第530話 補助魔法使い、王様に対談を求められる

 「えっと……僕がですか?」

 「おぅ! どうしても親父が嬢ちゃんに会いたいってな」


 ユージンさん達と模擬戦をした翌朝、朝食を食べ終えてゆっくりしている所にロイさんがやってきました。


 「何か悪い事でもしましたっけ?」


 ですが、振り返っても思い当たる節はありません。


 「いや、単に礼を言いたいんだろうよ」

 「お礼ですか?」

 「兄貴の事だ」


 あー……。

 すっかり忘れていました。

 そういえば、ロイさんの頼みで第一皇子のソティス様の病気を数日前に治しましたね。


 「でも、お礼ならロイさんに頂きましたよ?」

 「俺は別に何もしちゃいねぇぞ」

 「そんな事ないですよ。ちゃんとお礼を言ってくれましたし、ミレディさんを紹介してくれたお陰でシアさんの剣が直りましたからね」


 なので、僕の中ではその話は終わった事だと思っています。


 「嬢ちゃんの中ではそうかもしれねぇが、親父にも体裁ってもんがあるからな。まぁ、嬢ちゃんが嫌なら俺がぶん殴って黙らせてくるけどよ」

 「それは後で大変な事になりそうなのでやめてくださいね?」


 僕がロイさんにそうして欲しいと頼んだわけでもないのに、僕が指示したと思われそうですからね。

 出来る事なら友好関係を結びたいと思っているのに弊害出てしまうとおもいます。


 「それなら行ってきた方がいいんじゃない?」

 「別に減るもんじゃないしなー」

 「僕の精神がすり減りますよ」


 こればかりは仕方ないですよね?

 偉い人と会うのはどうしても緊張します。

 幾ら色んな偉い人に会っているとはいえ、慣れる事ではありませんからね。


 「でも、これから龍神様の調査をするのでしたら、先に許可をとっておいた方がいいと思うの」

 「うん。無断で調査する訳にはいかない」

 「だからさ、ちょうどいいんじゃない? ちょうどその話をしてた訳だしさ」


 僕が泊まっている部屋にみんなが集まっているのは、それが理由だったりします。

 シアさんの剣も直り、ようやく落ち着いたのでそろそろ調査を始める為に計画を立てていたのでした。

 

 「それはそうですね……ちなみにですけど、行くとしたら僕一人で行かないとダメですか?」

 「別に問題ないだろう。嬢ちゃんが来てくれるなら煩い事は言わないだろうな。そもそも、あの親父はそんな事を気にするタイプでもないしな」


 その辺りはロイさんに似ているかもしれませんね。

 

 「という事で、行くならみんな一緒にですからね?」

 「うん。私はユアンと一緒に居たいから構わない」

 「王様の許可が降りているのなら構わないかな」

 「そうだね。特に私とスノーさんはその辺りを気をつけないといけませんからね。ただでさえ、ナナシキの代表として国を訪れているのに、挨拶をしていませんから」

 「一応はお忍びだけどなー」


 その辺りは所属する国や爵位によるかもしれませんね。

 これがクジャ様だったら、スノーさんは面会を希望し、挨拶をしなければいけないみたいです。

 ナナシキは一応ですがルード帝国の管轄ですからね。

 そういった礼儀があるみたいです。

 ですが、これが他国になると別みたいです。

 まぁ、その辺りは国次第とその時の立場によるみたいで、今回は裏から案内された事もあり、挨拶を控えたみたいです。


 「親父はそういうの面倒がるからしなくてもいいぞ。対談は玉座の間で行われる事になるだろうが、その時に頭も下げなくていい」

 「それで大丈夫なのですか?」

 「あぁ。別に偉そうにしているだけでちっとも偉くねぇからな。気を遣うだけ無駄だ」


 どうやら、ロイさんと王様の関係は未だに悪いままみたいですね。

 第一皇子様の病気が治ったので、ロイさんの方も王様とわだかまりがなくなったかと思いましたがそうではないみたいです。


 「出来る事ならそっちもどうにかしたいですね……」

 「何か言ったか?」

 「いえ、何でもありませんよ? それよりも、王様に会うのは今からですか?」

 「親父なら早い方がいいと言うだろうが、あくまでこっちの頼みだからな。嬢ちゃん達の都合で構わないぜ」


 そうは言ってくれますが、流石に待たせすぎるのも良くないですね。

 それに、僕たちは話合う事くらいしかやる事がありませんからね。


 「やる事ならある。スノーと模擬戦する」

 「いいね。私もシアと戦うのは楽しいし、模擬戦なら歓迎だよ」

 「もぉ、二人とも模擬戦なら昨日やったばかりですよね?」


 シアさんはユージンさんと、スノーさんはロイさんと戦っていましたからね。


 「うん。だけど、剣には慣らしておきたい」

 「そういう事なら私もルカから教わった魔法を練習したいなー」

 「私もお姉ちゃんと的当てをしていて思いついた事を試してみたいです」

 「キアラちゃんとサンドラちゃんまで……」


 それも大事だと思いますけど、王様との対談を引き延ばしてまでやる事ではありませんよね?

 模擬戦なら対談が終わった後にもできますし、練習だって場所さえあれば何処でもできます。

 なので、みんなには悪いですがその提案は却下させて頂こうと思いましたが……。


 「いいかもしれねぇな」

 「え? ロイさん? 冗談ですよね?」

 「本気だ。嬢ちゃん達が模擬戦とかしてるところに親父を連れて行くのもいいかも知れねぇぞ」

 「ど、どうしてそうなるのですか!?」


 何故かロイさんまでみんなの案に賛成し始めました。


 「親父は人の戦いを見るのが好きみたいでな。よく兵士の鍛錬を観察してんだ。嬢ちゃん達も堅苦しいのは嫌だろ?」

 「まぁ、そうですけど……失礼になったりしませんか?」

 「嬢ちゃん達が戦っている所に俺が連れてくんだ、失礼も何もないだろう?」

 

 そうかもしれませんけど、逆に緊張しますよね?

 兵士の鍛錬を見るのが好きという事は、日頃から人の戦いを見ているという事でもありますし、王様ですしそれなり戦闘に関する知識もあると思います。

 そんな方に見られて、恥ずかしい姿を見せられないとなれば普通に対談するよりも緊張します!

 だって、これが僕たちの本業なので、失敗は許されないですからね!


 「問題ない。いつも通りやるだけ」

 「むしろ、いつもより張り切った方がいいかもね」

 「スノーさんは張り切って失敗しそうだから気をつけてね?」

 「そうだぞー。スノーは抜けてるからなー」

 「そんな事ないし!」


 スノーさんが抜けてるのは予想外な事が起きた時くらいですので、大丈夫だと思いますけど心配ですね。

 僕からすればこれが予想外な出来事になりますので、スノーさんも変に意識したら失敗すると思います。


 「それじゃ、嬢ちゃん達は昨日の場所に先に行って好きにやっててくれ」

 「わかりました……」

 

 ロイさんが部屋から退出していきました。

 どうやらこれで決定みたいですね。


 「遅かれ早かれ王には会う事になるから気にする必要はない」

 「面倒が省けたと考えればいいと思うよ」

 「そうですけどね」


 それでも緊張はしますよ。

 見られているとなれば尚更です!


 「大丈夫。今日は私がユアンに稽古をつけて上げる。そんな事を考える余裕はない」

 「シアさん相手ならそうなりそうですね」

 「それじゃ、その後は私ね?」

 「私も試したい事があるので、協力して欲しいです」

 「私もー。覚えた魔法を受けられるのはユアンしかいないから頼むなー?」


 むむむ?

 これですと、本当に余分な事を考える暇はなさそうなくらい忙しくなりそうな気がしてきましたよ?


 「わかっていると思いますが、僕にも限界がありますのでお手柔らかにお願いしますね?」

 

 流石にみんなの相手をしたら疲れますからね。

 そんな状態で王様と対談するのは流石に避けたいので皆には念を押しました。

 しかし、みんなは相当やる気に満ちているみたいで、加減してくれそうにないのは気のせいでしょうか?

 きっと、気のせいですよね……。

 僕は内心不安を抱えつつ、みんなと昨日模擬戦をした場所に移動をするのでした。

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