、ユージンさんは男性でもいいのですかね?


 「嬢ちゃんが何を考えているのかは聞かないが、想像している事とは違うからな?」

 「本当ですか?」

 「あぁ。正確には体の中心を見ているだけだ」

 

 良かったです。

 どうやら僕の勘違いみたいでした。

 でも、どうして視線をそこに集めるのでしょうか?

 それだと、色んな細かい所を見たりできませんよね?


 「まずは視線。それで狙いを悟らせないためだ」

 「うん。ユージンの攻撃は体が動くまで読めなかった」

 「やりにくかっただろ?」

 「かなり」

 「まぁ、俺も嬢ちゃんの目を見て戦っていないから同じだけどな」

 「でも、ユージンさんはシアさんのフェイントには引っ掛かっていませんでしたよね?」


 シアさんはあの模擬戦の間、何度もフェイントをかけていましたが、本当の攻撃以外には反応していませんでした。


 「体の中心を見ていればわかる。踏み込み、体の捻り、剣の握り方など、その全てを見ていればフェイントか攻撃かの違いを見破るのは簡単だ」

 「なるほどです。それで、ユージンさんは目を見ないで体全体を見ていたのですね」

 「そういう事だ」


 僕には真似できない芸当ですね。

 これがユージンさんの強さの根底とも言えるかもしれません。


 「複数の敵が相手の時はどうする?」

 「その場合は視野をさらに広げる。イメージ的には全体をぼかしてみる感じだ」

 「ぼかす?」

 「何となく全体を見るって感じだな」


 難しい事をいいますね。

 ですが、ユージンさんはそれが出来て、その方法で自分の真横まで状況を把握する事が出来るみたいです。


 「私にも出来る?」

 「やれば誰でも出来るだろうな。だけど、嬢ちゃんには必要ないだろう」

 「どうして?」

 「俺と戦いのスタイルが違うからだ。どっちかというと、俺は守り重視だからな」


 わかります。

 今の話を聞いて、どちらかというとスノーさんの戦い方に近いと思いました。


 「だから、嬢ちゃんは嬢ちゃんらしく戦うのが一番だろう。俺と戦って勝つくらいだ。そうそう負けたりしないだろう」

 「そこまで?」

 「あぁ。これでも一対一の勝負で負けた事はなかったからな。まぁ、剣が折れなきゃまだ戦えたけどな」


 シアさんの一撃はかなり鋭く、重そうでしたが、ユージンさんはちゃんと受け止めましたからね。

 あそこで剣が折れなかったら勝負は続いていたと思います。


 「まぁ、そんな感じでいいか?」

 「うん。少しは参考になった」

 「少しか……まぁ、剣が直ったらまたやろうぜ。次は最初から本気でな」

 「うん。何度でも受けて立つ。けど、次に剣が折れたら自分でどうにかする」

 「もう折られたりしねえよ」

 




 その言葉通り、これからシアさんとユージンさんは定期的に模擬戦をする事になりました。

 勝敗は勝ったり負けたりと途中まで毎回接戦となりましたが、それはまた別のお話です。

 

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