第527話 弓月の刻、模擬戦を挑まれる

 「それが新しいシアさんの剣なのですね」

 「無事に修理出来たようでよかった」

 「そうだなー。これでシアもまた活躍できるなー」

 「うん。迷惑かけた分、これから頑張る」

 「別に迷惑だなんて思ってないけどね。それよりもさ、シアの剣見てもいい?」


 宿屋に戻るとスノーさん達は部屋で寛いでいて、僕たちが剣の修理が終わった事を伝えるとみんな喜んでくれました。

 スノーさんの事ですから、シアさんと模擬戦をしようとか言うかと思いましたが、その前にどんな感じに仕上がったのかが気になったみたいですね。


 「うん。好きなだけ見れるといい」


 そう言って、シアさんは鞘に納めたままの状態で剣を机の上に置きました。

 でも、その状態で剣を渡すと……。


 「ありがとう。それじゃ、見させて貰う……あばばばばばっ!」


 剣を手にし、鞘から剣を抜いたスノーさんが凄い声をあげました!


 「ぷふっー……」

 「も、もぉ……シアさんダメですよ。いたずらをしたら」

 「ごめん。だけど、ユアンも笑ってる。それに、ユアンも止めなかった」

 「止める暇がなかったのですよ」


 まぁ、スノーさんの反応を見たかったというのも少しだけありますけどね。

 

 「あのさ……そういう事なら先に言ってもらえるかな?」

 「スノーが不用心なだけ」

 「普通にわかるわけないしっ!」

 

 まさか剣にあのような細工を施されているだなんて思いもしませんよね。

 でも、やっぱりスノーさんです。

 僕たちの期待を裏切らない反応をしてくれました。

 今は、状態異常回復トリートメントで治してあげましたけどね。


 「でも、不思議ですね」

 「これが元はミスリルなんだなー」

 

 白と黒の刀身を見た二人が感想を漏らします。

 本当にびっくりですよね。

 こうみると、ミスリルだとはとても思えません。

 

 「けど、本当にミスリルですよ。その証拠に……シアさん、魔力を流して貰えますか?」

 「うん」


 シアさんが剣に魔力を流すと、黒い方の剣に赤色のラインが浮かび上がりました。


 「なにそれ! 凄くカッコいいんだけど!」

 「どうなっているのですか?」

 「ミレディが言うには、土台となった元の剣が紅く光っているみたい」

 

 よくみればわかりますが、黒い剣なのに透明感があるのですよね。

 

 「ミスリルだからなのかな?」

 「そうみたいですよ。それがミスリルである証明とも言えますよね」

 

 ミスリルは光の当て方で色んな光り方をしますが、基本的には半透明ですからね。

 

 「良い剣に仕上がったね」

 「うん。ミレディは最高の鍛冶師だった」

 「みたいだね。いいなぁ……私も見てもらおうかな」

 「ミレディさんの都合が良ければ頼んでみるのも悪くないかもしれないですね」


 スノーさんの剣もかなり使い込んでいますし、いつ限界が訪れてもおかしくはありませんからね。

 まぁ、スノーさんは予備の剣を一応は持っていますので、その時はそれを使って戦うと思いますけどね。

 それでも使い慣れた武器が一番だと思います。


 「ちなみにだけどさ、シアの剣って魔剣に分類されるの?」

 「魔剣とは違うと思う。だけど、剣に効果はある」

 「魔力を流した時に浮かび上がった文字が関係しているのですか?」


 キアラちゃんは細かい所まで見ていますね。

 剣が紅く光った時、実は魔法文字も薄っすらとですが光っていました。

 それを見逃さなかったみたいです。


 「うん。ユアンに考えてもらった」

 「ユアンさんがですか……なんか心配になるのは私だけですか?」

 「いや、私も心配になってきた」

 「とんでもない事としてそうだなー」

 

 失礼な事を言いますよね?

 まるで僕が非常識みたいな言い方をしないで貰いたいです!

 

 「別に凄い事はしてませんよ。黒い剣の方には搾取ドレインが使えて、白い剣の方には簡単な傷を治せるリカバリーと毒などを取り除くトリートメントが使えるようになっているくらいですからね」


 結構大変でしたけどね。

 特に白い方の剣が大変でした。

 リカバリーとトリートメントは聖魔法に分類される魔法なので、普通の魔法とは違って魔法理論が特殊ですし、発動する為には僕の魔力が必要となります。

 幸いにもシアさんの中には僕の魔力が混ざっているので回数は限定されていますが、使えるという訳ですね。


 「それを非常識って言うと思うんだけど」

 「そうですよ。回復できる剣なんて聞いた事がないです」

 「私もないなー」

 「でも、これで生存率はかなり上がると思いますよ。僕が居るので使う機会はあまりないと思いますけど、僕たちが別々で戦う事もあると思いますので」


 実際に何度か別々で行動する機会はありましたからね。

 その時の保険と考えれば、少しだけ安心できます。


 「私としては搾取ドレインがお気に入り」

 「確かに前線で戦うシアにとっては相性がいいかもね」

 「そうですね。軽い傷をつけるだけで敵の魔力を奪えるのは大きいと思うの」


 帝都での戦いを思いだしますね。

 魔法を使う人にとって、魔力は戦いにおける生命線です。

 シノさんはその弱点を突かれ、窮地に陥りました。

 シアさんにはその剣と同じ効果があるので、素早い動きと搾取ドレインの効果で魔法を使う相手に優位で戦えると思います。

 まぁ、シアさんの腕ならそこらの魔法使いは気づかないうちに倒されていると思いますけどね。


 「後はゴースト系の魔物にも有効だなー」

 「そういえばそうですね。あの系統の魔物は魔力が本体と言えますので、シアさんの剣なら簡単に倒せそうですね」


 ゴースト系の魔物に遭遇したのはまだゾンビだけですが、物理攻撃が効かないらしい魔物も居るらしいです。

 シアさんはゾンビは嫌でも、怖い訳ではないので有効ではありますね。


 「剣の効果はそんな所」

 

 剣に闇魔法を付与できたりと他にも効果はありますけどね。

 ですが、その辺りはまだ使ってみない事にはどれくらいの効果があるのかわからないので、使っていく中で探ってみるとの事です。


 「折角シアと並んだと思ったけど、また離されちゃったかな」

 「そんな事ない。スノーと戦う時は油断は出来ない。条件次第では普通に負ける」

 「それはお互い様だけどね」


 スノーさんの剣技は相当なものですし、みぞれさんとの連携が仕上がってきているので、相当な実力になってきていますからね。

 シアさんの剣が壊れるきっかけとなった模擬戦はお互いに軽く流していましたが、僕の遥か高みにいると思ったくらいです。

 まぁ、刀を使い始めた僕と比べるのがそもそも間違いですけどね。

 そんな事を思っている時でした。

 コンコンッと僕たちの部屋の扉が二度ノックされ、外から男性の声が聞こえてきました。


 「嬢ちゃん達いるか?」

 「あっ、はい! どうぞお入りください」


 この声はユージンさんですね。


 「悪いな。休んでいる所」

 「構いませんよ。何もしていなかったので。それより、何かあったのですか?」

 「別に大した用事ではないが、リンシアの嬢ちゃんが嬉しそうに戻ったのを見かけてな。あの様子からすると、剣は直ったのか?」

 「うん。直った」

 「それは良かったな」


 どうやら僕たちの様子を確かめに来ただけみたいですね。


 「それでだ。俺の方も手入れが終わったから、暇なら軽く打ち合わないか?」


 違ったみたいですね。

 どうやら模擬戦のお誘いだったみたいです。


 「構わない。私も早く試したいと思っていた」

 「ならちょっと付き合ってくれ」

 「わかった。だけど、いいの?」

 「何がだ?」

 「ユージンが恥をかく事になる」

 「そうはならないさ。これでもAランクの冒険者という誇りがあるからな」


 シアさんの笑みにユージンさんも笑って返しました。

 どうやらこれは軽い打ち合いでは終わらなさそうですね。


 「場所はどうする? どうせなら広い場所がいい」

 「それならいい場所があるみたいだ」

 「わかった。そこでやる」

 「今からでいいか?」

 「当然」


 間違いありませんね。

 シアさんのやる気は最高潮に達しています。

 これは僕もついて行った方が良さそうですね。

 こんな事で二人が大きな怪我をしてしまったら大変ですからね。


 「みんなはどうしますか?」

 「私も見たいかな」

 「私もです」

 「楽しみだなー」


 みんなも一緒に行くみたいですね。

 

 「なら、俺の方もルカたちに声を掛けておく。一言言っておかないとうるさいからな」

 「わかった。支度が終わったら声を掛ける」

 「了解だ。それじゃ、また後でな」

 

 そう言って、ユージンさんは部屋を後にしました。

 その後、支度を終えた僕たちはロイさんの案内で模擬戦が出来る場所へと移動をしました。

 結局の所、ユージンさん達のパーティーも全員揃い、みんな集まる事になってしまいましたね。

 しかも、ルカさんとエルさん、ロイさん全員が武器を持ってやってきました。


 「どうせやるならみんなでやった方が楽しいでしょう?」

 

 どうやら、ルカさん達も模擬戦をやるつもりで来たみたいですね。

 という事で、何故か合同で模擬戦が始まってしまいました。

 少し心配ですが、今更止める事は出来ませんね。

 大きな怪我に繋がらなければいいですけど。

 それだけが心配です。

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